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Lifestyle 公開日: 2021.12.21

進むカーオーディオのデジタライゼーション ハーマンが取り組む車内の音作りとは

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 音楽を聴くのは、読書と並んで、最もアナログ的な楽しみといえる。音楽を楽しむ場所はさまざま。例えば車の中。今デジタル技術が、人間の感性に訴えかけるアナログ的な娯楽である音楽再生のクオリティーを、どんどん上げている。

 昔、カーオーディオといえば、ラジオかカセットテープかCDの音源を、車内に置かれた箱型エンクロージャーのスピーカーシステムで再生するものだった。ところが、今はスピーカーの数もチャネルも増え、28チャネル仕様のアンプを3基に、36ものスピーカーを各所に配置なんて例も。三次元の音場をつくる3Dサウンドも多くなってきた。

 カーオーディオのデジタリゼーションの尖兵は、実は大御所ハーマンインターナショナル(以下ハーマン)。音楽好きなら恐らく誰でも知っているJBLや、マークレビンソンといったブランドを傘下に抱え、自動車メーカーと設計の段階から”いい音”作りに取り組んでいる。
いい音作りの要の一つがスピーカーを駆動するアンプリファイア
 そのハーマンの最新の動向を紹介する記者発表が、2021年9月に東京で、日本法人の手によって開催された。

 一般的に、デジタリゼーションが始まったのは、2000 年頃からだそう。iPodがウォークマンに代わるとともに、Bluetooth技術が登場したことで、世界的にオーディオのデジタル化が進行したのと歩を合わせている。

 傘下のブランドが家庭用オーディオ製品にてデジタル技術を採り入れたのとタイミングを同じくして、カーオーディオの分野でも同時進行的にデジタリゼーションが進行した。1971年にベッカーブランドでカーオーディオの分野に参入したハーマンでも、例えば、車内サウンドマネジメントや、コネクティッド技術の開発はこの頃スタートしている。

 東京での記者発表会で、興味深かったのは、同社とトヨタ自動車とのコラボレーションの数々が紹介されたことだ。会場の入口に展示されたのは、今、大きな人気を集める新型トヨタ・ランドクルーザー。

 全長5メートルになんなんとする車体を生かし、車内は広々。しつらえもぜいたくで、まるでラウンジのよう。そこに、14スピーカーと12チャネルのJBLプレミアムサウンドシステムが組み込まれている。かつ、ホームオーディオ機器にも搭載される圧縮音源復元のための「Clari-Fi(クラリファイ)」をはじめとするデジタル技術がふんだんに採用されているのだ。
ランドクルーザーにはJBLプレミアムサウンドシステムが用意される
 ガラスや天井やシートなど、音の反射率が違う素材で構成されている車内での反響速度を計算しながら、最終的に、家庭用のスピーカーシステムと同様に、音源がひとつの音となって耳に届くように設定する。しかも、優れたオーディオは”ここから音が出ている”と特定されないよう設計するというセオリーにも忠実だ。

 おもしろいのは、トヨタ車はこのようにJBL(北米では約8割のトヨタ車にJBLが設定されているとか)である一方、レクサスにはマークレビンソン。単にブランドが異なるだけでなく、音作りのコンセプトの違いを、自動車のこの二つのブランドでも実現している点だ。

 「JBLの音作りのモットーはLoud & Clear(ラウドアンドクリア)といい、ライブ会場のようにフロントから良い音が聞こえてくるように設計します。マークレビンソンは、原音を忠実に再生することにこだわっています。カーオーディオでは、それゆえ、JBLはあえて、左右正面から音楽が聞こえてくるように設計。マークレビンソンは左右後方や天井にもスピーカを積極的に配置し、自然な空間再現をも意識したサウンドです」

 ハーマンインターナショナルのJBLオートモーティブ部門で、主にトヨタ車を担当する片山大朗氏は、取材当日、上記のように説明してくれた。実際、ランドクルーザーに乗り込んで視聴すると、車の柱であるAピラーに埋め込まれたホーンツイーターを活用しつつ、幅広い音域で音楽が再生され、それが、なるほど、家庭でオーディオを楽しむときのように左右から聞こえてくる。
ランドクルーザーのAピラーに設けられたJBLのホーンツイーター
 さらに興味深かったのは、「後席でも試聴をぜひ」と片山氏に促されて、場所を移ってから。後席にいると、音が正面から自分に迫ってくるように聞こえる。それがJBLサウンドの真骨頂とのこと。ドアに埋め込まれたホーンツイーターが”いい仕事”をしてくれているそうだ。
ランドクルーザーの後席用ドアにもJBLのホーンツイーター
 そういえば、JBLは1970年に、米国サンフランシスコの伝説的ジャムバンド、ザ・グレイトフルデッドとともに、コンサート会場でスピーカーを積み上げて圧倒的な音場を作る「ウォールオブサウンド」を開発したメーカーだった。今度は私が好きなデッドの「ダークスター」でも後席で聴いてみたい。

 ザ・グレイトフルデッドの名が出たように、昔の音楽体験を、当時と同等かそれ以上に、クリアで迫力あるサウンドで聴かせてくれるために、デジタライゼーションをはじめ最新の音響技術が活用されているのが、実におもしろいではないか。

 最近のハーマン製品で印象に残っているのは、JBLは前記の通りトヨタのランドクルーザーと、フェラーリのプラグインハイブリッド・スーパースポーツであるSF90ストラダーレで。マークレビンソンはレクサスの新型ESで。さらにもう一つの高級ブランドであるAKGはキャデラックの新型エスカレードで、という具合。大変素晴らしい音楽を再現してくれた。
新しいレクサスESにはマークレビンソンのシステム
キャデラックの新型エスカレードにはAKGの高品質再生システム
 「世界のカーオーディオの市場においてJBLが占めるシェアは75%に達します」。今回の記者会見の場で、日本法人のトム・メッツガー代表取締役社長(President and Representative Director, Japan)は、そう誇らしげに語っていた。

 後付けでなく、生産工程からオーディオを組み込むことの重要性は、かつて、やはり高級オーディオで知られるバング&オルフセンとアウディが組んだとき、ドイツ南部ネッカースウルムにあるアウディの工場を見学させてもらったことがある。そこで、丁寧に説明されたものだ。
記者発表会の会場におけるハーマンインターナショナル日本法人のトム・メッツガー代表取締役社長
 ハーマンも同様。「純正ブランデッドカーオーディオ」と彼らは呼び、「自動車メーカーとのコラボレーションを通して、車室内というオーディオにはとても厳しい環境の中で音作りを行う」ことで、いい音楽再生ができることを強調している。

 デジタライゼーションが音楽を聴くことをいかに楽しくしてくれるか。一度体験してみることをお勧めする。そういえば、ハーマンの広報担当者によると、「音楽のない世界では生きていけますか」というアンケートを20年に実施した際、約8割の米国人が「生きていけない」と答えたそう。そういうものなのだ。
Text/小川フミオ

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