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Ideas 公開日: 2020.05.15

コロナ対策として注目される、欧米各国のリモートワーク事情

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新型コロナウイルス感染症の拡大により、日本国内で導入が進むリモートワーク(在宅勤務、テレワーク)。欧米のリモートワーク先進国をはじめとした、各国のリモートワーク事情を紹介する。

1960年代からリモートワークに取り組む北欧

 2020年4月に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が出され、日本中の多くの企業が在宅勤務による出社抑制を求められた。大手企業は比較的スムーズに移行したところが多いようだが、freee株式会社が2020年4月に実施した調査によると、中小企業で働く従業者のうち60%以上がリモートワークを許可されていないと回答している。

 リモートワークを導入した中小企業も、その多くは働き方を急に変更することとなり、利用するICTツール、リモートワークの制度とその運用ルールなどについて、十分に吟味する時間を持てなかったであろう。通信のセキュリティーの確保なども含め、課題を抱えたままリモートワーク体制に移行していることが実情と言えるだろう。

 一方で、世界に目を向けると、多少呼び名は違えどもリモートワークと同じような働き方は、欧米を中心に広く浸透している。欧州生活労働条件改善財団(European Foundation for the Improvement of Living and Working Conditions:Eurofound)の調査によると、リモートワーク先進国の一つである北欧のスウェーデンでは、すでに1960年代からリモートワークの導入を推進してきた。また、デンマークについても、2006年の時点ですでに国の労働力人口の4分の1以上が何らかの形でリモートワーク勤務していたとの報告もある。
 北欧の場合、交通網の整備の度合い、厳寒な気候など、通勤したくてもできないことが理由で、外出せずとも働けるリモートワークが普及した。世界最大級の統計データベースを運営するドイツ・スタティスタの2018年のリポートでは、企業で働く15歳~64歳のうち、何らかの形でリモートワークを実施している人の割合は、スウェーデンが34.7%、アイスランドが31.5%、ルクセンブルグが30.8%、フィンランドが30.3%。ルクセンブルクを除き、北欧の国々が軒並み3割を超えている。

 こうした土壌があったためか、新型コロナウイルス対策として、リモートワーク体制への移行はスムーズだったようだ。ある報道によるとスウェーデンでは、感染が拡大するにつれて、政府から特別な指示がなくても労働者の半数が在宅勤務に切り替えていたという。

アメリカでは430万人が仕事の半分をリモートワークで行う

 北欧と並ぶリモートワーク先進国のアメリカだが、今や新型コロナウイルス感染者数が世界第2位の国でもある。新型コロナウイルス対策としてリモートワークの導入が進んだアメリカには、北欧と同様にリモートワークの推進を可能にする下地がもちろんあった。

 その下地とは、ここ十数年間でリモートワーク人口が急激に増加したことだ。ジョブ・ポータルサイトのFlexJobsと、調査会社・Global Workplace Analyticsが実施した調査では、アメリカにおけるリモートワーク人口は、2008年から2017年までの10年間で91%、2006年~2017年間の12年間で159%も増加したという。その具体的な人数は、2017年の時点で約430万人とされている。

 リモートワークに関する統計や調査では、リモートワーカーの定義によって人数や労働人口に占める割合が異なってしまう。日本でも、仕事でITツールを活用し、オフィス以外の環境で仕事をする時間が週のうち8時間以上となる「狭義のリモートワーカー」の人口は、すでに1000万人を超えている。

 このことを踏まえると、アメリカの約430万人という数字だけを見ると意外に少ないと思えてしまうかもしれない。しかし、この数字は自身の「労働時間の半分」をリモートワークで働いている人の数を指している。

 つまり、アメリカでは約430万人が、勤務時間の半分をリモートワークで行っているということになる。週5日の勤務と考えれば、週2日以上リモートワークしていることになる。この約430万人という人数は、アメリカの労働人口の約3.2%に過ぎないが、今後ますます増加することが考えられる。

