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Ideas 公開日: 2019.01.08

イノベーションを生む仕事のしかた(前編)──「Meets DIGITALIST ~デジタル社会での働き方と組織~」

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従来の働き方、組織では、イノベーション創出は困難。夢を語り、社外と積極的に交流しよう。

 本誌『DIGITALIST』は2018年11月15日、「Meets DIGITALIST ~デジタル社会での働き方と組織の新しいカタチ~」と題して、主催イベント第2弾を開催した(場所は東京・渋谷のSansan)。テクノロジーによって社会のグローバル化が進む現代、これからの組織がイノベーションを生み出していくためには何が必要なのか。識者の講演、パネルディスカッション、懇親会を通じて、参加者一同が深く考えるイベントとなった。

 基調講演には、Googleで人材育成や組織開発に関わったのちプロノイア・グループを設立、『ニューエリート グーグル流・新しい価値を生み出し世界を変える人たち』(大和書房)などの人気著作でも知られるピョートル・フェリクス・グジバチ氏が登壇。イノベーティブな組織づくりのために必要な、本質的思考転換について語った。

ずっとスーツを着て生きていきたいか?

(以下、ピョートル氏の講演)

 よろしくお願いいたします。スーツの方ばかりですね。僕は結婚式でもない限りはスーツを着ないので、「毎日スーツを着て過ごすってどんな感じなのかなぁ」と思いながらここに立っています。

 みなさんに、ちょっと質問させてください。この中に、このまま人生でスーツを着続けて過ごしたいという方はどのくらいいるんでしょう?少しいらっしゃいますね。では、できればスーツはやめたいという方は?……やはりたくさんいらっしゃるようです。

 ご存知の方も多いと思いますが、Appleの営業はスーツの着用が禁止です。そんな、みなさんにとっては別世界と感じられるかもしれない世界の話を、これからお話しようと思います。ぜひここからは皆さん、好奇心を持って、集中して話を聞いてください。というのは、日本人は実は、世界でも一番好奇心の低い民族なんだそうです。20歳の日本人の好奇心が、65歳のスウェーデン人の好奇心と同じレベルだとか……。
 というわけで、かわいい猫の写真をお見せします。広島大学の研究によると、人間の大人が小さい動物や赤ちゃんを見ると、気持ちが落ち着いてパフォーマンスが上がるんだそうですよ。

「誰もが自己実現できる世界をつくる」をミッションに

 まずは軽く自己紹介をさせてください。

 私が日本にやってきたのは2000年のことです。だいたい半年ほどで、まあまあ日本語が話せるようになりました。それからずっと、日本をベースに仕事をしています。今のところ、日本を去る予定はありません。

 経歴を言うと、長くいたのはモルガン・スタンレーとGoogleですね。Googleを退社したのが2015年のことでした。

 現在の活動の軸は、おおまかに4つあります。一つは、Google退社後最初に立ち上げた会社、プロノイアグループ。僕はGoogleの日本支社で人材育成や組織開発、ラーニングストラテジーなどの仕事をしていました。そこでは、データやテクノロジーを使っていかに社員のマインドセットを変えていくか、良い形で社員同士をつなげていくか、ということの実験を繰り返し行っていたんです。そこでの体験を生かして、プロノイアグループでは「未来創造事業」と名付けたコンサルティング事業を行うようになりました。ちなみにプロノイアというのはギリシャ語で「先読み」、「先見」という意味です。
 プロノイアの後はさらに、元リクルートのパートナーと、モティファイという別の会社を立ち上げました。ここでは人材育成プログラムの提供などを通じて、企業のよりよい環境づくりを支援しています。それからもう一つ、21歳の大学生の女の子が社長をつとめる意欲的なベンチャー、Hand-Cに投資していまして、まったく新しい学校を作る予定でいます。教育、これが3つめの軸ですね。
 この3つの事業の掛け合わせで、僕は今、世界にイノベーションをもたらすことに挑戦しています。個人的なミッションもあって、それは「誰もが自己実現できる世界をつくること」です。

 それから活動の軸の4つめは、情報発信です。本を出版したり、講演をしたりしています。本はたくさん出していますから、ぜひみなさんも“デジタリスト”として、アマゾン・ドット・シーオー・ドット・ジェーピーからお買い上げください(笑)

