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Business 2021.07.13

コーセーが挑む、美容領域でのデジタル活用 「顔の印象をデータ化する」感性評価AIの最先端とは

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 化粧品の製造・販売を展開し、デジタルへも積極的に投資するなど、美容業界で新しい挑戦を続けているコーセー。中でも「コーセー研究所」は、新しい価値を生み出す「種」を創るための複数の研究室から構成されている。今回インタビューするのは研究所所長と、『コーセー先端技術研究室』に所属する2名だ。

【画像】株式会社コーセー
 コーセー研究所(以下、研究所)では製品開発研究、皮膚や薬剤などの研究、品質保証研究に加え、データ解析分野における基礎・応用研究も担っている。デジタルを活用した新しい価値を生み出す中枢と言っていいだろう。研究所所長の小椋敦子氏、同・先端技術研究室(以下、先端研) 専任研究員伊藤理恵氏、同・黒沢正治氏に、人の顔の印象をデータ化する取り組み「感性評価AI」をテーマに話を聞いた。

感性などの潜在的な価値をデータ化する『先端技術研究室』

 デパートなどの化粧品売場で、化粧品の専門家が顧客にアドバイスしているシーンを一度は見たことがあるだろう。対話によるコミュニケーションを通じて顧客の求める、あるいは本人も気付いていないような魅力を引き出し、その人にとって最適な化粧品を提案する仕事だ。

 コーセーではこれまで、ビューティーコンサルタント(以下、BC)と呼ばれている美容の専門家が経験に基づき、熟練のカウンセリングスキルや職人技による暗黙知、感性で提案を行ってきた。感性評価AIはBCの感性による評価法を、AIを用いてデータ化・可視化し再現性を持たせる試みだ。これらの一連の開発を担った主メンバーが、先述した先端研の2人である。

 まずは、コーセーの中で先端研が担っている役割を研究所所長の小椋氏に説明してもらった。
【画像】コーセー研究所
小椋氏 研究所では、基礎研究や製品研究、市場分析などを行い、各取り組みが連携を深め、お客様の期待を超える商品を生み出すことをミッションとしています。その中の先端研ではデジタル技術を活用したアルゴリズムの開発により、これらの連携をより高速化、高度化することがミッションです。つまり、あらゆる研究所の業務に対してデジタル技術を導入・開発・活用する役割を担っているのです。

 さらに、お客様自身、あるいは私たちですら気付いていないような、いわゆる潜在的な価値をデータ化・可視化、あるいは言語化するための研究も行っています。

 まさに今回のメインテーマである、BCのスキルをAI化した「感性評価AI」技術がそれに当たる。当技術を応用し、今後はオンラインカウンセリングのサポートや、スマートフォンを用いた「セルフ診断」などに展開していく予定だという。

 ただしこの研究は、単にBCのカウンセリングをシステムへ置き換えることや、工数を簡略化することが目的ではないと強調する。あくまで、感性をデジタルで評価し可視化・言語化することで、BCによるカウンセリングの強化、標準化を進めるとともに顧客により高度なカウンセリングを提供したいと考えているそうだ。

感性のデータ化に寄与した「深層学習」

 もともとオンラインでの活用が想定されていたものの、研究が開始されたのは新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年頃だ。先端研の伊藤氏は、研究が始まったきっかけを振り返る。
【画像】コーセー研究所
伊藤氏 当研究所内に、現場でお客様への接客業務に携わってきた者がおりまして。そのメンバーとディスカッションをしている中で、「お化粧を施した際のお客様の印象について、年齢や若々しさだけではなく、もっとお客様を応援できるものにしたい」という話が出ました。その結果、お化粧をもっと続けたいと思ってもらえることが大事だよね、と。

 ディスカッションではさらに仮説を深めて、「マニュアル的な明文化こそされていないものの、本当は現場のお客様とのコミュニケーションの中でBCはさまざまな視点からお客様の個性や特徴を掴んで、お客様に向けた“応援する言葉”として発信しているのかもしれない」と考えました。だとしたら、BCから発信されている言葉の中で、最もお客様のモチベーションにつながっている言葉はなんだろう、と。

 そうした言葉がもしあるのならもっと言語化できないか、と深堀りするために当社のBC1000人へアンケートを実施。「応援」を象徴する言葉として「活き活き感」というキーワードに最後はたどり着きました。これが、この研究のスタート地点でした。

 研究ではさらに議論を深め、活き活き感を指標化・数値化すれば客観性と再現性が生まれて顧客に理解されやすくなると考えたそうだ。それができれば、顧客の求める「お化粧をしたときの顔の印象を良くしたい」という気持ちにもっと寄り添い、喜ばれる提案ができるのでは、とも。また、活き活き感を数値化できればオンライン展開もしやすくなる。

