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Innovators 公開日: 2021.09.29

逆張り発想の「名入れカレンダー」で国内シェアNo.1に DXによる徹底した仕組み化で急成長

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 「名入れカレンダー」とは、企業名がプリントされた紙製のカレンダーである。なぜレガシーな業界にベンチャーが参入し、しかも創業から10年足らずで名入れカレンダーシェアNo.1(※)の座をを得るに至ったのか。※名入れカレンダーECサイト 東京商工リサーチ調べ(調査期間2020年4月〜2021年3月)

【画像】レスタス
 レスタスは年平均の売り上げが140%以上の急成長を続けているベンチャー企業。その原動力は、徹底されたシステム化・仕組み化にあった。受注はもちろん、印刷工場への発注もすべてオンラインで完結。集客はウェブマーケティングのみで行われ、営業メンバーはゼロ。これまでFAX文化が当たり前だった業界で、自前のシステムにより、人手のあまり必要ない仕組みを作り上げている。まさに、レガシー産業のDXだ。

 その仕組み化・システム化の秘密はいったいどのようなものなのだろうか。「伸びる会社は必ず仕組み化ができています」とは今回、話を伺ったレスタス創業代表・大脇晋氏だ。そのスマート過ぎる仕組み化の発想法に迫った。

誰もが反対した名入れカレンダーに、「これはイケる!」

 そもそもなぜ「名入れカレンダー」に目を付けたのだろうか。そのヒントは、大脇氏の会社員時代にあった。彼はかつてリクルートで、求人広告を企業に販売していた。MVPに3度も輝いた敏腕営業だったのである。担当エリアは大阪。大阪にはいくつかの地場産業があり、そのうちの一つが紙のカレンダーだった。
【画像】レスタス
 「なんで今さら紙のカレンダーなんだ、と普通は思いますよね。東京の人には分からないかもしれません。『Google カレンダーがあるからいいじゃないか』と。実は、名入れカレンダーって、地方ではまだまだ使われているんです。企業同士のウェットなつながりが重視されている地域では、名入れカレンダーが“与信機能“を果たしていたりする。つまり『おたくの会社は元気そうですね』という挨拶状みたいな役割を果たしているんです」

 大脇氏は、2011年の東日本大震災を機にリクルートを退社後、起業した。いくつもの起業アイデアがあった中で、Eコマースの事業に絞り込んだ。Eコマースの王者であるAmazonや楽天が苦手なことは何だろうかと考えた。

 「彼らの弱点は、オーダーメイド品なんですね。商品に合わせて入力フォームを作る必要がありますから、動線設計が大変なんです。それならオーダーメイド品をやろう。……名入れカレンダーはどうだろうかと、ピンと来ました」

 大脇氏は営業時代に、カレンダーの関連会社をたくさん見てきたそうだ。そのため、カレンダーへの需要や業界の構造、流通などを理解していた。しかし、「名入れカレンダーで起業する」と周囲の先輩経営者たちに相談すると、皆が皆「カレンダーみたいな斜陽産業なんて上手くいかないから止めたほうがいい」と助言してきたという。「これはイケる! と思いましたね。なぜなら先輩方は参入してこないと分かりましたから。完全に逆張り発想です」と豪快に笑う。
【画像】レスタス
 もう一つ、起業の際に特に意識したのは「仕組み化」だという。これも、営業時代に多くの企業を見てきた中で感じていたことだそうだ。

 「600名ほどの社長とお付き合いして見てきた中で、成功する会社と失敗する会社を分けていたのはやはり仕組み化です。成功しない会社は“人頼み”で、成功する企業は必ず“仕組み化・システム化”ができていました」

因数分解をどこまでできているか

 「仕組み化しましょう」とはよく耳にする言葉ではある。では具体的に「仕組み化」を大脇氏はどのようにとらえているのだろうか。
【画像】レスタス
 「『仕組み化ができている』とは要するに『きちんと因数分解ができている』状態なんです。事業の重要指標を因数分解して、例えば営業の人数、広告宣伝費、システム開発費、カスタマーサクセスの人数……などに分けられるとします。その上で、売り上げを出すにはどこの指標を上げればいいのかを自分たちで正しく理解しているかどうか。

 営業が2人だけいれば済むのか、広告宣伝費を1億円から10億円に引き上げれば売り上げが上がっていくのか。これらを明確に定義できている状態を仕組み化と私は呼んでいます」

 Y(売り上げ)=nx+bとした場合、Yを最大化させるのは営業の人数なのか、拠点数なのか、広告宣伝費なのか。あるいは、Yそのものが売り上げではなく、「利益率」の方を見なければいけない場合も当然ある。

 「何を重要指数とするかは業種や企業の現状、あるいは時代によってまったく異なります。いずれにせよ、因数分解の見極めができていないと、事業は上手くいきません。もし結果が出ず『人に投資したのに、売り上げがあまり上がらなかった』となれば、仕組み化ができていないと私なら判断します」

 さらに大脇氏は「不確定要素が多かったり、属人的になっていたりすると、上手くいかない」と続ける。

 「ある拠点ではスーパー営業支店長のAさんがいて、その人が売上の7割を占めているとする。Aさんがいれば成功するけど、いなければ、しない。これは仕組み化ができていません。

 Bさんであろうとも、Cさん、Dさんでも一定以上の売上が立つ状態にできているかどうか。提供できるサービスのクオリティーと均質性を保てるかが仕組み化のポイントです」

 大脇氏自身が営業出身であるにも関わらず、レスタスには営業が1人もいない。営業力に頼らないのは、ある意味で自己否定である。仕組み化とは、経営者視点の極みとも言えそうだ。

