sansansansan
  • DIGITALIST
  • Articles
  • ポスト「Zoom」を狙うウェブ会議進化型のイノベーション
Pocket HatenaBlog facebook Twitter Close
Ideas 公開日: 2021.02.01

ポスト「Zoom」を狙うウェブ会議進化型のイノベーション

お気に入り

 リモートワークの機会が増えてウェブ会議の機会も多くなったが、ウェブ会議をさらに進化させるツールも続々と開発されている。本記事ではホログラム、AR・MR、AIなど、先端技術を搭載したウェブ会議ツールを詳しく紹介する。

【画像】shutterstock
 今や、リモートワーカーの間ですっかり定着した感があるのがウェブ会議ツールの「Zoom」。リモートワーカー同士の飲み会や忘年会を指す「Zoom飲み会」、「Zoom忘年会」という言葉まで登場し、まさにウェブ会議システムのデファクト・スタンダードと化している。

 だが、デファクトはデファクトであるがゆえに、より優れたサムシングニューが出現すればアッと言う間に王座をひっくり返される可能性があるのが、日進月歩のインフォメーション・テクノロジーの世界だ。現状でもZoomのユーザーはZoomの操作性やパフォーマンスに必ずしも満足してはいない。短所を指摘させれば口からぞろぞろ飛び出してくるだろう。

 ゆえに、Zoomのポジションは絶対とは言えず、新しいテクノロジーでZoomを超え、ポストZoomの王座を奪わんと、実験段階も含めさまざまなプロダクトが登場してきている。それぞれが、ホログラム、VR、3D、センサー、ロボット、AIなど、Zoom超えのキーポイントになるかもしれないコアテクノロジーをひっさげている。

“透過ホログラム”の臨場感が売り物の「HoloD」

【画像】取材時にH2L株式会社より提供
 すでに2020年5月から販売を始めているのが、H2L(本社:東京都港区)のホログラムウェブ会議「HoloD」である。リモートワーカー側はZoomと同じように個人のパソコン、回線でそれに参加できる。会社に設置した魚眼レンズを通じて、作業場のパソコンではオフィスの内部全体を見渡すことができ、誰が出社しているかなど細かい様子が分かる。

 一方、会社側では専用プロジェクターでリモートワーカーの等身大映像が立体的に映し出され、まるで本人が会社に来ていて、すぐ目の前に座っているかような臨場感がある(写真)。例えば課長1人だけが会社に来ていても、ホログラムのバーチャル画像を見ながら、部下と一対一で顔を突き合わせるかのように個別に話を聞くことができる。Zoomのディスプレー越しの小さくて平板な画面では、とてもこうはいかない。これは3次元の「透過ホログラム」というテクノロジーを活用している。

 リモートワーカーの映像はVR(バーチャル・リアリティー)技術を応用して、顔だけが本人で体は別人の画像やアニメーションを組み合わせる「合成アバター」に変えられるオプションもある。それを使えば、たとえ在宅中の実際の上半身が裸でも、課長には背広とネクタイ姿の自分を見せることができる。

 HoloDのホログラム・プロジェクターは平板のものだけでなく、ピラミッド型でより立体的に見える「3Dホログラム」を搭載した進化版も市場投入している。H2Lは以前から「ボディーシェアリング技術」の研究を進めており、筋変位センサーや加速度ジャイロセンサーを搭載した「FirstVR」を開発した実績がある。そのVR技術に遠隔操作ロボット技術も組み合わせたHoloDの次世代進化版の開発を進めている。

 例えば課長が「頑張ってくれ」とリモートワーク中の課員の肩をたたくような動作をしたら、課長の手の動きを筋変位センサー、加速度ジャイロセンサーが検知・解析し、その情報が通信回線経由でリモートワーク中の部下の自宅に設置したロボットアームに伝えられる。そして人間そっくりの手指がついたロボットアームは課長がしているのと全く同じ動作を同期・再現して、リアルタイムに課員の肩をたたく。それを可能にする遠隔操作ロボット技術はすでに実用段階に達しており、遠隔手術のような医療分野への応用が期待されている。

 連動するロボットアームで指を触れる、肩をたたくといった触覚コミュニケーションが実現すれば、例えば家具職人のような手業の世界にもリモートワークが広がる可能性がある。お互い遠く離れていても通信回線を介して、ベテランが若手に「ベテランが手業をやってみせる」「若手にやらせる」「うまくできれば褒める」という「オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)」が可能になれば、その世界の教育・研修や人事評価のあり方に変化が起きることも考えられる。

VR、AR、MR、AI、ロボテックス…… 感情を探られたり、ロボットが分身と化したり

 現実世界と切り離された仮想世界に没入するVR(Virtual Realty/仮想現実)、現実世界にデジタル技術で情報を付加するAR(Augmented Reality/拡張現実)、VRとARを融合するMR(Mixed Reality/複合現実)は、次世代ウェブ会議の研究開発競争では主役級のテクノロジーである。
【画像】shutterstock
 VRをウェブ会議などリモートワークに応用できるシステムとしては、専用ゴーグルをかけてバーチャル空間をアバターになった複数人が共有し、会議やブレーンストーミング(写真)や商談ができるビジネス用途向けの「NEUTRANS BIZ」(Synamon/本社:東京都品川区)や、国境を超えて社内外のチームが同一仮想空間で会うことができ、リモートワーカーの生産性と協働性を向上させるVRコラボレーション(協業)ツール「VIVE Sync」(HTC/本社:台湾新北市)などがある。VIVE Syncは日本法人が2020年5月に日本語対応のベータ版をリリースした。

