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Business 公開日: 2019.04.11

「スマホにATM」でプラットフォーマー目指す――立ち上がった銀行のスマホ決裁

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銀行など金融機関が、スマホ決裁の「真のプラットフォーマー」となるには、利用者が増えなくてはならない。どう利用者を増やしていくのか。

 スマホ決裁サービスのプラットフォーマーを目指す銀行など金融機関にとっては、利用者をいかに獲得していくかが鍵となる。そのためには、そのサービスを使える加盟店を増やさなくてはならない。銀行によるスマホ決裁サービスは、後発であるだけに利用できる加盟店が多いとは言いがたい。例えば、りそなグループのりそなウォレットを利用できるのは、りそなグループの発表によるとウエルシアやハックドラッグなど、小売サービスを中心とした約20事業者の店舗に限られる。

 J-Coin Payでもこの状況は変わらない。J-Coin Payでは2019年3月1日に、みずほ銀行の口座保有者を対象に先行サービスが始まったが、その時点ではまだ、J-Coin Payを利用できる加盟店は具体的に明らかになっていなかった。利用可能となる「予定」として示されたのは、ドラッグストアのウエルシア、100円ショップのダイソー、ビックカメラ、ヤマダ電機、ファミリーマートなどの小売、すかいらーくやロイヤルホスト、松屋などの外食、コスモ石油やJR東日本、東急、JapanTaxiなど20事業者以上が検討中とされた。

 こうした状況から、現時点では先行してスマホ決裁サービスを提供している楽天ペイやLINE Pay、PayPayなどのほうが、加盟店数では優位に立っているといえる。また、りそなグループやみずほFGとほぼ同じ時期の2019年2月に新規参入したメルカリの子会社メルペイが提供するスマホ決裁サービス「メルペイ」も、利用できる店舗は全国で135万カ所に達する。

 利用できる店舗が多ければ多いほど、「やっぱり便利で使やすい」と感じる利用者も増えてくる。そこをどう覆し、加盟店を増やし、利便性を高め、利用者を増やしていくのか。そこでも、銀行など金融機関が手にしている個人口座が最大の武器であり、その活用が大きな意味を持つことになる。

<見出し> 資金決済法による「上限100万円」の縛りがない
 J-Coin Payでは、利用者の利便性を高めるための施策として、個人間の電子マネーの送金を手数料無料でできるようにした。利用者は受け取った電子マネーを自身の口座で、手数料なしで現金化できる。参画する約60の銀行・金融機関のいずれかを使う個人同士であれば、送金手数料なしで送金できるようになるということである。

 例えば、みずほ銀行に口座を持つ利用者が協力金融機関である群馬銀行の利用者に電子マネーを送金し、その利用者が自身の口座に戻して現金化すれば、みずほ銀行口座から群馬銀行口座への送金はかからない。

 もちろん、自身の口座からJ-Coin Payにチャージする際にも手数料はかからない。例えば、関西圏の地方銀行に口座を持つ利用者が、ATMや支店のない北海道エリアでお金を引き出したいとき、通常であれば提携する銀行か金融機関の支店やATMを利用して、1回当たり100~200円(税別)の手数料を払ってお金を引き出すことになる。

 そんなとき、自身の口座からJ-Coin Payにチャージして、加盟店での支払いに利用すれば、ATMや支店を探す手間もかからない。みずほFGの専務執行役員 CDIOの山田大介氏は、「ATMを探して現金を引き出さなくても、口座からJ-Coin Payにチャージすれば加盟店で使える。『スマホにATMが入った』ようなサービス」と説明する。
 J-Coin Payでは、これら、個人間の送金が実質手数料無料でできること、ATMや支店を探さなくても24時間手数料無料で自身の口座からチャージして電子マネーとして使えることの利便性をアピールして利用者を増やしていく。利用者が増えていけば、それに歩調を合わせるように、加盟店も増えていくという好循環を期待しているのだ。

 それ以外にも、銀行が提供するサービスとしての利用者獲得の秘策はある。他のスマホ決済サービスでは銀行以外が運営しているために資金決済法により「取引額は1回100万円まで」と上限が設定されているが、銀行が提供することでこの上限がなくなる。法人個人間の給与の支払いや経費精算など、ビジネスへの活用が期待されているのだ。

 ただ、仮にATMが不要になるということは、銀行にとってはATMでの手数料収入が減少することにもなる。J-Coin Payでは、電子マネーへの口座からの入出金は手数料無料なので、サービスを提供する銀行側の収入は加盟店の手数料収入だけになる。

 銀行にとっては、マイナスに作用することもありながら、あえてJ-Coin Payを開始した理由について、みずほFGの坂井氏は、銀行として、急速に普及するQRコード決済サービスを中心としたキャッシュレス化への対応が遅れることの「危機感」を挙げた。

 こうした危機感は、スマホ決裁サービスに新規参入した銀行や金融機関の共通認識といえるだろう。

<見出し> 消費増税のポイント還元も「キャッシュレス競争」に拍車をかける
 政府は2017年6月にまとめた「未来投資戦略 2017」の中で、キャッシュレス決裁の比率を10年間で倍増させる方針を示している。2018年4月には、経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」を公表している。

 さらに、2019年10月からの消費増税に対して、クレジットカードなどのキャッシュレスで買い物をすると、最大で5%の「ポイント還元」が受けられる施策も打ち出されている。還元率は小売店で5%、チェーン店で2%と見込まれているが、いずれにしてもキャッシュレス決裁がさらに進展していく契機となるだろう。

 こうしたフォローの風が吹いている今だからこそ、各サービス事業者がプラットフォーマーとなるべく、利用者と加盟店の獲得競争を繰り広げている。銀行など金融機関のスマホ決裁サービスへの新規参入が本格化してきたことで、競争は加速しそうだ。


下玉利 尚明=タンクフル


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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