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Lifestyle 公開日: 2019.04.24

【デジタルな生活はいかが?】食の未来を変えるか、新たな“カデン”作り

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モノづくりの知見を生かしつつ、新たなアイデアを盛り込んでサービスと融合させる。そんな新しい“カデン”が食を変えるかもしれません。

 これまでの家電とは全く違う、未来の“カデン”を作ろう――。

 こんな取り組みがあります。取り組んでいるのは、パナソニックの新規事業創出プロジェクト「Game Changer Catapult」。白物家電やテレビといった「モノづくり」企業のイメージを払拭し、モノだけでなくサービスとしての広がりを持たせようとしています。

 開発・実証段階中のアイデアは、Game Changer CatapultのWebサイトから見ることができます。これを見ると、スマートフォンアプリなどデジタルを活用したサービスと、これまでに培われたモノづくりの技術とを融合させることで、サービスだけでもモノだけでも実現し得なかった新しい“カデン”を生み出そうとしていることがわかります。

 今回は、これらのアイデアのうち、食に関するものをいくつかご紹介します。

お金も技術もいらないおにぎり屋開業

 まず紹介するのは、おにぎり屋の開業支援パッケージを提供する「OniRobot(オニロボ)」というアイデア。

 今、欧米ではおにぎりがヘルシーフードとして人気を集めています。ベルリンには、おにぎり屋さんを50店舗展開しているチェーンが存在します。おにぎりの普及を目指して活動する「おにぎり協会」には、しばしば海外から「おにぎり屋を開きたいがどうしたらいいか?」といった問い合わせが来ているそうです。

 しかし、おにぎりをきれいに握るには意外とコツが要ります。おにぎりを作ろうとしたけれど、うまく三角形にまとまらず、不恰好なコメの塊ができてしまったという経験がある方は少なくないのではないでしょうか。また、おにぎり屋に限らず飲食店を開き、収益を出すのは容易なことではありません。

 そこで考案されたのが、おにぎりを握るロボットと注文用のアプリ、店舗運営に関するサービスをセットで提供するパッケージ、OniRobotです。注文を受けたら、店員はロボットにご飯を入れてボタンを押すだけ。ロボットがふっくらとしたおにぎりを作ってくれるので、店員が技術を習得する必要はありません。そればかりか、注文をとったり、会計したりといったオペレーションも全てアプリで済ませられるので、少人数で店舗を運営し人件費を抑えることができます。注文を受ける際には、具材やトッピングだけでなく、大きさや硬さ(握り加減)もカスタマイズできます。購入履歴からおすすめを提案する機能も持たせる予定だそうです。
カスタム注文画面では、好みの組み合わせでおにぎりを注文できる。
アプリ上で注文と決済を完了。店頭でQRコードを見せると、できたてのおにぎりを受け取れる。
 デザインモックは、遠目にはコーヒーメーカーか何かのようにしか見えません。おしゃれなカフェの片隅などに置かれていても違和感はなさそうです。小さな個人店やキッチンカーにも置ける大きさです。大型店舗や大手チェーンでは、より大型の産業用ロボットを導入する場所や資金があるかもしれませんが、個人オーナーが小さなお店を始めようと思ったときに、少ない初期投資で気軽におにぎり屋を始められるというイメージで作られています。

 実際に試作機で握りたてのおにぎりを作っていただきました。大きさや硬さ、米の種類(白米か玄米か)を選択し、ご飯と具材を入れると、一瞬にしてキュッと三角形に握られます。あまりにも簡単に握られてしまったので、本当においしいのだろうかと不安になりましたが、手に持ち、食べてみて驚きました。持っても崩れることなくしっかりと三角形を保っていますが、食べると、ふっくらとして口の中でほろりと崩れます。ほんの一瞬、出来上がりの寸法より一回り小さく握ることで、一度握られたご飯が反発して膨らみ、空気が入ってふっくらするのだそう。圧力のかけ方を自動制御することで、職人技のおにぎりが出来上がります。しっかりとクオリティの高いモノを作れるのは、やはり、これまで培った技術力・開発力の賜物だろうと感じる仕上がりでした。
枠の中にご飯と具を入れスイッチを押すだけで、一瞬にしてきれいな三角おにぎりが完成する。
 コンビニのおにぎりやスーパーの惣菜売り場などで売られている出来合いのものと違い、できたての温かい状態で食べられるのも魅力です。日本では、冷めた状態で食べるのはごく普通ですが、海外では温かい方が好まれるのだそうです。私も久しぶりに握りたてのおにぎりを食べて、できたてだと米粒が柔らかく、米の甘味や香りがあっておいしいなぁと思いました。

 また欧米では「機械が握っている」ことも魅力の一つになるそうです。人が手で握るのは不衛生という認識が強いためです。他にも、米国では白米よりも玄米の方が「クール」だと評価されたり、ヴィーガンフードとして受け入れられたりといった傾向もあります。国や地域によって嗜好や価値観が異なるので、その土地にあった展開が求められるわけです。OniRobotによって、おにぎりが一層欧米に普及すれば、かつての寿司とカリフォルニアロールのように、新たなおにぎり文化が育まれていくかもしれませんね。

ランチ難民を救うソリューション

「20+20≒45」

 この式は何を表しているでしょうか? これは、都市部で働くオフィスワーカーの休憩時間で、昼休憩の45分のうち移動に20分、喫食に20分が使われていることを表しています。高層ビルで働いている場合、エレベーターでの昇降に時間がかかり、お店に着いても行列。実際に食事をしている時間は短く、移動や順番待ちに時間が割かれているということがわかります。外食以外にテイクアウトや弁当を買うという選択肢もありますが、それはそれで課題があります。同じメニューばかりになりがちだったり、好きなものが店頭に並んでいなかったり、栄養バランスが気になったり…。いずれにせよ、多くの人が日々の昼食に様々な課題を抱えています。

