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Innovators 公開日: 2019.02.13

小型衛星・小型ロケットの大量生産時代が始まる──宇宙ビジネスコンサルタント 大貫美鈴氏(後編)

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小型の通信衛星の事業計画を合わせると2万4000機以上にも。

 宇宙ビジネスコンサルタント、大貫美鈴氏に聞く2019年注目の宇宙ビジネス。前編では宇宙旅行をはじめとする有人宇宙輸送について聞きました。後半は、民間初の月着陸を行うのはどこ?という話題から。「小型衛星・小型ロケットの大量生産時代が始まる」という発言も飛び出します。宇宙の大量生産時代、その狙いとは?訪れる未来は?

月面一番乗りを果たす民間企業は、イスラエルから!?

──今回は、月面着陸についてまずお聞きしたいと思います。お正月には中国の嫦娥4号が月の裏側に人類初の着陸を実現しました。インドも月面着陸を2019年に実現すると言われていますね。一方、気になるのが民間の月面着陸です。どこが一番乗りを果たすでしょうか?

大貫 イスラエルのスペースIL、ドイツのPTサイエンティスツ、米国のムーンエクスプレスが月に2019年に着陸すると発表し、既に打ち上げロケットも調達しています。その中で月に民間一番乗りをするのは、スペースILではないかと言われていますね。2月18日以降に月にタイムカプセルを輸送します。

──いずれもGoogleがスポンサーになった民間月面レースGoogle Lunar X Prizeに参戦していましたね。スペースILとムーンエクスプレスはファイナリスト5チームに入っていました。

大貫 はい。Google Lunar X Prizeは2018年3月までの期限に勝者は出なかったものの、宇宙に挑戦するプレイヤーが増え、競い合うことによって技術の向上が加速し、投資も促進され、その結果、月面の経済的価値が上がりました。レースが掲げた目標は達成されていたと言えます。
月面に民間初の着陸をすると注目される、スペースILの着陸機べレシート(提供:スペースIL)
──イスラエルが月を目指すとは正直、意外な感じがしましたが。

大貫 イスラエルはロケットを持ち人工衛星も打ち上げていますし、宇宙飛行士も2003年に打ち上げられています。軍事の側面もあるので民間用途とのデュアルユースや、セキュリティ、AI(人工知能)、サイバーなどデジタリゼーションがすごく進んでいます。ITの技術を使った宇宙ベンチャーが活発なんですよね。

──ドイツチームの狙いは?

大貫 PTサイエンティスツはアウディやボーダフォンなど非宇宙企業が協力し、自分たちの技術が宇宙で使えないか検証したい、さらに宇宙で使うことで技術革新を起こしたいという狙いがあります。例えばアウディは全輪駆動技術などを提供しています。月面で車を走らせる技術実証、ボーダフォンであれば将来の月面の通信や宇宙間通信に使えないかと。

──なるほど、では米国の民間企業の狙いは?

大貫 ムーンエクスプレスには既に月に物資を運びたいというお客さんがいます。2020年に月に着陸する予定です。Google Lunar X Prizeでファイナリストに選ばれたアストロボティックは、既に月に物資を運んでほしいというお客さんを何十社も持っていて、最初のミッションでは12社と契約しています。

──物資輸送の需要が民間にもあるわけですね。NASA(米宇宙航空局)は昨年、10年間で26億ドルの契約金で月面に物資を運ぶ商業輸送サービス(CLPS)を発表し、9チームが選ばれましたね。

大貫 CLPSにはGoogle Lunar X Prizeの有望企業だったアストロボティクスやムーンエクスプレスとともに、米国外から日本のispaceやインドのチームインダスが米企業とチームを組んで選ばれました。CLPSでは3段階で月への輸送能力を上げていきます。まずは100kgまでの小型、次に500kg~1tの中型、最終的には5~6tの大型で、有人輸送につながる輸送手段をNASAは民間の力を借りて手に入れようとしています。同時に、月面に物を送る市場を作っていくのがNASAのやり方ですね。

──なるほど、今年、月面に着陸する予定の民間3社はどのロケットで打ち上げますか?

大貫 スペースILやPTサイエンティスツはスペースXのファルコン9ロケットを、ムーンエクスプレスはロケットラボのエレクトロンロケットを調達しています。ただ、ロケットラボは今、小型衛星の打ち上げ需要が大きくて、小型衛星打ち上げが優先になりがちです。そのためムーンエクスプレスは他社とも契約を結び、どのロケットでも打ち上げられるようにしているようです。
2018年12月16日にNASAミッションの13個の小型衛星を搭載し打ち上げられたロケットラボのエレクトロンロケット(提供:ロケットラボ、Trevor Mahlmann)

小型衛星の大量製造時代が始まる「衛星ブロードバンド元年」

──ロケットラボの話題が出てきたので、小型ロケットによる小型衛星打ち上げに話題を移したいと思います。ロケットラボはニュージーランドに発射場がある米国の企業ですね

大貫 はい。2018年1月に商業衛星の打ち上げに成功し、11月、12月と連続打ち上げ成功を収めています。140億円もの投資を得て、今年末までには打ち上げ頻度を2週間に1機に上げる予定です。数十億円の投資を受けてオークランドに新設した工場は、年間120機のロケットを製造できます。
ロケットラボの製造工場(提供:ロケットラボ)
──年間120機!日本では年に10機のロケット打ち上げがあるかどうか、ですよね。

大貫 今や小型衛星と小型ロケットの宇宙開発では、ついに大量製造によるスケールメリット(規模の経済)がもたらされようとしています。米国のワンウェブの小型通信衛星はフロリダの製造工場で1週間に15衛星、つまり1日3衛星の製造が可能です。数年に1回、人工衛星が打ち上がっていた時代は、衛星の製造は先端技術の「匠の世界」だったわけですが、時代が変わってきていますね。

──ワンウェブはソフトバンクの孫さんも出資されたことで話題になりましたね。

大貫 ソフトバンクやコカ・コーラ、ヴァージングループ、エアバスなどが出資し、戦略的パートナーシップを結んでいます。今のところ今年3月にソユーズロケットで最初の打ち上げで6衛星、2回目からは一気に約30機を高度約1200㎞に打ち上げ予定です。

──それほどたくさん打ち上げる目的は?

