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Business 公開日: 2022.09.29

回復なるか。観光業界を支えるDXの最新事例とは

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 新型コロナウイルス感染症拡大による影響は未だ続いている。しかしその一方で着実にその先も見えてきている。外国人観光客の受け入れが再開し、インバウンド需要も期待が大きい。旅行代理店大手JTBが2022年3月に発表した推計によると、2022年の国内旅行者は2億6000万人に上り、前年比で倍増するとも見込まれている。

【画像】Shutterstock

観光産業のいま

 観光需要の回復が見込まれる中、依然として旅行業界のDXは進んでいないことは大きな課題だ。DXが進んでいないことで取り逃している需要は大きく、今後回復・増加していく需要を取り込み、新たな需要を掘り起こすためにも、観光業界のDXは欠かせないだろう。本稿では、観光業界の現状や、DXで何が可能になるのか、注目の観光DXサービスなどを解説する。

 まず本項では、現在観光業界が置かれている現状や、観光業界全体が抱えている課題、それらに対する観光庁の動きなどについてまとめて紹介したい。

観光産業の現状

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 2020年以降、観光産業は大きな打撃を受けた。観光産業と一口にいっても、旅行業、旅館・ホテルなどの宿泊業だけでなく、飲食産業や交通産業、アミューズメント産業など、そのマイナス効果は多方面に及んでいる。

 国土交通白書2021によれば、2019年の同月に比べて2020年の宿泊予約状況が7割以上落ち込んだ事業者の割合は、2020年5月には89%にも及んだ。2020年の訪日外国人客数は約85%も落ち込み、国内旅行者人数も延べ約48%減少するなど、2020年は観光産業にとって最悪の年となった。

 東京商工リサーチによると、結果として、国内旅行業1110社の売上高合計は、2019年から2021年までで2兆464億4000万円も減少したという。感染症の影響はまだ続いてはいるが、今後の揺り戻しに期待が掛かるところである。

業界が抱える問題

 観光業界の課題は直近における打撃だけではない。もとより業界構造的な課題もある。最も大きいのは、少子高齢化・人口減少の問題だ。人口が減れば、当然ながら観光業界の国内需要は減る。

 さらに、温泉がある観光地への団体旅行客が減少し続ける中で、平成8年度から平成29年度までの20年間で全ての都道府県で旅館の施設数が減少した。団体旅行から個人旅行への流れの転換に対応できるか、これまでとは違う形のより個人に適したサービスを提供できるかが、観光業界の構造的な課題である。

 また、地球温暖化などの影響を受けて、年々被害が大きくなってきている自然災害などへの対応も課題だ。さらに、今後も“コロナ禍”のような感染症の流行が起きた際に対応できる環境を整備しておくことも必須となるだろう。

観光庁の動き

 上述した観光業界の課題に対して、行政も解決のために動いている。観光庁は“アフターコロナ”に向けて、「地域整備」、「観光コンテンツ」、「デジタル化・バリアフリー化」、「観光人材育成」、「インバウンド回復に向けた準備」の5つの観点から多面的な支援を実施している。

 観光立国の実現を目指し、そのために講ずべき施策として「国際競争力の高い魅力ある観光地域の形成」、「観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成」、「国際観光の振興」、「観光旅行の促進のための環境の整備」の4つを掲げている。

 つまり、これからの観光業界はインバウンド観光に重点がシフトしていくということだ。インバウンド観光において、DXが欠かせないことは言うまでもない。

観光DXとは?デジタル化で何が可能になるのか

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 観光DXにはどのようなものがあるのか、本項で9つの例を紹介する。

(1)情報提供

 これまでアナログで提供されてきた観光情報がデジタルで提供されるようになると、観光客の観光体験は進化するだろう。特に期待されているのは、インバウンド観光客に提供する情報体験の進化だ。翻訳情報などがリアルタイムで提供できるようになれば、訪日観光客の守備範囲も広がるだろう。また、観光名所の観光情報や見所を音声で案内してくれるようなサービスも出てきている。AIでおすすめ観光スポットをレコメンドするようなサービスもある。

