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Lifestyle 公開日: 2023.02.17

デジタル時代、クルマのエクステリアデザインはどう進化するか

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デジタルの時代に、自動車のエクステリアデザインの概念が変わりつつある。

 BMWが2023年1月に発表したBMW i Vision Dee(ビーエムダブリュー・アイ・ビジョンディー)は、デジタル時代のクルマのデザインが、どんな可能性を秘めているかの見本といえる。

 Digital Emotion Experienceの頭文字からDeeと名づけられたのが、BMWのコンセプトモデル。2023年1月に米ラスベガスで開催されたCESで公開された。
2023年ラスベガスのCESでのお披露目光景
BMW i Vision Deeはオーソドクスなセダン車型のデザイン
「最新のデジタル技術を活用して、クルマから知性を備えたパートナーへ変身させた」。BMW AGの取締役会のオリバー・ツィプセ会長は、このクルマについて説明。

 BMWが公開した映像を観ると、車載AIが、まるで人格があるかのように、自然にドライバーと会話し、さまざまなコマンドを口頭で受け取る。
先進的なAIエージェントを搭載し、オーナーを認識すると似顔絵とともに「いらっしゃい」とか「おかえりなさい」
 そしてもうひとつ。注目すべきが、ボディカラーだ。米国のE Ink(イーインク)社と共同開発した技術が採用されている。
CESで車体の色が変わるデモンストレーションを見せて来場者を驚かせた
 たとえば白色だった車体が、数秒で黒色に変化する。実はこれはペイントではない。車体にE Ink社が基本技術を提供した超薄型ディスプレイが張られている。

 車内からのコマンドによって。プリセットされた色やパターンを呼び出せる。それでさっきまで白だった車体が、次の瞬間黒に。というぐあい。32のパターンが設定可能だそうだ。
Vision Deeはプリセットした32のパターンにボディ色を変えられる
 「湾曲した車体に合わせたり、パターンのプログラムを開発したりする作業は、社内で行っています」とはBMWのプレスリリースの言である。

 どんなパターンまで可能になるか。まだ詳細は発表されていない。
E Inkは電気を通すことで色を変える技術(Vision Deeのホイール部分作成風景)
 BMWがYouTubeにポストした動画を観ると、1970年代にBMWが手がけた「アートカー」を連想させるパターンも発見できた。

 これは、アンディ・ウォーホルやフランク・ステラといった現代アートの巨匠に、3.0CSiやM1といったスポーツモデルの車体のペイントを依頼したプロジェクト。

 E Inkの技術はそんなパターンも取り込めるようだ。当時のアートカーと違うのは、Vision Deeが“作品”でなく、量販前提のコンセプトモデルという点。

 BMWは、なので、Vision Deeをアートカートでなく、「ノイエ・クラッセ Neue Klasse」と呼んでいる。
ホイール表面にE Inkの超薄型ディスプレイを張り、検証中
 おおざっぱにいうと、新世代のBMW車のカテゴリーとなる。

 話が少々脱線するが、ノイエ・クラッセについて簡単に説明しておくと、1960年に発表されたBMW1500がこう呼ばれた。

 戦前はレースなどでも活躍し、高級スポーツクーペなども手がけていたBMWも、第二次世界大戦で疲弊。倒産ぎりぎりのところまでいった。

 その中で社運をかけて開発したのが、新世代のセダン、1500だった。軽快に回るパワフルな4気筒エンジンをもった操縦性の高いシャシーに、伊ミケロッティによるデザインのボディを搭載。

 BMWはこのクルマをノイエ・クラッセと呼称。実際、思惑が当たって、新しい時代に向けたセダンとして、大きなセールスを記録したのだ。

 ここから、1802や2002といった、いまでも人気の高い2ドアセダンも開発された。

 あえて伝統的ともいえる名称を復活させたBMW。新時代の代替燃料車(化石燃料を使わないクルマ)を、当時のノイセ・クラッセにちなんで、オーソドクスな4ドアボディでデザインしたという。

