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Business 公開日: 2021.11.17

大日本印刷がメタバース? 地域創生につなげる新規XR事業「パラレルシティ」に込めた思い

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 大日本印刷(以下、DNP)は総合印刷会社として東証一部上場企業ながら、デジタル分野にも強みを持つ。パンフレットや街中に貼るポスターなど印刷物を制作するために、基となるさまざまなデジタルデータを扱ってきたためだ。現在では「デジタルデータ」の意味を拡張し、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やマーケティング、セキュリティー関連の事業などを展開。そんなDNPはすでにバーチャル空間の事業にも進出している。

【画像】DNP
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 今回インタビューするのはDNPの新規事業を推進する三名。プロジェクト責任者の宮川尚氏(写真中央)と、テクノロジー関連のプロジェクトマネジメントを担う小田将史氏(右)、森本早紀氏(左)だ。

 三人は、地域創生に関わる地域XR事業推進部に所属している。DNPが進める『地域共創型XRまちづくりPARALLEL CITY(パラレルシティ)』の構想を中心に、いったいなぜDNPが「バーチャル空間」だったのか、新規事業に込めた思いなどを聞いた。

あくまで「地域創生」を拡張する延長線上の『パラレルシティ』

【画像】DNP
 『メタバース』なる言葉をよく耳にするようになったのは、新型コロナウイルス感染症の到来と無縁ではないだろう。人々の働き方や暮らし方の再構築を迫られ、職場のリモート化の検討など、どの企業も避けて通れない課題ではないだろうか。

 その潮流の中でにわかに活気づいてきたのが「バーチャル空間ビジネス」である。アバターを通じて仮想空間で活動を行えることが特徴で、Meta(旧Facebook)は仮想現実VRや拡張現実ARを活用した仮想空間『メタバース』の構想を打ち出し、予算規模は6000億円ほどと言われている。

 大きな時代の変化にともなうビジネスチャンスの到来に、国内外を問わず多くの企業が当分野への参入を始めた。その中でDNPでは「リアルとバーチャルを融合」した地域共創型の空間『パラレルシティ』を開発。ただし当プロジェクトは、新型コロナウイルスの感染拡大以前より始まっていた。そもそもなぜDNPが「地域創生」に注目したのか、軽く背景に触れておく。

 DNPはもともと「印刷事業」を通じて全国津々浦々、さまざまな企業との接点があった。多様な社会課題に触れる中で、それらを解決する新しい経済圏を生み出したいと考えた。そこで、DNPの強みである「印刷技術と情報技術」を生かしながら、地域の役に立つために、地域創生の新規事業に進出した――これが背景だ。
【画像】DNP
 宮川氏「以前から地域創生をテーマに新規事業を推進してきました。その中で、印刷物の制作を請け負うという観点よりも、地域の課題を解決していくことで新しい価値を提供していくことにフォーカスしています。場合によっては、共創して新しく事業を立ち上げることもあります」

 『パラレルシティ』構想は、地域創生の文脈から誕生したDNPのバーチャル空間サービスの総称だ。さまざまな企業からバーチャル空間サービスが立ち上がる中で、DNPのパラレルシティ構想は「ミラーワールド」である点にこだわっている。つまり、リアルの世界とバーチャル空間の世界を、鏡写しのようにシームレスにつなぐことにコンセプトの主眼が置かれているのだ。

 宮川氏「私たちは、バーチャル空間を、副次的なものとして捉えています。あくまで、地域創生につなげるのがパラレルシティ構想です。その目的は、リアルの場やイベントの価値を拡張するためのミラーワールドを構築することにあります。ミラーワールドであれば、幾重にもバーチャル空間を拡張・複製していくことが可能です。リアルの場所自体をパラレル化し、場所の持つ価値を無限に創出していくことをパラレルシティ構想のコンセプトに込めました」

 テクノロジーパートを担う小田氏も、地域創生にバーチャル空間を活用する可能性の高さを力説する。
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 小田氏「今までの地域創生では、いかに現実の場所で住民や観光客を増やすか、どうやって産業振興やイベントなどでにぎわいを生むかのアプローチのみでした。今後はXRテクノロジーを活用すれば、リアルとデジタルが融合したコミュニケーションの可能性を模索できます。