 というのも、ホワイトカラーの業種においては、雇用される側、特にミレニアル世代(1989年~1995年生まれの世代)が自身の就職先を選ぶに当たって、企業がリモートワークを許可しているかをとても重要視しているという調査結果があるからだ。

 こうした下地があったことで、アメリカでは新型コロナウイルス対策としてリモートワークへの移行がスムーズに進んだ。また、従業員の職務内容や勤務地、労働時間が明確に定められたいわゆる「ジョブ型雇用」が主流だったことも、従業員の在宅勤務を後押しした。

 さらに、同様の状況はアメリカの教育現場でも見られている。大学だけでなく小・中学校、高等学校でもノートパソコンが学生・生徒に配布されている地域が多く、遠隔講義や授業の実施も容易だったという。

イギリス企業の働き方から見るヨーロッパの現状

 さて、北欧、アメリカと紹介してきたが、ヨーロッパの事情についても説明する。先に挙げたスタティスタの統計によると、企業で働く15歳~64歳のうち、何らかの形でリモートワークを実施している人の割合が最も高かった国はオランダだった。その割合は、35.7%に達している。北欧を除いたヨーロッパの国々では、オランダの次にはイギリスが23.8%、ベルギーが22.7%、フランスが20.7%、ドイツが11.6%と続いている。

 EUでは、2002年にEU加盟国のリモートワークに関する規約が定められた。この規約では、リモートワーカーがオフィス勤務者と同じ権利を享受できること、データ保護とプライバシー、労働時間や休暇、勤務時間や体制の基準、健康と安全へ配慮といった、リモートワーカーのさまざまな権利が保障されている。

 つまり、EU諸国もリモートワークをスムーズに導入するための下地はあったと言える。今回、こうしたヨーロッパ諸国のうち、イギリスのリモートワークの最新事情を現地の企業から聞き取ることができた。

 イギリスでも多くの企業が、新型コロナウイルス対策として勤務体制をリモートワークへと切り替えた。話を聞くことができたソフトウエア開発会社については、新型コロナウイルスの感染が拡大する以前からリモートワークが許可されていた。従業員が必要に応じてリモートワークに切り替えて仕事をするようになったのは、ここ数年のことだという。週2日程度、自宅で仕事をすることにしている従業員が多いようだ。

 同社では、従業員全員にノートパソコンが支給され、自宅にノートパソコンを持ち帰って仕事をするのには、特に大きな制限も設けられていない。ただし、毎朝10時になると、オフィス勤務者、在宅勤務者にかかわらず、メンバー全員がSkypeを介してチームごとに集まり、作業中の案件の進行状況や問題点の報告、質問のやり取りなどをするようにしているという。

 1日の業務に必要な情報を得た後に、スタッフは各自の作業に戻る。作業中、同僚との連絡手段にはチャットツールを使う。また、仕事の成果物は全てクラウド上で管理する取り決めになっている。会社で扱う全ての文書類、見積書も顧客向けの情報、社内資料など、全てをクラウド上で管理し、個々のパソコンにはデータを保存しないというルールが徹底されているそうだ。

 そのソフトウエア開発会社の担当者によれば、パソコンとインターネットの接続環境さえあれば、どこにいても仕事ができる環境が整えられているので、オフィスにいる必要はあまりないのだという。

「下地作り」の段階にある日本

 今回、北欧、米国、ヨーロッパなど、各国のリモートワークの状況をまとめてみた。紹介したのは、新型コロナウイルス対策としてリモートワークへの切り替えをスムーズに実行できた国々だが、どの国でも決して短期間でリモートワークが普及したわけではない。リモートワークができる下地を作るのに、5~10年はかかっている。

 日本は、2020年に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて政府が開催期間中のリモートワークを呼び掛けたことで、2017年頃から大企業を中心にリモートワークの取り組みが意識されはじめた。他国が5~10年をかけて下地を作っていたことを踏まえると、日本はまだ下地作りの段階にあると言える。今回の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言がきっかけの一つになることは想像されるが、日本でリモートワークの導入・活用が本格化するのはこれからになるであろう。


関村 のり=タンクフル

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