「氷の収穫業界」を潰した破壊的イノベーション

 では改めて、ここでみなさんを挑発しましょう。「Are You Ready To Get Fired?」。この言葉の意味がわかりますか?“デジタリスト”なら、これがわからないとまずいですよ。
 これは、デジタルを通じて、いかにグローバルな市場を戦っていくのか?という問いかけです。英語の意味を直訳すれば、「もうクビになる準備はできたのか?覚悟は決まっているのか?」です。

 その話をする上で、共有しておきたい歴史的エピソードがあります。みなさんは、かつて「氷の収穫」という業界がこの世界にあったことを知っていますか?簡単に言えば、寒いところで氷を切り出し、暖かい地方に売るビジネスです。20世紀の頭までは、非常に儲かる業界だったようです。

 この業界の人々は、働く上で作業の効率化をちゃんと進めていました。ところが、大きなことを見逃していたんです。彼らは、自分たちのすぐお隣で、“氷の工場”ができあがっていたことに気づかなかった。それが何かわかりますか?

 ……そう、冷蔵庫です。これによって、「氷の収穫」業界は潰れました。まったく違う業界で作られていたテクノロジーが、破壊的イノベーションとなってしまったわけです。

 他業種の生み出したテクノロジーが、別の業界を潰してしまう。これは今、あらゆる業界で起こっていることです。こういうことが起こるまでに昔は平均30年くらいかかっていたけれど、今は比べ物にならないくらいそのサイクルが速いということを、みなさんは直視しなければなりません。

 例えばみなさんもご存知のAirbnb。この会社が今、ホテル業界で一番時価総額が高い会社だということをご存知ですか?創業したのが2008年。それからわずか数年の間に、業界のジャイアント企業だったハイアットホテルを抜いてしまったんですよ!

 なぜそんなことができるのか。テクノロジーを利用しまくっているからです。リアルタイムで世界中から顧客のデータを集めて、分析して、グローバルな動きがすぐできるように体制を整えている。ホテルのメンテナンスのコストもかからないし、固定財産を持つ必要もない。

 そんなAirbnbの可能性に、ハイアットの人々は長らく気づいていなかったと思います。氷の収穫者たちが、冷蔵庫の存在に気づかなかったように。

 そして今、こうしたディスラプティブ・イノベーションが起こらない業界はありません。少なくとも僕は思いつかないです。危機感は感じていただけましたか?

ユニコーン企業が持つ5つの特徴

 Airbnbはいわゆるユニコーン企業(未上場のスタートアップで、評価額10億ドル以上のテクノロジー企業)です。ユニコーンは世界中に260社あって、そのうち半分がアメリカ、あとは中国やインドに多く、日本には今たった1社、Preferred Networksがあるだけです。どうして日本にはユニコーン企業が少ないんでしょう?ユニコーン企業にはどんな特徴があるのか、わかりますか?

 僕が思うに、ユニコーン企業には5つの特徴があります。
 一つは、その企業のコンセプトが「一見愚かなアイディア」であること。Airbnbの、ユーザーがお互いを泊め合うなんていうアイデアは、最初のうちは突飛なものだと思われていました。あのFacebookだって、周りからさんざんバカにされていたんです。「なんで自分の顔の個人情報や写真なんか、わざわざWebにアップしなきゃいけないんだ」と。でも、その結果はこの通りです。

 AirbnbもFacebookも、実は同じことをしています。「マネタイズせずに」、ユーザーの「新しい行動パターン」をつくっているんです。GoogleやInstagramだってそうですよね?最初は「お金は取らないからやってみて」という形でサービスを提供して、大勢のユーザーに新しい行動をとらせた。

 利用者が膨大な人数になったら、そこでようやくBtoBのビジネスに乗り出します。巨大なコミュニティがあれば、「競争率が高いマーケット」でも戦えます。Airbnbはホテル業界だし、GoogleやInstagramはマーケティング。Facebookも、実際の競合はソーシャルメディア企業ではなくメディア、つまりテレビやラジオですからね。いずれも巨大な業界ですが、彼らはちゃんと勝っている。

 最後に重要なのが、「業界の経験がない創業者」という条件です。これはつまり、ユニコーン企業を生み出す人は、「業界の常識」にとらわれないということです。僕もいろんな企業の人とお話して、30年も40年も同じ業界で働いてきた人は、ほとんどが業界の常識に従って動いていると感じます。そういう人が、新しい動きをするのは難しいのです。

