Business
公開日: 2020.03.25
製造業の2020を占う、5つのキーテクノロジー
2020年、国内の製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)がさらに加速する。
ドイツ主導で展開されている「Industry 4.0」、米国で進展する「インダストリーインターネット」、そして「デジタルものづくり大国」を目指す中国では「中国製造2025」の取り組みが着々と進められている。日本でも経済産業省が「Connected Industries」を提唱。人とシステムが協働する新しいデジタル社会の実現に向けた取り組みが進められている。
今後、国内の製造業ではDXがどのように進展していくのか。鍵を握るは、5つのテクノロジーだ。
今後、国内の製造業ではDXがどのように進展していくのか。鍵を握るは、5つのテクノロジーだ。
デジタルツインやローカル5G。製造業のDXを加速するテクノロジー
1.「デジタルツイン」
「デジタルの双子」という意味で、IoTやセンサー技術を活用してフィジカル空間(現実の物理的な世界)の情報を収集し、リアルタイムでサイバー空間(仮想世界)に送って、サイバー空間上にフィジカル空間と全く同じ仮想モデルを構築するという概念だ。
そのメリットはさまざま。例えば新製品開発・製造に応用すれば、現実の世界ではモノを作らず、サイバー空間で設計・製造し、どんな製造ラインがあれば効率的に量産できるかまでをシミュレーションできる。また、実在の製造ラインに不具合が発生した場合、サイバー空間に構築した製造ラインを解析することで原因究明と対策が打てる。さらに、今後、起きそうな故障を予測することも可能になる。
こうしたデジタルツインの技術を、設計中の製品に適用した事例がある。ドイツのスタートアップ企業「e.Go Mobile」は、4人乗り電気自動車の開発にデジタルツインを活用した。IoTで収集した製品のデータをサイバー空間上の製品に適用し、問題を抽出して対策を検討。サイバー空間上で試行錯誤することで試作にかかるコストを抑え、18カ月で電気自動車の開発を実現した。また、海外の工業製品メーカーでは、エレベーターを実際に設置する建物を測量して、サイバー空間に再現した仮想の建物を基にエレベーターの設計を行い、施工期間の60%短縮に成功した事例もある。
「デジタルの双子」という意味で、IoTやセンサー技術を活用してフィジカル空間(現実の物理的な世界)の情報を収集し、リアルタイムでサイバー空間(仮想世界)に送って、サイバー空間上にフィジカル空間と全く同じ仮想モデルを構築するという概念だ。
そのメリットはさまざま。例えば新製品開発・製造に応用すれば、現実の世界ではモノを作らず、サイバー空間で設計・製造し、どんな製造ラインがあれば効率的に量産できるかまでをシミュレーションできる。また、実在の製造ラインに不具合が発生した場合、サイバー空間に構築した製造ラインを解析することで原因究明と対策が打てる。さらに、今後、起きそうな故障を予測することも可能になる。
こうしたデジタルツインの技術を、設計中の製品に適用した事例がある。ドイツのスタートアップ企業「e.Go Mobile」は、4人乗り電気自動車の開発にデジタルツインを活用した。IoTで収集した製品のデータをサイバー空間上の製品に適用し、問題を抽出して対策を検討。サイバー空間上で試行錯誤することで試作にかかるコストを抑え、18カ月で電気自動車の開発を実現した。また、海外の工業製品メーカーでは、エレベーターを実際に設置する建物を測量して、サイバー空間に再現した仮想の建物を基にエレベーターの設計を行い、施工期間の60%短縮に成功した事例もある。
ドイツのハノーファーで開催されたイベントにてロボットによる自動車製造のシミュレーションの様子 写真提供:Alexander Tolstykh / Shutterstock.com
2.「ローカル5G」
日本でも、2020年から5G(第5世代移動通信システム)の商用サービスが始まる。高速、大容量、低遅延、多接続とそのメリットは多い。この5G環境を、自治体や企業が主体となって、施設や工場や生産現場、医療現場、プラントなど特定エリアに独自に構築し、活用するのがローカル5Gだ。
総務省はローカル5Gのメリットとして、地域や企業などの個別のニーズに応じて柔軟に5Gシステムを構築できることを挙げている。その中でも工場や生産ラインなど、ものづくりの現場における活用に大きな期待がかかっている。工場をオートメーション化したい場合においてデバイスをネットワークに接続するために、従来はWi-Fiなどを使っていたが、それを安定かつ高速な5G通信で構築できるようになる。
例えば、工場設備の稼働状況を遠隔監視する場合に高精細な映像を高速、低遅延で送るには、5Gの通信環境が必須となる。また、各種製造設備にセンサーを取り付け、データを収集して、AIによる異常検知に活用するといったスマート工場の実現にも、その技術基盤としてローカル5Gが不可欠となるだろう。
