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Lifestyle 公開日: 2018.09.25

歩行者とアイコンタクトをとるクルマ──ジャガー・ランドローバーが実験中

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あのクルマは私を認識しているだろうか?自動運転時代のそんな懸念を払拭する実験。

 アイコンタクトは路上で最も大事な行為だ。譲り合いもアイコンタクトで行われるし、欧州ではそれ以上のコミュニケーションの手段であることが多い。

 フランスやイタリアのようなラテン系の国ではラウンドアバウト(信号のない円形の交差点)においてもアイコンタクトが重要になる。お互いの行く方向や、どちらが譲るかは眼の合図で判断する。パリの中心部にはエトワール広場やコンコルド広場など、どこが車線だかわからない巨大なラウンドアバウト(仏語だとロンポワン=円)があり、そこでも時々、超絶技巧の譲り合いを目撃することがある。

 そこで、ぶつからないためにアイコンタクトを使う。ドライバー同士だけでなく、自動車と歩行者の間でも重要だ。

 筆者はローマで、信号のない道路を歩行横断するためのテクニックを教わったことがある。それは、こちらにやってくるクルマをあえて見ないこと。「見ているな(クルマの存在を認めているな)」と思うと、イタリアのドライバーは横断歩道のないところでは歩行者がいるからといって停止したりしない(ことが多い)。そこで向かってくるクルマに後頭部を見せながら道路を横断することで、人身事故を回避するためにローマのドライバーに注意をうながすのが歩行者のテクニックなのだそうだ。

 ただし、自動運転ではどうだろう。人間がステアリングホイールを握っていないロボットカーと歩行者はうまく共存できるのだろうか。

 自動運転が認可されたときのことを考え、デジタル技術とどう折り合いをつけるか。最近英国のジャガー・ランドローバーが研究を発表した。

自動運転時代、歩行者が最も懸念すること

 自動運転のクルマが周囲に気を配らずに路上を走り出す──懸念の一つは事故である。これまでドライバーとアイコンタクトを取ることで相互に確認できていたのに、それがわからなくなると大いに不安をかき立てられそうだ。ジャガー・ランドローバーが地域限定で実施した調査によると、自動運転のクルマが周囲に気を配らずに路上を走り出すことに懸念を抱く人は、63%にものぼるそうだ。主な懸念が、道路の横断なのである。

 そこで同社は「インテリジェントポッド」と呼ぶ実証実験用の特殊な形をしたクルマを設計した──クルマというより、工場で使われるロボットを思わせるが。同社では多くの人が不安に思っている道路横断のために、このインテリジェントポッドを設計。今では大きな目玉まで取り付けた。黒目の動きで歩行者とコミュニケーションをとるのが目的である。
ジャガー・ランドローバーによる「バーチャル・アイ」を装備した実証実験用のインテリジェントポッド
 「心理学者と共同で、いかに人が新しい技術を許容するのか、様々なテストを行っています」

 ジャガー・ランドローバーはプレスリリースでこう説明している。同社が本拠地を持つ英コベントリーでは、フューチャーモビリティのチームがインテリジェントポッドにデジタル技術を用いた大きな「眼」を取り付けた。

 歩行者の発見から停止、そのあとの安全確認と再発進という一連の動きは、自動運転のプログラムに組み入れられてはいる。その際に“眼”は道路を横断しようとしている歩行者に、私(クルマ)はあなたを認めていますよ、というサインを送る。
大きな”眼”が歩行者を認識したことを示している
一対のバーチャルアイの上にカメラをはじめとするセンシングユニットが搭載されている
車体のベースは英コベントリーのAurrigoが手がける「PodZero」なる自動運転のピープルムーバー
 少し自信なさげというか、優しそうな見かけが特徴的で、クルマの持つ圧倒するような大きさや無機的機械というネガティブなイメージを和らげるのにも、この“眼”が貢献している。

 「実験に参加してくれている歩行者やサイクリストは、この“眼”の働きによって自分のために停止してくれているのだ、という印象を受けるようになったと言います」

 ジャガー・ランドローバーはそう説明し、この技術も将来の自動運転の普及とより高い安全性の確立に寄与するはず、としている。こんな表情豊かな目玉がジャガーのスポーツカーに備わったら……どんなフロントマスクになるだろう。
同じ英国のアストンマーティン・ラゴンダが3月に発表した将来のセダンのコンセプトモデル「ラゴンダ・コンセプトゼロ」も自動運転。乗員はラウンジのように快適な空間で過ごせると提案した
「ラゴンダ・コンセプトゼロ」はまだ“自動車”の形をしているが、近い将来自動運転車はもっと大胆なシェイプになるかもしれない

クルマのデザインが劇的に変わる

 「自動運転が採用されてクルマが衝突しなくなったら、その時にクルマのスタイルは劇的に変わるでしょう」

 かつてルノーのデザイン部長が筆者にそう語ってくれた。現在のデザインはエンジンと衝突安全性の諸要件を満たす必要があるため、大きく変えることができない。クルマが年々大きくなるのも、車体の衝突安全性が関わっているのだ。
仏ルノーが2017年12月に発表したコンセプトモデル「サンビオス(Symbioz)」。ドライバーは自動運転中、VRエンターテイメントを楽しんでいられるようになると謳う
「サンビオス」は電気自動車なのでラジエターグリルを持たない
 両社以外にも、歩行者とのコミュニケーションを様々なかたちで探っているメーカーがある。自動運転はクルマを大きく変えることになりそうではないか。

 今回の“眼”のように、今は人間とクルマの関係の再構築こそが大切なのだ。それを試みる時、ある種のユーモアが介在するところが何より興味深い。


小川 フミオ


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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