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Lifestyle 公開日: 2019.02.27

“自転車の街”をより安全に!まずはインテリジェント街灯──コペンハーゲンに見る街のデジタル化(1)

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「自転車のパラダイス」。自身をこう評するコペンハーゲンのデジタル活用とは。

 デンマークの首都コペンハーゲン。名だたる自転車都市である。通勤通学の40%以上は自転車によって行われているというからすごい。自転車というとオランダを思い浮かべるが、コペンハーゲンの担当者は、「うちはIT支援も強い、自転車のパラダイスだ」という。

 デンマークの首都コペンハーゲンが自転車の町だと知ったのは、2016年10月。オーストラリアのメルボルンで開催された「ITS世界会議2016」の閉会式で、コペンハーゲンのMorten Kabell市長(技術・環境管理担当:当時)が2018年のホストシティとして挨拶した時のことだった。
コペンハーゲンの人達は、雪の中でも元気に自転車で通勤するという。ちなみに、コペンハーゲンの緯度は北緯55度。稚内は北緯45度である。コペンハーゲンのKabell市長(環境・技術担当)がITS世界会議メルボルン大会(2016)で示した。
 Kabell市長は「雑誌のランキングで、我々は4年連続で世界一住みやすい都市とされている」との言葉で挨拶を始め、環境配慮型の都市形成を目指すコペンハーゲンでは、自転車通勤が盛んだとして、何枚もの写真を見せた。その中の一枚は、降りしきる雪の中、コートに雪を積もらせながらも自転車に乗って進む人の様子が写っていた。これはもう勤めに行くというより修行ではないか、と会場にどよめきが走った。辞書を引いたら「勤めに行く」ならぬ「勤行(ごんぎょう)」は「仏道の実践に努めること」(スーパー大辞林)とある。コペンハーゲンの通勤者の修行僧的ストイックさが伝わる写真だった。

 実は、このプレゼンテーション、ちょっとした物議を醸した。それは、ITS世界会議のホストシティであったメルボルンが「世界一住みやすい町」として、経済誌「Economist」に2011年以来6年連続(当時:2017年まで連続7回)して選出されていたからだ。閉会式の司会を務めたオーストラリアのテレビ司会者Helen Kapalos氏は、何度も「世界一住みやすいメルボルン」としていた。そこへ、Kabell市長が「別の雑誌の評価」としながらも「世界一」を標榜したわけだ。Kapelos氏は「後でちょっとお話ししましょう」とコメントしていたが、その「お話ししましょう」が「体育館の裏に来なさい」と聞こえたのは、筆者だけではあるまい。なお、「別の雑誌」とは、グローバル情報誌「MONCLE」と思われる。

 その後、Kabell市長は無事オーストラリアから帰国できたようで、翌年のITS世界会議(カナダ・モントリオール)にも登場した。疑問だった「市長(技術・環境管理担当)」の意味を、エスカレーターで並んだ際に尋ねてみた。なんと、コペンハーゲンには担当分野ごとに市長が6人いるという。市議会が市長を指名するとも聞いた。帰国後に調べると、分野ごとの常任委員会の委員長が「市長」となり、財務委員会委員長が「大市長(Lord Mayor)」として、市を代表するらしい。Kabell市長は「私の上に誰かがいて、指示してくることはない」と言っていたので、各分野の最高責任者は各市長ということになる。

