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Ideas 公開日: 2019.03.20

5G、スマホの次はロボット──そして5Gは工場に導入される

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5Gのサービスが世界各地で始まっている。そんな中で、早々に5Gの実装が進みそうなのは工場に置かれた「ロボット」だ。

 2019年2月25日から28日の4日間、バルセロナ(スペイン・カタルーニャ州)で開催されたモバイルの祭典「MWC19 Barcelona」(旧称:Mobile World Congress、主催=英GSMA)。2会場のうち市中心部をやや外れたグラン・ビア会場ではスマートフォンや地上系・基幹系システムが展示された。もう一方の市中心部にあるモンジュイック会場には、スタートアップ企業がずらりと並んだ。両会場合わせての来場者は10万9000人以上、出展社数は2400社以上(いずれも速報値)と発表されている。

 今回のMWCの話題は何といっても5G(第5世代移動通信システム)だろう。そこには通信事業者向けの5Gインフラや新型スマートフォンだけでなく、固定通信用などのソリューションが見られた。以下、MWCで見えた5Gの姿や、そこから考えられる展開シナリオを紹介しよう。

固定通信用からスタートしている5G

 5Gサービスは、既に欧米、韓国で始まっている。最初に始まったのはFWA(Fixed Wireless Access)と呼ばれる固定通信用で、光ファイバーの敷設が困難な地域や建物の加入者に高速通信サービスを提供するためのものである。人口が少なく光ファイバーなどのインフラが用意されていない地域には、ファイバーの敷設を希望しても通信事業者は収益性の面から躊躇する。

 2018年6月にサービスを始めたフィンランドのElisaは、過疎地域での高速通信を志向した。一方、インフラが整っている地域でも、建物のオーナーが新たな回線敷設を認めないといった状況で、高速サービスを受けられない例が出ている。このような事態に対応したのが同年10月にサービスを開始した米Verizonである。

 5GによるFWAでは、窓際に置いたアンテナを通じて、近所の基地局と通信する。数百Mビット/秒から1Gビット/秒程度の速度を得ているもようで、新たな高速サービスとして注目されている。

 この方式では、移動通信に関わる処理が不要となる。携帯機器の移動に伴いアンテナの指向性を電子的に動かすビームステアリングや、隣の基地局に処理を渡すハンドオーバーといった処理が必要ない分、基地局側の負担は軽減される。

 2018年12月21日にサービスを開始した米AT&Tは、米国で初めてモバイル用5Gサービスを標榜した。ただし、この時点で5Gスマートフォンは発売されていない。では、何のためのサービスか。それは「モバイル・ホットスポット(モバイルWi-Fiルーター)」向けのサービスである。

 そして、5G用のスマートフォンが大々的にお披露目されたのが、今回のMWC19 Barcelonaだ。サムスン電子、LG電子、Motorolaなどのブースに、間もなく投入される機器が並んだ。ソニーもXperiaの5G試作機を展示。これらの機器が市場に出ると「サクサク動く動画」を手軽に楽しめるようになりそうだ。
サムスン電子の5G機
Motorolaの5G機は、単独では4G、合体すると5Gになる。Verizonは3月14日にこのスマートフォンの予約受付を開始した。
ソニーのミリ波用5G実験機

2種類ある5G

 各社のスマートフォンを一堂に集めたブースが、米Qualcommである。Qualcommは、2019年に登場するスマートフォンのほとんどすべてに半導体を供給している。

 Qualcommが一手に供給するのは、モデム(変復調器)とミリ波モジュールだ。ミリ波とは、5Gから利用が始まった電波(周波数帯)で、波長が1cm未満のものを指す。

 従来の移動通信システムでは、波長40cm程度から10cm程度の電波を使っていた。今回、波長が1cm以下のものを使えば、従来の10分の1 以下になる。言い換えると、それだけ高い周波数の信号を使っていることになる。

