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Innovators 公開日: 2018.06.12

【CDOが描く社会】変革のフロントランナーに 三菱ケミHD・岩野CDO

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三菱ケミカルホールディングス(三菱ケミHD)は、2005年10月に誕生した。連結の従業員数は約7万人、売上高は3兆円を超える大企業だ。化学をベースに「KAITEKI(快適)」を提供する会社を標榜している。実現に向けてデジタル変革は避けて通れない。17年4月に最高デジタル責任者(CDO)に就任した岩野和生氏にCDOの活動内容とその狙いを聞いた。

── 御社におけるCDOのミッションは何ですか。

岩野 デジタルテクノロジーと思想で、会社、業界、社会を変えることです。大きな時代の変化に合わせて企業だけでなく業界全体が変わらなければ、そのうち立ち行かなくなるでしょう。あるいはディスラプター(破壊者)が現れて業界全体をひっくり返してしまうかもしれません。業界が変われば、社会も結果として変わることになります。

 当社は、化学業界におけるデジタルトランスフォーメーションのフロントランナーでなくてはならないと思っています。そのためにも事業モデルも変えていく必要があります。

 具体的には、単なるものづくりだけではなく、サービスと組み合わせて、どのような機能を提供するべきかを考えています。サブスクリプションモデルなどの様々なサービス形態が考えられますが、一方的に事業部に押し付けるだけでは納得してもらえません。事業部と議論を重ね、危機意識や課題を共有しつつ、彼らと一緒に良いものを作り上げていきます。

── サービスを組み合わせるとはどういうことか、もう少し詳しく教えてください。

岩野 例としては、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が著名です。出荷後の航空機エンジンにセンシングの仕組みを設け、故障の予兆を探り、故障するよりも前にメンテナンスすることで、単純に製品を販売するのではなく「故障しないことをコミットする」という価値をサービスとして提供するようになりました。

 化学の世界でも、そうしたサービス化を実現できると考えています。例えば、工場に潤滑油を販売している場合、生産ラインにセンサーを設置して、潤滑油が足りなくなったら足していきます。潤滑油を売るのではなく、工場が常にスムーズに動き続けることをコミットするわけです。

 ただ、こうした新しい価値は、自社の力だけでは生み出せません。当社はサプライチェーンの川上に位置するため、他の企業と連携する必要があります。

 工場の潤滑油であれば、生産ラインに入っている設備のメーカーやそこに装備されるセンサーのメーカー、潤滑油をタイムリーに供給する物流会社などが挙げられます。当然、それぞれの企業は役割に応じて対価を受け取る権利がありますから、価値の配分を決めなければなりません。

 そこには、センサー情報や潤滑油の供給量など、このサービス全体の情報を収集し、常に何が起きているかを管理するプラットフォームが必要になります。このようなプラットフォームの構築をCDOが支援します。まずは会社の中で、このプラットフォームのミニチュア版を作るところから始めます。

── 三菱ケミHDとして何を目指していますか。

岩野 我々のような会社が、変革のフロントランナーとして業界や社会全体に何をしていくのかを考えていく必要があります。それは、時代の流れを考慮し、模範となるものでなければなりません。そうでないと変革につながっていきません。

 例えば、00年代に入ってスマートグリッドやスマートシティーが騒がれて、米国政府がサイバー・フィジカル・システム(CPS)を唱えました。企業を超えて、都市や社会をスマートに機能させようという動きです。しかし結局、10年以上たった現在でも期待通りに進んでいないのが実情です。

 その担い手である企業が自分たちの発想の延長で考えているからいけないのです。社会インフラを変えようとしているのですから、社会全体を考えた思想に基づくべきです。企業が社会の中でどのような機能を発揮し、どのような役割を担うのか、企業と企業を結ぶエコシステムの在り方が問われているといえます。

 社会のデザインに自分たちをどうポジショニングするか。これまでのビジネスの延長では駄目です。ここ数年の行動が、その先の10年を決める重要な時期に来ています。

 幸いなことに、三菱ケミHDにはいくつかアドバンテージがあります。膨大なデータがあること、現場の業務とデータ分析の両者において専門家がいること、多岐にわたる事業を持っていること、そして何より「変革」への強い意志を持っていることです。

 これらのアドバンテージを生かせば、社会のために新しい仕組みを生み出せるし、三菱ケミHDはそういったフロントランナーになる責任があると考えています。
── CDOとして御社の内部にデジタル変革を仕掛けることはありますか。

岩野 化学の世界は、素材の配合設計や化学反応に基づく製造プロセスなどのアナログ的な要素が多く存在します。また、生成した物質が利用者に受け入れられるかどうかも、弾力性や光沢など、人の感性が強く影響するものが多い。

 化学の世界では、アナログ的な要素をデータでとらえ、業務やサプライチェーンに影響を与えることがデジタル変革としての大きな挑戦になります。

 また、ものづくり企業の現場には、「神様」と呼べるような人がいます。そういう人は、運転状況やプロセスのパラメーターなどの数値化された膨大な情報を見て、長年の経験や勘に基づいて瞬時に最適解を下すことができるのです。

 ただ、その最適解は、その人に聞かないと分からないという状態です。そうした感覚を、どうやってデジタル化し、知識・知恵にまで昇華させるかがポイントです。

 さらに、デジタルに対して、経営陣から現場まで全員がある種の肌感覚を持ち、継続してデジタル変革を起こしていけるようなサステイナブルな組織にしたいと思っています。CDOの役割は、そこまで社内にデジタルを浸透させることです。

── CDOをサポートする組織はありますか。

岩野 就任と同時にCDOオフィス(デジタル・トランスフォーメーション・グループ)を設置しました。デジタルトランスフォーメーションを推し進めるCDOオフィスには、精鋭が集まっています。だから社内でも「安心してくれ」と伝えています。どんな戦略コンサルやITベンダーよりも問題の本質を理解していることは間違いありません。

 CDOオフィスが手掛ける仕事は4つのタイプに分けられます。事業部門が進めているプロジェクトをCDOオフィスがアドバイスする「タイプ0」。事業部門とCDOオフィスが共同で解決策を探る「タイプ1」。事業部門の代わりにCDOオフィスが課題の提案を行なう「タイプ2」。業界全体を大きく変えるほどの大掛かりな「タイプ3」。

 CDOに就任したばかりのころは、この比率が10%、50%、20%、20%でしたが、最近は20%、60%、10%、10%とタイプ0とタイプ1の比率が高まっています。それだけ我が社の現場力と期待が強いということです。

── CDOに就任して約1年たちましたね。ここまでを振り返っていかがですか。

岩野 CDOの組織は3分の2が外部から新たに雇用された人たちです。ですから、この1年が勝負でした。仲間だと認めてもらうために何度も現場に足を運び、現場の人たちとブレーンストーミングを重ね、将来どうあるべきかを話し合いました。ようやく最近、一緒のチームであると認識されるようになってきたと思います。

 チームとして認められてからは、問い合わせや相談が多数寄せられるようになりました。その問い合わせを見て、手応えを強く感じています。三菱ケミカルHDという会社には、将来のことを考える風土が隅々まで浸透していると確信しました。


菊池 珠夫=日経BP総研 クリーンテックラボ
(撮影:新関 雅士)
この記事は日経BPクリーンテック研究所の研究員が執筆し、日本経済新聞電子版テクノロジーコラム「CDOが描く社会」に掲載したものの転載です(本稿の初出:2018年5月7日)。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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