街中には自転車の奔流が・・・

 2017のITS世界会議では、Kabell市長は動画でコペンハーゲンの自転車通勤を示していた。これは厳寒期の通勤映像ではなく、よい季節の映像だった。そこで述べられたのは、
  • 通勤の41%に自転車を使用
  • インテリジェント街灯で消費電力半減
といった事柄だった。職場の半数近くの人が通勤に自転車を使うということだ。
Kabell市長は「通勤の41%が自転車」との状況を報告した(コペンハーゲン市制作のビデオ)
 その実態を、2018年9月下旬にコペンハーゲンを訪れた際に実感した。街に出ると、その自転車の多さに目を見張った。通勤時間帯だと、行列が延々と続く。道の端に2列に並んできれいに走ってくるのは、さすがといったところか。通勤時間帯には「移動自転車店」が路上に店を開き、故障対応していた。これも、さすがである。
市内では、きれいに列を作って自転車が走っていた。自動車との分離も明確になされており、互いに無用な緊張せずに走行できるようだ。
 ITS世界会議で聞いたのだが、コペンハーゲンには世界初の「自転車用信号」があるという。自動車用とどのようにタイミングが異なるかの確認はできなかったが、人々が自転車用信号を守って走行している様子が見てとれた。
裏通りで見つけた移動自転車店。電話一本で駆けつけ手早く修理を完了させるそう(https://rencykel.dk/)。右はコペンハーゲン市内の自転車用信号機。

街灯を無線でメッシュに接続し制御、将来は街の“情報共同溝”に

 2017年のITS世界会議で紹介されたインテリジェント街灯について、同市の担当者と設計施工を請け負った米ITRON(米Silver Spring Networksが担当し、後に同社がITRONに買収された)の担当者が講演した。

 講演によると、インテリジェント化された街灯は2万基にのぼる。インテリジェント化とはネットワーク対応のことで、Wi-SUNによるメッシュネットワークを組んでいる。メッシュネットワークとは、中央の管理役がいないネットワークで、情報は、隣隣へと順々に渡されて行く。目的の場所まで情報が到達する経路は一つに限られないため、どこかの接続が切れても情報を伝達できる。また、つながり方(トポロジー)を管理しなくてよいため、比較的手軽に増設、削減できる。もちろん、完全に自律的に動作させると、ノードが1つ追加されただけで、全メッシュの構成を再確認するといった「洪水(フラッデイング)」が起こる。この通信コストを抑えるために、メッシュネットワークによるマルチホップ(多段中継)を生かしつつ、目的の通信方向を管理するような方法も生まれている。

 Wi-SUNは、産業利用に焦点を当てて、日本の企業や組織が活発に参加して規格化された方式である。周波数はサブGHz帯(日本では、920MHz帯)から2.4GHz帯を使い、伝送レートは最大800kビット/秒程度。無線としての信号方式はIEEE 802.15.4gに則っている。

 802.15.4は、元はPAN(Personal Area Network)用として規格化されたが、Wi-SUNでは、1km程度の到達距離を考えているようで、もはやパーソナルエリア向けの通信規格ではない。コペンハーゲンで使われているのは、Wi-SUNのプロファイルの一つ、Wi-SUN FAN(Facility Area Network)とみられる。都市での展開なども考慮した方式で、スマートシティにうってつけだ。

 コペンハーゲンの「インテリジェント街灯」は、LED化されていて、もともと消費電力が少ないこと、中央制御室からの制御で明るさを変更できることとなど、電灯としての基本機能が高い。それらに加えて備えているのが、「通過する自転車があるときだけ、交差点の電灯が明るくなる」機能だ。通常は、電力節減のため明るさは落としているが、その光量では交差点での衝突事故の懸念があるため考案された。

 動作は、こうだ。交差点の手前にある街灯には下向きにモーションセンサーとレーダーが取り付けられている。交差点の周囲に配された「レーダーピケット(電波監視)街灯」が、エリア内に入る自転車を検知すると、近隣に警報を発する。この電波を受信した交差点の街灯が明るさを上げ、安全な交通に寄与する。
街灯は、ワイヤーを使ってつり下げられている。広い交差点の真ん中も街灯が照らす。
 コペンハーゲン市は今後、街灯の機能拡張を計画しているという。また、構築したネットワークに色々な機材をつなぎ、安全確保や情報収集への利用を考えているという。この無線メッシュネットワークを、デジタル時代の「情報共同溝」として使えば、種々の情報が飛び交う道筋を構築できるというわけだ。

後編につづく


杉沼 浩司


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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