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Innovators 公開日: 2018.05.31

【CDOが描く社会】米国流で保険事業の超越狙う SOMPO楢崎CDO

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「保険にとどまらず『安心・安全・健康』をテーマとするサービス企業へと変わっていきたい」。そうした思いを持つSOMPOホールディングスは、東京と米シリコンバレーに「SOMPO Digital Lab」を2016年4月に開設した。狙いはもちろん、デジタル変革を推進し、新たな事業基盤を築いていくこと。本格的な変革に踏み出すべく、16年5月に外部からCDO(最高デジタル責任者)として迎えられたのが楢崎浩一氏である。グループCDOの同氏に、CDOの役割と心構えについて聞いた。

──新しい価値を生み出すために、具体的に何をするのでしょうか。

楢崎 変革には大きく2つの柱があります。持続的イノベーションと破壊的イノベーションです。持続的イノベーションは、既存のサービスを改良し、質の向上を図ることです。顧客との接点を増やして、よりきめ細かくニーズに対応します。

 破壊的イノベーションでは、これまでのビジネスとは全く異なるサービスを開発します。イメージとしては、顧客の生活を「安心・安全・健康」のテーマパークにしてしまうようなものです。従来の保険は、事故などが起こったときに補償するものですから、いわばマイナスをゼロにするもの。テーマパークは違います。新しい経験ができ、人生に喜びや楽しみをプラスしていける場です。

 デジタルはツールでしかありませんが、これからはデジタルのない世界は考えられません。既にスマートフォンやクラウドが当たり前になっています。そしてデジタルがつくり出す世界は、これからも大きく変化するでしょう。そうした進化を前提に事業を考えなければいけません。サービスが変化しても、その提供は事業部が担うわけですが、事業部の横には必ずデジタル担当の部署が必要になります。
SOMPOホールディングスでグループCDOを務める楢崎浩一氏(撮影:新関雅士)
── 保険ビジネスを超えた、人生のテーマパークづくり。そのアイデア創出などには、どのように取り組まれていますか。

楢崎 3つの方法を使い分けています。1つは自分たちで作り出す方法です。消費者は本当に欲しいものに気がついていないことが多い。ですから、ニーズを探るよりもむしろシーズを集めて、何ができるのかを消費者に提示していくわけです。

 例えば、東京とシリコンバレーに設立した「SOMPO Digital Lab」でPoC(概念実証)を重ねて、成功と失敗を繰り返しながらシーズを集めています。そのために、東京とシリコンバレーだけでなく世界中に10拠点くらいまでラボをつくりたいと考えています。また、データサイエンティストを養成する目的で、「ジーズアカデミーTOKYO」と共同で「Data Science BOOTCAMP」を開設しました。これによってシーズをつくり出す人材を社内に持つことができます。

 次の方法はM&A(合併・買収)です。既にシーズやノウハウを持っている専門企業があるのであれば、買収して手に入れるのが最も効率がいいからです。時間を圧倒的に節約できる。3番目の方法は他の企業との協業です。エクセレントカンパニーと世界観を共有して、同じ目的に向かって事業をつくり出すことも、自社にないものを手に入れる有効な方法です。

── 将来、SOMPOはどのようなサービスを提供するのでしょうか。

楢崎 12年間シリコンバレーに住んでいて、多くの成功者を見てきました。最先端のビジネスに触れる機会も多くありました。やはり米国は新しいビジネスモデルを生み出すことにたけています。その米国の動きを見ていれば分かることですが、ビジネスも私生活もあらゆる分野にすべて人工知能(AI)とクラウド、ロボティクスが導入されていくでしょう。キーボードは必要なくなり、ボイスエージェントで「風呂」と言えば、家に帰ったタイミングで風呂が沸いている。体にチップを貼れば、すべてのバイタルデータを測定できてしまうようになる。そんな世界がすぐそこに来ています。

 そういう前提から逆算して、SOMPOは「安心・安全・健康」を軸に顧客に価値を提供していきます。金融業は最大のソフトウエア産業だと考えています。金融業はいらなくなると言う人もいますが、そんなことはありません。価値の兌換(だかん)という機能を最大限に生かせば、大きな価値を生み出すポテンシャルを持っています。安心して暮らせて、楽しい経験ができ、人生が豊かになる。保険業はその根幹を支える産業になるでしょう。
── CDOの仕事について教えてください。