 「ノイエクラッセは今後、BMWグループグループをサステナビリティへ向かって方向修正させるシンボル的自動車になるのです」とはBMWによる説明。

 話をE Inkに戻すと、自由度が高そうなので、このデジタル技術が量産車に採用されたあかつきには、自分の好みのパターンが作れれば、最高の自己表現になるかもしれない。
焼き物のようだけれど、15枚のピースが1枚ずつ通電で色を変えている
本来は平面の超薄型フィルムを、ホイールに立体的に貼り付ける加工中
 E Inkはセダンの専売特許ではない(はず)。BMWのラインナップでいえば、8シリーズのようなスポーツクーペなどにも似合いそうだ。

 なにしろ、プレミアムスポーツカーの世界では、オーナーによるカスタマイゼーションは“常識”と化している。

 「車両を購入して、なんらかの手を入れないオーナーはいない」。かつて、フェラーリのテイラーメイドプログラムの担当者が、私に教えてくれたこともある。
 英のスポーツカーメーカー、マクラーレンも、「アートカー」というプログラムを始めた。

 デジタルとデザインの融合という点で、Vision Deeとはまったく異なるアプローチであるものの、可能性の幅広さの例として興味深い。

 2022年3月に、InfiniteWorldと、メタバース分野でのパートナーシップを締結したマクラーレン・オートモーティブ。

 「このパートナーシップにより、さらに深く魅力的なデジタル体験をお客様にご提供できるようになります」と、マクラーレンは説明。

 「マクラーレンのラグジュアリーなスーパーカーやハイパーカーを表現したデジタル・アート作品の創出」も例として挙げられている。

 いまのところ、上記のパートナーシップの成果は発表されていないが、デジタル技術をエクステリアデザインに反映したアートカーのプロジェクトはすでに実現されている。
マクラーレンスペシャルオペレーションズがYOSHIROTTEN氏と仕上げたマクラーレンGTアートカー
 たとえば、ここで紹介する「マクラーレンGT×YOSHIROTTEN」。日本人アーティスト、ヨシロットン氏(1983年生まれ)の手によるアートワークを車体に施したスペシャルだ。

 YOSHIROTTEN氏は、グラフィックアーティストや、アートディレクターとして活躍中。

 ファッションの世界では、エルメスとの仕事で知られているひとでもある。
グラフィックデザインやアートディレクションで活躍中のYOSHIROTTEN氏
 2019年の「ラジオエルメス」のアートディレクション、2021年の表参道店のオープニングキャンペーンビジュアル、さらに2022年6月の「テクノ・エケストル」といったぐあい。

 クルマの制作を手がけているのは、マクラーレンスペシャルオペレーションズ(MSO)。

 「お客様の個性を写す、世界で1つだけの仕上げ、素材、色から始まり、従来のカスタマイズの限界を超えたユニークな車の創造」を担当すると謳う部署だ。

 世界でただ1台の自分だけのクルマが欲しいという顧客の声に応えるサービスのデモンストレーションとして制作された。

「無駄のない 彫刻のような美しいボディにTOKYOの光、そして日本の景色が写り込んでいくイメージを描きました」とは、プレス向けリリースで紹介されているアーティストの言。

 「街の光と捉えることも、夕暮れや朝の空色と捉えることもできる、日本を走るGTだからこそ出会える色彩です」
マクラーレンGTアートカーのディスプレイではYOSHIROTTEN氏 はモジュラーシンセサイザーを並べ「未来の東京のガレージ」をイメージ
 オンラインでやりとりしながら、具体的なデザインを実現したとされる今回のアートカー。さきのBMWのコンセプトモデルほどの先進性はないかもしれないが、実車はなかなか美しい。

 水平基調の多色づかいの帯が、豊かな曲線をもったマクラーレンGTとともに、艶やかな雰囲気をうまくかもしだしている。

 「“モダンラグジュアリー”をテーマに、 アーティストとのコラボレーションを積極的に実施」しているとするマクラーレン・オートモーティブ。

 直近では今年1月、マレーシアにてペインターのKarwai Chan(カーウァイ・チャン)、2月にはドバイにて抽象画家であるNat Bowen(ナット・ボーウェン)とのアートコラボレーションも発表。

 これらはハンドペイントだというが、今後はデジタル技術を積極的に使ったごくごく限定的なカスタマイゼーションを、顧客のために手がけていきたい。

 マクラーレン・オートモーティブの日本での広報担当者はそう語っている。

Text/小川フミオ

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