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公開日: 2023.06.09
最新数学を社会課題へ応用 東大発AIベンチャーが放つ常識破りのソリューションとは
最近では、AIと聞くとChatGPTやBardを頭に浮かべる方も多いのではないだろうか。世界的企業が続々参入しAIの市場が急速に立ち上がる中で、画像認識AIに最新の現代数学を応用し、一線を画す活躍を見せているのがアリスマー株式会社だ。

【画像】アリスマー株式会社
数百の東大発ベンチャーがある中で、数学分野から出てきた企業はアリスマーが唯一と言っても過言ではない。2022年日本クラウド協会「AIアワード」では、防災に活用できる『浸水AI』が準グランプリを、『風力AI』が先進ビジネスモデル賞を受賞。画像認識AIアルゴリズムに、最新の数学を活用して社会課題の解決に挑んでいる。
今回は、アリスマー代表取締役社長兼CEOで、数理科学博士の大田佳宏(おおた・よしひろ)氏に、数学からアプローチするAIの可能性について話を伺った。
今回は、アリスマー代表取締役社長兼CEOで、数理科学博士の大田佳宏(おおた・よしひろ)氏に、数学からアプローチするAIの可能性について話を伺った。
コナカの事例から読み解く、一流テイラーの技をAI化する手法
紳士服量販店を展開する株式会社コナカとアリスマーが共同で開発した、世界初となる完全パーソナライズドAIレコメンデーション『AI Coordinate レコメンドアプリ 』。3つのAIエンジンと、SNSや購買データ、「SUIT SELECT」スタッフが構築した約2億5千万通りのコーディネートパターンデータなどの「4つのビッグデータ」を駆使し、これまでは専門的な知識をもつ販売員にしか行えなかった採寸やコーディネートの提案をアプリ上で実現した。
AIを開発する企業が増えている中で、アリスマーが選ばれた理由は「精度の高さ」にあったと大田代表は振り返る。
大田氏「コナカ様は当初、さまざまなAI技術の可能性を検討されたようです。ここ数年は、シリコンバレーやイスラエルの企業といった海外の企業も含めてトライアルをおこなう大手企業が多くあります。その中で、アリスマーがもっとも精度が高かったとの理由で、お声がけをいただきました」
アプリ制作にあたっての最大の課題は「採寸」にあった。コナカのオーダーメイド服は専門職のテイラーが採寸を行っているが、技術力によってかなり差が出てしまう。トップテイラーともなれば有名人からご指名がかかるほどになる一方で、新人のうちは技術力が及ばず、測ることすらままならないという。ベテランのもつノウハウを習得するのは容易ではない。
大田氏「AIを活用して自動化ができればさまざまなソリューションにつながる、とのご相談をいただいたのが最初のきっかけでした」
使われている技術は画像認識AIに加えて、人の属性――年齢、性別、体重などから判断する属性データ、そして数学的なアプローチによる空間認識の技術だ。この3つを組み合わせて、採寸やレコメンド機能が自動化されている。
ただしアリスマーのAI技術に対して、コナカの持つ既存のデータを単純に読み込ませれば成立するという単純な話ではなかった。
大田氏「私たちのような技術系の企業が服の採寸に取り組むと、モデルの方の体格を再現しようとしてしまうんです。でも、コナカ様のトップテイラーの方に聞くと、体を採寸してもぴったりな服は作れないと言うんです。では何を測っているかというと、その人に合う服のサイズを想像しながら、そこに必要な箇所を採寸しているそうです」
テイラーが測る場所には百人百様な体の特徴を考慮したコツがあり、それを服のサイズとして落とし込んでいることが分かったという。当初アリスマーでは、大量の体格パターンを機械学習させようと考えていたが、テイラーの匠の技に合わせて次のようなアプローチを取った。
大田氏「その人自身の体を採寸して学習させるのではなく、実際にテイラーが測っている部分をAIに学習させました。その結果がとても良く、上手くいきましたね」
開発に要した期間は約1年。エンジニアが直接テイラーと話しながら、学習データを作っていった。どの数値を有効値として集めるか。このすり合わせを通じて初めて、AI技術は「使えるもの」に昇華される。
AIを開発する企業が増えている中で、アリスマーが選ばれた理由は「精度の高さ」にあったと大田代表は振り返る。
大田氏「コナカ様は当初、さまざまなAI技術の可能性を検討されたようです。ここ数年は、シリコンバレーやイスラエルの企業といった海外の企業も含めてトライアルをおこなう大手企業が多くあります。その中で、アリスマーがもっとも精度が高かったとの理由で、お声がけをいただきました」
アプリ制作にあたっての最大の課題は「採寸」にあった。コナカのオーダーメイド服は専門職のテイラーが採寸を行っているが、技術力によってかなり差が出てしまう。トップテイラーともなれば有名人からご指名がかかるほどになる一方で、新人のうちは技術力が及ばず、測ることすらままならないという。ベテランのもつノウハウを習得するのは容易ではない。
大田氏「AIを活用して自動化ができればさまざまなソリューションにつながる、とのご相談をいただいたのが最初のきっかけでした」
使われている技術は画像認識AIに加えて、人の属性――年齢、性別、体重などから判断する属性データ、そして数学的なアプローチによる空間認識の技術だ。この3つを組み合わせて、採寸やレコメンド機能が自動化されている。
