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Business 公開日: 2019.02.21

AIによるトレンド分析がもたらすファッション市場変革

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SNSなどの情報から、AIが流行りのファッションを分析。売り上げの7割を占める定番商品の開発に効果あり。

 ファッション業界に人口知能(AI)の波が急速に押し寄せてきている。

 ファッション市場では、2020年を境にインバウンド需要が落ち込むと見込まれていて、それを挽回するための策としてオンラインショッピングサイトが重視されている。ただ、オンラインショッピングは消費者にとって、いつでも購入できるという便利な面がある一方で、まだまだ不便なところもある。それを解決し売り上げ増に結びつける“処方箋”として、AIに注目が集まっているのだ。

 ファッションに特化したAIの特徴はどういったものなのか? そして、ファッション市場はどのように変化していくのか? いち早くファッション領域のAIの可能性に目をつけ、開発に取り組んでいるニューロープ社長の酒井 聡氏に聞いた。

スナップ写真に人力でタグ付けして蓄えたデータからAIを開発

ファッション業界にAIを持ち込んだ経緯を教えてください。

酒井:元々は、2014年から「#CBK(カブキ)」というファッションメディアの運営に携わっていました。そのメディアで、300人程度のモデルとインスタグラマーと提携して、読者向けに、彼女たちのスナップ写真を見られるサービスを提供していました。またショッピングサイトとも提携して、読者が気に入ったスナップ写真のファッションに類似したアイテムを買えるようにもしていました。

 この仕組みを実現するためにやったのが、スナップ画像にアイテムタグを記入し、類似アイテムとひも付けることでした。作業は人手でしたが、これを続けることで、スナップ画像を細かく分類するデータが大量にたまりました。そこで、このデータを基にしてAIを開発することにしたんです。開発したのは、コーディネートのスナップ画像に含まれているアイテムを解析するAIと、コーディネートを提案するAIの2つです。15年秋に開発を始めたのですが、時間がかかって、18年に入ってやっと事業化できました。

なぜ開発に時間がかかったのでしょうか。

酒井:アイテム数がとても多いことが理由です。例えば顔認識を例に挙げると、目、鼻、口などある程度要素が決まっているし、バラエティも少ないのでまだ認識しやすい。しかしコーディネートを認識するとなると、画像の中に、トップス、ボトムス、インナー、小物など複数アイテムが登場してきます。さらに一つのアイテムのなかで、色、柄、シルエットなどバラエティに富んでいる。処理すべきタスクの難易度が非常に高くなってしまうのです。

 ただ、開発に成功して事業化してからは、多くのファッション関連企業からオファーをいただいて、法人向けにAIを提供できています。

AIの導入例を教えてください。

酒井:ショピングサイトでの稼働が増えていて、類似アイテムをリコメンドするサービスを提供しています。今までもリコメンド機能はありましたが、既存の機能だとボトムスに対してはボトムスしかひも付けされません。我々のAIを導入すると、そのボトムスを自動で解析し、トップスやパンプスにも類似アイテムを出すことができます。AIが「#CBK」の膨大なデータに基づいて、「このボトムスには、このアウターやトップスが合いますよ」という提案をしてくれるわけです。従来のリコメンド機能とは質が異なっていて、さらなる売り上げ増に結びつきます。また、ショッピングサイトにユーザーがスナップをアップすると、AIが写真を解析し、類似アイテムを表示するサービスも提供しています。

トレンド分析とサプライチェーン最適化で在庫を圧縮

AIはファッション業界にどのような影響を与えると思いますか?

酒井: AIによるトレンド分析はファッション業界に大きな影響を与えるでしょう。Twitterで「#コーディネート」として検索すると様々なスナップが出てきますが、これらを弊社のAIで解析すると、今どういった色や柄やシルエットが流行っているのかがわかり、トレンド情報を定量化できます。

 一般のアパレル業界では、店頭に並べる6か月前には企画を立てています。トレンド分析をもとに製品を作っても6か月後には流行遅れになっている可能性があるのです。しかしZARA、H&M、アダストリアに代表される「SPA」と呼ばれる業態のファッション企業は、短い期間でモノを作るサプライチェーンを作っているので、トレンド分析は有効だと考えています。

 また、ファッションはトレンドが大事といっても、実際は売れているものの7割くらいは定番のモノです。ですから、定番の商品を開発するうえではトレンド分析は有効です。一般に、自社の過去の売り上げデータを分析して「このアイテムは来年も売れるだろう」という予測を立てますが、自社の売り上げデータだけだとデータ量が少なく“売れたであろう”商品が漏れてしまうことがあります。世の中のトレンド情報を定量化できれば、それを防ぐことができますね。

トレンド分析の精度が上がってくると「何が売れて、何が売れないか」を明確に予測できると思うのですが、それによって在庫も減らせるのでしょうか。

酒井:トレンド分析の精度向上と、サプライチェーンの最適化の2軸で、在庫問題は解決に向かっていくと思います。現状でもデザイン、サンプル、製造、物流の流れが最適化されているので、モノづくりのスピードは格段に速くなってきています。

 サンプルを作るという工程も省略できるでしょう。3次元CGでサンプルを作るアプリケーションも登場していて、デザインさえあれば仮想のサンプルをおこしてモノを売ることができます。消費者から注文が入ったら、急いで製品を作って届けるということが理論上は可能なのです。トレンド分析で「いま市場で何が売れているのか」が明確にわかりさえすれば、デザインをおこしてすぐに売ることができ、在庫を最小化できるでしょう。

AIが発達することでファッション業界はどう変わっていくのでしょうか。

酒井:トレンド分析とサプライチェーンの最適化で在庫を減らせるようになると、ファッションのコストパフォーマンス自体が良くなります。アダストリアなどの「SPA」はいまでもコスパがいいですが、あらゆるアパレル企業に“値ごろ感”が出てくるでしょう。アイテムの値段がより手頃になるので、お洒落を楽しみやすくなり、ファッションの魅力が相対的に高まっていくはずです。

AIがデザインを生み出す時代へ、デザイナーの仕事は「編集」に

酒井:あとはクリエイティブまわりにもAIを導入していきたいと思っています。大量の柄データをAIに学習させて、「新しい柄を生成しろ」という指令を出すとオリジナルの柄を自動作成してくれるシステムです。民族衣装や、昆虫の柄とかを入れると、人が思いもしないような面白い柄を生み出せるはずです。同じように、シルエットなども学習させれば、新しいシルエットを出すこともできるでしょう。

 そうなると、デザイナーの仕事がデザインを書き起こす仕事から、編集する仕事に変わってくるはずです。AIを使っていろいろな柄を作ってみて、そこからいくつかの柄を選ぶことになります。作業も減りますし、デザインの多様性も広がっていきます。3次元CGでサンプルを簡単に作れるので、奇抜なデザインでも仮想サンプルをとりあえず作ってみて、売れたら実際に作ればいいのです。AIでデザインは収束していくのではないかといわれますが、在庫のリスクが減るのでデザインはさらに発散していくと考えています。


佐々木 治


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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