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Innovators 公開日: 2023.07.19

アフターコロナで 変化したメタバースの存在意義とは「バーチャル丸の内」の変遷に見るリアル×メタバースの可能性

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AIの話題が連日世間をにぎわせているが、その中で近年、多岐にわたる展開を見せている先端技術がある。それが「メタバース」だ。

©近鉄不動産 ©Cluster,Inc.
 国内大手であるクラスター株式会社は、スマートフォンやPC、VR機器などからバーチャル空間に集って遊べる独自のメタバースプラットフォーム「cluster(クラスター)」を提供し、それを活用したBtoB向けのイベント制作・運営事業などで大きな収益を上げている。
【画像】クラスター株式会社
 今回は、ビジネスプランニング本部エンタープライズ事業部マネージャー 亀谷拓史(かめがい・たくし)氏に、2020年以前の課題から、現実世界に人の流れが戻ってきた後で変化したメタバースの意義と可能性を伺った。

1ミリも違わぬ設計図通りの丸の内をメタバース空間に再現 

 バーチャル上で東京・丸の内の街を体験できる「バーチャル丸の内」は、2021年2月にcluster上で公開された。ユーザーは、cluster のアカウントとアバターを作れば、細部まで再現された丸の内のメタバース内を自由に散策 でき、他のユーザーとの交流を楽しめる 。
バーチャル丸の内フェスの様子。ユーザー参加型で投票なども行われており、メタバースならではのインタラクティブさが伺える
 公開初日には「よしもと有楽町シアター」とコラボレーションしたオープニングイベント「バーチャル丸の内フェス」が開催された。チケットを購入すればリアルとバーチャルのどちらにも参加が可能なイベントだった。亀谷氏は「バーチャル丸の内のプロジェクトは、新型コロナウイルス感染症の影響をきっかけに立ち上がりました」と振り返る。

 亀谷氏「デジタル技術を使って丸の内の街や建物のアセットを活用したいと三菱地所様からご要望を受けて始まりました。クラスターに声をかけていただいた理由は、当社が常設型のプラットフォームを持っていること、しかも法人向けのイベントを開催してきた多数の実績があったことなどです。また、企画から運営までを一気通貫に行える企業はグローバルな視点で見ても珍しいので、それらの理由でご期待を寄せていただきました」

 一般的には企画と制作、プラットフォーマーはそれぞれ別の企業が分業して担当するケースが多い。その点でクラスター社は競合他社にない強みをもっている。

 公開当初は、ロックダウンさながらにリアル世界では人があまり外出できない環境下での公開だった。現実の丸の内へ遊びに行きたくても行けない人たち、あるいは遠方在住ゆえに気軽には訪れられない人たち。そんな人々のニーズを汲んだ課題がこのプロジェクトでは設定された。

 それゆえ初期段階でのゴールは、デジタルツイン(リアル世界をバーチャル上で双子のように再現する技術)に則り、丸の内ビルディングの設計図通りに1ミリも違わずリアルの街を再現することだった。

 公開から約1年半が経過し、空間のアップデートや新しい要素の構築、実証実験的なイベントの開催などを重ねてきた。

 新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着き、街に人流が戻り始め、徐々に元の生活様式へと戻りつつある現在。その時流に合わせて、リアル世界と連動したメタバースの企画が増えてきた。

 よりリアル世界との相乗効果が求められるようになった結果、デジタルツインとしてのメタバース空間を、リアルに良い影響を及ぼすフィードバックの場として活用するため、現在はその実証実験と施策が展開されている。

 亀谷氏「アフターコロナといわれる今では、もともと丸の内が好きな人だけでなく、新しく丸の内を知ってもらい、身近に感じてもらうための施策を広げています」

 2022年8月にはバーチャル丸の内に、新たに「仲通りエリア」がオープン。クラスターは「仲通りの1本道」や三菱地所が保有する丸の内ビルディング1階の現実とリンクしたイベントスペース「マルキューブ」から、現実には存在しない「5階待合室」、普段は立ち入りができない屋上に設置した「バー」など、リアルとフィクションが入り混じった唯一無二の空間を制作した 。
松任谷由実氏(ユーミン)とコラボした丸の内仲通りエリアの様子
 同年のクリスマスには歌手の松任谷由実氏(ユーミン)とコラボし、メタバースを通じてユーミンのライブ映像を配信するイベントを開催。同時にリアルの場でもユーミンがライブを行い、プロジェクションマッピングの演出とともにファンを魅了した。この中には、このライブで初めてメタバースを利用した、というユーザーもいたことだろう。

