自動運転が楽しみだ。自動車が入れる場所ならばどこにでも運んでもらえる。運転しなくても連れて行ってくれのなら、疲れていても、飲み会の後でも関係ない。ITS Japanの会長だった渡邉浩之氏は、生前、講演の際に「馬の上で眠っている人」の写真を掲げて「馬ならば、家まで運んでくれる。自動車は“自動”を目指す」との方向を示していた。


 もちろん今でも、タクシーを呼べば運んでもらえるから「自動」ではある。「自動運転」にタクシー以上の魅力を感じるのは、「自分のクルマが自動で連れて行ってくれる」ことを夢想するからだろうか。

自動運転研究の歴史は案外長い

 自動運転自体は、1960年代から研究されているが、急速に進んだのはこの15年だろう。特に、米国防高等研究計画局(DARPA)の「グランド・チャンレンジ」(150マイルを自動運転で10時間以内に走破する競争)において、2005年に初めて完走車両が出たところから勢いづいた。この競技会で首位を獲得したのが、米スタンフォード大学の「Stanley」だ(写真1)。


CES2006に登場したスタンフォード大学の自動運転車両Stanleyは初めて100マイルを自動で走行した車となった。前年までは完走車はなかったが、この年は複数がゴールし、自動運転技術の発達を印象づけた

 グランド・チャンレンジでは、競技車両に事前にコースの経路情報(GPSデータ)を渡す。しかし、このGPSデータは完璧なものではなく、途切れている場合もある。また、道路の状況がデータ取得時と異なっている場合もある。各車両は、搭載したセンサーで状況を確認しながら進まなくてはならない。


 自動運転の研究は、古くはロボット工学者が他の分野の科学者、技術者と連携して行っていた。DARPA(当時はARPA:米国高等研究計画局)は1960年代から、自動運転車開発を推進している。当時は、現在のスマートフォン以下のCPU能力とカメラ能力しか使えず、人工知能の方式も現在ほど発達していなかった。もちろん、デジタル地図を描くこともできなかった。このため、画像認識しながらゆっくり進んでいたようだ。ある研究者の回顧談で「ロボット車(自動運転車)が、道端の木を枝分かれした道路だと思ってそちらに進んでしまって困った。仕方がないので、木を切り倒して実験した」などと語っていたことがある。60年代の研究者は、チェーンソーも扱えなければならなかったようだ。

どこで自動運転を使うのか

 グランド・チャレンジは、その後、市街地を模したコースを走る「アーバン・チャレンジ」(2007年)となり、ここでも多くの成果が得られた。では、自動運転車両がどんどん街中にやってくるかというと、そうはならなかった。現実の街中は、競技会で作られた環境よりも遥かに難しい。


 2018年5月、ミシシッピ州立大学に、この方面の専門家が集まり、自動運転がどのように社会に浸透していくかの道筋と、一般社会が受容するために必要な自動車側の技術を論ずるワークショップ「ROAD2018」が開催された。


ミシシッピ州立大学は、非常に強力な自動車工学研究センターを持っている。写真は、大学で独自開発したプラグインハイブリッド車。自動運転研究のプラットフォームとなっている

 3回目となるこの会合では、「いつ」導入されるか、「なぜ」導入されるか、といった根幹が論じられた。もちろん、必要な所から導入されるのだが、必要性は「3D」、つまり「Dull(運転が退屈)」「Difficult(運転が難しい)」そして「Dangerous(運転が危険)」で測れるだろうとのことで意見の一致を見た。この観点から見れば、高速道路での導入が最初に来るであろうことは理解できる。また、鉱山や屋外での運搬に使う作業用車両の自動化が急がれるのも、3Dの観点から納得だ。


 ROAD2018では、各地の研究者達が高速道路での導入が真っ先になると主張したが、その先の動きに面白い反応を示した。「高速道路以外では、我が地域(我が国)は導入が大変だ」という。その理由が、各人異なるのだが、米国は複雑な法体系(特に、連邦と州の関係)、欧州は狭い道路、アジアは貧弱なインフラを理由とした。隣の芝生は青く見えるようだ。


僻地にこそ自動運転

 自動運転車の実験は各地で進められている。海外では、半月程度の運行は「デモンストレーション」扱いであり、「実験」とは呼ばれないようだ。高度交通システム関連の業界では、デモ、実験、実証実験などに、しっかりとした定義がなされているとも聞く。


 半年から2年といった長期間の実験は、各地で行われている。多くの場合、公共交通のオペレーター企業が主導する。オペレーターとは、自治体から公共交通の運行を請け負う企業だ。海外では当然のごとく存在する。自治体の中だけでなく、複数の自治体をまたいで運用する時など、この方法ならばやりやすそうだ。


 欧州では、オペレーターに加えて、鉄道事業者や郵便事業者による実験もある。スイスでは、郵便事業者であるSwisspostが長期実験中だ。ドイツでは、ドイツ鉄道(DB)が、オペレーター企業Iokiを運営している。従来DBが行っていた自動運転実験はIokiが引き継いで実験している。欧州に外交官として駐在した経験のある元経済官僚は、郵便事業者や鉄道事業者が過疎地の交通を担当することについて「スイス、ドイツの山間部の交通を地方自治体や私企業が担うには無理があった。郵便の集配や鉄道運行の延長としてバスの運行がなされた。鉄道会社がバスを運行したことは、日本も同じだ」と語っていた。

「信号を渡る」こともできた

 2018年9月のITS世界会議(デンマーク・コペンハーゲン)では、世界各地で行われている実証実験の様子が語られた。実証実験は、「ポッド型」と呼ばれる乗車人数12人未満の「超小型バス」が使われることが多い。聞けば、欧州の車両認証制度では、乗車人数が12人未満と12人以上では大きな違いがあるようで、認証取得を速やかに済ませようとすると、自然とポッド型になるらしい。


 「自動運転」というと乗用車型を思い浮かべるが、こちらはまだ開発中の要素が多い。一方、超小型バスは、決められたルートを走るため、開発が先行している。各地の実証実験は、一般の人々を乗せての実験であり、技術開発よりもサービス開発の面が強いようだ。


 アメリカからは、国内で最初に自動運転バスの実証実験を開始した、カリフォルニア州コントラコスタ郡交通局が実験状況を発表した。自動車社会でのアメリカで、なぜ自動運転バスか。そこには、自動車社会が維持できなくなるとの見込みがあるようだ。コントラコスタ郡交通局は、道路などのインフラの維持管理や、地域交通サービスの運営など、地域の交通に関する責任を持つ。インフラ維持と交通サービスの提供が同じ部門で行われているのは効率が良さそうだ。


 コントラコスタ郡では、ビジネスパーク内での実験からスタートした。コントラコスタ郡の担当者によると、実験に協力している地元の不動産開発会社(ビジネスパークを運営)は駐車場ビルを作り、そことオフィスビルの間を自動運転車両で人員輸送したいと考えているそうだ。現在は、オフィスの近くに平面駐車場を置かざるを得ない。これを廃して駐車場ビル化すれば、収益性の高いオフィスビルを増やせる。ところが駐車場ビルとオフィスビルの間の移動手段がなかった。自動運転は、低コストに移動手段を提供すると期待されているのだ。


 この実験では、2018年から自動運転車が「信号を渡る」ことも行われ始めた。信号機に無線装置(Wi-Fiとの説明であったが、無線の意味でWi-Fiと述べたように感じられる。DSRCの可能性が高い)を取り付け、車両との間の通信により交差点進入の可否を判断する。「画像認識よりも確実」(担当者)とのことであった。

本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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