日本でも、2020年から5G(第5世代移動通信システム)の商用サービスが始まる。高速、大容量、低遅延、多接続とそのメリットは多い。この5G環境を、自治体や企業が主体となって、施設や工場や生産現場、医療現場、プラントなど特定エリアに独自に構築し、活用するのがローカル5Gだ。
総務省はローカル5Gのメリットとして、地域や企業などの個別のニーズに応じて柔軟に5Gシステムを構築できることを挙げている。その中でも工場や生産ラインなど、ものづくりの現場における活用に大きな期待がかかっている。工場をオートメーション化したい場合においてデバイスをネットワークに接続するために、従来はWi-Fiなどを使っていたが、それを安定かつ高速な5G通信で構築できるようになる。
例えば、工場設備の稼働状況を遠隔監視する場合に高精細な映像を高速、低遅延で送るには、5Gの通信環境が必須となる。また、各種製造設備にセンサーを取り付け、データを収集して、AIによる異常検知に活用するといったスマート工場の実現にも、その技術基盤としてローカル5Gが不可欠となるだろう。
製造設備のメンテナンスにもDXの波が
3.「IIoT(インダストリアルIoT)」
産業用に特化したIoTのことで、産業用の機械や装置にセンサーモジュールを搭載し、インターネットを介して収集したデータを解析することで、生産効率の向上や安全性の向上を実現する技術のことだ。
稼働機器から送られたデータを解析することで、機器の不調や故障を事前に察知して故障する前にメンテナンスする予防保全やサプライチェーンにおけるボトルネックの洗い出し、サプライチェーンの最適化によるコスト削減など、さまざまなメリットがある。
IIoTを活用する企業は増えている。例えば、ヤマハ発動機では、産業用ロボットなどの各設備にセンサーを搭載し、収集したデータを活用して業務効率化を実現している。さらに、製造したバイクにモジュールを取り付け、状態の管理や顧客の利用状況などの情報を現場にフィードバックする運用を検討している。
4.MES(Manufacturing Execution System)
製造工程の管理や作業者への指示などを行う製造実行システム。工場の設備や原材料の数量などをリアルタイムに把握し、生産計画に基づいて作業のスケジュールを組み立てたり作業者へ指示を出したりできる。製造業では、人、設備、時間といった生産資源を効率的に活用し、生産性を向上することが重要になるが、MESを活用すれば限られた資源から、ばらつきのない製品を効率よく製造することを目的に製造現場の情報管理ができるようになる。
生産管理システムと似ているが、生産管理システムは製造プロセスの全体像を管理しているのに対して、MESは工程管理や製造管理など、製造現場で実行されている作業情報の管理に特化している。すでに国内でも導入が進んでおり、航空機メーカーではMESを活用し、生産設備の故障や作業の遅れなどをシステム上でリアルタイムに表示することで、トラブルの早期発見や復旧に向けた迅速な対応を実現した。
また、自動車メーカーでは、MESを各拠点における作業の見える化を目的に導入。物流現場に設置された個別のシステムからパーツの流通状況を自動収集し、計画と進捗の差異を分析できるようにした。
5.xR(AR/VR)
AR(拡張現実)やVR(仮想現実)の技術は、すでにさまざまな目的で製造業に取り入れられている。例えば、VRを使った技術訓練により、熟練技術者の技術継承など作業員の標準化を図ることができる。本田技研工業では、車両検査部門でのトレーニングにVRを活用。VRヘッドセットを使い、車体の下側にあるピットでの作業を仮想空間に再現することで、現実に近い状態での作業トレーニングを実車を用いないで可能にしている。
富士通の沼津工場では、設備の保守メンテナンス業務にARを活用した点検ソリューションを導入している。紙ベースだったマニュアルを、ARを用いた作業ナビゲーションに切り替え、作業内容を音声と映像で指示することで、誰でもミスなく作業が行えて、点検情報を共有することができるようにした。
また、試作品をVR空間でシミュレーションすることで、実物を使わずにより実体験に違い感覚でシミュレーションや設計を行うことができるようにもなる。小松製作所は、建設機械の設計にVRを導入。仮想空間で開発中の建設機械を操縦し、操作性や安全性を確認して、実際の開発や設計に反映させる。これにより開発効率が向上し、開発期間が短縮されたという。
産業用に特化したIoTのことで、産業用の機械や装置にセンサーモジュールを搭載し、インターネットを介して収集したデータを解析することで、生産効率の向上や安全性の向上を実現する技術のことだ。
稼働機器から送られたデータを解析することで、機器の不調や故障を事前に察知して故障する前にメンテナンスする予防保全やサプライチェーンにおけるボトルネックの洗い出し、サプライチェーンの最適化によるコスト削減など、さまざまなメリットがある。
IIoTを活用する企業は増えている。例えば、ヤマハ発動機では、産業用ロボットなどの各設備にセンサーを搭載し、収集したデータを活用して業務効率化を実現している。さらに、製造したバイクにモジュールを取り付け、状態の管理や顧客の利用状況などの情報を現場にフィードバックする運用を検討している。
4.MES(Manufacturing Execution System)
