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Innovators 公開日: 2018.11.13

イノベーションは多様な人材を生かしてこそ──ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(前編)

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変化が激しさを増すデジタル社会で成果を生み出せる組織と働き方とは。

 「ホワイトカラーの生産性が低い」「従業員のモチベーションが低い」「イノベーションが生まれない」……。ほぼどの業界からも、こうした声が盛んに聞こえてくる。逆に、このこと自体に異を唱える声は極めて少ない。誰もが、今の日本企業の課題だと感じているわけだ。

 いつごろから、これが当たり前のようになったのだろうか。かつては日本でも、いくつもの企業が、消費者にとっての新しい価値を生み出し、提供してきた。そのために新たな価値づくりにチャレンジする姿勢もあった。失敗を恐れなかったわけではないが、それでも果敢に挑戦する企業があったからこそ、日本は急激な経済成長を遂げた。

 ところが今は、全く様子が違う。新しい価値を生み出さなければならないという危機感は誰にもある。しかし、失敗のリスクを恐れるあまり、前に進めない。何もしないことのリスクには目をつむり、社内で失敗を責められないことを優先する。そこを乗り越え、なんとか挑戦し始めても、「3年以内に結果を出せ」「儲からないならやめてしまえ」といった論調で、可能性の芽を摘んでしまう。

 その一方で、バブル崩壊、リーマンショックなどの経験もあって、多くの日本企業では従業員の人口ピラミッドがいびつになり、昇進・昇格や昇給も遠のいた。もはや、昇進・昇格は大半の企業人にとって魅力ではなく、モチベーションアップの原動力にはなりにくい。

 とはいえ、変化や競争がますます激しくなるデジタル社会。このままでいいはずがない。業界の外から、考えても見なかった新しい価値を引っさげて、ディスラプターはやってくる。ガートナーが先般調査した結果では、日本企業の半数近くが、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)のような企業による“侵略”に不安を抱いている。

 日本企業あるいは、そこで働く人々は何を見誤り、何を変えていけばいいのか。問題の根本は、組織の在り方と働き方、人や組織を機能させるマネージメントにある。Googleアジアパシフィックで人材育成に携わり、現在はプロノイア・グループCEOを務めるピョートル・フェリクス・グジバチ氏に、今の日本企業の課題と解決策について聞いた。

あなたは上司に本音を話せますか?

── 今の働き方、あるいは組織の在り方、日本の企業って、なかなかイノベーションが生み出せないとか、モチベーションが上がらない人がいるとかいろいろ問題があります。どこに根差しているとお考えでしょうか。

ピョートル氏 いくつか理由がありますが、大きな理由は2つです。1つめは、心理的安全性がないこと。つまり、チームや部署、上司との間で、お互いに信頼し、それぞれを尊重する関係性ができていないために、自己開示できないわけです。

 次に、コミュニケーションとその明確な構造、役割やゴール設定が足りないことが挙げられます。だから関係性が不明確になるんですね。

 例えば今年、facebookで、自分が上司に本音をいうべきか、本音が言えない場合はなぜ言えないのかを調査しました。300人ほどの方が回答してくれましたが、そのうち38%が「上司に本音が言えない」と回答していました。関係性が不明確で自己開示できず、自分らしく仕事ができないという方が4割もいるわけです。

 これを組織作りの面からみると、マネージャーの役割が果たされていないということになります。マネージメントとは何か、マネージャーの役割は何かということが、きちんと理解されていないと言ってもいいでしょう。本来のマネージャーの役割は、部下の役割とミッション、目標を明確にして、黙って見ていても業務が進行するようにしてあげることです。それが理解できていないし、実践できていない。

マネージャーの振る舞いがイノベーション創出のカギに

 よく、プレイングマネージャーという言葉を使うことがありますね。でも、それって実は、とりあえず自分がプレーヤーとして働いていて、忙しくなったから後輩をサポートでつけて、さらに次の後輩が来て、また次の後輩が来て、そうして4人でやっているというケースが多いんですね。つまりは4人が同じ仕事をしている。裏を返すと、マネージャーが機能していないわけです。これを解決しない組織には、イノベーションを生み出すことは困難です。

── マネージャーがイノベーションを生み出すうえでキーパーソンになる、と考えていいのでしょうか。

ピョートル氏 そうです。

 先日、日本企業でがんばっているイノベーターを招いてパネルディスカッションをやったんですが、その内容にヒントがあります。パネリストは日本の比較的大手の企業で既に実績を出している20~30代の若手です。

 そこで、彼らがよくぶつかる課題について話したんですが、パネリストの一人が、普通に部署内で新しいことを提案してもイノベーションを起こせないというんです。自分のマネージャーを飛び越して、マネージャーのマネージャー、さらにはその上に直接話をしないとダメだと。

 マネージャーの役割は、個人の育成や成長、チーム作り、さらにチームのパフォーマンスを引き出すためのコーディネーションです。いかにチームを作って、そこから最大限の結果、効果を生み出すかは、マネージメントにかかっているわけです。ですから、縦割りが強い、マネージメントが弱い会社では、上にアイデアがあがらない状態になってしまう。

 ある電機メーカーの若手の方が、新卒3年目の女性社員の例を話してくれました。彼女がマネージャーに言われたのは、「誰もやったことのないことをやるな」「前例がないからそれはやっちゃだめ」「あなたの仕事は決まってるから、誰もやったことがないことはやめよう」。信じられますか?それでイノベーションが起こせると?誰もが知っている超大手の企業ですよ?会社のメッセージとしてイノベーションをうたってもいるのに。