 そこでまずは、熟練BCが肌診断やカウンセリングを行う際に視覚で捉えていることを画像データで捉え直すことを考えたそうだ。その際に白羽の矢が立ったのが今回、感性評価AIの実務面を担当した黒沢氏だ。
【画像】コーセー研究所
黒沢氏 声をかけられて、具体的にプロジェクトが立ち上がったのは2019年の春頃でした。「明確に特徴を言語化できない」との課題感があったことで、脳の神経回路を模倣した深層学習(ディープラーニング)によるAI技術が上手くハマるのではないか、という仮説から始まったのです。より適切な深層学習の適用を行うため、電気通信大学 情報理工学研究科 庄野逸教授に協力を仰ぎ、共同研究がスタートしました。

データ化以外にも得られた収穫

 BCという職人の感性で行われていた感覚をどうやって評価付けするのか。人のパッと見の印象は、顔のカタチや肌の色、ツヤ感、肌質など、さまざまな要素が複雑に絡んでいるであろうことは素人考えでも想像がつく。いったいどのようにプロジェクトを進めていったのだろうか。

黒沢氏 ​研究を開始した段階では、活き活き感を明確に捉えるための顔の特徴がはっきりしていなかったために深層学習を用いたのですが、これが結果的に、活き活き感を評価するのにかなりハマりました。ちなみに、深層学習の技術そのものは一般的に使われている技術を流用しています。
【画像】コーセー研究所
 機械(AI)が正しく判断できるようにするためには適切なデータを準備し、分類可能な、精度の高い評価を付ける必要がありました。10代から70代までの日本人女性 377 名の顔画像(正面で真顔に統一)を独自に取得し、活き活き感の度合いを美容専門家が7段階で評価しました。ここは感性評価AIにとってかなり肝になっている部分です。次に、美容専門家の評価の値と顔画像を照らし合わせ、評価値を顔画像から予測する AIの構築を試みました。

 面白いのが、例えば同じレベル3の中に、素人目には全く違うレベルに思える印象の顔画像が入っていることです。しかし専門家は、潜在的な活き活き感も含めて、いわば暗黙知で分けている。そこから先は、細かく言語化や数値化はできなかったものの、深層学習技術の力で専門家の感覚と同じように7段階に振り分けられるようになりました。このことが今回の最大の収穫です。また、顔の中でも頬骨やほうれい線が活き活き感の評価を大きく左右していることが分かるなどの収穫もありました。
【画像】コーセー研究所
伊藤氏 レベル感の差は私を含め素人目には分からないんですが、レベル1にはレベル1の特徴が含まれている。レベル2にまでは至らないけど、2になる兆しはある。データ駆動的に分類してみたら、ちゃんと7段階で階層化され、分類されました。専門家の見ていた活き活き感は、複雑さの中にもルールがあったと分かったんです。研究を通じてそうしたことが見えたことも収穫の一つでした。

 一方、AIに学習させる際は一般的に、大量のデータが必要になる。その点でもAI技術を使っているのだという。

黒沢氏 「転移学習」と呼ばれる技術を使いました。一般的な理論では、十分なデータが揃っていないとAIでは十分な学習結果を得ることができません。転移学習では、「事前に学ばせてあげる工程」を間に挟みます。例えば、AIに人の顔を認識させる前に、さまざまな物体の画像を使って事前に学習させてあげるんです。

 すると、完全にまっさらな状態から人の顔画像をAIに学習させるよりも、少ないデータ量で効率的に学習ができる。つまり、ものの輪郭や色、カタチなどをある程度認識できるようになった状態にまで持っていった後に、顔画像を活き活き感指標で分類させるタスクを実行させるんです。この転移学習の技術で、今回は少ないデータからでも感性評価を行えるようになりました。

感性評価AIはヘルスケアにも応用できる

 プロジェクト開始から2年ほどが経ち、研究は第1段階を終え、感性評価AI研究は次のステージへ発展している。コーセーで展開される新しい技術の種を生み出すべく、研究は日々続いている。
【画像】コーセー研究所
黒沢氏 感性をデータ化する取り組みはまだまだ終わりません。今後はヘルスケアやウェルネス、メンタルヘルスなどを科学的に捉えて、お客様や現場のプロが「なんとなく感覚で捉えていたこと」を科学技術で表現していきたいと考えています。こうした研究は恐らくアカデミックの世界では難しく、企業内の研究所で、しかも化粧品を扱っている当社だからこそできる研究です。

 また、活き活き感などの感性指標の活用は、女性向け商品に限りません。「しみやシワをなくしたい」などのニーズに向けて、今後は性別関係なくさらに応用ができると考えています。

伊藤氏 感性評価AIを活用することで、お客様とBCが互いに活き活き感を理解し、活き活き感の評価値をきっかけにしたコミュニケーションがカウンセリングの現場で広まってほしいです。今回、一定の尺度で数値化できたことで、活き活き感はより認識がされやすくなったはずです。認識されれば使ってもらえます。活き活き感をもっともっと広めていきたいですね。

 デジタル活用を担う先端研が、コーセーの新しい道を切り開いていく。感性評価AIだけでなく、新しいサービスや価値の創造を今後も期待したい。

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