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Business 公開日: 2020.04.28

進む、製造業のRPA活用 先進10社の最新事例

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製造業におけるRPAは導入期から成長期を越え、いま「活用期」を迎えている。その最前線を走る10社の取り組みを紹介する。

 RPA(Robotics Process Automation)の導入・活用が、ここに来て急速に進んでいる。ミック経済研究所の市場調査によれば、RPAソリューションの市場規模は、2018年度に前年度比215.6%の395億5000万円に急成長。2019年度も同174.3%の689億5000万円に達し、2023年度には3120億円にまで拡大するという。2018年度から2023年度までの年平均成長率は51%と、しばらくはRPAの導入・活用の勢いが継続しそうだ。

 これまでは、金融機関などを中心に導入が進んできたRPAだが、近年では製造業での導入が本格化している。しかも、国内拠点だけではなく海外拠点への導入にいち早く取り組み、グローバルで工数削減などの効果を上げている企業や、定型業務の自動化だけではなく生産管理・在庫管理といった他のシステムとの連携で業務効率をさらに高めている企業も出てきた。

 こうした企業に共通することは、RPAの導入によって業務効率を高めたり、労働時間を短縮したりと具体的に「目に見える効果」を上げていることだ。

国内に先駆け、海外拠点からRPAを導入した企業

1. YKK株式会社

 RPAの活用に先進的な企業には、導入・活用の当初から海外拠点への展開を視野に入れている企業も少なくない。その中でもYKKは国内ではなく、海外拠点からRPA導入に取り組んだ。同社は2016年12月から、アジア地域の拠点にいち早くRPAを導入。納期短縮と営業業務の効率化を図り、主力のファスナーの受注業務などでも大幅な工数削減を実現した。その後、2017年5月から国内拠点にもRPAを導入し、業務効率化に着手。しかし、部門や事業所ごとに異なるRPAが使われていたことから、管理負荷も急増させてしまう。そこで、標準化に取り組み、全拠点に統一のRPA導入を検討した。

 さらに、運用フローや開発ルールなどのガバナンスルールを策定。2019年1月から全社への展開に取り組み、海外拠点でも国内と統一のガバナンスルールの適用を進めた。RPA導入の効果としては、2019年末までの試算で年間7900時間分の業務量削減を見込んでのスタートだった。

2. 株式会社リコー

 リコーもRPA導入当初から海外拠点への展開を視野に入れていた。同社は2018年春からRPA導入プロジェクトをスタートさせたが、グローバルの事業所や関連会社での展開を当初から検討。多言語対応など海外でも活用しやすい機能を備え、国内から海外へと業務が拡大した場合でも利用できる拡張性を備えたRPAを選定し、導入した。

 また、新規にRPA導入を予定している海外事業所などを対象に教育プログラムも実施。最短1週間程度での導入を可能とし、一気にグローバルでの導入を加速。その結果、2019年9月時点で国内外30拠点に展開した。国内拠点だけでも60業務以上、全体で約130業務にRPAを適用し、年間約1万9000時間分の業務量の削減に成功した。

受発注や在庫管理にRPAを活用する企業

 一方で、RPAが得意とする基幹システムへのデータ入力といった定型業務の自動化だけではなく、発注書や納品書、請求書などを電子データでやり取りするEDI(電子データ交換)システムや受発注管理システムなどとRPAを連携させることで、さらなる業務効率の向上効果を上げている企業もある。

3. マックス株式会社
 ホッチキスの最大手であるマックスは、メールでの受発注業務を自動化するためにRPAを活用し、メールEDIシステムを構築。それまでは、オペレーターがメールに添付された発注書などのデータを受発注管理システムに登録するといった手作業が必要だったが、基幹システムとメールでの受発注業務をRPAで連携させ、受注から発注までのプロセスや海外倉庫の入出庫、在庫管理などの業務を自動化。作業工数を最大90%削減し、従来8時間かかっていたデータ突合作業をわずか50分に短縮した。

4. モランボン株式会社
 焼き肉のタレで知られるモランボンも、ウェブ受注システムとRPAの連携で受注業務の完全自動化を目指した取り組みを進めている。同社ではウェブ受注システムで年間約150件を受信しているが、当面はそのうち100件の受注データのダウンロード自動化を目指す。2019年9月の時点で16件の自動化に成功し、現在は毎月2件程度のペースで処理できる件数を増やすことを目指して自動化に取り組んでいる。