 バーチャルならではの強みとして、人流データやヒートマップでユーザーの動きを可視化できる点が挙げられる。 メタバース空間に展示されている広告ポスターやイベント会場付近の看板など、どの場所に人が滞留しどれくらいの人に見られているのか。その情報を計測・分析できるのもクラスターのメタバースの特徴だ。

 亀谷氏「リアルでもバーチャルでも、人が集まりやすい場所の価値は上がっていきますから、どの時間帯のどの場所がいちばん見られているのかを分析することが重要です。逆に、想定外に人が集まらない場所のデータに基づいて、リアルの街づくりに生かすご提案ができます」  

KPI(重要業績評価指標)は「コミュニケーションの熱量」こそが重要

 イベントの来場者数は数千から数万人規模だというが、いずれにしてもクラスターでは「来場者数」を指標として重視しているわけではない。

 亀谷氏「来場者数よりも、来場者同士が交流して、そこにいけば誰かがいて会話ができる。あるいは、一人でもゆっくりできるような場所づくりを目指しています。一瞬だけ人が押し寄せて盛り上がっても、波が引くように去ってしまっては意味がありません。ユーザー同士のコミュニケーション総量が増えて、どの程度、継続してメタバース空間を楽しんでくれるか。人数よりも余暇 時間の使われ方や交流の濃度そのもののほうが重要です」
イベントではユーザーによるコメントも活発に流れる
 一時的に盛り上がっても、交流が行われるコミュニティが生まれなければ人の流れは途絶えてしまう。その結果、事業として立ち行かなくなったものも過去には数多くあった。そのため、来場者数をKPIに置かず、ユーザーの余暇時間の使い方や質にこだわっているのだ。

 特定のジャンルに強いマイクロインフルエンサーを集め、イベント内でのファシリテーターを担当してもらうなど、いかにコミュニティの起点を作るか、いかにユーザーを定着させていくかといった施策にも注力している。

デジタルもリアルも同じ。熱量の発生場所がマネタイズポイント

 ここまでクラスターの取り組みや事業の考え方について深掘りしてきたが、おそらく読者は「実際にどうマネタイズするのか」が気になっていることだろう。

 リアル空間でのビジネスになぞらえると、広告枠販売や貸し出し、あるいは土地賃貸、レンタルスペースの運営業のマネタイズに近い。メタバース空間におけるデジタルでの運営ノウハウは、クラスターならではの強みで、土地や建物などのアセットを持つ不動産会社や自治体は当然ながら持っていない。

 亀谷氏「例えば、丸の内や渋谷のスクランブル交差点でイベントを行いたい。あるいは商品の販促を行いたい。人が集まる場所でビジネスを行いたいというニーズはリアルもバーチャルも同じです。そのご要望の声に応えてデジタル上の権利を販売する、あるいはレンタルして利用料をいただくのが、当社の法人向けビジネスモデルですね。先述の通り、人が集まる場所のデータに基づいたご提案が可能です。不動産業界に限らずあらゆる分野の企業と協業していますが、リアルのアセットを持ち、デジタルツインを必要としていて、バーチャルで実証実験を行いたいような企業や自治体とは特に親和性が高いと思います」

 法人向けの事業では「データを計測しフィードバックによる提案が行える強み」を生かしながら、展示会や入社式、内定式、社員総会、企業カンファレンスなどで高まっているニーズを受け、今後さらに増やしていく予定だという。 他にも、メタバース内のイベントスペースを有効活用して、イベント開催や運営による収益化も可能だ。イベント来場者へのチケット販売によるマネタイズ方法があるが、実際は物販や、アバター(ユーザーの分身)が身につけるデジタルアイテムなどの販売で利益を得ているという。

