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Business 公開日: 2018.07.10

207社と309億ドル——M&Aの動きから見るGoogle

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年に15〜30社のM&Aを続けるGoogle。目指しているのは何か。

※ 上記の写真はGoogleplex(Google本社)。出所:Google
 207社、309億ドル――。これは米Googleが2000年以降に買収したテック系企業の数と、買収額の合計である。

 デジタル社会がどのように進化していくのかを考えるとき、デジタル技術では世界最先端をいくGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)の動きを見ないわけにはいかない。研究開発投資は、この4社だけで約5兆円に上る(2017年)。

 各社は同時に、先端の技術や知財、人材、さらにはその施設や顧客を吸収すべくM&A(買収・合併)も並行して進めている。もちろん、これらR&DやM&Aにかけている費用のほとんどは、デジタル技術に関わる領域に投じられていると考えていい。

 その投資の動向から、GAFA各社がどんな領域に注目し、これからどんな社会を作り出そうとしているのかが見えてくる。そこで調査した結果の一部が、冒頭の207社、309億ドルである。調査したのは日経BP総研とテクノアソシエーツである。

GAFAの中でも群を抜くGoogleのM&A数

 ここからは、GoogleのM&Aの様子を紹介しよう。

 R&D、M&Aに積極的な姿勢は、GAFAには共通している点である。M&Aに関して言うと、中でもGoogleが最も積極的。2000年以降でM&Aした企業の数で見ると、Appleが104社、Facebookが14社、Amazon.comが97社であるのに対し、Googleは224社と群を抜く。

 224社には、Motorola Mobilityなどの大規模M&Aをはじめ、様々なケースが含まれているが、このうち、将来的にGoogleの事業に関わっていく可能性がありそうなテック系の企業のM&Aに絞り込んだ数字が207社である。

 この207社のうち、買収金額が判明しているものが57社。その合計額が309億ドルに上る。207社を買収した総額は、推計で803億ドルになる。R&Dに投じている費用とほぼ遜色ない額を、M&Aに投じているわけだ。
GAFAのM&Aの状況 (日経BP総研、テクノアソシエーツが調査)
 M&Aの対象企業は総じて若い。被買収企業の創業からの平均期間は67カ月、従業員数が50人未満の企業に限定すれば、平均55カ月以下。つまり、ほとんどがスタートアップ企業である。Googleは、こうした買収した企業の技術や人材を取り込んで、研究・開発を継続し、筋の良いものを事業に反映させていく。その典型例が2005〜2008年に買収したAndroid、YouTube、DoubleClickである。これらは、いずれもGoogleの本業である検索・広告事業の強化につながるもので、現在のGoogleを形作っているといえる。

分かれ目は2014年

 Googleも、当初からこれほどの勢いでM&Aしてきたわけではない。2001年から2009年くらいまでは、2007年に15件を買収した以外は、せいぜい年に5社前後の年が多かった。それが2010年から一段ステージが上がり、コンスタントに15件、多い年は30件ものM&Aを実施するようになった。飛び抜けて多いのが2010年の26社、2011年の28社、そしてこれまでの最高となる2014年の31社だ。
Googleの買収企業数の推移(2000年1月~2018年3月) (日経BP総研、テクノアソシエーツが調査)
 実はこの2014年は、M&Aの対象企業についても分かれ目の年になっている。2013年までは、DoubleClickやAdMobのような広告関連、YouTubeやSNSキャンペーンツールのWildfire Interactive、ビジュアル検索のLike.comという具合。既に売却されたものも多数あるが、前述した通り、その多くは現在のGoogleの事業を形作っている。

 この傾向ががらりと変わったのが2013年で、Boston DynamicsやShaftといったロボット開発企業を相次いで買収した。ただ、この年はむしろ特異点で、これらの買収を先導したアンディ・ルービン氏がGoogleを去ったあとは、ロボット関連の買収は影を潜めている。Boston Dynamics、Shaftも既にソフトバンクに売却済みだ。