 高い周波数を使うのは、そこにしか電波の空きが無いからだ。低い周波数は既に多くの用途に使われている。日頃当たり前のように使っている無線LANは、2.4GHz帯と5GHz帯で送受信している。衛星放送は12GHz帯だ。このように衛星放送のあたりまでは、様々な用途に電波が割り当てられており、多数の無線局や無線機器が実際に運用されている。

 これに対して、多くの国で周波数が高いミリ波帯は比較的空きがあり、移動通信システム用に数百MHzの広い帯域を取りやすい。低い周波数の帯域では数十MHzの帯域幅しか取れなかったのに比べると、数十倍の違いがある。帯域幅が広ければ、それだけ運べる情報量が違ってくる。簡単に言えば、1車線の道路よりも4車線の道路の方が交通量を増やしやすいのと同じだ。5Gではミリ波を使うことで、送受信するデータ量を増やせる。

 実際には、MWC19 Barcelonaに登場したスマートフォンを見ると、ミリ波に対応していないものもあった。中国国内を志向したスマートフォンがそうだ。これは、中国国内でミリ波帯が移動体通信向けに割り当てられるメドが立っていないためと言われている。ミリ波が使えないならば、ミリ波機能を持っても仕方が無い、ということで搭載していないのだろう。

 5Gが使う周波数帯は、4Gまででも使われている周波数帯の「サブ6GHz(=6GHz以下)」と、ミリ波帯の2つになる。MWC19 Barcelonaでの展示を見ると、中国以外の地域で販売されるスマートフォンはサブ6GHzとミリ波の両対応、中国国内志向のモデルはサブ6GHzのみと色分けできそうだった。

次の狙いは産業用IoT

 消費者向けの機材としてスマートフォンに注目が集まるが、システム各社は産業利用に目を向けている。「産業用IoT(Industrial IoT)」と呼ばれるものだ。4Gまでの方式は、人間が使うことを想定して開発された。これに対して5Gは、機械のための通信も想定したものになっていて、産業用途での利用が多くなると見られている。

 具体例の一つは工場である。工場のラインには多くのセンサーが取り付けられ、それらが集めた情報を基に産業用ロボットや他の機器が動作する。この情報のやり取りに5Gを使って、工場内を無線化するわけだ。

 もちろん、センサーから集線装置までなど、ごく短距離の電線は残るかもしれない。その場合も、集線装置の先は無線になる。ロボットにしても、同期のための情報や、離れた場所のカメラからの情報は無線でもたらされる。

 こうしてラインを縛る電線が無くなると、ラインの修正や組み替えが容易になり、柔軟な生産体制を組めるようになる。さらに進歩すると、産業用ロボット自体が移動するようになる。現在、腕が付いたロボットは床に固定されているが、これを動くようにすることで作業範囲は広がり、他のロボットとの連携範囲も拡大する。
 ロボットの電源はどうするのか。これについては「電池式」というのが答えの一つだ。最も可能性が高いのは、配送ロボットが電池を運んできて、これを使うというもの。他に、ロボット自身が壁際の充電ターミナルに移動するといった、お掃除ロボットのような姿を描く向きもある。(写真はEricssonはスイスのABBと共同で「無線型産業用ロボット」を展示)
 このような工場の無線化を想定できるのは、5Gには「低遅延性」「高信頼性」(合わせてURLLC:Ultra-reliable and Low-Latency Communications) という、4Gまでとは大きく異なる特性があるからだ。

 低遅延性は、無線区間は1m秒以下の遅延を達成する見込みが立っている。また、信頼性は、99.999%の受信確率を達成している。「電波は秒速30万kmだから、基地局が見える範囲なら大した遅延は生じないのでは?」と思うかもしれないが、この遅延は電波が進むための時間に取られているものとは違う。信号を変調し電波化し、電波を復調して信号に戻す、その処理の時間が問題になる。4Gまでの方式では、この部分の遅延は気にしていなかった。それゆえに無線区間で数十m秒の遅延が生じていた。

