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Business 2021.06.17

世界で加熱し、日本も追随する「BIM/CIM」 最新の国内・海外動向と、その先に待ち受ける業界の未来予想図

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 近年、かつてないスピードで普及する建設業界のDX。それを考える上で欠かせない概念が「BIM/CIM」だ。国土交通省が推進し、建設業界のグローバルスタンダードになりつつあるBIM/CIMは、どのような背景で求められ、どのような改革をもたらしているのか。

 クラウド名刺管理サービスを提供するSansanが、建設業界のDXを加速させるためのオンラインイベント「Sansan Industry Conference 〜建設業のDX〜」を開催した。

 その中で「BIM/CIMの最新国内・海外動向と今後の展望」と銘打ったセッションがライブ配信された。大阪大学 大学院工学研究科 環境エネルギー工学専攻の教授であり、国土交通省のBIM/CIM推進委員会の委員長も務める矢吹信喜氏が、世界的に普及しているBIM/CIMの現在地と可能性について語った。

建設業界の革命「BIM/CIM」とは? その歴史は1980年代まで遡る

 建設業界の革命とも言われるBIM/CIMだが、そもそもどのような背景で生まれたのだろうか。矢吹氏はセッションの冒頭で、建設業界が抱えている課題を整理した。
大阪大学 大学院工学研究科 環境エネルギー工学専攻教授、国土交通省 BIM/CIM推進委員会 委員長 矢吹信喜氏
矢吹氏 建設業界はさまざまな課題を抱えています。例えば、労働生産性が他の産業と比較して低いことや、災害が激甚化していること。構造物が老朽化しており、間もなく寿命を迎えるにも関わらず、更新予算が限られていること。働き方に関しても長時間残業や土日の現場稼働が目立ち、働き方改革の重要対象業界と言えると思います。そのほか、就業者の高齢化や若手の減少、死亡事故の多さから安全性も課題として挙げられます。

 このような課題は「世界的にも古くから問題視されていた」と矢吹氏。実際に米国では、これらの課題を3次元CAD、データベース、ロボット、AIなどの応用によって解決しようとする研究が、1980年代からスタンフォード大学やマサチューセッツ工科大学、カーネギーメロン大学などでスタートしていたという。

矢吹氏 その結果、2004年頃には「BIM」という言葉が登場し、瞬く間に世界中へと広まりました。BIMとは「Building Information Modeling」の略称です。コンピューター上に3次元のプロダクトモデルを作成し、その周辺にさまざまなソフトウエアを用意することで、データを一元的に共有しながら設計・施工・維持管理を進めていく新しいワークフローのことを指しています。

矢吹氏 従来の建築の設計プロセスは、意匠設計、構造設計、設備設計、生産設計を順番に行う「ウォーターフォール・モデル」でした。それをBIMでは「フロント・ローディング」と呼ばれる前倒しでの進行とし、「コンカレント・エンジニアリング」、すなわち同時進行的に行います。これにより効率化、ミスの低減、コスト削減、より良い設計・施工の実現などが期待できるようになったのです。

 そんなBIMの概念を、建築だけでなく土木工事でも活用しようとして生まれたのがCIMだ。

矢吹氏 2012年、国土交通省の事務次官だった佐藤直良氏が「CIM」を提唱し、同年から早くも試行業務がスタートしました。BIM/CIMの活用事例は平成24年には11件でしたが、令和1年には400件近くまで増えており、着実に普及しつつあります。ちなみに、CIMは「Construction Information Modeling/Management」の略称でしたが、これはあくまでも和製英語。海外では「BIM for Infrastructure」または「Infra BIM」と呼ばれていたため、国交省では2018年度から「BIM/CIM」と表記することが定められました。

企業間の意思疎通から設計・施工までにイノベーションを起こす、3次元化のメリット

 国を挙げて推進されているBIM/CIMだが、現場にどのような恩恵をもたらすのか。矢吹氏はコンピューター上に3次元のプロダクトモデルを作成するメリットについても整理する。

