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公開日: 2019.03.29
[MWC 2019]5Gスマホの鍵を握る半導体、始まった5Gモデム第2世代レース
5Gスマートフォンに欠かせない通信用半導体。MWC19Barcelonaで垣間見た勢力図の異変。

※ 上の写真は、QualcommがMWCで開催したイベントの様子。同社製半導体を利用する各社の首脳を招いた。 20社以上のスマートフォンメーカーが同社の半導体を使用しているという。
データ通信サービス先行で始まった5G(第5世代移動通信システム)に、ついにスマートフォンが投入される。先日、米Verizonは、Motorolaブランドの5Gスマートフォンの予約受付を開始した。これまで5Gは固定通信や、モバイルWi-Fiルーター用に用いられてきた。2018年6月末の5Gサービス開始から9カ月、ついに5Gスマートフォンが見えてきた。
「無線モジュール」の量産でリードしたQualcomm
5Gスマートフォンの鍵を握るのは5G通信機能だ。中核部品は2つ、モデム(変復調器)と無線送受信部分である。
変復調器は、デジタル信号を電波信号に変換したり、その逆に電波信号をデジタル信号に戻したりするデバイス。デジタルとアナログの両方の領域で信号を扱うため、高度な処理が必要になる。モデム部分の設計においては、5Gに規定された電波方式を完全に理解する必要がある。その上で、無線関連のノウハウを付加することになる。特に5Gでは、電波の送受信に新しい処理方法が導入されていて、これへの対応も必要になる。無線技術に関する経験がものをいう部分だ。
無線送信部は、モデムによる処理を終えて電波として発射できる直前の状態の変調済み信号を入力とする。これを空間に発出するためのパワーアンプ(増幅器)や、アンテナにつなぐ。受信部は、アンテナが受信した微弱な信号を増幅するLNA(低雑音アンプ)が中心となる。また、初期の5Gでは送信と受信に同じ周波数を使う。送信の信号が受信側に入り込まないためのスイッチも無線部分に搭載する。これらは、いずれもアナログ処理を行う。5Gでは、ミリ波帯(前回参照)という極めて高い周波数帯と、従来から使われている6GHz以下の帯域(サブ6GHz)のどちらも使える。ミリ波帯を使うかどうかは、通信事業者が展開される国での電波割当状況による。
高周波無線回路においてアナログが関わる部分は、設計、製造いずれも、様々なノウハウを求められる。スペックを満たす部品を集めて配線すれば動作する、といったものではない。ところが、ほとんどのスマーフォンメーカーは、ITの経験はあっても無線の経験は限られており、ノウハウは蓄積途上だ。特にミリ波部分をゼロから開発するには時間がかかると見られる。そこで米Qualcommは、ミリ波の送受信アンプとアンテナ、スイッチを一体化した「無線モジュール」を開発した。これで、モデムとモジュールをつなぐだけで、ミリ波の送受信が可能になる。開発の負担を激減させる製品といえる。
現在、5G用のモデムやミリ波用無線モジュールを量産しているのは、Qualcommのみと見られる。そのため、今年売り出される5Gスマートフォンのほとんどに同社の半導体が採用されている。2月のMWC19 Barcelonaでは、Qualcommブースは「5Gスマートフォンの集積地」の感があった。
Qualcommが圧倒的シェアを誇る5Gモデム「Snapdragon X50(以下、X50)」。2016年10月17日に発表された世界初の5Gモデムは、5G機能だけを搭載している。このモデムを見たとき世界中の専門家は5G機能に絞ったことに首をひねった。
現時点では5G通信のためには4G(LTE)も使わなければならない。4Gで制御情報(相手の呼び出しやビットレートの相互交換など)を授受し、高速データ通信だけを5Gで行う「二刀流」の方法だ。5Gの規格では「ノン・スタンドアローン(NSA)」と呼ばれている。迅速に5Gサービスを始めるために、4Gを活用する方法として用意されたそうだ。
一方、完全に5Gだけで処理を行う方式は「スタンドアロン(SA)」と呼ばれる。この方式でサービスを行っている通信事業者は、まだない。今後SAが導入されるが、4Gは5Gにとって「大事な伴走者」として長く使われる見込みだ。
変復調器は、デジタル信号を電波信号に変換したり、その逆に電波信号をデジタル信号に戻したりするデバイス。デジタルとアナログの両方の領域で信号を扱うため、高度な処理が必要になる。モデム部分の設計においては、5Gに規定された電波方式を完全に理解する必要がある。その上で、無線関連のノウハウを付加することになる。特に5Gでは、電波の送受信に新しい処理方法が導入されていて、これへの対応も必要になる。無線技術に関する経験がものをいう部分だ。
無線送信部は、モデムによる処理を終えて電波として発射できる直前の状態の変調済み信号を入力とする。これを空間に発出するためのパワーアンプ(増幅器)や、アンテナにつなぐ。受信部は、アンテナが受信した微弱な信号を増幅するLNA(低雑音アンプ)が中心となる。また、初期の5Gでは送信と受信に同じ周波数を使う。送信の信号が受信側に入り込まないためのスイッチも無線部分に搭載する。これらは、いずれもアナログ処理を行う。5Gでは、ミリ波帯(前回参照)という極めて高い周波数帯と、従来から使われている6GHz以下の帯域(サブ6GHz)のどちらも使える。ミリ波帯を使うかどうかは、通信事業者が展開される国での電波割当状況による。
高周波無線回路においてアナログが関わる部分は、設計、製造いずれも、様々なノウハウを求められる。スペックを満たす部品を集めて配線すれば動作する、といったものではない。ところが、ほとんどのスマーフォンメーカーは、ITの経験はあっても無線の経験は限られており、ノウハウは蓄積途上だ。特にミリ波部分をゼロから開発するには時間がかかると見られる。そこで米Qualcommは、ミリ波の送受信アンプとアンテナ、スイッチを一体化した「無線モジュール」を開発した。これで、モデムとモジュールをつなぐだけで、ミリ波の送受信が可能になる。開発の負担を激減させる製品といえる。
現在、5G用のモデムやミリ波用無線モジュールを量産しているのは、Qualcommのみと見られる。そのため、今年売り出される5Gスマートフォンのほとんどに同社の半導体が採用されている。2月のMWC19 Barcelonaでは、Qualcommブースは「5Gスマートフォンの集積地」の感があった。
Qualcommが圧倒的シェアを誇る5Gモデム「Snapdragon X50(以下、X50)」。2016年10月17日に発表された世界初の5Gモデムは、5G機能だけを搭載している。このモデムを見たとき世界中の専門家は5G機能に絞ったことに首をひねった。
現時点では5G通信のためには4G(LTE)も使わなければならない。4Gで制御情報(相手の呼び出しやビットレートの相互交換など)を授受し、高速データ通信だけを5Gで行う「二刀流」の方法だ。5Gの規格では「ノン・スタンドアローン(NSA)」と呼ばれている。迅速に5Gサービスを始めるために、4Gを活用する方法として用意されたそうだ。
一方、完全に5Gだけで処理を行う方式は「スタンドアロン(SA)」と呼ばれる。この方式でサービスを行っている通信事業者は、まだない。今後SAが導入されるが、4Gは5Gにとって「大事な伴走者」として長く使われる見込みだ。