ただしアリスマーのAI技術に対して、コナカの持つ既存のデータを単純に読み込ませれば成立するという単純な話ではなかった。
大田氏「私たちのような技術系の企業が服の採寸に取り組むと、モデルの方の体格を再現しようとしてしまうんです。でも、コナカ様のトップテイラーの方に聞くと、体を採寸してもぴったりな服は作れないと言うんです。では何を測っているかというと、その人に合う服のサイズを想像しながら、そこに必要な箇所を採寸しているそうです」
テイラーが測る場所には百人百様な体の特徴を考慮したコツがあり、それを服のサイズとして落とし込んでいることが分かったという。当初アリスマーでは、大量の体格パターンを機械学習させようと考えていたが、テイラーの匠の技に合わせて次のようなアプローチを取った。
大田氏「その人自身の体を採寸して学習させるのではなく、実際にテイラーが測っている部分をAIに学習させました。その結果がとても良く、上手くいきましたね」
開発に要した期間は約1年。エンジニアが直接テイラーと話しながら、学習データを作っていった。どの数値を有効値として集めるか。このすり合わせを通じて初めて、AI技術は「使えるもの」に昇華される。
最新数学の理論によって、天文学的な回数の計算をスマートに解決
アリスマ―の得意とする数学的アプローチは、ビジネス用途の画像認識AI技術に求められる高精度な解析においてどのように生かされているのだろうか。
大田氏「4000×2000ピクセルほどの解像度を持つ4K画質の映像なら800万画素を超え、8Kなら4倍の3000万画素以上になります。1つの画面上に3000万個の発光体が埋め込まれていて、その集合体で色や彩度などの画質を表現しているイメージです。
ところがここまで高精細だと、画面上にちょっとした変化が起きても、人間の視力で判別できる範囲を大きく超えています。その点AIは、人間がモニターを見ながらチェックしていた以上の極微細な変化を捉えることができるため、その時間変化、数学的に言えば「Δt(デルタティー)」の部分をAIに判断させ、工場や施設内での検査や、災害の予知・予測にも生かすことができるわけです。
大田氏「4000×2000ピクセルほどの解像度を持つ4K画質の映像なら800万画素を超え、8Kなら4倍の3000万画素以上になります。1つの画面上に3000万個の発光体が埋め込まれていて、その集合体で色や彩度などの画質を表現しているイメージです。
ところがここまで高精細だと、画面上にちょっとした変化が起きても、人間の視力で判別できる範囲を大きく超えています。その点AIは、人間がモニターを見ながらチェックしていた以上の極微細な変化を捉えることができるため、その時間変化、数学的に言えば「Δt(デルタティー)」の部分をAIに判断させ、工場や施設内での検査や、災害の予知・予測にも生かすことができるわけです。

【画像】アリスマー株式会社
ところが、画素数が増えれば増えるほど、解析すべきデータ量は膨大になります。そういった課題に対して、数学的なアプローチでどうやって計算を高速化できるか、リアルタイムに算出できるかに取り組んでいるのが、アリスマーです」
人間の目ではまったく判別できないことも、微細な変動値を捉えてAIに学習させることで災害の予知・予測にもつなげられるという。ところが問題は、計測範囲が膨大すぎる点にある。
大田氏「800万画素を1つひとつ、つまり800万回の計算をするなら現代のコンピュータでいくらでも可能です。ところが数学用語のコンビネーション、つまり組み合わせを選ぶとなると、指数関数的に増えていきます。
例えばたった30個の画素でも、そこから2つ、3つ、4つと選んでいく際の全ての組み合わせは2の30乗でなんと10億通り以上もあります。もし800万画素の点の組み合わせを、何も工夫せずにスーパーコンピュータで計算させたら1万年はかかるような計算になってしまう。そこで、数学的なアプローチによって余計な計算をそぎ落としていきましょう、というのが私たちの考えです」
映像の中には、観測しなくてもいい、無視してもいい組み合わせも含まれているが、考えなしにAIに任せると、全ての組み合わせ計算を実行してしまう。そこで計算の範囲を狭くしてピンポイントに結果を出すために、現代数学の幾何学を応用したアルゴリズムを採用するのだ。
人間の目ではまったく判別できないことも、微細な変動値を捉えてAIに学習させることで災害の予知・予測にもつなげられるという。ところが問題は、計測範囲が膨大すぎる点にある。
大田氏「800万画素を1つひとつ、つまり800万回の計算をするなら現代のコンピュータでいくらでも可能です。ところが数学用語のコンビネーション、つまり組み合わせを選ぶとなると、指数関数的に増えていきます。
例えばたった30個の画素でも、そこから2つ、3つ、4つと選んでいく際の全ての組み合わせは2の30乗でなんと10億通り以上もあります。もし800万画素の点の組み合わせを、何も工夫せずにスーパーコンピュータで計算させたら1万年はかかるような計算になってしまう。そこで、数学的なアプローチによって余計な計算をそぎ落としていきましょう、というのが私たちの考えです」
映像の中には、観測しなくてもいい、無視してもいい組み合わせも含まれているが、考えなしにAIに任せると、全ての組み合わせ計算を実行してしまう。そこで計算の範囲を狭くしてピンポイントに結果を出すために、現代数学の幾何学を応用したアルゴリズムを採用するのだ。
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