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Innovators 公開日: 2018.09.20

電動車いすが玄関口までお出迎え、MaaS事業に進出──WHILL CEO 杉江 理氏

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基本コンセプトは「パーソナルモビリティ」。彼らが描くMaaSの姿とは。

パーソナルモビリティの利用イメージ(写真提供:WHILL)
 車いす。そう聞くと、たいていは意匠性の薄い武骨な姿を思い浮かべるのではないだろうか。そんな車いすの概念を覆したのがWHILLである。2011年、東京モーターショーにコンセプトモデルを展示したのを皮切りに “かっこいい電動車いす”を世に送り出してきた。コンセプトは、福祉用の車いすというよりも、デザイン性と操作性に優れた一人乗りの車両(パーソナルモビリティ)だ。このコンセプトが受けて、その販売先を日本のみならず、北米や欧州に広げている。

 そんな同社が2018年9月18日、海外展開の加速と、MaaS(Mobility as a Service)事業によるサービスの拡大を目指し、50億円の資金調達を完了したと発表した。目指しているのは、最適な移動手段を組み合わせて、出発地点から目的地まで一貫した移動手段を提供するサービス。例えば、タクシーと電車、バスなどを相互に連携させ、ユーザーをスムーズに目的地まで送り届ける。この一部にWHILLを入れようというわけだ。

 同社代表取締役 兼 CEOの杉江理氏に、今回の資金調達の狙いと、同社の戦略を聞いた。
── MaaSを実現する場合、電車、バス、タクシーなど様々なモビリティを組み合わせることになります。その中でWHILLというパーソナルモビリティ(一人乗りの車両)はどのような位置付けになるでしょうか。

 いまは、公共交通システムとして歩道の上を走り、人を運べる車両はありません。このため、例えばバスを降りた後に目的の場所までは歩かなければならないといった場合が多々あります。ところが、高齢者を中心に、このわずか数百メートルを歩くことが難しい人が少なくありません。ここにWHILLがあれば、おおよそすべての人が動けるようになるだろうと考えています。

 目指したいのは、歩道版のウーバーといったイメージのサービスです。ウーバーに代表される配車サービスはスマートフォンで呼び出すと、車が迎えに来てくれて、行きたいところに連れていってくれますよね。それに似たサービスを歩道を低速で走るモビリティで実現しようということです。スマホアプリなどからWHILLを呼び出すと、自動的に自分がいるところまで迎えに来てくれたり、指定した目的地まで連れていってくれるたりするようになるというのが、私たちの最終ゴールです。
── 具体的には、どのような場所で、どのように使われることを想定しているのでしょうか。

 大きなビジョンとしては、室内室外に限らず、すべての歩道領域で自動運転するパーソナルモビリティを目指しますが、最初はB to Bの場所で導入していきます。空港やアミューズメントパークなどの限られた空間で、施設の運営会社などに向けてサービスを提供します。もちろん、モビリティを利用するのは、そうした施設の利用者です。
 空港やアミューズメントパークでは、サービスとして利用者に車いすを貸し出しています。しかし、行きたいところに連れて行ってもらうには、車いすを押す人手が必要です。高齢化が進んでいくと、常備している車いすの数が増えるだけでなく、必要なスタッフの人手も増え、経費は膨らんでいきます。この点、車いすが自律走行すれば、このスタッフのコストが不要になります。今のところ、空港などでは無料のサービスを想定しています。また、アミューズメントパークなど有料で車いすを貸し出している場所についても、それぞれのビジネスモデルに応じた運営方法を検討していきたいと思います。

 私たちが考えているMaaSシステムの全貌については、2019年1月に開催されるエレクトロニクス関連の展示会「CES 2019」で発表する予定です。

── 正式にサービスを始める時期はいつ頃になるのでしょうか。

 東京オリンピックが開催される2020年までにサービスインすることを目指しています。規制や安全の観点から、自動運転車よりも圧倒的に早く社会実装が進むと考えています。自動車と電動車いすでは、走行速度が全然違います。このため、自動運転の実現に向けた難易度も、かなり異なります。自動車であれば、何十メートルも先まで検知しなければなりませんが、電動車いすであれば数メートルの範囲で大丈夫です。そのような観点からも、屋外でのパーソナルモビリティ利用は歩道から始まっていくと思います。

── 歩道を走ることについて、道路交通法の規制への対応はどうなっているのでしょう?

