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Business 公開日: 2019.04.16

データサイエンティストを社内で育成、東京海上グループが仕掛ける“デジタルの本気”

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30年先を見据えて挑む東京海上グループのデジタル変革。その狙いとデジタル変革を支えていく人材育成について聞いた。

 1879年(明治12年)、かの渋沢栄一らが興した東京海上保険会社をルーツとする東京海上グループ。今年で創業140周年となる日本初の保険会社が、いま全力でデジタル変革に挑んでいる。

 そこには、長寿企業が30年先も時代に適応しながら生き抜いていこうとする覚悟がある。同社は、これからを担うデジタル人材をどう育てようと考えているのか。東京海上ホールディングス 事業戦略部部長 兼 デジタル戦略室長の住 隆幸氏に聞いた。

テクノロジーで保険にまつわるストレスを減らしたい

デジタルを活用した商品開発の背景には、どんな動機があるのでしょうか。

住 近代的な保険は17世紀に英国のロイズで誕生して以来、基本的な形態がまったく変わっていない非常に珍しい金融商品です。変わったのは対象とするリスク。貨物保険に始まり、火災保険、自動車保険、航空保険、原子力保険、いまはサイバー保険の時代です。

 我々はリスクの変化に合わせて商品を開発してきたわけですが、これだけテクノロジーの進化のスピードが速いと、この先20年、30年で17世紀以来守ってきた形、保険の役割が変わってしまうかもしれないとの危機感があります。そこで対応を急がねばならないなと。

具体的にはどのように対応していこうと考えていますか。

住 まずは、いまの保険をどのように進化させるか。新しく生まれてくるリスクへの対応は最も重要です。5年後、10年後には自動運転保険が普通のものになるかもしれません。とはいえこれは、いままでの商品開発の延長線上にあるもので、新たに生まれてくるかもしれないリスクについても考えていく必要があります。

 もう一つ、お客様を保険のストレスから解放することが課題としてあります。本来、保険はお客様にとっては“マイナス”の保障であって、喜んで買う商品ではありません。選ぶことも加入することもストレスだし、保険金の請求は最も負荷が高いストレスです。事故に遭って、自分の事故を解決しなくてはならないのですから。

 ただ、今の時代、ストレスを減らすためにテクノロジーを活用できるはずです。海外のインシュアテック(保険分野のフィンテック)企業と提携して、保険金の支払い期間を短縮したり、加入手続きを簡略化したりすることに注力しているのは、いかにしてお客様のストレスを軽減するかを考えた結果です。

 さらにストレスを減らすことで、「面倒くさいから加入しない」「よくわからないから加入しない」といったことで保険に加入していない、潜在顧客をすくい上げることができます。事故に遭ってから、保険に加入しておけばよかったと後悔される方々はたくさんいるはずです。そうした方たちにテクノロジーの力を使って、できるだけシンプルに保険を理解していただくことは、今後の保険ビジネスにとって欠かせない姿勢だと考えています。

求めるデータサイエンティストは“AIを作れる人”

先日リリースを発表していましたが、自社でAI・機械学習の専門人材を育成するそうですね。

住 デジタル戦略を担うデータサイエンティストを育成するために「Data Science Hill Climb」を立ち上げました。AIの第一人者でもある東京大学の松尾豊特任准教授に監修・設計してもらったプログラムで、2019年度から本格稼働しています。

 もちろん、デジタル戦略を加速させるために外部の即戦力採用は進めています。ただ、並行して社内人材の育成が不可欠です。なぜならデータサイエンスの知識とともに、保険法の知識も重要だから。外部採用者は優秀なデータサイエンティストではありますが、保険の知識を身に着けるには時間がかかります。まずは金融工学やアクチュアリー(保険数理士)など、数理スペックが高く親和性の高い人間を戦力として育てていくことが狙いです。

社内の反応はどうでしょうか。

住 これがまたすごいんです。プレスリリース(2019年2月)を出す前、社内の人事部が作成している次年度の研修プログラムという社内レターに小さく掲載されたんですが、すぐに「Data Science Hill Climbって何ですか?」「誰が受講できるんですか?」といった問い合わせが全国各地から入ってきて。このことからも、非常に期待が持てます。

東京海上グループが求めるデータサイエンティスト像とは?

住 データサイエンティストはデータを分析してアルゴリズムを作り、売り上げをアップするのが仕事――ネット系の会社だとそれで間違いはないでしょう。しかし、我々が求めるデータサイエンティストは“(保険ビジネスに役立つ)AIを作れる人”なんです。アルゴリズムを実際の業務プロセスの中に入れて、人がやっていた仕事を代替させるAIを開発してほしい。それでAI代理店などが現実化したら望ましいですね。まずコアになる人材を外部から採用し、その人材を核として内部人材を育て、いずれは新卒採用といった流れを考えています。

なるほど。しかし、社員全員がデータサイエンティストを目指すわけではありません。全社的にデジタル戦略を推進するにあたってリテラシーを高める施策は行っているのでしょうか。

住 はい。主に文系の社員向けに、データリテラシーを高めるためにAIや機械学習の基礎的な研修講座を開催しています。90分を3コマほどですが、これだけでもだいぶ違います。ボトムからリテラシーを上げていくこともデジタル戦略に含めているのです。

データ分析に強い米Orbital Insightや、インシュアテックで有名な米Metromile、独Simplesuranceなど、創造力豊かなスタートアップと提携しています。これらは独自のルートで見つけてくるのですか。

住 我々は東京、シンガポール、シリコンバレーにラボを設置しています。このラボのメンバーたちが見つけてくるんです。とくに強いのはシリコンバレー。いま6人のメンバーを送り込んでいて、スタートアップのスカウティングやネットワーキングを手がけています。それぞれヘルスケア、自動運転、インシュアテック、フィンテックなどの専門分野があり、日系大企業とのコラボレーションも実施しています。それぞれの分野で、これでもかというぐらいの候補がありますね。

 ちなみに赴任しているメンバーでITバックグラウンドの人間は1人もいません。全員がビジネスバックグラウンドで、どちらかというと営業寄り。物怖じせずにグイグイ入っていく人間を選んでいます。彼らが現地のベンチャーキャピタルと定期的にミーティングしながら紹介してもらって、さらに紹介してもらった先からまた紹介してもらったり。やはり人からの紹介が一番確実です。


小口 正貴=スプール
(写真:黒田菜月)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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