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Lifestyle 公開日: 2022.09.06

デジタル技術の進化が可能にした、電動SUV「ハマーEV」の性能

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米ゼネラルモーターズ傘下のGMCが「ハマーEV」 を2022年に発売。世界初の電動スーパートラックが謳い文句だ。最初に登場した「エディション1」は、モーターを3つ備え、出力合計は1000馬力。発売開始から10分で売り切れたのも話題になった。

 米ゼネラルモーターズ傘下のGMCが「ハマーEV」 を2022年に発売。世界初の電動スーパートラックが謳い文句だ。最初に登場した「エディション1」は、モーターを3つ備え、出力合計は1000馬力。発売開始から10分で売り切れたのも話題になった。

 新世代のウルトラSUVは、実は、デジタル技術と電気をフルに活用することで高い性能を発揮しているのだ。

 私が、ハマーEVトラック「エディション1」に乗ったのは、北米ミシガン州ミルフォードというところにゼネラルモーターズ(GM)が所有する試験路。オフロードの路面もあって、延々と続く波状路や、滑りやすい斜面など、さまざまな道を走った。
電子技術をフルに使って走破性の高さを誇るハマーEV
 電気モーターの恩恵で、力強く、かつ、動きがすばやいのが印象に残るクルマだった。車重は4.5トンあるのに、静止から時速100キロまでの加速は、ポルシェ911ターボに迫るほど。

 電子制御のセミアクティブサスペンションで車高も調節できるし、後輪ステア機構が付いているため、狭い道での取り回し性に優れている。いっぽう、一般道では快適と、オールマイティな魅力が感じられる出来映え。デジタル世代の電動SUVのひとつの頂点ともいえるクルマである。
ハマーEVはモニター上でドライブモードなどさまざまな設定が可能
 ハマーEVを開発するのにかかった時間はどのぐらいなのか。GMCのエンジニアに尋ねると、「1年で基本コンポーネンツを開発し、1年で車両をテストして完成させました」と驚くような答えが返ってきた。

 そんなに短期間に?と再確認をかねて訊ね返すと、デジタル技術の進化がそれを可能にしたという。GMCをはじめGM傘下のブランドではいま、開発期間の短縮が大きな課題という。これは世界的な傾向だ。

 「開発期間を短くできれば開発のコストが節約できるし、市場での商品力強化にもつながります」と、広大な試験場の一角に設けられたテーブルでランチをつつきながら、GMCのエンジニアは説明してくれた。

 初代のハマーは、読者の方なら、ひょっとしたら、ご存知のように、当初は米陸軍のために開発された多目的車両。ジープの後継でもあった。ジープが密林のような場所での使用と、空輸のコストを考えてコンパクトに設計されていたのに対して、1992年に登場したハマーは砂漠での使用が前提。そのため広いトレッドと幅広のタイヤを備え、ボディの用途も多岐にわたっていた。

 1999年に、当初のAMゼネラル社が、ハマーの製造権をゼネラルモーターズへ譲渡。本来のHigh Mobility Multipurpose Wheeled VehicleからHUMVEE(ハンビー)と軍で呼称されていたのをHUMMERとさらにわかりやすい商品名にした。アーノルド・シュワーツネッガーらが愛したクルマとして日本で紹介されるなどして、知名度が上がった。しかしGMが2009年に経営破綻したときに生産中止。

 2021年暮れに発表されたハマーEVは、ガソリンエンジンもAMジェネラル時代のようなディーゼルエンジンでもない。冒頭に触れたとおり、電気モーターと大容量バッテリーで走る。その事実を思い起こすと、クルマにおける“進化”について、感慨を私は感じた。

 興味深いのは、ハマーEVには、「LMV」の技術も活かされているという点。
LMVのコンセプト(3Dプリンターで作られたもの)
 LMVは、Lunar Mobility Vehicleの略。GMがロッキードマーティン社の協力を得て開発している月面探索車だ。トヨタ自動車も、有人与圧ローバー「ルナクルーザー」を開発しているし、日産自動車も月面ローバーの試作機を公開したことがある。
月面の情報を入力してシミュレーターのデータ解析中
 電気自動車の制御技術が活用できる、とはどのメーカーも共通して言うことだ。その逆もある。例えば、LMVのためのサスペンション開発のプロセスなどが、ハマーEVに活用されている、とGMではする。

 同時にシミュレーション技術もどんどん高度になっている。さまざまな路面における走行をリアルに再現することを狙ったダイナミックシミュレーター(クルマのキャビンを模したプラットフォームを複数のアクチュエーターが動かすシステム)で、LMVのサスペンションは開発されている。
有人のドライバー・イン・ザ・ループ・シミュレーターをチェック中のコントロールルーム
 重力が地球の6分の1であり、かつ、地球にはない荒れた路面を走りまわることが想定されているLMV。「地球のいかなる道とも違って予測が困難」(GM)という月面を想定してのデータは、ハマーEVのようなSUVのシャシー開発にも応用できるという。
空気を入れないタイヤなど月面探査車は特別の設計
 ハマーEVも使う「アルティウム」なるパウチ型バッテリーも同様。「月面の最高温度は280度といわれているうえに、寒暖差が激しく、バッテリーはそれに耐えなくてはなりません」とは、GMの説明。加えて、自動運転技術も同様。学ぶべきものが多いと説明されている。
これからのGMのEVに使われるアルティウムバッテリー
 「日曜日にレースで勝てば、月曜にはクルマが売れる」。これは1950年代から自動車メーカー各社が唱えてきたこと。GMでもフェラーリやポルシェでも変わらない。レースで勝てるということは性能が高いということで、消費者はそれを求めているからと説明される。

 これからは、レースカーでなく月面探索車、とはGMの弁。先進の制御技術こそ、優れたEVに必要なものだからとする。月面探索車と、1000馬力のハマーEVには大きな接点がある。それがいまの時代なのだ。

Text/小川フミオ

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