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Business 公開日: 2022.07.27

インフラDXの最前線。デジタルツインで一元管理し工場内を4足ロボットが歩く世界へ

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 DXの波が、電気やガス、あるいは製造業などのインフラ産業にも拡大してきた。脱炭素社会を目指す上でも、「インフラDX」は避けて通れない 。脱炭素社会とは主に二酸化炭素の排出量を低減することを指し、その半数以上は、鉄鋼業を始めとする産業施設や発電施設などのインフラ産業から排出されているためだ。しかしながら社会への影響範囲の大きさゆえに、慎重な舵取りが求められるだろう。最前線ではいったいどんなDXが行われているのだろうか。

【画像】Shutterstock
【画像】Cognite
 Cognite(コグナイト)は、ノルウェーの石油会社を親会社に持つ外資企業の日本法人で、世界約60カ国で展開されているグローバル企業である。2019年に日本へ上陸し、インフラ産業における工場・プラントのデジタル化を支援しているSaaSベンダーだ。

 日本のインフラDXにはどのような課題があり、どう変わっていくのだろうか。Cognite代表取締役社長 江川亮一(えがわ・りょういち)氏に、Cogniteの取り組みとあわせて話を伺った。

スマート保全で障害予兆の精度を高める

 DXで解決が期待できるインフラ産業の課題はいくつかある。人手不足、防災、施設の老朽化対策などだ。もちろんDXで全てが一発解決とはいかないが、全てに影響する切り札としてDXが位置づけられている。

 大きな工場などの内部ではさまざまな機器が稼働している。温度センサー、電圧計、油圧計、流量計など、実に多くの計器が備わっているが、それらのデータはバラバラに計測・データ格納されており、統合されていないことが多いのだという。江川氏は次のように話す。

 江川氏「工場やプラントの中にある多くのセンサー類が、日本ではデータとしてつながっていないのが現状です。それらを価値あるデータとしてつなぐのが、私たちCogniteの役割です」

 どの機器が今50℃で、80Hzで……といったデータは、現場に行って計器を見れば分かるが、それらを本社のマネジメント側がリアリタイムで知ることはできない。もしデータを使って数値で工場全体の運営状況をダッシュボードなどで見える化することができれば、どこに無駄があり、どこに滞留があるかを自動的にAIで判断し、合理化できる。データを統合して一元的に見ることで、可能になることが格段に広がるのだ。

 江川氏「インフラDXを通じて、より安全に、より効率的に、より少ない人数で工場の操業を行えるようになります。それらは同時に、働き方改革やスマート保全、生産性の向上にもつながる。これがインフラDXの最大のメリットです」

 スマート保全とは、工場やプラントで行っている機器やプラントの定期点検をデジタルテクノロジーによって効率化し、故障などの障害も予兆分析・検知によって事前に防ぐなど、保全作業の高度化・合理化を図ることを指す。

 江川氏「予期せぬ障害の発生はあってはならない事態です。そのため、工場内の保全・メンテナンスは、プラントを全停止して何日間かにわたって実施するケースもあります。法律で決まっていることもある。設備の保全はそれほどに大掛かりなことです。

 データを一元化し、異常値の監視をAIでリアルタイムに管理していれば、障害発生の予兆に気づけるようになります。一定の時間経過に基づいて行っているようなメンテナンスも、年1回の頻度で済ませられるかもしれません」

 操業のメンテナンスに掛かるコストを圧縮できれば、補修費用や部品の交換代、人件費などを削減のみならず、工場を停止させる時間を減らし稼働率と生産性を向上させることにもつながるのだ。また、遠隔から監視・管理できるため、リモートワーク化や省力化にも寄与するという。

熟練エンジニアの継承問題

【画像】Cognite
 もうひとつ、インフラDXで重要な視点は「知識・ノウハウの継承」だという。
 江川氏「高度な施設になるほど、熟練のエンジニアが必ずいます。比較的年齢の高い方も多い。今はまだ現役で『そのベテランに聞けば何とかなる』状態で稼働が成立していますが、あと10年もしたらみなさん引退している可能性が高いです。

 その点でもインフラDXはお役に立てます。ナレッジマネジメントの意味で、熟練の技術を機械学習モデルによる判断などに落とし込むことができますから」

 また、現状では作業結果を紙やExcelで保管し、特定のチームにしか格納場所が分からないようなデータもあるという。そんなケースでも、過去から時系列に沿って作業記録を残すことができ、全てのメンバーがデータにアクセスできるようになる。これもDXの利点だ。

 いずれにせよ、インフラDXにはメリットしかないように感じる。それにも関わらず「日本のインフラDXは欧米に比べて数年以上遅れている(江川氏)」のはなぜだろうか。

 江川氏「海外と日本における、組織内の意思決定の方法の差はあるかもしれません。欧米ではトップダウンで物事が決まっていく一方、日本はどちらかというとボトムアップ文化です。担当者レベルで見ると今のままでも業務は回っていて、DXを導入せずとも特に現状で困っていることがあるわけではありません。デジタルを使って現状を変える動機が働かないのです」