5. マルコメ株式会社
 多くの取引先企業を抱える中、各取引先からPOSデータを集計する業務の自動化に取り組んだのがマルコメだ。これまでは、約50の取引先ごとにPOSデータのダウンロードサイトにアクセスし、各種条件を入力・設定してデータを取得していた。RPAによる自動化で、1社につき約20分かかっていた作業時間を約5分に短縮。業務にかかる時間を約70%も削減した。

RPAによる定型業務の削減で、「労働の質の向上」を目指す企業

 定型業務の効率化にRPAを活用する企業においては、単純に業務効率の向上や労働時間の短縮だけではなく、「労働の質の向上」を目指した取り組みが進められている。

6. キリンビール株式会社

 キリンビールは、国内の9工場でRPAの本格導入を開始。例えば、購買業務で注文から見積もり依頼、承認までを自動化したほか、残業集計を分析してグラフ化する労務管理業務もRPAに対応させた。2020年第3四半期までに9工場への導入を完了させ、年間1万時間の労働時間削減を目指している。この背景には、2021年に9万時間の労働時間削減という目標をキリングループ全体で掲げ、働き方改革への対応と労働の質の向上に本腰を入れて取り組んでいることがある。

7. JFEスチール株式会社

 同様に、定型的な作業の量を減らし、より付加価値の高い業務に従事できる体制を整えることを目指しRPAを導入・活用しているのが、JFEスチールだ。同社ではRPAを導入したことで、定型作業に費やしていた約2400時間を600時間に短縮。削減された時間を他の創造的な業務に使うなど、労働の質の向上に結び付けたとしている。

8. 帝人株式会社

 帝人では、RPAによる業務効率化と併せて「作業品質」を向上させた。同社では、取引先コードの改廃を申請する業務において作業品質にばらつきがあったが、RPA導入により品質が向上。毎月60時間をかけていた改廃作業を80%削減し、12時間に短縮した。ミスをしてはならないというストレスからも解放され、結果的に労働の質が高まったという。同社では毎年100業務のRPA化を進め、2021年度には300の業務で導入を計画。約10万時間分の業務をロボットが対応する体制を確立するとしている。

9. 横河電機株式会社

 RPAの活用で定型業務を効率化し、余力となった人材をより生産性の高い業務に配置する取り組みを検討しているのが、計測・制御機器メーカー国内最大手の横河電機だ。同社は、中期経営計画の重点項目として「高効率グローバル企業への変革」を掲げ、その具体的施策としてRPAの導入を決定。複雑な業務手順が求められ、時間のかかる業務をRPAで自動化し、作業時間を約80%削減。RPA導入に当たって作業プロセスを可視化したことで、無駄な手順を省き、業務品質の向上にも効果があったという。

社員自らロボットを開発し、業務プロセスを改革した企業

 RPAの導入・活用では、自社の業務フローにあったロボットをいかに開発するかも重要なポイントとなる。

10. 参天製薬株式会社

 参天製薬では、2017年頃のRPA導入・活用に取り組んだ当初から社員自らがロボットを開発するという基本方針を打ち出していた。この基本方針の下、ロボット開発者育成に向けた実践的トレーニングを実施。2019年4月頃から開発スキルを習得した社員が、各部門で行っている定型的な業務を対象にロボット開発に着手。社員が開発したロボットが、2019年6月から順次稼働している。また、ロボットを設計する過程で、ブラックボックス化していた業務の作業手順を可視化でき、業務プロセス改革の方向性が明確になったという。

活用期に突入したRPAの未来

 製造業におけるRPAの活用において、各社では具体的な効果だけでなく、労働の質の向上や業務プロセスの明確化など派生的な効果も出始めている。今後も継続的かつ高い成長が期待されるRPAは、導入期、そして成長期を経て、活用期に入ったと言えるだろう。今後は、BI(Business Intelligence)やAIなどとの連携によって、迅速な経営判断を支援する重要なシステムとしての活用がさらに進むことが予想される。

林 渉和子=タンクフル

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