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Lifestyle 公開日: 2019.07.17

中国農村部のネット社会にみる、都市部と異なる独自の発展

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小都市や農村部はブルーオーシャンとして、ネットサービスが普及しつつある。

農村淘宝(taobao)のイメージ(出所:百度百科)
 中国の農村部というと、特に上海や深センといったきらびやかな都市部と対比して貧しいイメージで捉えがちだ。確かに所得は低いし、インフラも都市部に比べて充実していないが、それでもかなり整備されてきた。小都市や農村部はブルーオーシャンとして、ネットサービスが普及しつつある。しかも最近の傾向としては、大都市で人気のサービスが普及していくのではなく、小都市や農村部で人気のサービスがあり、それが拡大している。言い換えれば、ネット市場においても、一つの中国市場から、二つの中国市場に分かれているともいえる。

 それを紹介する前に、まずは中国の小都市や農村の状況を紹介しよう。手短に言えば、貧富の差はあり、中国の都市部と比べて貧しそうな景色には見えても、日本人が想像する以上に、スマートフォンをはじめとしたデジタル製品を所有していて、配送インフラや通信インフラも整っている。

 AppleやOPPOやvivoなど、主要メーカーのスマートフォンは、小都市部でも都市部同様に農村部の中心的な街では売られている。ミドルレンジはもちろん、フラッグシップモデルもある。農村部の中心となる街の家電量販店に行けば、50インチクラスの液晶テレビも売られている。買わない中高年もいるが、多くの働き盛りの人々が大都市から故郷に帰る春節の際には、スマートフォンや家電を故郷の家族にプレゼントする。

 農村部から都市部に出稼ぎにいく若い世代が多く、出稼ぎにいった家族ではハイテクを受け入れにくい中高年だけが農村部に残りがちなので、インターネット普及があまり進まないということもあろう。筆者が行脚して見た光景でいえば、農村部の中心地に残る若者については誰もがスマートフォンを利用しているという印象がある。毎年の春節には都市部で働く世代が故郷に戻って、家族親族にトレンドのサービスを伝えるためか、このタイミングで新しめのサービスの利用者が増える(が、春節がすぎるとそれなりに下がる)。

 小都市や農村部の人々ほど、ブラック労働からは無縁で時間に余裕がある。北京大学社会調査研究中心と智聯招聘が合同で提出した「中国職場人平衡指数調研報告」によれば、大都市よりも残業時間が短いという結果が出ている。

 統計や各種発表から現状を紹介すると、農村部のインターネット利用者数は2018年末で2億2200万人。インターネット利用率は、2013年には28.1%だったのが、2018年には38.4%まで上昇している。都市部のインターネット利用者数は6億700万人で、インターネット利用率は73.3%となっており、大きな差がある。

 とはいえ、インフラがないわけではない。農村部の中心となる街にはOPPOやvivoをはじめとしたスマートフォン販売店や、パソコンショップがある。また2018年の時点で4Gの人口カバー率は99%、光ケーブルによるネットワークは中国全土の村の95%をカバーしている。また配送網も整備されている。2019年全国郵政管理工作会議での発表によると、2019年の年末までには全国の農村の95%に郵便局の配送拠点を設ける。さらに、物流会社各社も各地に拠点を増やしおり、郵便局よりもより迅速に配送できる民間のサービスが広がりつつある。ともなればECも一気に利用しやすくなる。
中国地方都市の様子

アリババが乗り出すも失敗に終わった「農村EC進行計画」

 このような状況を踏まえた上で、近年農村で起きている変化を紹介していく。中国メディアのIT時報が報じた中国農村部の現状だ。

 5年前の2014年になるが、中国を代表するEC企業の阿里巴巴(Alibaba)が、農村EC振興計画を発表した。「千県万村計画」といい、3~5年内に100億元を投入し、1000の県(小さな行政区画)に運営センターを、10万の村にサービスステーションとなる拠点を設けるとした。

 前述の”拠点”では、集落で阿里巴巴のECサイトの淘宝網(Taobao)に精通した人が、ネットショップでの販売代行や、購入代行により、手数料収入を得ている。どちらかというと購入代行で都市部からのモノを購入することが多く、農村の農作物を売るケースは少ないという。農村部でも生活レベルの向上を求め、日用品や化粧品を買いたいというニーズは高い。ブランド品の販売店としてのニーズもある。