 そのため、PoC(Proof of Concept)と呼ばれる技術検証で止まってしまい、なかなかDXが浸透しないのが多くの日本企業の課題だという。

デジタルツインで熟練エンジニアのノウハウ継承に取り組む事例

【画像】Shutterstock
 現在は約60社と取引があるCognite。そのうちの国内大手化学メーカーはデジタルツインなどのテクノロジーを活用して、熟練エンジニアのノウハウ継承に取り組もうとしている。

 その企業ではデジタルツインを作ってプラントを運用するために、Cogniteの製品を導入した。デジタルツインとは「デジタル空間上の双子』を意味し、現実世界にある生産設備などのさまざまなデータを収集し、デジタル上に再現した3D空間、および技術を指す。

 デジタルツインの構築に当たり活用したデータは、プラント設計時の3D CADモデル、360°イメージや2次元の図面情報、各プラントのリアルタイム運転データ、装置マニュアルや設計図書など。

 江川氏「機器に設置されている各センサーの情報をデータとしてリアルタイムに吸い上げ、全てをデジタルツイン上に統合しました。3D画像で直感的に操作でき、統一データとして見られるようになり、知りたい機器のリアルタイムの運転データ・アラーム情報をドラッグ&ドロップで簡単に抽出できます。現場に行かなくても、スマートフォンやタブレットからさまざまな情報をどこからでも得られるようになりました。

 過去の運転データも記録していればリアルタイム・データだけでなく、3カ月前や2時間前のデータも全て分かります。もし監視している運転データにおいて、熟練労働者の経験などを基に設定したしきい値を超えた異常値が出た場合、担当者へ自動的にメールなどで連絡が届き、いつから異常値が上昇し始めたのか過去データを探ることもできるわけです」

 江川氏「インフラのDXというと、大掛かりに時間を掛けて構築していると想像されがちですが、デジタルツインを作ってつなぎ合わせるところまでであれば、1カ月でできます」

 Cogniteのサービス導入以降、この企業はデジタルツインによってさらなる技術伝承や少人数オペレーションの実現に効果を期待している。

再生可能エネルギーの産業発展にもDXが寄与

 他には、NTTコムウェアと協業し、風力発電事業者向けに「統合分析ダッシュボード」を開発した事例も。デジタルツイン上で風力発電設備ごとの発電量や収益状況、メンテナンス情報などを一元的に可視化し、合理的な運営や現状分析、スマート保全などに活用できるサービスで、2022年5月からNTTコムウェアが提供を開始した。

 昨今の原油価格の高騰と資源調達の困難化に伴い、太陽光や水力、風力、地熱などの再生可能エネルギーへの注目が一段と高まった。

 江川氏「再生可能エネルギーならびに脱炭素化は、製造業を含めどのインフラ企業も高い関心を寄せています。削減を宣言するだけでなく、二酸化炭素の排出量の現状を見える化して公開する社会的責任も求められるでしょう。脱炭素の観点でも、インフラDXは大いに寄与できます」

工場版のGoogleストリートビューを作る

【画像】Cognite
 欧米での先進的な取り組みでは、ロボットやドローンの活用がかなり進んでいるという。多くの人が、犬のように歩くボストン・ダイナミクスの4足歩行ロボットをニュース映像などで一度は見たことがあるだろう。そのロボットは、背中にさまざまなセンサー類や360°カメラを取り付け、プラント内の各計測ポイントを自動巡回する。自動で撮影し、何を示す値と単位なのかを画像AIが判断した上でデータ化・数値化されるというのだ。

 江川氏「このロボットの仕事はこれまで、人が巡回して行っていたのです。それを、リモートでパソコンや端末からチェックできるようになる。デジタルツインの構築とはいわば、Googleストリートビューの工場版を構築するようなイメージを持っていただければ分かりやすいでしょう」

社会への貢献度が高いインフラDX

 DXだけでなく、今後は「ハイブリッドAI」が重要になってくるという。

 江川氏「弊社では生産現場の運転データと物理シミュレーターで組み合わせた機械学習モデルをハイブリッドAIと呼んでいます。大手企業であれば優秀なデータサイエンティストがすでに在籍しているケースもあります。ところが、AIに活用できるほどのデータの蓄積がないという課題があります。そのため、物理演算を行って理論値を導き出す物理シミュレーターを活用してデータの補完を行っていく必要があります。また、物理シミュレーターとの連携により、ブラックボックスとなりがちなAIの判断に理論的な根拠を持たせることも可能です。

 この分野も海外では導入事例が多くありますが、日本ではまだまだこれからです。このハイブリッドAIは、操業を最適化して生産性や品質を向上させることのできる、とても重要な技術だと考えています」

 インフラ企業は影響範囲が大きいだけに社会貢献度が高く、世界が進んでいくためにもDXのテクノロジーが必要だと江川氏は語る。インフラDXの恩恵は、全ての人が影響を受ける重要な領域だ。それだけに、インフラDXのさらなる機運が高まることを願いたい。

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