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Business 公開日: 2019.04.17

【欧米デジタル化事情】 Yコンビネーターのデモデイに見る最新のデジタル事情

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3月18~19日、全米で最強のアクセラレーターと呼ばれるYコンビネーターのデモデイが開催された。その様子をレポートする。

※上の写真は、YCデモデイの会場(筆者撮影)
 最初に、Yコンビネーターとは、AirBnB、Dropbox、Stripe、Twitch、Cruise、Coinbase、Doordash等を排出したアクセラレーターである。シード期のベンチャーに対して1社当たり約1600万円を出資し、成長戦略等、様々な事業立ち上げ支援を提供する。Yコンビネーターに入るのは狭き門となっており、合格率は3%台とも言われている。Yコンビネーターに選ばれたベンチャーはシリコンバレーに3カ月間移住し、プログラムの最後にデモデイが開催され、招待制の投資家に対して資金調達のピッチを行う。プログラム卒業後もYコンビネーターの4000人以上が属する卒業生のネットワークに入り、様々な情報交換、ビジネス・ディールが行われる。

 今回のデモデイは28回目となるが、過去最大の189社がプレゼンテーションを行った。エリアでは、B2Bソフトウエア/サービスが40%、ヘルスケアが14%、その他、航空宇宙、農業、自動車、ブロックチェーン、エネルギー/エンターテイメント、フィンテック、建設、教育等、幅広い。また、グローバル化も進んでおり、40%が米国外の起業家である。

 宇宙の分野では、Loonify Spaceが、バルーンを使って小型衛星を軌道に乗せるサービスを発表した。バルーンを使って地上35キロメートルまでロケットを運び、空中で発射する。既存の地上からの発射では、厚い空気層を高速で飛行するためコストとストレスがかかるが、同社はほぼ真空状態の環境でロケットを発射できる。

 成層圏飛行のバルーンとカスタム・デザインの超軽量のロケットを使用する。ロケットをゼロから開発するのでなく、現在市販されているハードウエアを使う。同社の強みは、商用のハードウエアのパフォーマンスを最大化し、発射の正確さを実現する分析ソフトウエアにある。これにより、試行錯誤を何回も繰り返すことができ、開発期間を短縮できた。既に155もの衛星発射の覚書を獲得している。既に開発段階を脱しており、最初の発射は5月を予定している。
Loonify Spaceのバルーンでの小型衛星発射 (同社ウエブサイトより)
 製造の分野では、テスラで自動製造を担当していた技術者がAIとカメラを使った、工場のアセンブリー・ラインのモニタリング・サービスを発表した。製造が自動化されると、工場内で機械は24時間動き続ける。機械の故障を事前に検知、問題のある機械を止めることで、大きな損傷に繋がるのを防ぐ。Overviewのスマート・カメラは自動で工場内の機械の通常のルーチンを学習し、故障などのルーチンからの異常な動作を検知する。工場に設置された動く機械の破損、シーケンスの異常、ミスアライメント等を製品や機械へ損傷を与える前に捉える。

 Overviewのシステムは、24時間、複数の機械をライブで監視可能で、問題が発見されればリアルタイムで警告を上げる。監視のためのオペレーターも最小限で済む。映像が残っているため、事後に故障原因分析も可能である。現在、ケーブル/ワイヤーの工場で導入されている。同社のサービス使用料は月額カメラ1個につき約1万8千円(ベーシック版)から4万5千円(詳細管理版)となっている。
Overview社(同社ウェブサイトより)
 ソフトウェアのQA(Quality Assurance:品質保証)テストを、人に変わってAIロボットが行うサービスも現れた。TEAM MOBOTは、シミュレーターのソフトでなく、実際のスマホを使い、AIロボットがアプリの動作をテストする。AIロボットはテスト中にも学習を重ね、正確さを増していく。コンピュータビジョンとロボティクスの技術を活用し、ロボットやシステムのライセンス売りでなく、オンデマンドのテストサービスを提供する。このため、アプリ開発者はロボット/ソフトウエアのセットアップ、メンテナンスの必要がない。iOS/アンドロイドのスマホアプリだけでなく、IoT、医療機器への展開も検討している。今時点では、アプリ内購入、アプリのバックグラウンド化、通話開始によるアプリの中断、その他ソフトウエアではQAしにくいテスト項目のテストに利用されている。
TEAM MOBOT(同社ウェブサイトより)
 小売りの分野では、既に店に設置されているセキュリティカメラを使い、ネットにつないでクラウド上のAIで人物を解析する英国拠点のベンチャーのAURA VISIONが登壇した。AURA VISIONは欧州にモバイルキャリア、家具の顧客を持ち、GDPR(EU一般データ保護規制:General Data Protection Regulation)にも対応している。すなわち、顔認識でなく、姿全体で年齢、性別、店員か顧客かを判別する。初期導入コストはゼロで、15分でサービスが利用可能となり、簡単に数百、数千の店舗に拡大できる。小売店は、顧客がどの製品の前でどのくらい時間を過ごしたか、店員が顧客との対応に十分時間を使ったか、売上との相関関係等を見ることができ、フロアプランの計画、キャンペーンの効果測定等に活用できる。
同社ウェブサイトより。
 フード関係ではEclipse Foods(https://www.eclipsefoodsco.com)が酪農製品を植物から作り出す革新的なプロセス技術を編み出した。現在、クリーム・チーズとアイスクリームを提供しており、同社の実験では70%の人が乳製品との区別がつかないという結果がでている。共同創業者のひとりはHampton Creek(卵を使わない植物から作ったマヨネーズを開発。現在社名はJust Inc)で製品開発のダイレクターを努め、ミシェラン・スターの16のレストランに務め、ザガットの30 under 30(30歳未満の代表30人)に選ばれ、様々なシェフの賞を受賞している。

 最後に実現すると世の中を変えるようなベンチャーをご紹介する。Prometheusは空気中から二酸化炭素を取り除き、ガソリンを低コストで作ることにチャレンジしている。実は二酸化炭素からガソリンを作ることは現在も可能だが、巨大な蒸留の塔が必要で、コストが見合わない。同社はカーボンナノチューブの膜を使い、小型の装置で、1ガロン(約3.8リットル)のガソリンを3ドルで作ることを目標にしている(Prometheusのウエブサイトにある動画はこちらから)。


川口 洋二=Delta Pacific Partners CEO


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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