 ARの応用例としては、ホログラムでミーティングができるシステムをHolotch(本社:東京都墨田区)が開発している。ホログラムをARグラスに双方向に配信し合うことで、離れた場所でもお互い対面で会話をしているかのようなリアルさでホログラムAR会議が体感できる。ホログラム画像を見るためのARグラスはマイクロソフトの「HoLoLens 2」をはじめ、Apple、Google、Facebook、サムスンなどが開発競争を繰り広げているが、KDDIが開発したシステム「IoTクラウド ~3Dホログラム~」では、あえて裸眼にこだわっている。これは3Dディスプレーを裸眼で見た時でも、ARグラスやヘッドマウントディスプレーをかけたのと変わらないぐらいの画質と臨場感で3Dコンテンツを立体的に視聴できるというもの。映像はジェスチャーで操作し、ディスプレーには触覚センサーを搭載しているので触覚のフィードバックも体験できる。

 MRでは、事務機器大手のイトーキとスタートアップ企業のホロラボ(本社:東京都品川区)が共同で3Dセンサーを使ったMRの遠隔コミュニケーションシステムを開発し、2020年5月にビジネス用途向けに提供を開始した。リモートワーカーの前に設置した3Dセンサー「Azure Kinect Developer Kit」とゴーグル型のMRデバイス「HoloLens 2」で3D立体映像をリアルタイムで目の前に出現させ、お互いの音声やジェスチャーによってコミュニケーションできるというもの。Zoomと違って3D立体映像なので、遠隔地のリモートワーカーの存在をよりリアルに感じることができるという。
 AI(人工知能)のテクノロジーを応用した画像認識AIやジェスチャー認識AIを活用して、Zoomなどウェブ会議中のリモートワーカーの“感情”をアバターによってビジュアル化するのが「心sensor for Communication」だ。AIが画面から表情、ジェスチャー、顔の向きを認識し、その“感情”の状態を反映したアバターをZoomなどウェブ会議ツール上に表示させる。開発したのはMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボからスピンアウトした企業のaffectivaで、「ウェブ会議のコミュニケーションを円滑化するソフトウエア」と銘打っているが、会議で発言しない者、マイクをオフにしている者も、例えば「課長の長話に退屈している」といったような感情や反応がAIによって暴かれて課長に報告されてしまうという、ある意味こわいシステムでもある(日本正規代理店はシーエーシー/本社:東京都中央区)。

 一方では、ロボテックス技術を応用して、社内の会議室で行われるリアルな会議に、何らかの都合で出席できないリモートワーカーの“分身”がバーチャル参加できるシステムも考案されている。プリンストン(本社:東京都千代田区)の遠隔プレゼンスシステム「テレプレゼンスロボット―kubi」は、ロボットの顔の部分にあるディスプレーに自分の顔が映し出される。自分のタブレット端末、およびロボットをZoomのようなウェブ会議システムに接続して使用する。リモートワーク中に会議中の参加者が映っているタブレットに向かって話し、タブレットの向きを変えればロボットの首も一緒に動く。例えば提案に異議を唱える参加者が現れたら、自分の分身のロボットが首を回してその者と正面から向き合って、一対一で議論を交わすことができる。日本バイナリー(本社:東京都港区)の「Beam Pro」もそれと同様の遠隔プレゼンスシステムの「分身ロボット」で、長い脚が付いていて自走して移動もできるが、ウェブ会議システムとは連携できず専用のソフトウエアが必要である。

通信インフラだけなく、使う人間にも進歩が必要

【画像】shutterstock
 最新のテクノロジーを駆使する次世代ウェブ会議システムは、Zoomとはケタ違いの通信容量を必要とするものがいくつもある。現在、第5世代の移動体通信規格5Gはすでに普及のフェーズに入っているが、「高速大容量」で「高信頼低遅延」で「同時多数接続」と言いながら、アクセス集中時のパフォーマンスの低下や、Wi-Fiなどリモートワーカーの作業場の通信環境に起因するボトルネックなど、実用上懸念される要素はいくつもある。次世代ウェブ会議のパフォーマンスを十分に発揮できず「常時ストレスフリーで活用するにはやはり、6Gの登場を待ちたい」となるかもしれない。

 そして、決しておろそかにできないのが、次世代ウェブ会議システムを使う“人間”の側の問題だ。その“環境”が旧態依然のままだと、せっかくのハイテクの成果が宝の持ち腐れになることもありうる。

 リモートワークはそれ自体、新しい働き方としてのメリットは大きいが、業務でのウェブ会議の位置付け、進行の仕方、それに臨む心構えなどがきちんと整備され、共有化されていないと、成果を生み出せるようなイノベーションは望み薄。例えば業務がオンラインだけで完結せず、オフラインでの選考や決裁のフェーズが入るためにどうしても時間がかかるようなケースがそれに当たる。ユーザーサイドは、会議や決裁や業務の仕組みにメスを入れ、よりスピーディーに、より効率的に、より創造的に行えるよう改善する努力を怠っては、満足のいく結果は得られない。

 利用の仕方次第では、個人の勤務時間のオン・オフの切り替えに関して労働基準法上の“労働時間”や“休日”をどう捉えるか、勤務評価はどうするかなど、企業と個人の関わり方にも変化が起きてくるかもしれない。

 生身の人間がいてこそのウェブ会議、リモートワーク。システムがテクノロジーの進歩で次世代タイプに進化しようと、それを生かすも殺すも利用する人間次第である。 
Text/寺尾 淳

関連記事

DIGITALIST会員が
できること

  • 会員限定記事が全て読める
  • 厳選情報をメルマガで確認
  • 同業他社のニュースを閲覧
    ※本機能は、一部ご利用いただけない会員様がいます。

公開終了のお知らせ

2024年1月24日以降に
ウェブサイトの公開を終了いたします