楢崎 社長の桜田(謙悟)からは「5年くらい時間をやるから好きにやれ」と言われています。そういう意味では、非常に恵まれた環境です。5年の間、とにかく挑戦することだと考えています。

 CDOに求められるのは、デジタルの世界が将来どうなるかを描き、それを見据えた新規事業を始めることです。新規事業を立ち上げるには投資も必要です。そのためにシリコンバレーのベンチャーキャピタルに専用のファンドをつくって、投資できる環境を整えました。CDOの権限で直接投資できる額も増やしました。

 新しく事業を始めるわけですから、とりあえずは勝手にやって、うまくいったら乗っかってくれと社内では言っています。

── CDOとして働く上での心構えを教えてください。

楢崎 入社する際に、「金融のことは何も分からない」と言ったら、「金融のプロは社内にいくらでもいる。それより彼らにできないことをしてほしい」と言われました。それで、非常にやりやすくなりました。金融にどっぷりつかった人には見えていない世界。だけど間違いなくやってくる社会に向けて、必要なビジネスをやりたいと思っています。その世界に賛同いただけないなら“クビ”にしてくれと言っています。

── 御社だけでなく他社でも、これからCDOを置こうと考える企業が増えていくと思います。どのような点に気をつけたらいいでしょうか。

楢崎 CDOを置く上での注意点は3つあります。第1は、CDOは社外から採用すること。社内の人では見えない、あるいはできないことをやらなければいけないわけですから、社内の既存人材には向きません。外部から人を採用して、新しい価値観や仕事の仕方を導入してもらうほうがいい。もちろん、その下についた人がまねをしていけば、将来は社内からCDOが出てくる可能性はあります。そうやって社内の人材が育つまでは、外部から採用すべきです。駄目なら辞めてもらえばいいのです。

 第2は、日本の大企業で勤務した経験がある人を採用することです。大企業には大企業のルールがあります。政治的な力関係やその対応も理解している必要があります。それを分かっていないと、大企業でCDOはできません。

 第3は、社内外を問わずに人を連れて来られる人です。CDOが1人で頑張っても、できることは限られます。優秀な人を引っ張ってきて自分の周りに配置できるCDOでないと、デジタル変革を断行できません。

 では、人を連れてくるとはどういう能力が必要か。それは、将来のビジョンを語り、ここに来たら何ができるかを提示することです。優秀な人材ほど給料ではなく、何ができるかを重視します。CDOはそれに応えなければなりません。

── CDOのKPI(重要業績評価指標)は何ですか。

楢崎 非常に難しい質問ですね。新規事業の立ち上げは失敗が多いですからね。それでもチャレンジすることに価値があるわけですが。

 私は、正しい方向に向かっていれば、収益はおのずとついてくると考えています。コストセンターの意識では成功しません。だから、BS(貸借対照表)とP/L(損益計算書)の責任を持つことにしました。そうすることで、KPIを「見える化」しようとしています。これもCDOの役割の一つといえるでしょう。

 KPIとは違いますが、会社を変革するにあたっての志を示せるかどうかも重要ですね。社内から見れば、変革を推進するCDOは形づくられたものを壊す「壊し屋」のようなものです。本気で取り組んでいる姿勢を示し、哲学を語れるくらいでないと、人はついてきてくれません。

── 経営資源の中で一番重要なものは何でしょうか。

楢崎 人・モノ・金・時間・データという経営資源の中で最大の鍵といえるのが“人”です。だが、それが最も足りていない。理想は、映画の「ミッション:インポッシブル」に登場するようなプロ集団です。

 メンバーに求めたいのは、失敗を経験しているということです。例えばシリコンバレーでスタートアップを経験した人には、そういう人材が多い。米国ではジョブホップは当たり前で、2~3年で次の会社へ移ることも珍しくありません。自分を高く売るすべを知っているし、失敗を経験している人も多くいます。失敗を恐れず、好きにやれる人材を育成していきたいと思います。
この記事は日経BP総研 クリーンテック ラボの研究員が執筆し、日本経済新聞電子版のテクノロジーコラム「CDOが描く社会」に掲載したものの転載です(本稿の初出:2017年11月7日)。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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