滅びていく常識と、これからの常識

 みなさんにはできれば、業界の常識を捨てて、頭を柔らかくして未来のことを考えてほしいと思います。そのために、これまでの常識の何が今の時代には通用しなくなっているか、これからの常識はどうあるべきかをお話ししましょう。

 みなさんも、今がもう「ものづくり」の時代でないことは理解されていると思います。今、時代に求められているのは「仕組みづくり」です。それが「ものづくり」主体だった昭和の時代とは大きく違うところ。それを前提とすると、ビジネスのゴールや望ましいあり方も、これまでの常識とはがらりと変わります。

 例えば、昔は最大のゴールになり得た「儲ける」ということですら、今は力を持ちません。なぜなら、利己主義より利他主義のビジネスの方が支持され、成功する時代だからです。そしてそのためには、人にいいものを提供していこうという奉仕の姿勢や、社会課題への意識がなければいけない。ただ人を喜ばすだけでなく、今ある大きな問題を解決していくという態度を打ち出していかなければ、フラットな、民衆化されたマーケットの中で、大勢の信頼を育むことはできないんです。
 信頼が大切だからこそ、組織のオープン度も問われていくことになります。クローズドな組織の中で、トップダウン式の意思決定がなされる、なんて時代は終わりました。これからの組織は、他者、コミュニティ、社会とオープンにつながっていかなければなりません。要は、組織は「枠」ではなく「軸」になっていくんです。会社という枠の中に人が入ってきて定年まで勤める……ということではなくて、会社という軸を使って、その人が社会で何をするかが大切なわけです。

 だから、良いリーダー像だって変わります。ピラミッドの頂点に経営者がいて、その下に累々と社員が積まれている、という組織構造も終わり。これからの経営者に求められるのは、みんながファンになれるようなミッションやビジョンを打ち立てること、「エンプロイー・エクスペリエンス」、つまり「いかに優秀な社員に、いい体験を提供していくか」を考えて、実践していくことです。

 まだまだ続きますよ(笑)。計画主義ももう終わりです。テクノロジーによる変化が速すぎるので、のんびり計画を立てたり、準備をしたりしている暇がないんです。みんなで学習しながら走るのがこれからの時代の常識です。

 だから、一つの仕事に習熟したマネージャーがいて、その下に同じ仕事を勉強中の部下がいて……なんてマネージメントの形も現代には合いません。自分たちの事業に必要なことを見極めて、社内外のリソース配分や、テクノロジーの導入を考えていくポートフォリオマーネジャーの動きの方が大切になります。

 若い社員との付き合い方だって変えるべきです。これまでは、いかに部下を言う通りに動くように育てるかが大切だったかもしれません。でもこれからは違います。彼らに対して提供するべきなのは心理的安全性。それによって、彼らのポテンシャルを引き出していくことです。

 これからのビジネスにイノベーションは必須です。組織のすべての人間が、毎日のビジネスで自発的にイノベーションを起こせるようになったら、とてつもない力になると思いませんか。

デジタリストが、自分に投げかけるべき問い

 組織に所属しているみなさん、以下の質問を自分に投げかけてみてください。自分が今、どんな環境にいるのかを認識する質問です。
  1. 周りの人に、自分の青臭い夢を語ることができるか?
  2. ジャストアイデアで、思ったことをすぐに発言できているか?
  3. 上司や部下と、1対1のコミュニケーションをとれているか?
  4. 社外のコミュニティに参加することが推奨されているか?
 いろんな答えがあると思います。そこで自己認識したら、次はそんな状況において何があれば、何をすれば──どのようなテクノロジーを導入し、どこを自動化すれば組織のイノベーションにつながるのかを具体的に考えてみましょう。この問いは、どんな組織にどんな人材がいて、毎日毎瞬、どのような動き方をしていればこの世界に新しいことが起こるのか、を考えることにも至るはずです。

 テクノロジーは、人間から仕事を奪うためではなく、人間にしかない欲求や思いやり、感謝の力をより生かすものです。私たち人間が世界に新しい価値をもたらすために、これからどんな組織、人材、常識が必要になるのでしょうか?“デジタリスト”であるみなさんには、ぜひそこを考えていただきたいと思います。


小池 みき


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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