 例えば、デジタルで複製したパラレル空間であれば、個々の利用者がオリジナルにアレンジした街や場所を創り、さらに、思い思いにみんなと共有できる。場所の所有者や事業者側にとっても、複製された個々の“広い”場所で利用者とコミュニケーションを行えるメリットがあります。空間の制約がないので、個人個人が自分だけの宮下公園を作り上げて所有できるし、同時に、自治体や事業者側は複数のイベントを並行して行うことができるメリットがあるのです」

 2021年9月現在、東京都渋谷区立宮下公園と北海道札幌市北3条広場を皮切りに、地域共創型のXRまちづくりがすでにスタートしている。

「オウンドメディアのXR版を目指す」渋谷区と札幌市の事例

【画像】DNP
 DNP、一般社団法人渋谷未来デザイン、宮下公園パートナーズの三者が7月7日にオープンしたのが『渋谷区立宮下公園 Powered by PARALLEL SITE(パラレルサイト)』。パラレルサイトとはDNPの提供する、パラレルシティ構想を実現するためのソリューションの総称だ。バーチャル空間上に宮下公園を高精細に再現し、イベントを開催している。

 第二弾のイベントとして、渋谷の新しい価値の発信やコミュニケーションの創出を目指し、謎解きブームの火付け役の一人である謎解きクリエイター・松丸亮吾さんによる『松丸亮吾のMIYASHITA MYSTERY PARK(ミヤシタ ミステリーパーク)』、第三弾として、旬な現代アート作家を紹介するテレビ朝日の新感覚アート番組『アルスくんとテクネちゃん』の世界観を再現したバーチャルミュージアム『アルスくんとテクネちゃん パラレル・アートパーク』が展開されている。
【画像】DNP
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 宮川氏「ゲーム機器など特定のデバイスが不要で、スマホからでもPCからでも、世界中どこからでもインターネットのブラウザーからユーザーが入っていける、参加障壁の低いバーチャル空間を構築しています。このイベントでは1人でも、グループで協力しながらでも参加でき、バーチャル空間ならではの謎解きを楽しめる設計にしました」

 小田氏「第一弾イベントでは、公園全体をギャラリーと捉えて、美術作品のギャラリー展を行いました。また、企業が自社のブランドを届ける場としても活用ができます。札幌市のケースでは街の活性化を目的に、リアルではコロナ禍で規模を大幅に縮小して実施した『SAPPOROフラワーカーペット2021』や、マラソンイベントをパラレル空間で開催しました。コロナ禍でリアルの場に人が集まれない中で、パブリックビューイングで視聴いただいたり、協賛企業の訴求の場にご利用いただいたりしました。
【画像】DNP
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 通常の“リアル空間”なら一週間程度の期間も、バーチャル空間なら三カ月などのスパンで時間の制約に縛られることなくイベントを展開できます。また、バーチャル空間にしか置けないようなオブジェクトを展示できるため、表現の幅も広がりますね」

 当プロジェクトは、これまで各自治体と進めてきたさまざまな地域創生の取り組みからつながっている。渋谷区との関係は、2018年に設立した新しい産学官民連携組織である「一般社団法人渋谷未来デザイン」への参画から始まっており、これまでも地域資源を活用し、地域の魅力やメッセージを発信し、収益の一部を地域に還元する「渋谷区公認スーベニア事業」などを共同で立ち上げた実績がある。
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 宮川氏「例えば渋谷区の“ごみ問題”は特有の地域課題です。区のごみの多くは域外から流入して落としていきますが、その処理費用は渋谷区民が負担している。それでは、域外からの来訪者にお土産というカタチで負担してもらうと始まったのが『渋谷区公認スーベニア事業』のSHIBUKURO(シブクロ)プロジェクトです。

 賛同する企業や団体とコラボしてエコバッグなどを販売し、収益の一部を地域に還元しています。ほかにも、全国でデジタルサイネージの事業や、文化財のデジタル・アーカイブ化など、デジタル技術を活用してさまざまな形で地域創生、地域還元の種を創っているのが今のフェーズ。その中の一つが、宮下公園のパラレルシティ・プロジェクトです」

 地方自治体のほかにも、地域団体やエリアマネジメントの都市開発会社、インフルエンサーなどとの共創でパラレルシティをスタートさせ可能性を探っている段階だそうだ。まだまだ課題がある中、集客や認知拡大はどのように考えているのだろうか。
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 宮川氏「私たちの役割はXR技術を活用したオウンドメディアのフォーマットを提供することにあります。つまり、プラットフォーマーとして場を提供するというよりも、XRのバーチャル空間の構築を、ホームページ制作のように企業や自治体から請け負って制作するイメージです。

