sansansansan
  • DIGITALIST
  • Articles
  • 農家にデータ経営を!「マーケットイン型農業」は社会を救う
Pocket HatenaBlog facebook Twitter Close
Business 公開日: 2019.03.08

農家にデータ経営を!「マーケットイン型農業」は社会を救う

お気に入り

農家のデータ経営向けにサービスを提供するテラスマイル。市場と対話しながら作る「マーケットイン型農業」を推進。

 世界に広がる食糧問題。その改善のためには、従来の農業のあり方を見直し、効率的かつ安定的に生産・供給できる農業を実現する必要がある。とはいえ現在の農業には、高齢化、後継者不足、季節や自然災害などの影響を受けやすい不安定な事業構造といった課題がある。

 そこで考えたいことの一つが、ムダな生産をなくし、収益性を高めること。そのためには消費者の需要を厳密に捉え、それに合わせて作物の種類、収穫量を計画的に決めて生産・出荷する必要がある。

 こうした中、「マーケットイン型」という考え方で農業改革に取り組もうというベンチャー企業がある。テラスマイルだ。クラウドサービスを使って、農業にマーケットインの考え方を持ち込む。

 農業におけるマーケットインというスタイルを、どのように実現するのか。代表取締役の生駒祐一氏に聞いた。

テラスマイルが開発・提供しているクラウドサービス「RightARM」は、農業に「データ経営」、つまりデータに基づいた科学的な経営を可能にするということで注目を浴びています。

生駒氏:RightARMは農家の経営分析ができるようにするクラウドサービスとして2018年4月に本格提供を始めました。簡単に説明すると、「農作物の収穫量と売り上げを、様々な切り口で可視化し分析することで、経営の振り返りを支援するサービス」です。

 農家が主に使う機能は、その農家が持つ収穫量や売上高のデータ、また農業用の環境モニタリング装置から得たCO2などのデータ、それからテラスマイルが持つ気象データや市況データを収集・集計し、それらのデータを前年と比較するというものです。
RightARMの画面例。各種データを比較することで、農業経営の改善のヒントを得る。RightARMの基本料金は月額7000円。ユーザーが農産物を地域商社を通じて契約出荷する場合は、それに加えて流通価格に応じた手数料を別途支払う(手数料は流通価格の3%前後が目安、取り組み内容により応相談)。(画像提供:テラスマイル)
 この機能を使うと、例えば「2月における1番ハウスの収穫量は、昨年の2月よりも10%少なかった。その理由は気象が原因なのか。それとも水やりや肥料やりの問題なのか」といった振り返りができるようになります。

 データによって前年と比較できれば、その差異が何から生じているのか推察しやすくなります。その推察を通じて、例えば「気温の変化に連動した水やりと肥料やりの方法を確立しよう」などといった対策を取れるようになります。こうした対策を積み重ねていくことが、収穫量や売上高の増大、ひいては農家の経営力の向上につながります。

 また、私たちはこれまでの経験を反映した比較分析・仮説データベースを持っています。この中には100パターンを超える分析の切り口があって、これを使うことで、よりきめ細かな対策を実行することが可能です。

 収穫量や売上高のデータはユーザーである農家に用意していただく必要があります。一時的に負荷がかかる格好にはなりますが、実はデータを用意するだけでも農家にとってはメリットが生じることがあります。実際、収穫量と売上高のデータを用意する過程で経営が改善されたケースがあります。というのは、データを用意する作業を通じて、圃場別、あるいは野菜のランク別・糖度別といった形でより精緻に管理するようになるからです。

 従来、CO2などの環境データは取りにくかったのですが、近年は農業分野のIoT(モノのインターネット)機器が発達してきたため、比較的容易に取得できるようになりました。

最新のバージョンでは、AI(人工知能)により過去の実績から将来の収穫量を予測する機能を追加しました。収穫量を予測できれば農家は売り先に交渉しやすくなりますし、作業計画や人員配置計画も立てやすくなります。今後1年をかけて、さらにブラッシュアップしていきます。

 また今後は、作付計画(いつ何を育てるかという農家にとっての基本計画)とコストの最適化を支援する機能を新たに追加する計画です。

 テラスマイルは元々、農家の経営コンサルティングを手がけてきました。過去のコンサルティング活動を通じて「いつ、誰が、何をどこに出荷したのか」といった出荷についてのデータを約20万件預かっています。利用者や提携先が増えたことにより、2019年中にはこの数が10倍に増加する予定です。併せて農業IoT機器メーカー10社以上から取得したログデータを約6500万件蓄積しています。これらのデータをRightARMの機能強化に活用しています。
生駒祐一(いこま・ゆういち)氏。テラスマイル代表取締役。IT企業のシーイーシー勤務時代に宮崎県の農業法人の立ち上げを手がける。2014年に宮崎県でテラスマイルを創業。経営の可視化・予測・分析を行う「RightARM」を展開する。RightARMは農業関連ベンチャーのエムスクエア・ラボやソフトウエア開発のアクロクエストテクノロジーと共に開発。テラスマイルは主に地銀系ベンチャーキャピタルからの出資を受けている。

