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Lifestyle 公開日: 2023.04.10

水素燃料電池はクルマの次なるパワーになりうるか? BMWの挑戦

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BMWが、2023年2月中旬に、新しい電気自動車に乗るチャンスをくれた。水素を燃料に電気モーターを回す燃料電池車の「iX5」なるプロトタイプだ。

 自動車のデジタライゼーションといえば電気のパワー。一般的には充電式のEVばかりが話題になるけれど、実は水素による発電には、大きな未来があるという。
アントワープでは水素の充填は一般のガソリンスタンド感覚でおこなえる
 燃料電池車は、トヨタのMIRAIやホンダのクラリティといったモデルで、私もすでに何度も体験済みだったが、iX5に乗って、クルマとして楽しいのに驚かされた。

 「BMWが手がけるからには、単に燃費とかハイテクとかでなく、操縦性がBMWらしいと納得してもらわなくてはならない。それが開発の至上命題でした」

 ジェネラルプログラムマネージャー・ハイドロジェンテクノロジー、つまり水素技術の開発を統括するBMW本社のユルゲン・グルドナー氏はアントワープでそう語ってくれた。
メーター内には各所に燃料電池の状況が分かる表示が設けられている
 ジャーナリスト向けの試乗会が開催されたのは、ベルギー・アントワープ。そこに、SUVのX5のプラグインハイブリッドモデルを燃料電池車にしたiX5がずらりと並べられた。
X5用に開発された燃料電池システム(2本のチューブが水素タンク)
 日本だと電気自動車というと、充電式のバッテリー駆動車とイコールと思われがちだけれど、実は特殊なシステムを介して水素を分解し、とりだした電子を使って電気エネルギーとする燃料電池車もEV。

 一般的にバッテリー駆動のEVはBEV、水素でモーターを回す燃料電池車はFCVと呼ばれる。

 先述のとおり、トヨタ自動車はMIRAI(初代は2014年発売)で一歩先にこの技術開発を手がけており、BMWはトヨタから電池の技術を買って、今回のiX5の実現にこぎつけた。
燃料電池用のセルはトヨタが開発したものを使用する(見えないが)
ダッシュボードにきれいに文字が入るなどプロトタイプと思えないほど凝っている
 iX5は、6キロの容量をもつ水素タンクを床下に収めている。燃料電池のシステムと電気モーターとバッテリーは車体の前後に振り分けられ、重量配分に気がつかわれている。

 システムのトータル出力は295kW(401ps)に達し、航続距離は504キロ。

 走らせた印象は(言うまでもなく)電気自動車そのもの。静止から時速100キロまで6秒という加速性能をもつが、パワフルさを強調するのでなく、ひたすらスムーズ、という感じだ。
操作は標準のX5とまったく同じ
乗り心地も静粛性もかなり高い
 開発エンジニアが強調するもうひとつのポイントは、パワー感が途切れないこと。「アウトバーンをずっと180キロで走れますよ」と誇らしげに、私に教えてくれた。
時速180キロの巡航が可能という(今回は制限時速もあって120キロどまり)
「水素を燃料とするクルマは、BMWグループが電気自動車の開発において先陣を切っている証左です」

 BMWはアントワープの試乗会についてのプレスリリースに上記のように記している。

 BMWは、BEVの歴史が比較的長い。日本では降水量が多く、水力発電が中心の屋久島で導入時のジャーナリスト向けお披露目を行ったi3の、本国での発表が2013年。

 以来、i8ロードスターを2018年に東京マラソンの先導車にするなど、マーケティング面でも努力を重ねてきた。

 いまでは、iとつくカタログモデルは、多少おおざっぱに数えても5車種。なかには、ビッグセダンのi7(2022年)や小型SAVの「iX1」(2023年)も含まれる。

 しかし——と言うのは、BMWの代表取締役会のオリバー・ツィプセ会長だ。

「充電式のEVだけでは、片脚で立っているようなものです。安定して2本脚で立つには、水素という足が必要なのです」

 ミュンヘンの本社からやってきたツィプセ会長は、アントワープのホテルで、ジャーナリストと意見交換の場を設け、そこでBMWが水素で走る乗用車開発へ着手した理由を語ってくれた。

「水素が電気と大きく違うのは、保存し運搬可能なエネルギーであることです。船舶や大型トラックの業界も水素燃料へと向かっています」

 川崎重工業は「マイナス253℃に冷却して体積を800分の1にした極低温の液化水素を、一度の航海で大量に海上輸送できる」とする大型液化水素運搬船の基本設計承認を、すでに取得している。
水素は船で運搬される場合が多い
 水素を作るやりかたもさまざま。関係者によって定義は多少異なるものの、「レッド・ハイドロジェン」は原発由来の電気でつくられた水素。

「グレイ・ハイドロジェン」はメタンや石炭を火力に使ってつくった水素。

「ブルー・ハイドロジェン」はやはり石炭やメタン、あるいは廃棄物を高音で燃やすが、発生する炭素ガスは極力放出されない仕組みで作る。

 いっぽう「グリーン・ハイドロジェン」は再生可能な電力で作られる。

 これがよしとされているものの、難しいのは、洋上発電機の低周波が海の生態系に悪影響を与えている可能性が指摘されていることだ。

 現状では「ブルー・ハイドロジェン」が主力のようだ。

 豪州に豊富にある褐炭から水素を含んだガスを取り出し、それを液化したのち、日本へと海上輸送するプロジェクトが進んでいる。ガス化するとき発生するCO2は豪州で地中に貯蔵する。

 トヨタはすでに液化水素を使うレースカーをサーキットで走らせているし、「水素のインフラへの投資は着々と増えています」とツィプセ会長も自信たっぷりに言うのだった。

 水素で走るBMWが出来上がったとき、従来のドライビングプレジャーは変わるのか。

 そう尋ねるとツィプセ会長は、「(EV用プラットフォームの)ノイエ・クラッセを使っても、つまりイーモビリティ化(電動化)しても、BMWの本質は変わりません」ときっぱり。

 水素燃料は昨今値上がりをしているけれど、「インフラが整えば値下がりは充分考えられる」と、日本のメーカーにおける燃料電池車の開発担当者は教えてくれた。

 日本における燃料電池車には、超えていくべきハードルもある。水素タンクの強度が国際基準をはるかに上回ったものを要求され、製造コストや容量の面で不利とされるのがひとつ。
量産されるときの車型は、まったく違うものになる可能性が高いそう
いますぐ欲しいと思ったが、開発にはあと6、7年かかるとか
 もうひとつは、水素タンクの交換義務。劣化度に関係なく15年経ったら無条件で交換しなくてはいけない、と定められている。コストは100万円単位になるそうだ。
BMW iシリーズのイメージカラーであるブルーが効果的に使われている
 BMWが着々と次世代のモビリティを作りあげているなか、日本の行政も目を世界に向け、日本のメーカーがガラパゴス化に陥る可能性を払拭すべき時期が来ているのは明らかである。

写真/BMW AG
Text/小川フミオ

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