 千県万村計画のその後だが、阿里巴巴からの投資はほとんどなく、大半を役所による補助金に頼っていたという。その補助金も効果がないとして、やがて補助金がなくなり、本来は作るはずだった集落で2店舗目、3店舗目の拠点を作るはずが作らずじまいだったところが多いという。

 補助金がなくなれば、どこかの場所を借りての淘宝網キャンペーンのイベントを出すこともできなくなる。集落内でのイベントがなくなれば、できることはEC拠点の担当ができる広告活動は、騰訊(Tencent)がリリースする、Facebookの書き込みのような微信(WeChat)の朋友圏機能だけで、啓蒙する対象は微信つながりの知人だけとなる。淘宝網のネットショップから農産物や加工品を淘宝網を通じて売ろうとしても、都市部の人が店に気づかず買ってくれないという状況が起きている。村の中で有名な”インターネットの達人”の知り合いは、狭い地域の中でのインフルエンサーであり、結局サイトのお得意様はご近所さんなのである。

 これは結局、都市部で人気のサービスを農村部にそのまま持ってきたために、思い通りの成長を実現できなかったということにほかならない。淘宝網や天猫で伸びるためには店舗の企業努力が必要だし、インフルエンサーを味方にする必要もあろう。淘宝網で買うにはキャッシュレスの微信支付(WechatPay)ではなく、阿里巴巴系の支付宝(Alipay)が必要になる。またLINEのような知り合いとつながる微信だけでは、都市部に売っていこうとするにもなかなか難しいわけだ。中国で市民権を得ていると思われた阿里巴巴と騰訊は実は農村部ではフィットしないのである。

ショートムービーで農村の働き手にアピール

 こうした状況を打開したのが、TikTokのようなショートムービーのサービス「快手(クワイショウ)」と、ECサービスの「pin多多(pinduoduo)」だ。
ECサイトのpin多多とショートムービーの快手が農村部では人気
 中国版Tik Tok「抖音(ドウイン)」に続く人気の「快手」は、都市部で人気を博す抖音と異なり、小都市や農村向けの人が共感できるおもしろ動画が多数投稿されていて、結果的に農村住民が喜んで使うものとなっている。一般人による動画投稿はもちろん、農村系YouTuber的なネットの有名人の投稿もあり、たとえば身近な素材で様々なモノを発明していく農村発明家の「耿師」は、数百万のフォロワーを獲得している。また農村部の人が出稼ぎで働く富士康(フォックスコン)が、快手に社内の様子を撮った動画をアップし、農村の働き手にアピールしている。同社のレポートによれば、快手の利用者は小都市以下の規模の都市や農村だけでも、2億3000万人もいるという。

 一方pin多多は、淘宝網が安かろう悪かろうのニセモノ製品をなくし、品質の良い商品を販売するECサイトへと改良しようとする中で、淘宝網が売らなくなった安かろう悪かろうな製品をも販売している。例えばスマートフォンをとっても、淘宝網では売られなくなったような低スペックで低価格な製品がpin多多では売られている。そのおかげでpin多多は、大都市よりも小都市や農村部で人気のサービスとなっている。2018年の農産物の販売額は653億元で、2017年の196億元から233%増となった。また国家級貧困県のショップ数は14万店で、年総受注額は162億元となったという。

 この快手とpin多多が手を組み、さらに阿里巴巴のライバルの騰訊と、ECサイトの京東がさらに手を組んだ。これにより快手の中でもECショップを構えるほかにも、快手や微信からpin多多や京東の商品ページに誘導することができるようになった。さらに阿里巴巴系のサービスが支付宝しか使えないのに対し、アンチ阿里巴巴企業連合では、地方都市や農村部でも普及している微信支付で支払える。快手の副総裁の王強氏によれば、2018年には1600万人が快手のプラットフォームを利用し収入を得たとし、そのうち340万人は国家級貧困県の人々であったとしている。地方都市や農村部の利用者がこれらの企業連合に流れ、複数の中国メディアが「農村において阿里巴巴が没落した」と報じ、また「快手が農村の貧困を救う」と報じている。

 ちなみに京東は貧困対策に「京東農牧」というスマート牧畜プラットフォームで、騰訊は「為村」というプラットフォームで農村の貧困対策を行っている。たかが農村、されど農村。都市部の人々とは価値観や社会環境が異なる2億2000万人の人がインターネットを利用している。そこで大都市と異なる小都市や農村部に根ざしたサービスが流行し、小都市や農村部に適した新しいエコシステムが根ざしている。


山谷 剛史


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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