マーケットインの発想が農業を”産業“にする

RightARMを使うことで収穫量アップを実現した農家の例があると聞いています。

生駒氏:8人の生産者からなる宮崎県のピーマン生産グループが、RightARMの前身となるサービスを利用してきました。このサービスを通じて、データを見ながら収穫量アップにつながる取り組みを続けたところ、10アール当たりの収穫量は過去4年で平均約158%アップしました。

1.5倍というのはかなり大きな成果ですね。

生駒氏:はい。しかし、生産者の売り上げが伸びたわけではありませんでした。というのは、単に収穫量を上げただけでは市場で品がだぶつき、単価が下がるためです。

 従来の農業の姿を少し乱暴に言えば、農家はとにかく作りたい品を作って、収穫できた分だけ出荷する、という状態です。しかし、市場が求めている品を生産しなければ売り上げが伸びないのは当たり前です。この当たり前の事実を踏まえて、当社ではRightARMを通じて、いわばマーケットイン型の農業を作り出そうと取り組んでいます。

 マーケットイン型の農業を実現する第一歩として、農産物の流通販売経路を持つ地域商社との提携を強化しています。これを通じて、「市場のニーズに基づいて作付計画を立て、出荷予測を見ながら生産活動を調整する」という仕組みづくりを進めています。主な提携先としまして、西原商会、クロスエイジ、マイファーム、やさいバス、こゆ財団などの地域商社、それからJA宮崎経済連です。

 これら地域商社の一部ではRightARMを導入し、提携先となる農家の経営分析をサポートしています。農業経営者の方々は日々の農作業でとても忙しい。そうした中で地域商社が提供する経営分析により農家の売り上げが伸びれば、地域商社としての存在価値が上がります。こうした農家と地域商社の両方がうまくいく関係は、今後の理想型ではないかと見ています。

 総じて、今後、農家が積極的に取り組むべきは経営の品質向上です。そこでRightARMは機能強化を進める上で、利用する農家がグローバルGAP認証を目指すことを想定しています。グローバルGAP認証では、経営管理の品質向上、具体的には農場の管理・運営の仕組みづくり(Quality Management System)が問われます。そこで、RightARMを使うことでこの側面がカバーできるように、グローバルGAPの認証取得コンサルティングを手がけるファーム・アライアンス・マネジメントと業務提携をしました。
編集部注:GAP(Good Agricultural Practice)とは、適正な農業経営管理の概念を指す。日本では一般財団法人日本GAP協会が第三者認証機関として農家のGAP認証を実施している。GAP認証を取得した農家が出荷する農産物は、取引で優先的に扱われる可能性がある。

設備投資のための出資判断にも

経営品質が上がることで、農家はどんなメリットを享受できるようになりますか。

生駒氏:経営品質が向上すれば、設備投資もしやすくなり、さらなる発展を見込めます。最近、RightARMは金融機関の方々から興味を持たれてています。その理由は「RightARMを通じて地域の金融サービスを活性化できないか」というものです。

 RightARMを使えば、その農家の経営品質が見えてくるといえます。そうすれば金融機関は農家への融資を判断しやすくなる。しっかり経営している農家は設備投資しやすくなり、ますます発展すると考えられます。

農業の「最適配置」を目指す

RightARMを通じてどんな農業の未来を切り開こうとお考えですか。

生駒氏:「農業の最適配置」を実現したいと考えています。先ほども触れましたが、従来の農業は生産者と市場が分断されています。情報システムとデータを通じて、農業に携わる関係者が自分の領域からそれぞれ一歩踏み出して、市場が求めているものを適切に作り、適切に流通させ、個々がしっかり稼ぐという姿をつくりたいと考えています。

 そこに貢献するのが農業データ基盤であるRightARMです。これを使えば「何をどの時期にどのくらい作ればきちんと利益が出るのか」を、農業に携わる関係者が見いだしやすくなります。

 国家的な仕組みとの連携も重視しています。RightARMは日本が産官学で進めている農業ネットワークである「農業データ連携基盤(WAGRI)」とも連携でき、WAGRIを通じた農業データの利活用も可能です。

 やや大きな枠組みの話になりますが、農業が今よりさらに利益の出る産業に変えられれば、地方の発展にもつながります。
編集部注:平成29年度農業経営統計調査によれば、水田作経営の1経営体当たりの農業所得は70万円、畑作経営の1経営体当たりの農業所得は348万円、露地野菜作経営の1経営体当たりの農業所得は234万円、施設野菜作経営の1経営体当たりの農業所得は507万円)
 そのためにはツールを用意するだけでは十分とはいえません。ツールを活用できる農業経営者の育成が重要です。そこでテラスマイルでは、農業経営者の育成を手がけるアグリイノベーション大学校やマイファームの農業経営塾と組んで、それぞれで「ICT/IoTデータを活用した農業経営」という科目をこの春から設けます。

 日本の地方における産業で存在感があるのは、やはり農業です。その農業がより利益が出る産業になれば、地方の経済は自立しやすくなります。少子高齢化や地域の衰退が指摘されている中、このクラウドサービスを通じて少しでも地方の発展、未来の創造に貢献できればと考えています。


高下 義弘


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

関連記事

DIGITALIST会員が
できること

  • 会員限定記事が全て読める
  • 厳選情報をメルマガで確認
  • 同業他社のニュースを閲覧
    ※本機能は、一部ご利用いただけない会員様がいます。

公開終了のお知らせ

2024年1月24日以降に
ウェブサイトの公開を終了いたします