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Innovators 公開日: 2018.11.27

リアルな世界の課題をデジタル技術で解決したい──Code for Japan関 治之氏(前編)

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オープンソースのデジタル技術を使って社会課題を解決する──。Code for Japan参加メンバーの想いとは。

 オープンソースコミュニティの成果を社会に実装し、行政や市民生活が抱える課題を解決する。日本の“シビックテック”の先駆けである「Code for Japan」は、今年で活動開始から5年目を迎えた。

 ITの力で社会を良くしていきたい――その根源にあるパッションやモチベーションはどんなものなのか。一般社団法人 コード・フォー・ジャパン 代表理事の関治之氏に、誕生のきっかけから今後のビジョンまでを聞いた。今回はその第1弾。

── Code for Japanを立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。

 シビックテック、いわゆる社会課題解決の領域を意識し始めたターニングポイントは、2011年の東日本大震災です。私はずっとコンピュータエンジニアをやってきて、その当時はヤフーで働いていました。そして震災直後、デジタルで作ったさまざまなサービスを活用して震災で困っている人たちを助けることはできないものかと、強く思ったのです。

 そのとき、以前から親しくしていたオープンソースコミュニティの仲間たちと話し合い、「sinsai.info」を立ち上げました。これは震災情報を地図上にマッピングしていくサイトで、すべてオープンソースの仕組みを使いました。それが東日本大震災当日のこと。いろいろな人たちの協力のもと、とてつもない速さで完成したのです。サイトを立ち上げてからはTwitterで仲間を募り、さらに輪が広がっていろいろな人たちがデータを収集して書き込んでくれました。それからデマのチェックをする人などが出てきたりして、自律分散的に活動の輪が広がっていったのです。

 今のコンピュータ技術には数多くのオープンソース技術が採用されていますが、目に見えない部分が多いですよね。しかし、あのときはオープンソースの力がリアルな社会生活に適用され、その瞬間に立ち会えました。眼の前で困っている人の役に立っている手応えを得られたのです。

 そしてもう一つ、被災者に対して継続的に貢献していきたいという思いもありました。実際、あちらこちらの被災地に足を運んでハッカソンを行ったり、行政と話し合いを重ねたりといった活動を続けてきました。それらがCode for Japan設立のきっかけになっています。

── Code for Japanは2013年に活動を開始しましたが、スタートにあたって手本とした組織はありましたか。

 米国の「Code for America」です。実際に彼らに会いに行き、「君たちのような活動を日本でやってみたい」と相談したところ、「もちろん」と背中を押してくれました。彼らもシビックテックが日本でどのように受け入れられるかを知りたいし、逆にいろいろと教えてほしいと。

 Code for XXのコミュニティは米国やドイツ、パキスタン、ルーマニア、ブラジル、そしてカメルーンやモロッコなど世界各地に存在し、グローバルで展開しています。国際的な結びつきによって、お互いに学び合う体制ができているのが特徴です。

 2018年10月には初めての世界会議となる「Code for All Summit」がルーマニアのブカレストで開催され、各国からエンジニアが集まりました。実践的な分科会が多く、ボランティアの側面が大きい活動において「Burn Out(燃え尽き)をどうやって防ぐのか」といったテーマなどはとても興味深いものでした。
── 日本の全国各地にもCode for XXが存在します。Code for Japanとそれぞれの関係は?

 いま、北は北海道から南は沖縄まで86カ所のコミュニティがあって、我々は「Brigade(ブリゲード)」と呼んでいます。誤解しないでいただきたいんですが、それぞれに上下関係はありません。コミュニティは地域ごとに独立した団体で、Code for Japanがネットワーキングし、対等に分散しているイメージです。全体が集まる「Code for Japan Summit」は毎年ホストの都市を変えていて、今年は新潟市で開催しました。

 各地域のコミュニティは自然発生的に生まれます。活動は数人いれば始められますから。札幌市や千葉市のような政令指定都市のほか、富山県南砺市、福井県鯖江市などの地方都市にもコミュニティがあります。傾向として多いのは、ある地域で影響力が強いCode for XXがあって、その周辺に発生するケースです。例えば北陸地域では、Code for Japanより先に金沢市で「Code for Kanazawa」が立ち上がったこともあって、他の都市にもコミュニティが立ち上がりました。地域間の連携があったりして、リアルイベントに参加して触発される機会が多いからでしょう。
── これまでの活動ではどのような成果がありますか。

 代表例はCode for Kanazawaのゴミ収集情報サービスや、「Code for Sapporo」の保育園マップなどです。保育園マップは全国20カ所ほどに広がっていて、「Code for Chiba」のように独自に改善を加えてより使いやすくしようとする地域もあります。

 最近では自治体や事業者と一緒にデータを作ったり、ワークショップを開催したりといった活動が多くなってきました。代表例は「GTFS」(標準的なバス情報フォーマット)です。

 ご存知のように、地方のバス路線は疲弊しています。もともと赤字路線が多い上に鉄道に比べると規模が小さい事業者が多いため、システム投資できないのが実情です。しかし、時刻表や路線図のデータがGTFSになっていないと、Googleや交通アプリから検索できませんし、多言語化にも対応できません。そこで各地のCode for XXの人たちが事業者らと一緒になってデータを変換したり、ITのアドバイスをしたりしています。

 公共交通は専門分野の知識が必要ですから、交通の情報化に精通している東京大学の伊藤昌毅先生が旗振り役となっています。Code for Japanでは、そうしたキーパーソンを各地のCode for XXに紹介するハブのような役割を果たしています。

 その流れから「Code for 公共交通」のような動きが出てきて、ほかの地域にも広げようとしているところです。必ずしもCode forの後ろにつくのは地域名でなくてもいい。課題領域そのものでもいいのです。こうした特化型のチームには、猫の殺処分をなくす活動を続ける「Code for Cat」などがあります。


次回後編は、Code for Japanの将来展望などについて聞いていく。


小口 正貴=スプール
(撮影:淺田 創)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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