大貫 衛星を使って、世界中の人たちにインターネット、しかもブロードバンドの高速通信環境を提供することです。ネット時代と言われますが地球上の60%の人々はインターネット接続がスムーズにできないと言われています。

──デジタル・デバイド、つまり情報格差で教育やビジネスの差が生まれてしまうと。

大貫 はい。ワンウェブの衛星は700機体制、バックアップを含めると900機体制になる予定です。通信は社会インフラであり、マーケットインしたら持続可能にする責任がありますから。超小型衛星網を宇宙に作れば、地上に大きなアンテナを立てたり、ケーブルをひいたりしなくても済みます。衛星の小型化高性能化と同時に、超小型フェーズドアレイアンテナなど地上の技術革新も進んだおかげで、地球上の隅々までブロードバンド通信環境を実現できるようになったわけです。

──そのブロードバンド衛星通信網がいよいよ打ち上げられるわけですね。では今年は「衛星ブロードバンド元年」と呼んでいい?

大貫 そうですね。ナロウバンドの小型通信衛星については既に打ち上げられていています。ナロウバンドは機械同士で情報をやりとりするM2M、携帯電話の音声、テキストメッセージなどに使えます。ただ5G(第5世代通信)に貢献できるインフラという点ではブロードバンド環境が必要であり、主流と言えるでしょう。ビジネス領域が異なるのです。

──衛星ブロードバンドについては、ワンウェブだけでなくスペースXも「スターリンク」という構想を持っていますね。

大貫 スペースXは実証衛星を2018年2月に打ち上げています。同社は異なるバンド(周波数帯)の衛星を異なる高度に段階的に打ち上げる予定で、第1世代は4425機。第2世代の約7500機についても周波数の申請をFCC(米連邦通信委員会)に出しています。

──両方合わせて1万機を超えるわけですね。

大貫 ボーイングもスタートアップと組んで約3000機の衛星を打ち上げるための申請をFCCに出しています。他にも様々な計画があり、現在、各社の小型の通信衛星の事業計画を足すと2万4000機以上にもなります。
──なるほど、それだけの数の小型衛星を打ち上げる小型ロケットが必要になるわけですね。

大貫 今まで、小型衛星は主衛星の空いたスペースに搭載されていました。でもそれでは打ち上げ時期を選べないし、目的の軌道に到達できないなど制約があります。

──そこで小型ロケットの需要が急増していると?

大貫 そうなんです。需要が世界的にあり、約100社が小型ロケットを開発しているという調査結果があります。そのフロントランナーがロケットラボ、ファイヤフライ、ヴァージンオービット、ベクターです。

──キヤノン電子の衛星もロケットラボのエレクトロンで2019年初頭に打ち上げられますよね。日本では、インタステラーテクノロジズが小型ロケットを開発しています。

大貫 小型衛星の需要は確実にありますから、世界市場の獲得を期待しています。

日本で注目のスタートアップはどこか

──日本の宇宙関連スタートアップについて、どうご覧になっていますか?

大貫 約30社ありますが、特色はロケットから小型衛星、データ利用から宇宙デブリ除去、アンテナのシェアリング、エンタテイメントまで様々な方向のユニークなビジネスモデルを持ち、資金調達ができていることです。世界に約1000社ある宇宙スタートアップの中で数は少ないかもしれませんが、存在感がありますね。

──確かにデブリ除去を行うアストロスケールなど、珍しいかもしれませんね。

大貫 宇宙先進国ならでのスタートアップであり、資金を得て事業を確実に進めています。衛星を運用しデータを受信するアンテナをシェアするサービスを手掛ける、インフォステラというスタートアップのビジネスモデルにはハッとして、「これはすごい」と思いました。宇宙開発の実績があるからこそ、人工流れ星のALEも含めて、世界の後追いではなく、日本ならではのアイディアで事業化するスタートアップが出てきているのだと思います。

──大貫さんも有人宇宙機のスタートアップ「SPACE WALKER」に関わられてますね

大貫 SPACEWALKERは一昨年立ち上がったスタートアップで、私は外部取締役を務めています。実は宇宙事業の中で、輸送機は事業化が非常に難しいんです。日本でも過去に有人の宇宙機を目指した国家プロジェクトがありました。そのプロジェクトを担ったIHIや川崎重工、三菱重工業の技術を継承し、JAXA(宇宙航空開発研究機構)の協力を得て有人を目指した再使用型宇宙輸送技術を事業化していきます。過去のレガシーを未来につなぐプロジェクトです。
日本初のスペースプレーンによる有人飛行を目指すSPACE WALKERイメージイラスト(提供:SPACE WALKER)
SPACEWALKERのメンバー。技術者OBと他業種の事業系の若手がタッグを組んでいる(提供:SPACEWALKER)
──今年、動きはありますか?

大貫 国内で再使用型有翼ロケット実験機を飛ばして誘導や姿勢制御、アビオニクスなどのデータを取得しますが、その後、米国のモハベ砂漠で実験を行おうと調整が始まっています。

──それは楽しみですね。期待しています!


林 公代=サイエンスライター
(撮影:湯浅 亨)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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