製造工程の管理や作業者への指示などを行う製造実行システム。工場の設備や原材料の数量などをリアルタイムに把握し、生産計画に基づいて作業のスケジュールを組み立てたり作業者へ指示を出したりできる。製造業では、人、設備、時間といった生産資源を効率的に活用し、生産性を向上することが重要になるが、MESを活用すれば限られた資源から、ばらつきのない製品を効率よく製造することを目的に製造現場の情報管理ができるようになる。
生産管理システムと似ているが、生産管理システムは製造プロセスの全体像を管理しているのに対して、MESは工程管理や製造管理など、製造現場で実行されている作業情報の管理に特化している。すでに国内でも導入が進んでおり、航空機メーカーではMESを活用し、生産設備の故障や作業の遅れなどをシステム上でリアルタイムに表示することで、トラブルの早期発見や復旧に向けた迅速な対応を実現した。
また、自動車メーカーでは、MESを各拠点における作業の見える化を目的に導入。物流現場に設置された個別のシステムからパーツの流通状況を自動収集し、計画と進捗の差異を分析できるようにした。
5.xR(AR/VR)
AR(拡張現実)やVR(仮想現実)の技術は、すでにさまざまな目的で製造業に取り入れられている。例えば、VRを使った技術訓練により、熟練技術者の技術継承など作業員の標準化を図ることができる。本田技研工業では、車両検査部門でのトレーニングにVRを活用。VRヘッドセットを使い、車体の下側にあるピットでの作業を仮想空間に再現することで、現実に近い状態での作業トレーニングを実車を用いないで可能にしている。
富士通の沼津工場では、設備の保守メンテナンス業務にARを活用した点検ソリューションを導入している。紙ベースだったマニュアルを、ARを用いた作業ナビゲーションに切り替え、作業内容を音声と映像で指示することで、誰でもミスなく作業が行えて、点検情報を共有することができるようにした。
また、試作品をVR空間でシミュレーションすることで、実物を使わずにより実体験に違い感覚でシミュレーションや設計を行うことができるようにもなる。小松製作所は、建設機械の設計にVRを導入。仮想空間で開発中の建設機械を操縦し、操作性や安全性を確認して、実際の開発や設計に反映させる。これにより開発効率が向上し、開発期間が短縮されたという。
製造設備のメンテナンスにもDXの波が来ている
ここまで紹介した5つの技術の根幹を支えるのは、IoTとデジタル化だ。しかし、今後はディープラーニングなどAI関連のテクノロジーを活用して工場を省力化し、生産性と品質を向上させるスマートファクトリー化がますます進んでいくことが予想される。特に日本の製造業は、人材不足と高齢化という深刻な問題を抱えている。2019年に経済産業省が公開した「ものづくり白書」によれば、94.8%の企業が人材確保に何らかの課題があると回答している。
こうした人材不足に対応するためにも、スマートファクトリー化は不可欠。ロボットを使って作業を自動化して人手の領域を低減したり、各工程からのデータを一元的に集約して管理したりすることで、工場の全体最適化を図って余剰人員を出すことも可能だ。また、熟練技術者が持っているノウハウをデータとして共有することで、次世代の人材育成にもつながる。
同様に、ICT技術を活用したスマートメンテナンスにも注目が集まっている。ドローンが撮影した画像やセンサーデータなどを基に点検対象を3D化し、仮想空間上で点検業務が行えるソリューションも提供されている。また、JR東日本では、係員が行う架線設備の検査について省力化と品質向上を図るために、カメラで撮影された電線や架線部品をAIを用いて自動判定するモニタリングシステムを開発した。
これまでは人の手や経験に頼っていた工程を、IoTで収集したデータやAIによって自律的に行う。こうした「新しいものづくりのかたち」への変革が、2020年以降はさらに進んでいくだろう。
林 渉和子=タンクフル
こうした人材不足に対応するためにも、スマートファクトリー化は不可欠。ロボットを使って作業を自動化して人手の領域を低減したり、各工程からのデータを一元的に集約して管理したりすることで、工場の全体最適化を図って余剰人員を出すことも可能だ。また、熟練技術者が持っているノウハウをデータとして共有することで、次世代の人材育成にもつながる。
同様に、ICT技術を活用したスマートメンテナンスにも注目が集まっている。ドローンが撮影した画像やセンサーデータなどを基に点検対象を3D化し、仮想空間上で点検業務が行えるソリューションも提供されている。また、JR東日本では、係員が行う架線設備の検査について省力化と品質向上を図るために、カメラで撮影された電線や架線部品をAIを用いて自動判定するモニタリングシステムを開発した。
これまでは人の手や経験に頼っていた工程を、IoTで収集したデータやAIによって自律的に行う。こうした「新しいものづくりのかたち」への変革が、2020年以降はさらに進んでいくだろう。
林 渉和子=タンクフル
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