矢吹氏 設計段階でのメリットは、立体的に可視化することで理解しやすくなるため、協議や説明会などが効率化されること。要するに、コミュニケーション上の誤解を減少させてくれます。また、2次元の図面は枚数もかさむためミスが多くなりがちですが、3次元ならモデルが一つなので、ほとんどミスは起こりません。2次元図面だと時間と労力がかかる数量計算も、短時間で自動化できるほか、自動干渉チェックができることもメリットでしょう。解析ソフトや技術生産ソフトともリンクできるため、2次元図面が必要になったら3次元モデルをカットすることも可能です。

 3Dモデルが本領を発揮するのは、設計段階だけではない。積算や施工計画、実際の施工段階でも役立つ。
【画像】shutterstock
矢吹氏 積算はオブジェクトの属性データを使うことで大幅に効率化。施工計画を立てる際には、工程計画ソフトと3次元モデルを連動させた4次元CADというものを使うことで最適化できます。施工段階においては、土木工事のマシンガイダンスやマシンコントロール、出来形検査を効率化するのはもちろんのこと、発注者が現場に行かずに検査する臨場検査、タブレットによる寸法や属性のチェック、請負業者と協力会社間の意思疎通の円滑化などにも重宝するでしょう。

 さらに矢吹氏は、維持管理の段階での有用性も主張する。例えば、これまでは完璧なAs-Is(※)図面を作成できる事務所は稀だったが、3次元モデルならAs-Isモデルを正確に作成できる。また、従来の近接目視による点検報告書では部材や位置を把握しづらいケースもあったが、3次元モデルならそれも一目瞭然だ。センサーやAIとの相性も良く、テクノロジーの進化とともに利便性はより増していくことが予想される。
※ As-Is
現状、今の姿のこと。つまり、ここでは維持管理する構造物の現状の状態を指す。
 ちなみに、このような3次元モデルは国際標準化しなければ、国や会社によって規格に違いが発生し、3次元CADや設計ソフトを使用する際の互換性も損なわれてしまう。そこで1996年にはアメリカの民間企業10社が中心となり、国際標準化を目指したIAI(International Alliance for Interperability)という非営利組織が立ち上がった。現在はBSI(Building Smart International)へと改称し、国際標準化に成功している。

BIM/CIM国内での現在地は? 2023年度には原則適用を予定

 さらに矢吹氏は、BIM/CIMの国内での現状についても紹介する。例えば、国土交通省では前述の試行業務を通じてヒアリングやアンケートを実施。効果と課題の洗い出しを行い、それを評価する検討会も設立した。検討会は2018年に「BIM/CIM推進委員会」へと名前を変え、矢吹氏自身も委員長を務めている。

矢吹氏 国交省の特筆すべき動きとしては、CIM導入について情報をまとめた「CIM導入ガイドライン(案)」を、2017年3月に策定したこと。当初は共通編のほか、土木、河川、ダム、橋梁、トンネルを対象としていましたが、次々と拡張・改訂し、現在では機械、下水道、地滑り、砂防、港湾なども加わりました。それに伴って2020年からは、共通編のタイトルを「BIM/CIM活動ガイドライン(案)」に変更し、その他の項目も再編しています。

 2015年11月には、建設業界のICT化を進める政策「i-Construction」を発表した。2016年を「生産性革命元年」と位置付け、2025年に建設業の生産性を20%向上させることを目標に掲げた。
矢吹氏 2020年の春には、インフラ分野のDXを強力に推進する新しい政策も発表しています。国交省の本省には推進本部が設置され、地方には人材育成センター、データセンター、ロボティクス実験フィールドなどが作られました。また、国交省ではBIM/CIMの原則適用を2025年度から予定していましたが、2年間の前倒しを行い、2023年度からに変更。小規模を除く全ての公共工事の刷新と、そこに至るまでのロードマップもすでに策定されています。

BIM/CIMの国際的な動向は? 日本を置き去りにする各国の現状

 国内での推進が進むBIM/CIMだが、海外はさらに一歩リードしている。矢吹氏はBIMの国際的な動向についても解説する。

矢吹氏 欧州で最もBIMが普及している国がイギリスです。2016年には、国の発注する一定規模以上の設計や工事に対して、BIMを義務化。この時点で、2010年と比べて20%のプロジェクトコストの削減に成功しています。また、2025年までの完全BIM化を掲げており、それによる33%のコスト削減と50%の工期短期化を目指しているようです。共通データ環境(CDE)の構築にもいち早く乗り出し、プロジェクトの上流から下流まで全てのステークホルダーがクラウドでデータ共有できる環境を整えています。

