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Ideas 公開日: 2023.07.07

AIの力で価格は“常に変動するもの”へ——「SALAD STAND」のデータ活用に迫る

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 自動販売機でいつでも新鮮なサラダを購入できると話題の「SALAD STAND(サラダスタンド)」。そのユニークさは、自動販売機でサラダが買えること、そのものだけにあるのではない。

 SALAD STANDは、自動販売機にAIカメラを搭載しており、さまざまなデータを活用して自動的に適正価格を導き出す「ダイナミックプライシング機能」の実装に挑戦している。

 このビジネスにかけた想いについて、株式会社KOMPEITO 執行役員CLO 兼 SALAD STANDの事業責任者である新井伸朗(あらい・のぶあき)氏に話を聞いた。

ゼロから開発した、こだわりの自動販売機

 SALAD STANDは、KOMPEITOが2022年10月に京王電鉄のアクセラレーションプログラム「KEIO OPEN INNOVATION PROGRAM」に採択されたことをきっかけに、日の目を見ることになった。人流が多く、トレンドの発信地である京王井の頭線渋谷駅に自動販売機を設置することができたからだ。

 もともとSALAD STANDは、KOMPEITOの新規事業として3年前に始まっていた。KOMPEITOの主力事業である「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」は、オフィスに冷蔵庫を設置するだけで、新鮮なサラダやフルーツ、惣菜など、健康的な食事が届くという、オフィス向けの福利厚生サービスだ。

 OFFICE DE YASAIを導入している企業の従業員は、雨の日でも外出することなく、小腹が空いたときに1つ100円〜手軽にヘルシーな食事を摂ることができる。これまでに北海道から沖縄まで全国6500ヶ所のオフィスに導入されているというが、このビジネスをオフィスの外でも展開できないかという発想から生まれたのがSALAD STANDだった。
持ち運びを意識したジャースタイルのサラダ
 しかし、この新規事業は、当初、困難を極めた。日本の自動販売機は、缶やペットボトルを販売する目的で作られているため、サラダの販売に適した構造にはなっていない。加えて、日本には自動販売機メーカーが2社しかない。特注で自動販売機をつくりたくとも、「1000台以上まとめて発注してくれないと受けられない」と断られてしまったのだ。

 どうしたものかと思案していると、中国に対応してくれるメーカーがあることがわかった。とはいえ、KOMPEITOが作りたいのは単なる自動販売機ではない。消費期限や人流に合わせて価格を変動させたり、近くを通った人にアプリのプッシュ通知でタイムセールの告知をしたりといったようなマーケティング施策を行える、いわば「攻めの自動販売機」を作りたいという構想があった。それを実現するためには、AIカメラを搭載して通信機能を持たせ、ダイナミックプライシング機能を実装するためのソフトウェアの開発が不可欠だった。

 そこで立ち上がったのがCTOの梅津祐希(うめつ・ゆうき)氏である。テスト的に自動販売機を設置していたDMM.make AKIBAを初めて訪れたとき、梅津氏がはんだごてを片手に回線をつないでいた姿を見て、新井氏は大いに驚いたという。

 「『梅津さん、ものづくり系の経験もあったんですか?』と声をかけると、『いや、見よう見まねです(笑)』と。もう本当に手作り感、満載でした」(新井氏)

 そうして苦労を重ねて完成した自動販売機は、商品の下にあるベルトコンベアが奥から手前に動くという、日本にはない独自の機構を備えたものになった。繊細な商品が勢いよく落ちないよう、エレベーターが商品を迎えに行く仕組みになっている。

「2年かけてようやく完成した自動販売機を日本で設置しようとしたら、電圧が110Vで……。猛ダッシュで変圧器を買いに走ったのは、いい思い出です(笑)」(新井氏)
駅に設置されたSALAD STANDの自動販売機

大逆転の引き金は、思い込みからの脱却

 完成した自動販売機を設置した最初の場所は、オフィスビルである渋谷クロスタワーの1Fだった。「自動販売機で高額商品は売れないだろう」という先入観から、低価格なものを中心に置いてみていたというが、新井氏いわく、「これがまぁ、売れなかった」。

 その要因はさまざまある。現在のSALAD STANDではジャーに入ったサラダやコールドプレスジュースを中心に販売しているが、この時点ではOFFICE DE YASAIで取り扱っている商品を陳列していたため、パックに入ったサラダやお惣菜などを販売していた。要するに、コンビニと商品がバッティングしてしまっていたのだ。

 また、現在のSALAD STANDの主な利用者は女性だが、オフィスビルに出入りする人は男性の割合が高い。何なら売れるのだろうかと試行錯誤を重ねる中で、海鮮丼を売ってみたこともある。

 「あの頃は、毎日、売れ残った海鮮丼を食べていました(笑)たまに少し売れ行きが良い日は、会社に持ち帰る数が少なくて、社員から『今日は少ないですね……』と残念がられる始末。新規事業らしく、いろいろなチャレンジをさせてもらえましたが、本当に迷走していましたね」(新井氏)

 転機が訪れたのは、2022年末。2023年1月からKEIO OPEN INNOVATION PROGRAMの実証実験が始まるのを見据え、サラダをジャースタイルに変更した。

 ある飲食チェーンの経営者の「日本人は欧米人と違って、食べ歩きをしない。つまり自動販売機で購入するものは、すぐに食べることを前提にしないほうがいい」という会話から、大きなヒントを得たという。

 加えて、400mlで1200円のコールドプレスジュースの販売も始めた。「こんなに高いものを誰が買うんだろう」というのが新井氏の率直な感想だった。しかし、若い女性社員の反応は真逆。「絶対に売れますよ!」と言うではないか。