 今後、さまざまなイベントや地域交流の場に活用いただくことで、もっと人が集まってくると考えています。今後は文化財や世界遺産などを多く抱える地域と協業を広げていく予定です」

 「第一弾がなぜ渋谷区と札幌市だったのか」については「都市部の地域創生と地方の地域創生の違いが相対化されて、また空間をつなげることで想像を超えた体験が生まれる可能性があると考えた」からだという。一つの地域だけでバーチャル空間を展開しても、なかなか話題性の面でも広がらないと考えたのだとか。

 企業とのアライアンスの可能性も模索中のようだ。例えば通信会社や、CG制作やNFT(非代替性トークン)を展開しているベンチャーなどと協業の企画が進んでいるという。

 宮川氏「通信会社も5Gや6Gが普及した未来の新しいコミュニケーション方法を模索していて、地域をXR化、バーチャル化することを念頭に起きながらさまざまな試みを行っています。当然ながら、私たちだけで地域や日本全体をカバーできませんから、得意分野を持ち寄ったりしながら、さまざまな企業や自治体と協業しています」
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 小田氏「パラレルシティは、新しいまちづくりやスマートシティ構想などとも親和性が高いと考えています。私たちDNPは中立的に、さまざまな業種や産業の方々と横断して携われる点で、強みを発揮できると考えています」

 宮川氏「協業することが前提ですから、プラットフォームの構築を目指しているわけではないんです。オープンなウェブ環境の中で制作側の視点を持ち、BtoBの事業フレームを作りながら、地域の皆さまとノウハウをためていきたい。

 現在はベータ版の段階ですが、ゆくゆくは『オウンドメディアのXR版』を受託制作・保守・運用するなどのソリューションを通じたマネタイズを考えています」

ECやリアルなど既存のアセットを拡張させるのがDNPの強み

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 堅実に自治体におけるパラレルシティのポジションを得られればおそらく、先行者優位も確立できそうだ。今後はどのような世界観を描いているのだろうか。

 宮川氏「XRの世界は社内外問わず、資料などで説明してもなかなかメリットが伝わりませんでした。XRで何ができるのか分からないというわけです。ところがコロナというきっかけもあって、バーチャル空間でのコミュニケーションの必然性が高まり、ベータ版として渋谷区立宮下公園と札幌市北3条広場でイベントを開始したのが、これまでの経緯です。

 今は私たちが考えられる範囲で定義したバーチャル空間を提案し、反響をいただきながら形にしているフェーズ。次のステップでは、リアルとバーチャルとの融合を考えています。例えば宮下公園なら、公園そのものや周辺のビルなどのCADデータを使って正確に再現することで、リアリティーや没入感を高めている。その上で、リアルの場の宮下公園にいる友だちと、バーチャル上のアバターとして宮下公園で遊んでいる友だち同士が会話できるようにしたい。

 ほかにも、バーチャル上でのショッピングや決済にも展開できる、リアルの在庫管理とのデータを共有・統合していける拡張性を持たせた設計にしています。当然、ユーザーのIDといったアカウントの情報管理など、セキュリティー面の信頼性の高さも担保しています」

 DNPが目指す世界観は、既存のリアルの場やECなどの拡張であり、現状の延長線上に価値を築くことだ。そしてそれは、これまでDNPが得意としてきた、印刷技術からデジタル化へ移行する際に発展させてきたつなぎ込み技術でもある。
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 宮川氏「これまでは企業の製品カタログなどを受託制作し、同時に、印刷の前段階に必要なデジタルデータ技術を発展させて、CG制作やウェブサイト構築などの技術を磨いてきました。その技術を生かして、都市の設計データなどを加工してバーチャル空間に再現することができる。一見すると印刷技術とは関係がないようで、実は今までのDNPのアセットがうまく活用されています」

 「既存のECなどとつなぎ込める汎用性やテクノロジー、あるいはリアルの場の延長線上にバーチャルワールドを作れる」――それがDNPのビジネスモデルだというわけだ。

 宮川氏は「地域創生の実現を提供することで、新しい経済圏を産出できる可能性がある」と言う。地域が抱える課題感の根っこにあるのは、地域を活性化し、関係人口を増やしたいとの思いだ。しかしあまりに壮大な話なので、DNP一社では到底なし得ない。そのことはDNPも十分に理解しており、協業を通じて地域創生するXR経済圏を構築していく未来を見据えているようだ。

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