 BIMを推進する動きは、イギリス以外でも数多く見られているという。

矢吹氏 フィンランドも国を挙げてBIMに力を入れています。特に発展しているのは道路の分野で、Infra BIMを義務化しているほか、Infra BIMの国際会議も主催しています。さらには施工にロボットを活用したり、データを共有するためのネットワークを開発したりといった取り組みを、国・大学・国立研究所・産業界が一体となって進めています。
【画像】shutterstock
矢吹氏 1980年代からBIMを研究しているアメリカも、リーダーシップを取っている国の一つです。2007年にはすでに、連邦政府の発注する建築や土木に対してBIMを義務化。近年は産業界と連携し、BIMと原価管理を連動させる5Dモデルを使ったIPD(※)を実施しています。また、フランスも国家プロジェクトとして巨額の研究資金を投入し、インフラ分野の3次元データ化を推進。ドイツは2019年に国全体がBIMで湧き上がり、2020年には国の発注する建築や土木に対してBIMを義務化しています。
※ IPD
Integrated Project Deliveryの略称。建築家、エンジニア、請負業者など、建築プロジェクトに関わるチームが初期の段階から協力し、最も有効な意思決定を共同で行う協業形態のこと。
 欧米のみならず、アジア諸国でもBIMの動きは活発だ。

矢吹氏 中韓は日本よりもBIMを積極的に進めています。例えば、韓国はBSI(英国規格協会)で道路のプロダクトモデルであるIFC(Industry Foundation Classes) Roadのプロジェクトリーダーを務めていますし、中国はIFC Railという鉄道のプロダクトモデルを開発しています。アジアナンバーワンと言えるのはシンガポールで、産官学が一体となってBIMを推進し、義務化に成功。特に建物の建築確認申請では、BIMモデル(IFC)で提出することが以前から義務づけられており、自動チェックプログラムも利用されています。

部分最適化から全体最適化の時代へ、建設業界を待ち受ける近未来

 では、BIM/CIMの普及によって、建築業界の未来はどのように変わっていくのだろうか。矢吹氏はその展望について、「部分最適化から全体最適化の時代に移っていく」と見解を述べる。

矢吹氏 戦後の高度経済成長期は、部分最適化の時代でした。当時の建築業界では、発注者、設計者、施工者、下請け業者などが分断され、個別に効率化や価格競争を行ってきたからです。これは製造業にも見られた傾向ですね。ところが1990年頃に冷戦が終結すると、ヒトやカネが世界中を駆け巡るグローバリゼーションの時代に突入。価格競争だけでは発展途上国に負けてしまうため、3D技術を駆使した統合化生産、つまりは全体最適化が求められるようになりました。

 部分最適化から全体最適化へ。BIM/CIMによって時代の変遷に適応するためには、犯してはならないタブーもあるという。

矢吹氏 BIM/CIMを実践する際、自分たちの仕事が楽になる、早くなるといった近視眼的な捉え方をしていては行く先を見誤ります。今後はプロジェクトの進め方はもちろんのこと、業態そのものも変わっていく変革の時代に突入したという認識を持たないといけません。日本でITを導入すると、縦割り組織を維持したまま、仕事のやり方を変えずにIT化しようとするケースも多いです。しかし、これでは部分最適化になってしまう。ITは組織の縦と横のつながりを一体化させることで初めて、全体最適化につながります。

 セッションの最後で矢吹氏は、全体最適化の先にある具体的なビジョンも“予言”する。

矢吹氏 近未来の建設業界は、設計も施工も維持管理も全て3次元モデルで行われるようになります。また、これまでは設計会社と施工会社の距離が遠く、詳細設計の段階で検討すべき事項を全てクリアするのは困難でしたが、その問題も解決。施工段階では最先端の自動車工場のように、自動化・無人化が進むでしょう。既設インフラに関する情報に対しても、一定以上の権限を持つ技術者はフリーにアクセスし、検索・集計できる仕組みが整備されていきます。こうなると土木技術者の将来の仕事は、単純にインフラを作るのではなく、既存の建造物に変化を与えたり、新しい利用方法や運用方法を考えたりすること。より価値創造の方向へと舵を切っていくのではないでしょうか。
Text/佐藤宇紘

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