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Business 2019.01.09

「社会を変える」プラットフォーマーへ――Salesforceの野望

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“ITベンダー”を超え社会を変えるキープレーヤーに。Salesforce、Marc Benioff氏の視線の先にあるものは?

 Salesforce.comは営業支援、CRM(顧客関係管理)などのアプリケーションをクラウドで提供するSaaS(Software as a Service)ベンダーだ。2017年の売上高は100億ドルの大台に到達。その成長ぶりを象徴するように、サンフランシスコ市内に全長326メートル・61階建のSalesforceタワーを建てた。BtoBソフトウエア分野を独占してきたのはOracle、SAP、Microsoftなどオンプレミス生まれのベンダーたち。世代交代を予感させるが、違うのはクラウドという配信モデルだけではない。同社のイベント「Dreamforce」から、新しいBtoBベンダーSalesforceの秘密に迫る。

企業カルチャーは競争ではなく家族

 Salesforce.comは1999年、まだクラウドという言葉が使われるようになる前に、”Amazonで本を買うように業務アプリケーションをシンプルに購入して使えないか”と考えたMarc Benioff氏が共同創業した。

 Dreamforceは同社が毎年秋に開催する自社イベントである。IT業界の自社イベントとしては世界最大級。2018年も17万人がサンフランシスコの中心にある会場(モスコーニセンター)に集った。この中には日本からの800人も含まれている。

 Salesforceは家族を意味する“Ohana”をSalesforceの企業カルチャーとしている。社員、顧客、パートナーなど自社に関わる人は家族として大事にするというメッセージで、Benioff氏はDreamforceを「家族の集まり」だとする。初日午後の基調講演は必ずハワイのセレモニーでスタートし、その後ステージに立ったときにBenioff氏は最初に「ありがとう」と感謝を伝える。

 Dreamforceが他のITベンダーのイベントと異なる点は、このオープニングのセレモニーだけではない。会場のあちこちのステージに登場する多彩なゲストも特色だ。今年は元米国副大統領のAl Gore氏が環境問題について話をした。政治関連のセレブでは、2017年に元大統領夫人のMichel Obama氏もDreamforceのステージを踏んだ。ミュージシャンも数知れない。Stevie Wonder氏がオープニングにピアノを弾いたこともあれば、X-JapanのYoshiki氏が基調講演の合間にピアノで米国国歌を弾いたこともある。教育問題でBenioff氏に共感しているラッパーwill.i.am氏はDreamforceの常連だ。教育では、亡きSteve Jobs氏の夫人、Laurene Powell Jobs氏も2017年に登壇した。ハリウッドのセレブもいる。過去にJessica Alba氏は自身のビジネスについて、Natalie Portman氏は平等について語った。

 このような多彩なゲストを招いて社会問題を語ってもらうことは、技術について話すことと並んでDreamforceの重要なフォーカスだ。Benioff氏は大手企業としては初めて平等性(イコーリティ)を担当する最高イコーリティ責任者を任命、LGBTQに企業として取り組む姿勢を示した。これらの背景には、「ビジネス活動は社会を変えるためのプラットフォームになる」というBenioff氏の考えがある。Benioff氏は前職Oracleでの経験を生かし、創業時から「1-1-1(従業員の1%の時間、1%の株式、1%の製品を非営利団体や教育機関に無償提供する)」として慈善活動を企業活動に組み込んだ。このモデルは、Google、Boxなど多くのシリコンバレー企業が採用している。

 ゲストに加えて、ここ数年同社がスローガンとする”TrailBlazer”(”開拓者”を意味する)とともに展開するキャラクターを用いたマーケティングも、Dreamforceの大きな特徴になっている。会場はピクニックや山登りに来たかのような雰囲気を演出している。Salesforceによると、誰にでも入れる国立公園をイメージしているのだという。

 こうしたことから、Dreamforceは最新の技術紹介というより、Salesforceの文化を知ってもらうことを重視したイベントに見える。

Salesforce経済圏を成長させる

 技術ベンダーらしからぬ、お祭りのようなDreamforceだが、これも同社の好調な業績があってこそだろう。Salesforceは、2018年の売上高が前年比約25%増の131億7500万ドルに達すると予想している。過去4四半期は全てアナリストの予想を上回る結果となった。

 Benioff氏は自社の成長と同時に、”Salesforceエコノミー”を構築してきた。Salesforceエコノミーとは、Salesforce、そして同社の顧客、パートナー企業による経済圏だ。調査会社のIDCは、2022年までに、この経済圏がGDPに与えるインパクトは8590億ドル、330万人分の新規雇用を創出すると予想している。

 土台にあるのは、Salesforceのプラットフォーム戦略だ。Salesforceは早期にPaaS(Platform as a Service)を展開(Force.com、その後Lightning Platform)。Salesforceのクラウドの上で動くアプリケーションやコンポーネントなどを提供できるマーケットプレイスの「AppExchange」を持つ。

 IDCが調査したSalesforceのパートナー75社の売り上げは2016年、前年比48%増で伸びた。2016年からの6年間でエコシステム全体の売上高は3倍に膨らむと予想している。

 この経済圏のパイプラインとなっているのが、2014年にスタートした学習サービス「Trailhead」だ(日本では2015年より開始)。Salesforceの活用からプラットフォーム上での開発、さらにはOhana文化まで、様々なことを学べるもので、100以上のコースが用意されている。個々の細かなテーマに落とし込んだチュートリアルになると400近くあり、常時増えている。Trailhead利用者は、学習すると「バッジ」を獲得し、それをもって知識やスキルを外部の人に示すことができる。
「Trailblazer」にはランクに合わせてバッヂが授与される
 Trailheadの取り組みが巧みな点は、Salesforceのスキルを持つ技術者を増やしていく仕組みを構築すると同時に、社会的には“リスキル”(学び直し)に貢献しているというメッセージを打ち出しているところだ。AIや機械学習が進むことに対する雇用の不安は世界共通。特に教育格差が大きい米国では深刻である。Benioff氏は「あらゆる人が第4次産業革命に移行できるように」と強調する。そういった狙いもあって、Dreamforceでは教育の機会に恵まれなかった若者や移民がTrailheadで学習して職を得たという成功例がいくつも紹介され、”TrailBlazer”として賞賛される。

 2018年のDreamforceでは、”TrailBlazer”が獲得したバッジの累計数が1000万に達したことも発表された。2017年の500万から2年で倍増した格好だ。Salesforceでは2022年にTrailheadユーザー数1000万人という目標を掲げている。成功の背景には、4人に1人が新たに仕事を得ているという実績もある。

 CRM市場を専門とする米東海岸ベースのあるアナリストは、「プラットフォーム戦略のAppExchange、Salesforce技術者を増やすTrailBlazer活動という戦略は見事だし、成功している。次世代の開発者を作るという仕組みを進めている」と評する。だが、「Salesforceという会社は実にマーケティングに長けた会社だ」(同氏)というように、何よりも高く評価しているのは、DreamforceというイベントやTrailBlazerという学習プログラムの見せ方からうかがえるSalesforceのマーケティング力だ。

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