 そして2014年からは、AI、クラウド、2015年からはAR/VR(拡張現実/仮想現実)などユーザーインタフェースに関わる企業のM&A件数がぐんと増えている。特にAIに関しては、AlphaGoを開発したDeepMind、Jetpac、Vision Factory、Dark Blue Labs、Granite、DialogFlow、AIMatter、Halli Labs、Kaggleという具合に、買収を続けている。

 AI、音声は、これから市場に広く展開していくもの。かつてのYouTube買収がそうだったように、これから先のGoogleを支えるものになるのだろう。それを予感させるのが、2018年5月の開発者会議「Google I/O」で、AIスピーカーが自律的に会話してみせるデモを見せた「Duplex」である。これに視覚・触覚・聴覚などのAR/VRが加わり、これまでとは全く異なるユーザー体験を提供するようになるのだろう。
Google Duplexのデモ

目指しているものは何か

 Googleは、ここまで見てきたM&Aとは別の領域の研究開発も進めている。自動運転、ブロックチェーン、量子コンピュータといったものだ。自動運転に関しては、子会社のWaymoとして推進してきたことはよく知られている。「市販車をベースにした自動運転車の開発に集中する」として、自動車メーカーとの共同開発に乗り出している。

 ブロックチェーンに関しては、2018年3月、独自のブロックチェーン関連技術を開発していることを明らかにした。改ざん防止のための監査システムと、クラウドオペレーションのプラットフォームの2つ。各種の報道によると、親会社のAlphabetは、同社が運営するベンチャーキャピタルを通じて、ブロックチェーンを利用したウォレット、金融取引ネットワーク、暗号資産管理などの技術、ノウハウを蓄積したと言われている。このことから、方向性の一つとして新しい金融サービス提供に乗り出してくることが考えられる。また、GDPR(一般データ保護規則)などプライバシー保護の強化が求められる中で、クラウド利用者のプライバシー保護の強化という方向性もありそうだ。

 量子コンピュータでは、「Bristlecone」と呼ぶプロセッサを開発中で、従来の機器では到達し得ない高い性能を実現する「量子超越性」の達成を目指している。ほかにも、Alphabetは、気球を使った移動体通信システムの「Project Loon」、空飛ぶ風力発電「Makani」、ドローンを使った無人配達プロジェクト「Project Wing」といった研究プロジェクトも継続して進めている。
Googleが開発している量子コンピュータ用のプロセッサ「Bristlecone」 (出所:Google Brainのブログ)
 一方で、Alphabetのアニュアルレポートに記載されているステートメントを見ると、同社の注力事業はあくまでも検索と広告である。これと、各種のM&A、そして上記の研究開発プロジェクトがどのようにつながるのか。それによってGoogleがどんな未来を描いているのか。
 単純な一つの絵にはならないが、それぞれの要素を目的別に整理してみると、概ね3つに分けられる。まず、BristleconeやProject Loon、Makaniなどはクラウドのプラットフォーム強化。多数のコンピュータリソースを使うクラウドの強化や、そこにアクセスする利用者の環境整備につながるものだ。2つめは、M&Aで核となっているAI、AR/VRなどで、利用者の利便性向上・新しい体験の提供につながるもの。そして3つめがブロックチェーンで、金融などを含む各種のサービスを提供するプラットフォームのセキュリティ強化を目的とするものである。

 見方の一つとしてだが、2番めの新しい体験の提供に関する技術開発は、デジタルとアナログのギャップを埋めていくものという捉え方ができそうだ。Duplexはデジタル化されていない店舗とデジタルユーザーをつなぐためのものだし、AR/VRが進化すると遠隔で旅行などの活動を疑似体験できるアバターロボットのような仕組みにつながる。ユーザーインタフェースに関わる領域では、おそらく人の脳からの発せられる情報をデジタルに取り込むBMI(Brain-Machine Interface)も視野に入ってくる。

 モバイル端末によって、ネット利用環境が家庭内やオフィス内から外に広がったように、視覚や聴覚に障害を持つユーザー、目的地まで赴けないユーザーなど、あらゆるユーザーのあらゆるシチュエーションに向け、アナログとデジタルのギャップを埋め、今までよりも便利な環境を提供していく。そんな絵にはなりそうだ。


河井 保博=日経BP総研


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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