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Innovators 公開日: 2019.09.04

2021年、誰もが「バーチャルヒューマンエージェント」をつくれる未来がやってくる

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「誰もがAIアシスタントを持つ時代」は、「誰もがAIアシスタントを作る時代」になりそうだ。

前編からのつづき)

 渋谷を拠点にする異色のエンジニア集団・クーガーは、PC、スマートフォン、音声アシスタントの「次のインタフェース」として、バーチャルヒューマンエージェント(VHA)の開発を手掛けている。その最大の特徴は、顔と身体をもち、まるで人間のように感情表現を行うことだ。最終的には、映画『ブレードランナー 2049』に登場する「ジョイ」のようなAIアシスタントをつくることを目指すという。

 1人1台のバーチャルAIアシスタントを持つようになるという構想は、一見すると遠い未来の、SFのような話に聞こえるかもしれない。しかし、クーガーの共同創業者 兼 CEOの石井敦氏は、VHAの身近な応用方法から社会に普及させる道筋までをしっかりと思い描いている。

 ジョイの登場は、2049年まで待たなくていいのかもしれない。

バーチャルヒューマンのロードマップ

 VHAを社会へ普及させていくために、石井氏は3つの用途から実装を始めようとしている。

 1つめは「エンターテインメント」。『Pokemon GO』のようなARゲームやライブパフォーマンスがこれに当たる。クーガーは2018年、KDDIとともにスマートグラスで初音ミクなどのバーチャルキャラクターとコミュニケーションできる技術を開発したが、こうした「AR技術×VHA」を使ったコンテンツは今後ますます増えていくことだろう。

 2つめは「人型のデジタルサイネージ」。同社はすでにシンガポールのコワーキングスペースにVHAによる受付係を展開しているほか、電通国際情報サービスおよび京王電鉄と協力して、ショッピングモールでデジタルサイネージに投影された等身大のVHAを稼働させた実績を持つ。会社やイベントでのコミュニケーション係として、VHAが活躍する日も近いかもしれない。

 そして3つめが「空間」である。VHAが使用される空間としてクーガーが特に着目しているのが、クルマの中のスペースだ。人間が運転することがなくなった未来において、行き先を提案・案内してくれるコンシェルジュとして、あるいは病院に行くまでの間に問診を済ませてくれるような診療アシスタントとして、VHAが車内のコミュニケーション相手を担うようになると石井氏は考えている。
 これらの用途に使われるVHA「Rachel」を開発すると同時にクーガーが取り組んでいるのが、VHAのマーケットプレイス、石井氏の言葉を借りれば「バーチャルヒューマンのApp Store」をつくることである。

 それが実現すれば、クーガーによって提供されるVHAのSDK(ソフトウェア開発キット)をデザイナーやエンジニア、AIデベロッパーが使うことで、世界中の誰もがオリジナルのVHAを制作・販売できるような場が生まれることになる。現在誰もがスマートフォンアプリの開発に携わることができるように、VHA開発がオープンになることで、年齢や性別、性格も多種多様なVHAがつくられることになるだろう。個人や組織はマーケットプレイスからお気に入りのVHAを購入し、それぞれの目的のために使えるようになる。同社は、2019年8月から、このSDKのクローズドベータの提供を開始した。

 VHAのマーケットプレイスは2021年までに開始する予定だと石井氏は言う。現在1人1台スマートフォンを持っているのが当たり前になったように、1人1台のVHAを持つのが当たり前になる時代は、意外と早くやってくるかもしれない。

「人間らしさ」の謎を解くこと

 取材時に見せてくれたVHAのロードマップには書かれていなかったが、石井には、新しいインタフェースとしてのVHAをつくることよりも、そのマーケットプレイスをつくることよりも、もっと壮大な目標がある。それはVHAをつくることで、「人間らしさ」の謎を解くことだ。

「ニューラルネットワークのように脳の構造を理解していくことを積み上げていっても、『人間とは何か』を理解するまでにはものすごい時間がかかるんじゃないかと思っています。それに対してぼくらのアプローチは、まずは人らしいバーチャルエージェントを一通りつくったうえで、『どうすればもっと人らしく感じるだろう?』ということを考えながらその中身や動きを探求していくというものです」

「そうしてできたVHAに対して、『生きているみたい』『人らしいな』と感じることができれば、そのVHAのなかには人の要素がある。人のように感じられるものがつくれれば、結果的にそこには『人らしさ』とは何か、何が人と人のコミュニケーションをつくっているのか、といった謎を解くためのヒントが含まれていると思うんです」

 Rachelが既にして「人らしさ」を持っていることを示す証として、石井氏は韓国のメディアが取材に訪れたときのエピソードを教えてくれた。Rachelが映る大きなモニターが置かれたオフィスでカメラマンが撮影の準備をしているとき、彼は自然とスクリーンに映るRachelに手を振り始めたという。クーガーのつくるVHAが顔と身体をもっているからこそ、そしてそこに生命性を見出してしまうからこそ、人はついコミュニケーションをとりたくなってしまうのだろう。

「これがただの無機質なソフトウェアだったら、手を振ろうなんてことは思わないでしょう」と石井氏は言う。「こうした新しいコミュニケーションを生み出す作用があるだけでも、VHAの顔や身体をつくっている意味がある。人間らしいVHAをつくることで、人間がいちばんわかっていない存在である人間の謎がわかるかもしれません。そこを、切り開きたいと思っています」


宮本 裕人
(人物撮影:黑田 菜月)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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