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Business 公開日: 2020.06.25

5Gが切り拓く、広告とマーケティングの未来

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5Gの商用サービス開始に伴い、動画広告に変化が起きつつある。5GとAI、ARなどの最新技術を組み合わせることで実現する新たな広告配信プラットフォームなど、動画広告とマーケティングの可能性がいま広がり始めている。

 5Gの商用サービス開始と高速・同時多点接続・低遅延といった特徴から、産業分野でも5Gを新たなインフラとする動きが本格化し始めている。5Gは、4Gと比べると通信速度は20倍、同時接続数は10倍で、データを送信したタイミングと相手が受信した時間のズレ(通信遅延)についてもわずか1ms(1000分の1秒)と4Gの10分の1という低遅延性を実現している。

 調査会社のIDC Japanによれば、4Kや8Kなどの高精細画像・映像の伝送が、産業分野における5Gの大きなユースケースの一つになるという。5Gによって、4Kや8Kという高画質の動画広告が技術的に配信可能になることはもちろん、低遅延と同時多接続という特徴によって実現する、新たな広告配信手法の確立も期待されている。

5Gで広がる動画広告の可能性

 サッポロ不動産開発とNTTコミュニケーションズ、NTTドコモは2020年1月、5Gを活用した「動くサイネージ」の実証実験を行った。

 札幌市の商業施設「サッポロファクトリー」内を走行する小型カートにデジタルサイネージを取り付け、テナント店舗の広告映像などを配信する実験だ。単純に高精細な広告映像を配信しただけではなく、低遅延、同時多点接続という5Gの強みを生かし、小型カートを東京のイベント会場から5Gを用いて遠隔操作した。

 施設内の人の流れやイベントなど、その場の状況に応じてデジタルサイネージをタイムラグなしで自在にコントロールし、「動くデジタルサイネージ」として動画広告を配信。より高い訴求効果が期待できる、新たな広告配信の可能性を示した。
小型カートでの動画広告配信イメージ
 この実証実験では、施設内に配置されたビーコンから来場者の匿名位置情報を取得し、人の流れを解析して広告の効果も測定。その結果をテナント店舗にフィードバックするという仕組みも取り入れられた。今後は、この実験の成果を生かし、全国の商業施設やテーマパークなどで、新しい広告配信サービスの創出を目指すという。

 また、5Gによって、新たなインタラクティブ動画広告の可能性も広がり始めた。広告制作会社のタッチスポットは、インタラクティブ動画とSNSマーケティングのパッケージサービスを提供している。SNSに表示される広告からインタラクティブ動画のランディングページに誘導し、視聴者参加型の広告を展開する。すでに、サッカーJ1の横浜FCが、このサービスを活用した広告プロモーションを展開している。

 バーを立てたゴールに向かって選手がボールを蹴り、バーに当てることができるかというクイズをスマートフォン上で出題するというもの。視聴者がその場で回答することで、インタラクティブなコミュニケーションが成立する。正解者の中から抽選で無料チケットがもらえる仕組みだ。

 タッチスポットによれば、インタラクティブ動画広告は通常の動画広告と比較して、ウェブサイトにおける成果を表すコンバージョン率が94.5倍、キャンペーン参加率が2.8倍、直帰率が50%減少したという。また、インタラクティブ動画は、視聴者の反応についてデータを収集することができるため、通常の動画広告よりも有用な効果測定ができるメリットもある。
インタラクティブ動画×SNSマーケティングのユーザーフロー 「TouchSpot for SNS」プレスリリースよ

5Gとテクノロジーが創る広告の未来

 AR(拡張現実)技術を使った動画広告配信サービスも開始されている。先端テクノロジーを扱うZEPPELIN(ツェッペリン)は、電通デジタル、KDDIとともに、AR技術を使った広告サービス「ARaddin」の提供を開始した。

 このサービスは、事前に登録されたビルなどの建物に、スマートフォンのカメラを向けるとAIが認識し、人物やキャラクターなどが動画広告としてビルから飛び出したり、ビルの中に商品を着用したモデルが登場したりするというもの。

 同サービスには、米Sturfee社のVPS(Visual Positioning Service)技術が使われている。VPSは、スマートフォンに搭載されたカメラ越しの画像と3Dマップを照合し、向きや方位などを含む位置情報を特定する技術で、「ARaddin」ではこの技術によってビルの場所や形を認識して広告を配信できるようにした。5Gに加えてAR技術やVPS技術といったテクノロジーを組み合わせることによって、ダイナミックな顧客体験とともに自社の商品やサービスを印象付けることができる。
 このように5Gによって広告の可能性が広がりつつある中、動画広告の制作サイドにも新たな動きが出ている。5Gを使った動画コンテンツによるプロモーションは、コンバージョン率の向上や、自社製品のアピールに大きな効果が期待できる一方で、高額な動画制作費と広告出稿費が企業にとってはネックとなる。さらに、通常の広告より制作工数がかかることも課題となる。

 そのような課題を解消しようとする動画広告制作サービスが、メトロ アド エージェンシーから提供されている。チラシなどの紙媒体やウェブサイト用の静止画データを活用して動画広告を制作するというサービスで、動画素材がなくても動画広告を作成できるというものだ。

 また、動画を使ったマーケティングソリューションを提供するNewsTVは、ニュースリリースを60秒から90秒ほどの動画にして、企業が伝えたい商品やサービスの特長を紹介する「ビデオリリース」という動画制作・配信サービスを提供している。マス向けのニュースリリースとは違い、ターゲットとするユーザーのスマートフォンに直接リリースを配信することができる。年齢や性別、趣味嗜好に応じて配信先をターゲティングすることで、ニッチな商材やBtoB商材で効果が出ているという。

5Gはデジタルマーケティングを変えるのか

 通信技術は10年ごとに大きな節目を迎えてきた。2000年代は、「インターネットの時代」。ADSLや光回線などのインフラが普及したことで、個人のインターネット普及率が伸びた。スマートフォンの所有率が急増した2010年代は、あらゆる情報がスマートフォンから得られるようになった「スマートフォンの時代」だったと言えるだろう。そして、次の2020年代は「5Gの時代」。5Gサービスの段階的提供が始まった2020年は、まさにそのスタートを切る1年となるであろう。
 サイバーエージェントの調査によると、2019年の動画広告市場は、前年比141%の2592億円、2020年には3289億円、2022年には4470億円にまで拡大する見込みだという。最近では、YouTubeなどの動画視聴サイトに加え、FacebookやInstagramなどのSNSでも動画広告に対応したフォーマットが提供されるなど、企業にとっては動画広告によるプロモーションの幅が広がりつつある。こうした傾向は、5Gの普及によってさらに加速すると考えられる。

 また、例えば電車内やエレベーター内、タクシーの車内のディスプレーにインタラクティブ動画広告を配信するプラットフォームが構築されれば、5Gによって実現する動画広告とデジタルマーケティングが展開されるシーンは増え続けていくだろう。

 2020年から始まる、5Gの時代。動画広告の活用がさらに進み、インタラクティブ動画を活用したone to oneマーケティングがさらに拡大していくと考えられる。5Gは、広告配信のスタイルだけでなく、デジタルマーケティングの在り方も変えていく。その可能性に、いま多くの企業の視線が集まっている。


林 渉和子=タンクフル

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