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公開日: 2021.11.11
メルセデス・ベンツの挑戦——シーメンスと連携し、デジタルエコシステムを実践
デジタライゼーションがビジネスの世界で浸透してきた今、自動車産業の現場では何が起きているのだろうか。例えば、ピュアEVから産業用特殊車両まで手掛け、グローバルにビジネスを展開するドイツのメルセデス・ベンツ。先ごろ、「デジタライゼーションの強化」を強くアピールした。

ピュアEVのラインナップ拡充を推進するメルセデス・ベンツの最新モデルが大型セダン「EQS」
興味深いのは、メルセデス・ベンツが、将来の生き残りのために、デジタライゼーションを推進する、としたこと。パートナーとして選んだのが、ドイツのシーメンス社で、両社は、ベルリン政府の後押しで、将来に向けての新しい生産方式を探るという。
メルセデス・ベンツでは、2021年7月22日付けで、ラインナップのピュア電動化をさらに推進する方針を明らかにしている。2025年までに三つのピュアEV用アーキテクチャーを発表。さらにラインナップ全てで電動車が選べるようにするとしている。
「EV化はかつてない速度で進んでいます。2020年代のうちに、もし市場が許せば、完全なピュア電動化、つまりラインナップをBEV(バッテリー駆動のピュアEV)化することも可能です」
メルセデス・ベンツAGと、持ち株会社のダイムラーAGのCEOを務めるオラ・ケレニウス氏はそう述べている。

メルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEO
2025年までに発表する三つのアーキテクチャーとは、「MB.EA(メルセデスベンツ車用エレクトリックアーキテクチャ−)」「AMG.EA(AMG車用エレクトリックアーキテクチャ−)」、そして商用車用「VAN.EA」だ。
メルセデス・ベンツでは、研究開発にこれまで以上に力を入れ、エンジンを搭載しない「ピュアEV」のために2022年から2030年にかけて、400億ユーロ(約5兆2000億円、2021年11月時点)を投資する予定だそうだ。
ベルリンでシーメンスとともに着手するのは、2021年3月に発表された「メルセデス・ベンツカーズオペレーションズ360(通称MO360)」。

自動車の生産を世界基準で統一管理するのが「MO360」の狙い
「MO360は、再利用可能なAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)、スケーラビリティーの高いクラウドソリューション、それになにより、FOSS(フリーソフトウエアやオープンソースソフトウエア)を使うことで、発展性も高いもの」
ダイムラーおよびメルセデス・ベンツのチーフインフォメーションオフィサーであるヤン・ブレヒト氏は、上記のように述べている。
ベルリン=マリエンフェルデ工場(マリエンフェルデ地区には観光名所のベルリン動物園などがある)は、実は、メルセデス・ベンツにとって、もっとも古いエンジン工場。

ベルリン=マリエンフェルデ工場で、メルセデス・ベンツが開発したデジタルエコシステム「MO360」が実践される
1902年に開設され、当初はモーターボートなど小型船舶用エンジンを手掛け、1905年からトラックなどの大型内燃機を生産するようになっている。
第二次世界大戦中は、メッサーシュミット戦闘機のためのエンジン組み立てなどを行っていたものの、おそらくベルリン空襲の際も被害は免れたようだ。今どれくらい設備が老朽化しているか不明であるが。
ベルリン市の雇用の問題もあるだろう。ベルリン=マリエンフェルデ工場の将来にわたっての存続を画策するメルセデス・ベンツ。ここを「Mercedes-Benz Digital Factory Campus」として、EV開発のハブにしていく計画なのだとか。

ベルリン=マリエンフェルデ工場で進む、メルセデス・ベンツ・デジタルファクトリーキャンパス構想
シーメンスも同様。ベルリン・シュパンダウ地区の「ジーメンスシュタット」は、1920年代にはじまったバウハウスの思潮につながるモダニズム建築で知られる。そこに、創業者の名をつけた「Werner-von-Siemens Centre for Industry and Science」を有している。
ベルリンを舞台に、新しい時代のクルマづくりに向けた提携は、スムーズに進むだろう、とメルセデス・ベンツはプレス向けの資料に記しているのだった。

ARシステム(写真はVRゴーグル装着の工場従業員)の導入で、生産管理がより厳密に行われるようになったという
上記「MO360」とは、メルセデス・ベンツが進めている、生産のエコシステム。30を数える世界中の生産工場を統合管理することで、より業務の「スリム化」が実施できるのがメリットに挙げられている。すでに南ドイツのジンデルフィンゲン工場では採用され、新型Sクラスなどは、MO360を適用して生産されているそうだ。
ベルリンでビジネスを展開するシーメンスは、電子部品の製造、生産設備の構築、それにシステムソリューションなどを手掛け、「今回のプロジェクトのためパートナーとして大変重要」と、メルセデス・ベンツではする。
次いで言えば、EVの拡販を目的とした場合、バッテリーや半導体といった主要パーツの供給体制が重要度を増してくる。フォルクスワーゲンやルノーなど欧州の多くのメーカーはバッテリーの自社生産計画をうたっている。
ルノーでは、日産などアライアンスを組んでいるメーカーとバッテリーの共用化を推進することでコストダウンを図ると発表。
メルセデス・ベンツも例外でない。九つの工場でバッテリーを生産する計画を発表していたところに加えて、200ギガワット分のバッテリーを追加生産する予定という。そしてバッテリーの規格を統一して、乗用車と商用車を含めて9割の製品で共用できるようにしていくそうだ。
Text/小川フミオ
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