(2)観光コンテンツ・体験

 観光コンテンツ・体験自体をデジタル化する流れもある。観光地の映像や画像などをYouTubeなどで配信するようなものから、VRなどで立体的な観光地のコンテンツを制作するものまで、デジタルコンテンツの可能性は多様だ。現地に実際に行けなくとも、旅行代理店などが観光地の紹介にもなるデジタルコンテンツを紹介することで、観光客増加にも寄与することだろう。

(3)移動・物流

 移動・物流におけるDXも欠かせない。現状、インバウンド観光で訪れる訪日観光客には不便なことも多いだろう。国内で暮らす中でも、バスや電車、タクシーなどが来なかったりクレジットカードやキャッシュレス決済を使えなかったりして不便に思ったことはないだろうか。今後、AIを使って需要予測ができれば、人が多い時間帯には配車を多くするなどして、より効率的な交通機関の運営が可能になる。そうすることで、顧客には高品質のサービスを提供し、交通機関側はより収益を増やせる。

(4)周遊促進

 ドイツの7街道や四国のお遍路のように、周遊観光を促進するためのDXも重要だ。例えば、地域のみで使える地域通貨のようなものをデジタル環境上に作って、周遊時に使えるようにすることができる。また、周遊に必要な歴史的・文化的情報を、アプリなどを使って訪日観光客に提供することも重要になる。YouTubeなどのデジタルメディアを使った継続的な情報提供によって、周遊観光情報を提供することも有効な施策だろう。

(5)リアルタイムデータ取得

 デジタルによってできるようになったことのひとつが、リアルタイムデータ取得による混雑状況の把握だ。特に、日本で多い伝統的な祭礼などの際には、混雑することが多い。そうした混雑状況をAIが把握し、アプリやWebサイトを通じて観光客に情報提供することができる。観光客がリアルタイムに混雑状況を把握できれば、効率的な観光が可能になるだろう。駐車場の混み具合などがリアルタイムで分かり、無用な交通渋滞も回避できるようになる。

(6)消費促進

 訪日観光客・国内観光客ともに、観光しながら消費してもらわねばならない。そのための施策としてデジタルツールを活用できる。例えばアプリのポイントなどを通じて消費を促進することもできるだろう。また、NFTなどのデジタル資産を配ることも消費促進につながる可能性がある。

 マーケティングの手段としてもデジタルは欠かせない。検索広告やSNS広告などの広告だけではなく、WebサイトやYouTubeなどを通じたコンテンツマーケティングも有効だ。

(7)決済

 決済分野のDXも急務だ。伝統的な観光地などでは、いまだにキャッシュレス決済が進んでいない場所も多い。訪日観光客のなかには、現金をほとんど持たず、キャッシュレス決済だけで済ませたい観光客も増えてきている。国内旅行者も同様だ。旅館やホテル、レストラン、地域の商店など、あらゆる事業者がキャッシュレス決済を連携して導入する必要があるだろう。

(8)分析基盤・可視化

 膨大にある観光のビッグデータを分析することで、新たなビジネスチャンスを見出せるかもしれない。アプリやWebサイトなどを通じて集めたデータをいかに生かしていくかを考えることも重要だ。

 これまでとは違う施策を打ち出すヒントが見つかる可能性は大いにある。交通機関やホテルなどの事業者単位だけではなく、観光産業一体となってデータを分析し、有益な情報が見出せるような環境構築が待たれる。

(9)顧客管理

 顧客管理のデジタル化も推し進めなければならない。デジタルの顧客管理ツールを有効活用することで、それぞれの顧客、特にリピーター顧客がどんな嗜好を持っているのかを把握し、それぞれの顧客に最適なきめ細かなサービスを提供できるようになる。まだまだ、地方の宿泊施設やサービス施設などでは、そうした顧客管理システムを導入していないところも多いだろう。