 もう一つ、遅延で大切なのは「ジッターが少ない」ことだ。ジッターとはブレ(揺れ)のこと。あるパケットは遅延2m秒で届き、別のパケットは遅延3m秒になる、といったブレが起こると、同期を取りづらくなる。遅延目標2m秒のパケットは、1.9m秒から2.1m秒の遅延で届く、ということになれば安定しており、いろいろな設計が楽になる。このジッターの少なさも5Gの特徴の一つである。

 もっとも、URLLCは5Gの最初の段階では完全には実現できない。5Gは、初期の段階ではLTE(4G)を使って両端の通信を確立し、その後5Gに切り替えて通信する2段階方式を取る。5Gだけで通信できないので「Non-Standalone(NSA)」と呼ばれている。制御信号がLTEを通して流れるため、どうしても、遅延やジッターの影響が生じる。数年後、5Gだけで通信する「Standalone(SA)」の運用が始まれば、機械制御に5Gが当たり前のように使える時代となるはずだ。

応答性能を求めるアプリはエッジに

 ロボットを含む産業用IoTで台頭してくるネットワークの考え方に、「エッジ(エッジサーバー)での処理」がある。MWCの出展でも、エッジサーバーは随所に見られた。

 エッジとは「端」を意味する。これはクラウドを中心として見たとき、利用者に近い場所は「クラウドの端」、つまりエッジ、ということになる。クラウドで処理をするのではなく、利用者に近い所に置かれたエッジサーバーで処理しよう、ということだ。

 すべてをクラウドで処理しないのは、遅延の問題を解決するためだ。インターネットを通じてクラウドと通信するということは、インターネット上の何台ものルーターを介してデータをやり取りすることになる。その分、ルーターによる処理遅延が積み上がっていく。情報を処理する場所であるデータセンターが利用者から遠ければ、それだけ伝達遅延は大きくなる。

 産業用IoTをはじめ、今後5Gが浸透していく領域では、素早い制御が必要になることが多い。少しでも処理遅延を減らす必要がある。そこで5Gとエッジサーバーを組み合わせるシーンが出てくる。

 その一例を示したのが、MWC19 Barcelonaで大手通信機器メーカーのEricssonが見せた8本足ロボットのデモである。ロボットには、センサーと通信機を搭載。歩くための処理はすべてエッジで実行し、ロボット本体では歩行制御はしていない。5Gの場合、ロボットとエッジサーバーの間での通信の遅延時間は4m秒以下で、ロボットは安定して歩いていた。これを4Gに切り替えると、遅延とジッターの両方が増え、途端にロボットの歩みが遅くなり、動きがギクシャクした。5Gの威力を直感できるデモだった。
Ericssonがデモしたロボットは、エッジサーバーに制御ソフトが載り、ロボットとの間は5Gで結ぶ

工場内で使う「自営5G」のシステムも

 産業界向けの5Gとしては、「自営ネットワーク」用のソリューションも考えられている。工場内や企業内といった限られた場所で、通信事業者を介さずに自分で運営する5Gを敷設できるようにしよう、というのである。

 実際、自営5G向けの機器も登場している。例えばMWC19 Barcelonaで見つけた英国のソフト専業メーカーは、自営網用に交換機能を持ったソフトウエアを作っている。これらの製品は、運用が簡単になるように機材が簡略化されていたり、OSS(Operation Support System)と呼ばれる支援ツールが充実していたりする。
NokiaのRajiv Suri CEOは、僻地での自営網の例としてコマツを例示しながら10年間で1500万カ所への導入への期待を示した
 フィンランドの大手機器事業者Nokiaのラジーブ・スーリCEOは「自営ネットワークは、今後10年で1500万カ所に導入される」と見込んでいる。非常に大きな市場が待ち構えている。


杉沼 浩司


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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