 「半信半疑で置いてみたところ、実際、ものすごく売れた。そこからは自分の感覚はあまり信用せず、新商品は必ず若い女性社員に好評だったものだけを入れるようにしています」(新井氏)

 SALAD STANDが利用されるシーンは主に3つ。①通勤の最中にコールドプレスジュースを購入して、朝食代わりにオフィスで飲む。②昼食代わりにサラダを食べる。③夕方から深夜にかけて、帰宅途中にサラダを購入して、自宅で食べる。「健康を意識している方が、時間や場所の制約なく、生活の動線上でパッと購入できることから、やはり駅とは親和性が高いと思います」(新井氏)

ユーザーから直接得られる情報も大切に

 新井氏によると、SALAD STANDは非常にリピート率が高い。

 KOMPEITOは全国に6拠点(北海道・千葉・和歌山・広島・福岡・沖縄)、OFFICE DE YASAIの製造・物流の提携工場を持っているが、このうちSALAD STANDの商品は、千葉県香取市で作られたものが運ばれており、サラダが作られた次の日には自動販売機に並んでいる鮮度の良さが売りだ。

 「一度食べたら、明らかに違うと感じてもらえる」と新井氏が胸を張るように、最もリピート率の高い40代女性の平均購入回数は月2回。中には1ヶ月で12個購入するユーザーもいるとのこと。安くはない商品でありながらも、高校生や大学生が電子マネーでピッと購入しているシーンに出くわすこともよくあるのだという。

 ん?ちょっと待って。なぜ自動販売機でユーザーが購入しているシーンを、新井氏は目にすることができるのだろう?まさか新井氏は自動販売機に張り付いているのか?

 実は、新井氏をはじめとするSALAD STANDの担当者に直接つながる電話番号が緊急連絡先として自動販売機に貼ってあり、何か困ったことがあると、ユーザーから電話がかかってくる仕組みになっているのだ。(もちろん実証実験中の期間限定だが。)

 「購入したのと違う商品が落ちてきちゃって……」などといった電話を受けたこともある新井氏は、電話口で対応することはもちろんのこと、近くにいればその足ですぐに自動販売機へ直行する。そのたびに、直接、ユーザーの声を聞いたり、購買行動を目にしたりしていたのである。

 「決済端末が動かなかったということもあるし、普段京王線を使わないユーザーさんがわざわざ乗り換えて渋谷まで来たのに売り切れて買えなかったこともある。まだまだ泥臭く試行錯誤しているフェーズなんです」(新井氏)

定価という概念をなくしたダイナミックプライシング

 そしてなんといってもユニークなのが、SALAD STANDの値付けに対する考え方だ。AIカメラで取得したデータによるダイナミックプライシング機能は、2023年8月の正式リリースに向けて目下開発中だというが、SALAD STANDには、そもそも“定価”という概念がない。

 一応、競合であるリアル店舗を構えるサラダ専門店の価格を参考にしながら、基準価格は設定しているものの、鮮度が高いうちは+10%の価格にしてみたり、人流が減って消費期限が近づいてくると−10%の価格にしてみたり。

 AIカメラで取得している、人流・立ち止まった人の数・年代・性別といったデータと、自社開発の電子決済アプリ「YASAI PAY(ヤサイペイ)」で取得したデータを掛け合わせることで、常に最適価格を導き出せる仕組みを生み出そうとしているのだ。

 このロジックの開発には、新井氏だけでなく外部のデータサイエンティストの手も借りているという。「値付けは本当に難しい。だからこそ、いったん基準価格で出してみて、ユーザーさんのデータを見ながら変更を重ねていくほうが、実勢価格に近づけられると実感しています」(新井氏)

 ダイナミックプライシング機能は8月に正式リリースして終わりではない。今後はAIカメラで取得したデータやYASAI PAYで取得したデータに加え、天気のデータやGPSのデータ、京王電鉄が保有するデータなど、さまざまなデータを掛け合わせながら、どんどん精度を高めていくことを見据えている。

自動販売機の先に広がるビジネスの可能性

 2023年2月には、SALAD STANDを通じて群馬県産いちご「やよいひめ」の無料配布を行なった。この取り組みの発端は、JAが以前からOFFICE DE YASAIでサンプリングを行っていたことにあるというが、SALAD STANDの自動販売機を活用することで、オフィス以外の道行く人たちにより広く効率よくリーチできるようになった。

 無料でやよいひめを受け取るには、YASAI PAYをダウンロードすることが必須である。通常のサンプリングでは誰の手に渡ったかを具体的に特定するのは難しいが、YASAI PAYに登録されたユーザー情報によって、興味を持って手にしてくれた人の属性を把握することが可能だ。また、YASAI PAYにはアンケート機能もついていることから、実際に食べた人たちの味に対する評価や今後の購入意向などを、後から取得することもできる。

 「JAさんにもユーザーさんにも大変好評だったため、今後もこのような取り組みは続けていきたい」と新井氏は語る。

 ちなみにSALAD STANDは、当初の渋谷駅に加え、同じ京王線の仙川駅にも設置されるようになった。現在は、東京だけでなく名古屋や大阪などの複数の鉄道会社等より問い合わせが入っていることから、京王線以外にも広がっていくかもしれないという。

 「実は、個人的には、自動販売機ビジネス以外のところに興味がある。単純に自動販売機の台数を増やすにとどまらず、商品の鉄道輸送や、鉄道沿線にある農家と地産地消など、自動販売機ビジネスの先にある、さまざまなビジネスに挑戦していきたいですね」(新井氏)

Text/野本纏花(518Lab)

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