── それって、築いてきたものを壊したくないという、いわゆるイノベーションのジレンマのような話ですよね。それで違和感がないということは、日本企業の多くが、守りの状況に陥って、その環境に慣れてしまったということなんでしょうか。

ピョートル氏 おっしゃる通りです。80年代までは日系企業はイノベーションを起こしてきました。典型的なのは自動車業界ですよね。海外進出して、がんばってアメリカの自動車業界とも闘った。大きくて高い車より、小さくて安くて、燃費もよく故障が少ない車のほうがいいと。

 ただ、経済成長が進む中で、だんだん、そういった意識が薄れました。市場を守ろうという気持ちが膨らみ、それを優先するようになった。そうすると、同じ業界の隣の会社しか見なくなりますよね。それらを否定して新しいムーブメントになるようなことは、あまり考えない。消費者が本当に求めているものとか、しかたなく受け入れているだけのものとか、そういったことが見えなくなるわけです。

横並びから脱却し、真逆を目指そう

 違う分野になりますけど、家電量販店を見ても、そういう問題点がうかがえます。家電量販店って、もちろん規模にもよりますが、セクションごとに100個ぐらいの商品が置かれているところが多いでしょう。でも、それは消費者にとってみると多すぎる。全部みて買うのでは疲れてしまう。逆に数を減らして、もっと使いやすくしたほうがいいでしょう。代わりにデジタル化に力をいれて、シンプルにしていくことを考えるべきです。

 Apple やGoogleは、まさに最低限の機能を決めてやっていくんですよ。日本の電機メーカーは次々に機能を追加して、多機能すぎて使いにくいリモコンみたいなものを作ってしまいがちです。本来は、そんなにボタンは必要ない。「隣の会社が出しているから、うちも」という考えはやめた方がいい。真逆に行くべきです。

 最近仲良くしている、山梨県勝沼のMgbs(マグヴィズ)という会社があります。そこは元々半導体の会社でした。ファミリービジネスで、社長がワイン好きで、という会社です。ただ、半導体事業が徐々にシュリンクして、それでは会社を続けていけないと気づいた。で、ベトナムの会社と契約しました。

 工場内のラインの設備を全部ベトナムに送って、その会社に半導体を作ってもらうようにしたんです。代わりに、自分が持ってる工場では、その設備を生かしてワイナリーを始めました。半導体工場は清潔さが必要です。湿度などの管理もきちんとできる。その強みをワイナリーに生かしたわけです。日本での全部のビジネスをワイナリーに移行しただけではなく、いろいろな研究も始めました。例えばワインのタイプをわかりやすくする方法。デザイナーを招いて、ワインの見せ方、Japanese Wineというブランドをいかに立ち上げるかを考えました。フランスのシャンパーニュのようなイメージを作るのなら、ブランド名は「Yamanashi」にしよう、とかです。そんなふうに、横並びで他社と競争するのではなくて、それとは真逆に行くのがイノベーターなんです。

思考のダイバーシティがイノベーションを生む

── マネージャーは、そういうアイデアをうまく引き出す、あるいは、もっと良くなるように手助けする役割を担うと。

ピョートル氏 イノベーションは思考のダイバーシティから生まれます。多様性のあるチーム・組織を作るとなると、率直に言って面倒です。人種、性別、年齢、職種が多様になると、それはコミュニケーションしにくくなります。ただ、見方を変えると、そのメンバーから出てくるアイデアは、それぞれ質が違ってくるわけです。

 私たちプロノイアグループの話をすると、手がけている「未来創造」の事業を進めるにあたっては、必ず、お客様に相当する相手と一緒にチームを組みます。一方的なコンサルティングのようなことではなく、「共に創る」んですね。ですから「お客様」ではなくて「パートナー企業」と呼びます。先程のMgbsもパートナー企業の1社です。こうすると、パートナーの選び方でいろいろな掛け合わせができます。例えばMgbsの未来を考えるのに、別の企業の人たちに入ってもらったりします。

 こういうチームで大切なのはプロジェクトがうまくいくかどうかで、うまくいっても失敗しても、個人の評価はしません。プロジェクトを進めるべきかやめるべきか、プロジェクトを評価するだけです。それも、誰か一人が判断するのではなくて、リーダーと他のメンバーで一緒に決めていきます。

 それから、プロジェクトにはたいてい、ペアワークという考え方を入れます。リーダーならリーダーという一つの役割を、必ず2人一組で、ブレインストーミングをしながらこなしていきます。すると、それぞれのアイデアが「1+1=2」ではなく「+α」になる。「これちょっとやばいね」とか「私疲れちゃったから手伝ってね」というように、リスク管理や負荷・キャパシティの管理にもなります。Aさんが違うプロジェクトで忙しくなったら、Bさんから「これだとやばいですよ、みんな手伝って」とう具合にエスカレーションもできます。

 思考のダイバーシティを受け入れ、そこからチームメンバーのパフォーマンスを最大限に引き出す。このプロジェクトの考え方に基づけば、役割の捉え方が変わる。そうして働き方を変えれば、スピーディな動きが生まれ、イノベーションにつながっていく。

 プロジェクトオーナーなら、個人の成果を管理し、それを評価することよりも、それぞれのパフォーマンスを最大限引き出すよう目標とやるべき作業を設定し、プロジェクトを成功に導くことに腐心することになる。こうした組織についての考え方の変革こそが、デジタル社会では一層重要になるわけだ。次回は、組織の考え方について、さらに聞きます。(次回につづく


河井 保博=日経BP総研
(撮影:湯浅 亨)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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