 中でも、コンテンツに対して熱量の高い熱狂的なユーザーは、アバターに着せるファッションアイテムや、バーチャル空間に飾るコレクションアイテムなどを求める。この収益がクラスター単体でのマネタイズにつながるのだ。
定期的に開催されている「アバターマーケット」という有志ユーザーによる即売会イベントも盛況。売買はcluster独自の通貨である「クラスターコイン」を通じておこなう
 亀谷氏「前提として、来場者をどんどん増やせば儲かるビジネスは存在しないと考えています。例えば、リアル世界のアイドルのコンサートも入場チケット費からの収益分と開催費用、つまり必要経費や原価はほとんど差がありません。収支はほぼ0円です。その分、ファングッズの物販などで売上を稼いでいたりすると思います」

 クラスターのメタバース内には、アバターやコンテンツ、イベントなどを作っているさまざまなクリエイターが存在し、コミュニティを形成する重要な役割を担っている。

 亀谷氏「メタバース空間においてクリエイターとの共創関係を企業様と一緒に作り上げていく施策は、クラスターにしかできません。熱量の高い人が何度も訪れてくれる空間を創造することで、企業のブランド向上やエンゲージメントが高まることにつながります。また、熱狂が生まれるようなコミュニティを作り運営をしていくことで、顧客企業の売上アップやコアファンの育成につなげていきたいと考えています」

熱量拡大の連鎖で月間10億ユーザーの高みへ

 クラスターは現在、さまざまな領域の企業と協業を果たしている。法人イベントは年間250回以上を開催し、「リアル世界に存在するイベントのニーズはほとんど汲み取って実施しているほどの実績がある」と亀谷氏は胸を張る。

 2023年3月には、現在完成しているビルとしては日本一の高さを誇る、近鉄不動産が運営するビル「あべのハルカス」のリアルとバーチャルを融合した「バーチャルあべのハルカス」がオープン。clusterをベースに構築され、イベントの企画・運営をクラスターが担っている。

 毎週末の土・日曜日にイベントを開催し、さまざまなメディアに取り上げられるなど、大きな反響を得ている。
©近鉄不動産 ©Cluster,Inc.
 世間でのインパクトを増し続けている中で、「目指しているのはMAU(月間利用者数)で10億人」だと亀谷氏は続ける。

 亀谷氏「オンラインゲームのフォートナイトは1日で数千万人、ロブロックスは6500万人 もの利用者がいます。大きなくくりで言えばそれらもメタバースなのですが、あくまで目的がゲームなので、そのゲーム性に会話が影響され、限定される側面があるんですね。クラスター が目指すメタバース空間では、ゲームをやらなくてもいいし、1人でまったりしてもいい。誰もが好きなように過ごせる空間なんです。
実際、バーチャルデートや散歩、あるいはゲーム、ファッションショー、音楽イベントなどが活発に行われています」

 いいコンテンツ制作や社会的にインパクトのあるイベント運営、IP(知的財産)活用の施策を中心に集客を行いつつ、「メタバース内でクリエイターのコンテンツ量がどれだけ増えるか、作ってもらえるか。ユーザーがクリエイターにハマってもらって、クラフト体験をいかに楽しんでもらえるか。その熱量を増やすための施策が今後は大事になってきます」と亀谷氏は強調する。

 clusterでは、熱量の高いユーザーたちがオリジナルのワールド(バーチャル空間)を作成し、触発されたユーザーが新たにワールドを作成して……といったように、コミュニティ内で熱量が連鎖的に拡大している。メタバースは下火になるどころか、その熱量を増し続けていた。

 熱量が生まれ続けるにはいかにユーザーがハマりやすく、クリエイターが創作物を作りやすい空間にできるか、その気持ちよさをどれだけアップデートできるかにかかっているという。人が楽しみに集まり、コミュニケーションが生まれる空間を創造し続ける挑戦は続く。

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