自前でシステムを組まないと事業スピードを出せない

 ここまで聞くとすべてが順風満帆に進んできたように聞こえるかもしれない。しかし創業当初は「システム化」が難航し、苦労が絶えなかったという。ここでいうシステム化とは文字通り、オンライン決済のシステムのことだ。

 「始めは外注して、レスタスの受発注システムを構築していました。しかしそれでは上手くいかなかったんです。特に会社を立ち上げたばかりのフェーズでは、システムを細かく修正してアップデートしたい。使いにくい部分をお客様からご指摘いただいた際に、迅速に対応したい。

 ところが外注していると、それらの対応に都度、見積もりを取り、価格の交渉をし、スケジュールを引いて実装して……。このサイクルではスピーディーに改善が進みません。特にレスタスの名入れカレンダーのような、季節ごとに売り上げが変動する季節商売には向きませんでした。まさに重要指標を見誤り、因数分解ができていませんでした。スピード感は提供価値に直結します。それで、自社で開発するシステムのチームをイチから構築することにしたんです」

 システムができ上がった現在では、例えば午前中に来た案件を午後には会議し、翌日にはエンジニアチームへ改修の打診、翌々日には実装――そんな高速運用サイクルが可能になっているという。

 一方で避けて通れないのが「組織の仕組み化」だ。

 「売り上げが伸びていく際に、販管費の比率を下げていくことがプロジェクトリーダーや代表の頭の中にないと、高コスト体質になってしまい、いつまでも儲かりません。

 売り上げが5億円のときに販管費が2億円だとします。では、売り上げが10億円に増えたときに販管費を1億円増の3億円までに抑えるにはどうすれば良いか。そこも仕組み化・自動化を考える必要がある。その視点が抜けていては、会社が強くなっていかない。この考えは創業時から意識していました。

 売り上げとともに変動するような変動固定費はできるだけ抑えます。例えばオペレーション作業は、電話応答などのテンプレ化を徹底し、タスクが発生しやすい時間帯をデータ解析して、人員配置を過不足ないように最適化しています」

レガシー企業と接する中で感じる非効率

 2019年に社名を「名入れ製作所」から「レスタス(=less taskに由来)」に変更。現在はレガシー企業に対する「営業DXカンパニー」へと業態変容しつつある。
【画像】レスタス
 「大手企業と資本提携をする中で感じるのは、レガシーな企業はむちゃくちゃ非効率が多いことです。いまだにFAXや電話注文が行われている。ひどいケースでは、留守番電へ注文を入れていて、それをオペレーターが聴きながら文字起こししている、なんて世界がまだまだあるんです。

 大手の企業からレスタスへ出向に来てもらうと、もう、みなさん目からウロコが落ちまくって帰っていきます。こんなに少ない人数で運用し、訪問営業なし、交通費と販管費無しでインサイドセールスのメンバーがサクッと1000万円を売り上げていたりしますから。加えて、開発や経営企画、マーケティング、ファイナンスなどの売り上げを左右する重要ポジションには上場企業出身のメンバーを集めるなど、人件費率を高くしています。ここも、因数分解した結果ですね。

 一方で、レガシーな企業は基本的にフィールドセールスのメンバーが多くいて、紙の資料を大量に使って、コミュニケーションのミスも多い。これでは儲からないです。どの企業もみなさん、同じことで困ってらっしゃる。100億円も売っているのにまったく利益が出ていなかったりする。なぜなら無駄な行程が多く、タスクに比して人の数が異常に多過ぎる。これではサービスや商品を売っても売っても、利益は出ません」

 ただし、と大脇氏は加える。

 「オンラインで完結できる自前のシステムを構築するには、そこそこの規模の企業でないと費用感として難しいです。また、仮に資金とノウハウを捻出できても、そのプロジェクトを牽引できるようなリテラシーのある人がなかなかいません。場合によっては悪徳な業者に騙され、完成しないまま使えないシステムばかりが作られてしまう。

 私たちがDX支援に入れば、担当者は1名にでき、その企業の商品を全国津々浦々まで売っていくことができるようになる。さまざまな情報や手法をご提供し、DXが確実に進んでいく。その証拠に、私たちと取引を始めてから、どの企業も儲かるようになっています」

 一方で、DXがここ数年のトレンドワードになっている中で「DXが上手くいかない」という担当者の嘆きもよく耳にする。企業によってはさまざまな制約があるなかで、どのようにDXを進めればいいのだろうか。

 「一般化はできませんが、私から一つお伝えできるのは、小さい課題から確実にDXを進めていくことですね。プロジェクトの当初は予算も少ないでしょうから、大きなところから始めずに、まずはきちんと成果の出るところをやりきる順番がいいでしょう。これはもちろん、ビジネス全般にも言えることです。

 私たちも、名入れカレンダーという本当にニッチなマーケットのDXから始めました。あまり大風呂敷を広げても時間とお金ばかりがかかってしまいます。既存のやり方に慣れていて変化を嫌がる社員もいるでしょう。であれば、まずはとにかくニッチでかつ尖っているところから手を付けていくのがいちばんいいのかもしれません。

 一つでも成果が出れば、そこを皮切りに次の予算が取れたり、協力者が増えたりする。どれだけ小さな成功体験を重ねてやりきるかが大事だと思います」



 仕組み化・システム化の鬼とも言える大脇氏。レスタスの仕組みが広がり、日本中から無駄なタスクがどんどん減ることで、笑顔になれる人がもっと増えることを望む。

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