 現在販売しているWHILLは、既に道路交通法の規制をクリアしていますから、歩行者として歩道を走行できます。ただ、将来的に自動運転技術などを追加した場合は、その限りではありません。ですから、まずは施設のオーナーの責任で導入できる商業施設などの私有地を対象にスタートして、それから公道を含めたすべての歩道領域に進出していきます。
 もちろん、公道を含めたすべての歩道領域に進出したいと考えていますが、法規制に関して(規制当局と)積極的に戦う気はありません。むしろ法規制があるなら、そこではやらない方がいいという考えです。日本以外でできる国があるなら、まずはそこで導入していきます。法規制がなく、明確なニーズがあるところでやっていくということです。

── でも、すべての国でも歩道領域に行きたいですよね。

 法規制の問題は時間とともに解決されていくと思っています。WHILLが普及すれば、既存のインフラに働きかけることができますから。

 WHILLが走れる道と走れない道は明らかです。例えば、空港であればスーツケースの人が多いから、階段のある場所には、スロープがありますよね。それと同じで、WHILLのようなモビリティがたくさん走るようになると、こうしたモビリティが走りやすいように道が変わっていくのではないかと考えています。建築やスマートシティ関係の方とも交流が生まれています。そのような方々と新しい世界を作っていけると感じています。

 今でもセグウェイや電動スクーターなどはあります。WHILLは、さらに屋内にも入っていきます。こういった仕組みの広がりとともに、歩道を移動する物体は増えていくでしょうね。

── ところでWHILLのユーザーの対象として、常々「すべての人」という話をされていますよね。健常者を含めたユーザーにWHILLが広がっていくシナリオをどのように描いていますか。

 直近ですべての人が利用するということは、まだないでしょう。でも、例えば、お母さんが小さな子どもとアミューズメントパークに行ったときに使うのなら、便利だし、楽しいですよね。将来的には、通勤で使うというところまではいかなくても、既存の車いすユーザーのものという小さな枠は超えていくと思っています。結局、人間は便利で楽しいものであれば、乗りますよね。
(写真提供:WHILL)
── WHILLの資産を整理すると、モビリティーというハードウエアと、それを制御するソフトウエアがあります。今後ウーバーのようにサービスだけを提供する存在になるという考えはないのでしょうか。つまりWHILLが構築したMaaSのプラットフォームに他社の車両がぶら下がるイメージです。

 ないとは言い切れません。「すべての人の移動を楽しくスマートにする」という私たちのミッションの達成のためには、ハードウエアだけでなく、サービスとして提供する必要性もあります。全くこだわりはなくて、移動が便利になるのであれば、なんでもいいと思っています。

 ただ、私たちがパーソナルモビリティを作らなくなるということはありませんね。

 電動車いすの世界で、実際にハードウエアとソフトウエアをどちらも持っている会社は、私たち以外にありません。これはとても大きな強みです。これまでも坂道で自動ブレーキがかかるなどの機体の制御や、スマートフォンからの操作などのソフト技術は、自前で開発してきました。今後は、自動停止機能や、自動運転機能、追従走行機能などの実装も、パートナー企業と協力しながら研究開発を進めていく予定です。

──パートナー企業と研究開発を進めるとのことですが、2017年12月には研究開発用の「WHILLモデルCR」を販売されましたね。その意図はどこにあるのでしょうか。

 研修開発モデルが欲しいという声が多数あったので、モデルCRの販売を開始しました。WHILLのモデルCをベースにしていて、パソコンやラズベリーパイとRS-232Cで接続し、これらから信号を送ると動かせます。この仕組みを使って自動運転機能を作れたり、音声認識機能を付けられたりします。主に大学や研究者の方々に購入いただいています。そうした人たちが自由に使ってくれて、モデルCRベースの車両が世に出てくれば、それはWHILLのPRになります。そうすることで、モビリティのイメージも変わっていくはずです。

 モデルCRについては、開発用プラットフォームとしていろいろなことをオープンにしていきます。これをみんなが使い始めたら、それはそれでいいと思っているんです。全部オープンにして、プラットフォームだけ用意して、みんなが勝手にやってくというのは、グーグルのAndroidやクラウドサービスもそうだと思うんですよね。この領域においては、私たちとしては、メンテナンスや、デバイス提供でビジネスをします。
── 最近、WHILLストアでファッションアイテムの取り扱いも始められましたね。

 取り扱っているのは、セレクトショップを運営するユナイテッドアローズが、041(オーフォアワン)というプロジェクトとコラボした新レーベルの商品です。彼らが展開するのは、インクルーシブデザインの洋服です。「全員が着られる洋服」を意味していて、すべての人に心地いい服づくりがコンセプトです。このコンセプトに、私たちの開発コンセプトに通じるものを感じて、連携したいと考えました。

 私たちも最終的に目指しているのは、世界中、どんな状態の人であれ、「すべての人の移動を楽しくスマートにする」ということです。また、私たちの事業は「100m先のコンビニに行くのをあきらめる」という一人の車いすユーザーの声から始まりましたが、041の商品も一人の障害者の声から生まれた洋服です。

 かっこいいプロダクトを作るというところだけではなく、こうした考え方に賛同している意思を示すことは、ブランディングの観点で重要だと考えています。

 WHILLはグッドデザイン大賞をはじめ、世界的なデザイン賞であるRed Dot Design AwardやiF Design Awardなど多くのアワードを受賞しています。そんな電動車いすは他にありません。東京モーターショーに出しているような会社も、私たち以外にありません。私たちが作りたいのは電動車いすではなくて、一人乗りの歩道を走れる乗りものです。だから、そのイメージをできるだけ多くの人に伝えたい。福祉用の車いすのイメージから脱却して、一人乗りのモビリティとしての利用シーンや利用者の幅を広げていきたいと考えています。


近藤 佑紀=日経BP総研
(撮影:湯浅 亨)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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