Ideas
公開日: 2021.11.04
デジタル変革への向き合い方「明日から始められるデジタルトランスフォーメーション」
経済産業省によるレポートで「2025年の崖」という問題が取り上げられて以来、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が進んでいないことへの危機感を募らせている企業も多い。また、DXを進めているものの成果に結びつかず苦戦しているケースもあるのではないだろうか。

東京大学大学院工学系研究科教授、森川博之氏
DIGITALISTは、ビジネスイベント「DIGITALIST Talks」をオンラインで開催。イベントでは、東京大学大学院工学系研究科の教授であり、OECDデジタル経済政策委員会副議長なども務める森川博之氏が、「明日から始められるデジタルトランスフォーメーション」と題し、企業に必要なDXの進め方について語った。
デジタルの本質は「新たな価値創出」
森川氏はまず、セッション冒頭で、昨今猛威を振るう新型コロナウイルス感染症に触れながら、新型コロナウイルスとデジタルの関連性について言及。両者が相まって社会が大きく変化すると説明し、実際に森川氏自身の認識に大きな影響を与えた二つの事例について解説した。

森川氏:一点目が、アメリカのスターシップ・テクノロジーズによる配達ロボットの事例です。新型コロナウイルスが広まる5~6年前からビジネスをしていたようですが、当時は「自動運転のテクノロジーを簡単にしたものだよね」程度の認識で、正直さほど気に留めてはいませんでした。しかし、COVID-19が広まると、このような小型の移動型ロボット複数台が自立・協調しながら動き回る世界が重要なのではないかという認識に変わりました。
自動運転技術を簡易化したものであるものの、人との接触を避ける必要のあるパンデミック下では、輸送にも活躍しうる移動型ロボットが重要だと考えるようになった森川氏。続けて、二つ目の事例についても、新型コロナウイルスによって認識が変わったと明かす。
自動運転技術を簡易化したものであるものの、人との接触を避ける必要のあるパンデミック下では、輸送にも活躍しうる移動型ロボットが重要だと考えるようになった森川氏。続けて、二つ目の事例についても、新型コロナウイルスによって認識が変わったと明かす。

森川氏:二つ目は、「Zwift」です。「Zwift」はバーチャルにレースに参加することができるトレーニングゲームのシステムで、坂道になったらペダルが重くなりますし、前に人が走っていたら空気圧が減ってペダルが軽くなるという機能も実装されています。当初「Zwift」について、新型コロナウイルスが広まる前は「バーチャル空間ではなく、空気が澄んでいる緑の中で走りたいよね」と私自身思っていました。しかし、新型コロナウイルスの影響でプロのサイクリストの意識が変わり、「Zwift」で懸命にペダルを漕いでいる姿を見て、印象がガラッと変わりました。
二つの事例を通して認識が変わった森川氏は、そのような社会観・世界観の変化が重要であると述べる。そして、社会観・世界観はデジタルと相まって変化が加速すると予想する一方、どのような変化を遂げるかは「正直なところ分からない」とも明かす。その理由について、世の中に“洗濯機”が登場した際に起きた社会観・世界観の変化を引き合いに出して説明する。
二つの事例を通して認識が変わった森川氏は、そのような社会観・世界観の変化が重要であると述べる。そして、社会観・世界観はデジタルと相まって変化が加速すると予想する一方、どのような変化を遂げるかは「正直なところ分からない」とも明かす。その理由について、世の中に“洗濯機”が登場した際に起きた社会観・世界観の変化を引き合いに出して説明する。

洗濯機が普及して起きた社会的な影響は、家事労働の負担を軽減する以外にもあったという森川氏。洗濯機を使う人々の衛生観念も変わり、綺麗好きになって毎日服を着替えるようになったと習慣の変化について触れ、洗濯物が増えた結果衣類の市場が拡大した側面もあると語る。しかし、衛生観念の変化が市場に与える影響ついて、はじめから「チャンスだよと言っていた方って、恐らくほとんどいないのかなと思います」と表現した。
森川氏:新型コロナウイルスやデジタルが人々に与える影響は、洗濯機のケースと同様だと思っています。デジタルの文脈で言うと、今アナログで行っていることをデジタル化することで生産性を上げていく。それによって人々の感覚が変わり、プラスの新しい価値の創出につながっていくかもしれない、というのがデジタルの本質だと考えています。どのような価値が誕生するかは最初の時点で分からないので、走りながらとにかく考えていくしかないでしょう。
森川氏:新型コロナウイルスやデジタルが人々に与える影響は、洗濯機のケースと同様だと思っています。デジタルの文脈で言うと、今アナログで行っていることをデジタル化することで生産性を上げていく。それによって人々の感覚が変わり、プラスの新しい価値の創出につながっていくかもしれない、というのがデジタルの本質だと考えています。どのような価値が誕生するかは最初の時点で分からないので、走りながらとにかく考えていくしかないでしょう。
テクノロジーへの挑戦が成功への第一歩
では、デジタルで生み出される新たな価値を見出すためにはどのような考え方が必要なのだろうか。森川氏は、はじめにデジタルへの向き合い方において重要なポイントについて説明する。