 一方で、弁当などの配達業者や出張販売業者も課題を抱えています。例えば弁当を配達してもオフィスに出入りできない場合。やむをえず客とビルの下で待ち合わせることになりますが、エレベーターで階下に降りてくるまで長い時間待たなくてはなりません。出張販売の場合も、客が並べる時間が限られるため、人件費のわりに売り上げが伸びない、なんてこともあるようです。

 それを解決しようというのが「totteMEAL(トッテミール)」というサービスです。スマホアプリを使って弁当を予約すると、オフィス内に設置されたスマート冷蔵庫に弁当が届けられ、好きなときに取り出して食べられるというサービスです。

 アプリには、注文や決済だけでなく、冷蔵庫の開閉に必要な鍵をQRコードで表示する機能も付いていて、購入者以外は冷蔵庫を開けられない仕組みになっています。注文画面には喫食履歴に応じてオススメの弁当が表示されるため、自分の栄養状態や好みにあった弁当を、移動時間や待ち時間をかけることなく食べられるわけです。

 弁当をデリバリーする側にとっても、遠隔で在庫や温度を管理でき、決済もアプリで済ませられるため業務が効率的という利点があります。利用者と配送者がタイミングを合わせる必要がないので、物流面でも効率的です。

 totteMEALに関しては既に、いろいろな場所で、1年近く実証実験が行われています。企業の福利厚生として、弁当用のスマート冷蔵庫が設置されるようになる日も遠くないかもしれません。

30秒で手軽にカロリー計算

 最後に紹介するのは、料理を箱に入れてボタンを押すだけで、その料理のカロリーや三大栄養素(炭水化物・タンパク質・脂質)の数値を測定できる「CaloRieco(カロリエコ)」です。

 核となる栄養素の測定機器では、近赤外分光法という手法によって栄養素を測定しています。食品に近赤外光を当てると、炭水化物、タンパク質、脂質がその一部を吸収し、残りの光が反射されます。反射した光と照射した光との差を測ることで、食品に含まれる栄養素の量やカロリーを推定できるという原理です。試作機でデモンストレーションしていただきましたが、1本100kcalの栄養バーを4本を入れてみたところ、結果は424kcal。誤差は10%以内でした。
CaloRiecoの本体は電子レンジほどの大きさ。食品を入れ、測定ボタンを押すだけでカロリーや栄養バランスが表示される。
 CaloRiecoで提供されるサービスは、栄養素の測定だけではありません。スマートフォンやタブレットなどのアプリと連携し、測定した数値を記録したり、朝昼の摂取状態から夕飯の推奨カロリー、栄養バランスを表示したり、さらにはその数値に基づいてオススメのレシピや飲食店を提案したりという具合に、付加サービスも併せて開発しています。

 さらに、フィットネス機器と連携させれば、摂取カロリーと消費カロリーの両方が分かるようになるので「あと10分ジョギングすれば、この料理を食べても大丈夫です」など、プラスマイナスの収支を合わせるようなオススメの仕方もできるようになると考えているそうです。

 このサービスを、先に紹介したOniRobot やtotteMEALなどのサービスと共通のプラットフォーム上で展開し、朝はOniRobotで買ったおにぎりの栄養価が、昼はtotteMEALで注文したお弁当の栄養価が、そして夜は家で作ってCaloRiecoで測定した料理の栄養価が記録される、というように、自然と1日の食事ログが記録されていく仕組みを作ることも検討されています。

 このアイデアを主導している海藏さんは、もともとフィットネス機器やマッサージチェアなど健康関連の技術開発に携わっていました。活動量計など消費カロリーを測定できる機器は既に色々とありますが、摂取カロリーを測定する機器はありません。せっかく運動して消費しても、つい食べすぎて結局痩せられないというような話もあり、摂取カロリーを測定できる機器を作れないだろうかと考えたのが、CaloRieco開発の始まりだったそうです。

 病院にヒアリングに行くことも多く、糖尿病の方の食事管理が大変だということをよく聞いていました。日々の摂取カロリーや栄養価を記録するのは容易なことではありません。食事療法に取り組んでいる方々の中には、作った料理の材料と分量を書き出し、食材ごとの栄養価を調べ、合計を計算・記録している人がいますが、1食当たり20~30分はかかるため、大きな負担となっています。簡便に食事管理できるアプリやサービスもありますが、たいてい、対象は「カツ丼」「唐揚げ」といった名前のある料理で、データベースから栄養価を算出します。つまり、「冷蔵庫にあった食材の炒め物」のような料理は記録しにくいという難点があります。

 こうした課題を解決できないだろうかと考えていたところ、別の部署の人から近赤外光を使った測定技術を提案され、Game Changer Catapultに応募しました。現在は試作機の精度を上げながら、レストランなど、実証実験をできる場を探しているところです。

 紹介した3つのアイデアは、確かに新しい“カデン”を予感させるものです。既に商品化間近なものもあるそうで、今後の展開が楽しみです。
著者:平松 紘実
科学する料理研究家。食・科学ライター。科学をわかりやすく楽しく伝えたいと考え、大学在学中に、料理のコツを科学で解説するブログを始める。2011年よりライター、科学する料理研究家として本格的に活動を開始。2013年には初のレシピ本『「おいしい」を科学して、レシピにしました。」を刊行。
オフィシャルWebサイト「Official web site


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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