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Lifestyle 公開日: 2019.04.26

ジャガーの最新EVに試乗、「I-PACE」に見たデジタル時代のクルマの存在感

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大排気量車をしのぐパワフルさ、スポーツカーのような操舵感を体感。

ジャガーのピュアEV「I-PACE」。7kWの普通充電では最長12.9時間でフル充電できる。
 少し前に米アリゾナ州フェニックス郊外のリゾートホテルに滞在したときのことだ。ちょっといいホテルではバレーパーキングといいって、玄関口に乗りつけたゲストのクルマをホテルの担当者があずかるサービスがある。私が見ていたら、スマートなスーツを着込んだアフリカ系アメリカ人が、真っ白いジャガーI-PACEで乗りつけてきた。

 さっと降りるとホテルの係に、あとはよろしく、という感じでクルマを預けてホテル内に消えていった。担当者は音もなくI-PACEを発進させると、玄関近くの最も目立つところにそのジャガーのピュアEV(電気自動車)を駐車した。少し前までフェラーリが駐めてあった場所だ。

 ホテルで、バレーが預かったクルマをどこに置くかは、家庭の調度品の扱いとちょっと似ている。日本家屋なら招待客に合わせて床の間の掛け軸を替え、欧州だとゲストルームの絨毯を敷き替え、といったように、ホテルのイメージと最も合うクルマを目立つところに駐めておく(ほかは駐車場にしまってしまう)。I-PACEは最もクールなクルマととらえられたということだ。

大排気量車と遜色のないドライブ感

 で、実際のI-PACEはどんなクルマか。デジタル化が進み、ガソリンやディーゼルの内燃機関を持ったクルマの運転および安全支援システムが充実するのと並行して、EVの技術も進んできた。各社からEVが登場してきているなかで、日本で乗れる最新のEVがI-PACEである。

 ジャガーI-PACE(アイペース)は、日本では2018年9月に発表され、ようやく2019年3月に試乗する機会を得た。開発は英国を中心に行われ、製造はオーストリアのマグナシュタイアが行う。

 ジャガーは(言わずと知れた)スポーツカーを出自とするメーカーだ。現在もモデルラインナップの核は、フロントエンジンに後輪駆動を組み合わせた「XJ」セダンと、スポーツモデル「Fタイプ」だ。つまりハンドリングといって、たとえばカーブを曲がるとき、いかに気持よく操縦できるかが重要である。

 東京と近郊で、I-PACEに乗ると、ジャガーの意図するところがわかった。最新の技術を盛り込んだEVといっても、リクツがついてくるわけではない。走り出して一瞬で”このクルマいいな”と思えたのだ。専用開発したシャシーのため理想的な設計ができた、というジャガーカーズの技術者の説明にも納得できる。

 I-PACEは前後に電気モーターを搭載し、車軸一体型で駆動する。出力はともに197kWだ。前後併せて696Nmというたいへん大きなトルクを持つだけあって、走り出しは大排気量の内燃機関搭載車をしのぐパワフルさを感じさせる。”いきなりパワフル”というのがEVの特長だ。
 ステアリングホイールと連動して車体が動く感覚は、従来からジャガー車のスポーティさを愛してきたファンを絶対に失望させないだろう。直進時の車線変更でも、カーブでも、車体はあまりロールせず、すっと素早く、気持よく動く。

 ジャガーの説明によると、バッテリーを床下に搭載したことで、例えばジャガーF-PACEより重心高が120ミリも低くなったそうだ。それがスポーツカーのような操舵感覚を生み出している。

 「ライバル車のなかには、内燃機関のモデルとシャシーを共用するものがあります。そうなるとどうしても(EVとして)理想的なパッケージにはならず、性能が落ちるのはやむを得ません。I-PACEは最初からピュアEVとして設計されたので、圧倒的な性能差が出るのです」

 かつて海の向こうの試乗会で出合ったジャガーカーズ本社の技術者が、こう話してくれたことがある。ハンドリングがいいのは、バッテリーを含めたパワートレインの搭載位置を理想的に設計できたおかげだろうし、結果、加速性能やブレーキ性能も恩恵を受けているのだ。
 パワフルなことに加えて、内燃機関では燃料から取り出せる電力は計算値の30パーセントから40パーセントに留まるのに対して、I-PACEではバッテリーからモーターへの伝達率は最大で97パーセントに達するとジャガーでは謳う。

 そもそもバッテリーは90kWhと大きい。例えば日産リーフe+(パワフルなほうのモデル)のバッテリーが62kWh、アウディe-tron(イートロン)は83.6kWhなので、I-PACEはライバルより一頭地を抜いている印象だ。恩恵は、ここで書いてきたようにパワーと、それに480キロ(WLTP=「乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法」による)の航続距離として現れている。

 静止から時速100キロまでにかかる時間は4.8秒だ。6262ccのV12エンジンを搭載した2プラス2のフェラーリGTC4ルッソで3.4秒だ。フェラーリのほうが速いが、フルに4人乗れ、車重だって2.2トン(フェラーリは1.8トン)のI-PACEが1.4秒遅いだけというのは、大したことだと思う。

 EVならではの装備は、モニタースクリーン上の操作で運転モードが選べるところだろう。回生ブレーキの強弱を設定できる。アクセルペダルの踏み込み量を弱めたときに、タイヤの回転を使ってモーターを回しバッテリーへの充電を行う機構が回生ブレーキだ。強いほうを選ぶと、アクセルペダルの踏み込み量に応じて加速と、それにブレーキペダルを踏んだような減速も行える。いわゆるワンペダル運転ができるのだ。

 減速時にブレーキペダルを踏まなくていいので、慣れると楽なのだが、I-PACEでは効きがやや強すぎて、アクセルペダルを離すと、ぐぐっと強烈な減速Gが立ち上がる。最大で0.4Gも出るそうだ。

 市街地の運転時など、アクセルペダル操作による加減速の頻度が頻繁だと、前後方向のGにより、同乗者は気分が悪くなるかもしれない。それほどのものだ。私は弱いほうを選んで走った。

 エンジンを搭載していないが、なんとなくそれふうの音で気分を高めてくれる演出もある。やはりモニター画面で「コーム(静か)」か「ダイナミック」を選べるのだ。私の好みは、クルマがあまりに静かなので「ダイナミック」で楽しみたいというものだった。
 I-PACEはジャガーカーズにとって戦略車種だ。同社は米国で、元グーグルの自動運転開発部門だったWAYMOと長期的パートナーシップを結んでいる。当面の目標は、WAYMOの自動運転技術を搭載したI-PACEを開発し、米市場に自動運転のタクシーを投入することという。

 日本でもI-PACEを通じて、新しいかたちのビジネスを模索中のようだ。技術担当者は、「充電インフラに関連する知見や技術を持つスタートアップ企業があれば積極的に協力関係を持ちたい」と語った。クルマがさまざまなビジネスのプラットフォームになるのだ。

 冒頭に書いたようなホテルでの扱いだけでなく、デジタル時代のクルマの存在感は大きいということだ。そのことを、I-PACEは教えてくれている。


小川 フミオ


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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