日本の観光のデジタル化状況

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 日本で観光DXが進んでいない原因は大きく3つに分けられるだろう。

 まずは、資金不足の問題がある。コロナ禍を経てどの事業者も資金力が弱ってしまった。「装置産業」とも呼ばれることがある旅館業やホテル業は、サービス運営のために多大な設備投資が必要になる。その上にデジタル投資までできるかとなると、アフターコロナではそれが期待できない部分も大きい。最初からデジタルを活用して小規模資金で運営する新しいタイプの観光事業者がこれから増えてくることを期待したい。

 人材不足の問題も深刻だ。日本のIT人材は、2030年には40〜80万人不足するという推計も発表されているほどである。プログラミングなどができるIT人材がいなければ、AIなどを盛り込んだ先進的なサービスの導入はできない。

 より広い意味でのデジタルリテラシー不足もある。プログラミングができなくとも、最新のデジタルツールやアプリを使いこなせる程度のリテラシーがあれば、DXの波に乗ることはできる。しかし全体として、日本の労働者のデジタルリテラシーはそうした状況に追いつくほどではなさそうだ。

観光DXの事例

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 ここからは、国内・海外の観光DXの最新事例を紹介する。

バーチャル観光:JR西日本VR GUIDE NAVI

 バーチャル観光の分野では、JR西日本が『VR GUIDE NAVI』というサービスを提供している。姫路城などの姫路市周辺の著名な観光施設や街中の風景などを、VRを通して眺めることができるサービスである。訪日外国人観光客を意識して作成されたサービスであるが、VRで風景を見せることによって観光客の観光意欲を促進できる。

地域限定通貨:さるぼぼコイン

 地域限定通貨のなかでも特に有名なのが、『さるぼぼコイン』だ。飛騨地域限定のデジタル地域通貨で、キャッシュレス決済やユーザー同士のコイン送金、チャージによるポイントゲットなどの機能が付与されている。アプリをダウンロードしてチャージすれば使えるもので、飛騨地域の約1800店舗がすでにさるぼぼコインに登録済みだ。

旅館経営管理システム:陣屋コネクト

 『陣屋コネクト』は、旅館経営者が自ら開発した旅館経営管理システムだ。予約、接客、調理場、設備管理、勤怠・会計管理、マーケティングなど、旅館業務のあらゆる場面をデジタル化できるツールである。予約情報を全スタッフが瞬時に共有できるだけでなく、顧客データと連携すれば、リピーター顧客にはよりきめ細やかなサービスを提供できる。

デジタルコンシェルジュ:Hotefy

 ホテル・旅館のDXをさらに推し進めることになりそうなサービスが、デジタルコンシェルジュの『Hotefy』だ。Hotefyはアプリを通じてチェックイン・チェックアウト、ホテルのフロントデスクとのチャット、ツアーなどのアクティビティの手配、タクシーの配車などができる。ホテルスタッフの負担を減らすことができる。

総合観光案内アプリ:一碼遊貴州

 中国西南部の貴州省では、『一碼遊貴州(イーマヨウグイジョウ)』と呼ばれる総合観光案内アプリを提供している。「ひとつのQRコードで貴州観光」という意味の通り、ホテル予約やお土産購入、道路交通情報・レストラン情報の提供など、観光客に必要なあらゆる機能を備えているアプリだ。WeChatというアプリのミニアプリになっていて、ダウンロードしやすいのもポイントである。

観光DXの更なる発展へ

 2022年になって、国内の観光業界においてもDXの足音を少しずつ耳にするようになった。例えば 3月25日、豊岡市では、豊岡観光DX推進協議会が設立されている。豊岡市全体の宿泊データを統計化し、市内周遊を促進することを狙いとしている。箱根町では街全体の混雑解消、周遊の促進を狙いとしてAIカメラを導入した。このような動きは今後少しずつ増えてくるだろう。

 日本のこれからの成長産業の柱とも目されている観光DX。今後の更なる発展に期待したい。

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