NSAとSAを説明するQualcomm社のスライド。NSAはLTEを通じて制御信号を授受することを示している (Making 5G NR a Commercial Realityより引用。https://www.qualcomm.com/media/documents/files/making-5g-nr-a-commercial-reality.pdf)
最初の5GモデムであるX50はNSA方式のみ対応する。そしてNSAは4G機能が必要であるのにこれを搭載していない。Qualcommは、システムLSI(SoC)であるSnapdragon 800シリーズに4Gまでのモデムを搭載していることから、こちらと連携して処理することを想定していたようだ。モデムが、スマホの基板内2カ所に分散するのは、無線信号の処理の上では複雑になる。そのデメリットがあってもなお、5Gモデムだけ独立させたのは「最初の実装であるため、半導体の開発の複雑さを排し、確実な動作を目指した」(Qualcomm関係者)と言われている。
第2世代レース始まる
手堅く歩を進めるQualcommに対し、米Intelは意欲的なソリューションを提示した。Qualcommから遅れること1年、2017年11月16日に発表した同社の5Gモデム「XMM8060」は、2Gから5Gまでの機能を搭載し、NSAとSAの両方に利用できるという。今後、SAのサービスが増えても問題ない、という点を訴求した。もちろん、サブ6GHzとミリ波の両方を扱える。5Gだけの対応だったQualcommのX50を第1世代とすれば、2Gから5Gまでのモデムを搭載し、NSAとSAの両方に対応したのは「第2世代」モデムと呼べるだろう。そして、同社は2018年11月には早くも次のバージョン、XMM8160を発表している。
アジアでは、多様なコンシューマ向け機器やスマートフォン用の半導体で実績がある台湾のMediaTekが5Gモデム「Helio M70(以下、M70)」を2018年12月6日に発表した。MediaTekは、エントリーモデルやミッドレンジのモデルに強く、採用実績を積み重ねている。M70も、2Gから5Gまでの機能を持ち、NSAとSAの両方に対応する第2世代機だ。ただし、サブ6GHzの利用に限っている。ミリ波を使わなければ、モデムも最終製品も開発の難易度は下がる。そして、最終製品のコストも下がる。思い切った戦略といえる。
アジアでは、多様なコンシューマ向け機器やスマートフォン用の半導体で実績がある台湾のMediaTekが5Gモデム「Helio M70(以下、M70)」を2018年12月6日に発表した。MediaTekは、エントリーモデルやミッドレンジのモデルに強く、採用実績を積み重ねている。M70も、2Gから5Gまでの機能を持ち、NSAとSAの両方に対応する第2世代機だ。ただし、サブ6GHzの利用に限っている。ミリ波を使わなければ、モデムも最終製品も開発の難易度は下がる。そして、最終製品のコストも下がる。思い切った戦略といえる。

MediaTekの5Gモデム「Helio M70」は、サブ6GHz帯での利用に的を絞っているが、NSA/SA両対応で2Gから5Gまでの機能を搭載する
MWC19 Barcelonaには、MediaTekがM70を持ち込んで実演を行った。サブ6GHzでの運用ながら、測定器との間の通信では4Gビット/秒の速度をたたき出し、十分に高い性能が得られることをアピールしていた。また、並行して行われたデモでは、Nokiaの基地局設備も用いていて、相互運用性に問題ないことをさりげなく示していた。

M70が理論値の4.2Gビット/秒に近いビットレートを測定器との間で得ていることを示すデモ
第2世代の5Gモデムとして最新のものは、Qualcommの「Snapdragon X55(以下、X55)」だ。2019年2月19日に発表された。同日発表の新型ミリ波無線モジュール「QTM525」と組み合わせて使用する。当然2Gから5Gまでの機能を集約したものとなるが、X55と同社のスマートフォン用SoCを組み合わせた場合、今度は無駄が生じる。SoCにも4Gまでのモデム機能が搭載されているため、4Gまでのモデムを重複してシステム内に持つことになるからだ。もちろん、4Gで2回線を同時に使うといった高度な使用法はあるが、それ以上の利用法は思いつかない。モデムは分散させるよりも単一チップへの集積、それが王道だ。
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