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Business 公開日: 2019.02.26

米中の小売りに広がる「Just Walk Out」、顧客の識別と決済で各社に違い

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「誰が」「どの商品を」選び、「購入したか」を明確なチェック作業なしで把握する。その無人店舗・レジ無しの仕組みとは。

 2018年1月に米国・シアトルに開店したAmazon Goは、その後、シアトル2号店、3号店がオープンし、現在では、サンフランシスコとシカゴにも店舗を展開している。米ブルームバーグによると、2021年までに全米で3000店舗を出店する計画だという。このAmazon Goをはじめ、商品棚から好きな商品を選んで、そのまま店を出るだけの「Just Walk Out」という新たな買い物体験を可能にしているのは、店内に設置された複数のカメラとマイク、棚に設置されたセンサーなどのシステムだ。

 いくつかあるレジ無し店舗で、どれもカメラ、マイク、センサーなどだいたい同じ仕組みを使っているかというと、そうとは限らない。ただ、どんな技術を使おうと、「誰が」「どの商品を選び」「購入したのか」を、認証・確認するシステムは、どのタイプでも必要になる。

 Amazon Goを利用するには、Amazon.comのアカウントと「Amazon Goアプリ」をインストールしておくことが必須だ。入店時にアカウントとひも付いたアプリでQRコードを表示し、入口のゲートでアプリを読み込ませることで、「誰が」入店したのかを確認する。店内では来店客の行動をカメラで追跡し、手に取った商品もカメラで撮影し、そのデータをAI(人工知能)で解析して商品を特定する。「どの商品を選んだか」については、カメラとAIで認識している。そして、店舗のゲートを通過して店外に出た時点で「購入した」と判断し、あとは通常のネットショッピングと同様の決済を自動実行する。

 Amazon Goに続くように、米国のZippinというスタートアップが、サンフランシスコにレジ無しコンビニをオープンした。Zippinの仕組みは、基本的にAmazon Goと同じ。専用アプリでQRコードを表示させて入店し、「誰が」入店したかを認証する。商品棚から商品を選び、専用ゲートを通過した時点で購入したと判断し、専用スマホアプリとひも付くクレジットカードなどで決済する。

アプリとカメラだけでJust Walk Out実現した「Standard Market」

 同じくサンフランシスコに、Standard Cognitionがオープンしたレジ無しコンビニ「Standard Market」も基本的なコンセプトはAmazon Goと同じだ。ただ、Amazon Goが、専用ゲートや赤外線センサーなど「大規模な装置」を備えているのに対し、Standard CognitionはカメラとAIだけで似た仕組みを実現している。このため、Amazon Goより構築コストを抑えられるといわれる。システム導入コストを抑えられることもあって、日本でもドラッグストアのPALTACがこのシステムを採用。薬王堂仙台泉館店のレジ無し店舗システムに採用している。

 Amazon Goが商品棚の重さを計測するセンサーなどを活用しているの対し、Standard Cognitionでは、店舗の天井に設置された約27台のカメラだけで買い物客と商品の動きを認識する。スマートフォンに「Standard Cognitionアプリ」をインストールしてから入店するが、入店時にQRコードなどを専用ゲートにかざす必要はない。アプリの「チェックイン」ボタンを押すと、店舗のカメラがアプリを認識し、ショッピングができるようになる。

 アプリとカメラで「誰が」「どの商品を選んだのか」を認識し、店外に出るときもゲートを通過することなく、そのまま退店できる。ずっとカメラで追いかけているので、店外に持ち出された品物をだけを購入したものとみなして、インストールしてある専用アプリとひも付くクレジットカードなどで精算する仕組みだ。

 また、サンフランシスコのスタートアップであるInokyoは、Just Walk Outのシステムでありながら、退店時にゲートを通過するときにもQRコードをかざす方法を採用している。

本人確認がアリペイやWeChat Payとひも付く中国のシステム

 中国のレジ無しコンビニやスーパーでも「Just Walk Out」を実現している。特徴的なのは、「誰が」入店したのかを認証する方式が、アリペイやWeChay Payとひも付いているケースが多いことだ。

 例えば、CloudPickが2018年10月31日に、上海の虹橋国際空港に開店したレジ無しコンビニLePickは、入店するときに、アリペイやWeChatのアプリを使ってQRコードをスマートフォンに表示させ、そのQRコードを店舗入口のゲートやカメラにかざして入店する。これにより個人を特定し、「どの商品を購入したのか」はカメラとAIで認識する。退店時にゲートを通過すると購入したと判断され、アリペイやWeChatで自動精算される仕組みだ。

 また、中国のレジ無しコンビニ「Jian24」では、初回入店時にアリペイやWeChat Payと顔認証による利用者登録をしておくと、次回入店からはQRコードをかざさなくても入店でき、買い物できるという、より進化した顧客体験を実現している。

 顔認証システムについては、京東集団がジャカルタにオープンした「JD.ID X-Mart」でも活用されている。基本的な仕組みはAmazon Goと同じで、専用のスマ-トフォンアプリにQRコードを表示させて、入場ゲートにかざして入店する。ただし、事前にアプリの本人の顔認証データを登録しておき、QRコードと、入店後にカメラで確認した顔認証データを照合する。QRコードと専用アプリ、顔認証でより正確に「誰が」を確認し、どの商品を選んだかはカメラとAIで確認する。ゲートを通過して店を出た時点で購入したと判断する。

 以下に、米国と中国の動きを中心に一覧表にまとめた。

国内各社は無人レジシステムで収集できるデータの活用に注力

 こうした海外での動きに対し、国内でのレジ無し店舗への取り組みは、単純に無人化や省人化を目指すのではなく、来店客が「より豊かな」顧客体験を味わえることを見据えているのが特徴的である。

 例えばセブン-イレブン・ジャパンがオープンしたAI技術を活用した「省人型店舗」は、来店客をNECの社員に限定した実験的な店舗。実験店ではあるが顔認証による入店や決済、属性に合わせたターゲット広告の表示、販売実績や天気などのデータを活用したAIによる最適な発注提案などの取り組みを実現している。

 JR東日本は、サインポストが開発したAI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」を使った無人決済店舗の実証実験を2017年に埼玉県の大宮駅で、2018年には東京都の赤羽駅で実施した。店舗の入り口でSuicaなどの交通系電子マネーをかざして入店し、客が選んだ商品をAIが認識し、客は商品を持ったまま決済ゾーンへ移動するとディスプレイに購入商品と合計額が表示され、交通系電子マネーで決済できる仕組みだ。

 この取り組みも交通系電子マネーを利用することで収集できる、その他の膨大な情報を含めてビッグデータ解析する。これにより、マーケティングへの活用など、新たな顧客体験価値の創出へと結びつけていきたい考えだ。

 ディスカウントストアやスーパーマーケットを運営するトライアルカンパニーは、夜間無人化を実現した新業態店舗「トライアル Quick」を福岡にオープン。「AI冷蔵ショーケース」を実装し、ショーケースに内蔵されたカメラの画像をディープラーニング技術で解析することで、来店客の行動や属性などをより細かく認識。そこから、POSデータでは得られない、「商品をいったん手に取ったが棚に戻した」といった「非購買データ」を収集できるようになる。こうして収集したデータをもとに、商品補充や広告表示の最適化などに役立てるという。

 ここまで、新しい顧客体験としてレジ無し店舗に焦点を当ててきたが、顧客体験はほかにもある。例えば日本では、レジ無し以上に、セルフレジが広がりを見せている。次回は、その動向をまとめることにする。


林 渉和子=タンクフル


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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