※ 上の写真中央がAI TOKYO LABの北出宗治社長。向かって右がCTOの土田安紘氏、左が北海道大学大学院情報研究科調和系工学研究室の川村秀憲教授。


 リテール分野の課題をAI(人工知能)で解決したい。急ピッチでデジタル化が進み始めたリテール領域に特化する形でAI活用ビジネスに挑むAI TOKYO LAB。起業から3年未満だが、着々と成果を上げている新進気鋭のAIスタートアップである。


 もともと社長の北出宗治氏は、AIのテクノロジーに関してまったくの素人だった。それが、ある出会いが発端となって2016年6月、仲間とともに起業した。2017年6月には札幌を拠点に全国展開するドラッグストア「サツドラホールディングス」の傘下に入った。


 そんなAI TOKYO LABの北出社長に、AIとの出会い、サツドラの傘下に入った理由、事業内容、人材育成、自身の生い立ちと転機、目指しているビジネス像について聞いた。

北大・川村教授と出会い“AIの社会実装”へ

 「ヨーロッパに視察に行ったら、どこもかしこもこれからはAIだと言っている。うちの会社でもAIを使って何かできないか、提案してほしい」。北出氏が、クライアントの1社である大手家電メーカーの担当者から相談を受けたのは2015年秋のことだった。


 北出氏は当時、フリーで企業経営のコンサルティングを手がけていた。しかし、「自分がITに詳しいといってもAIのバックグラウンドはないし、AIがそんなに実用的だとは聞いたことがないと言って、最初は断った」。しかし、お客様からは再三、提案の催促があり断りきれなくなってきていた。


 そこで、困って相談した相手が、後に傘下に入るサツドラホールディングスの富山浩樹社長だった。北出氏は苫小牧出身の道産子。“北海道に思い入れがあってITに詳しい人材”を探していた富山氏に見込まれて、サツドラの新規事業開発を手伝っていた。そういう関係もあり、北出氏は富山氏に泣きついた。


「AIに長けた人を誰か知りませんか」


 富山氏が即座に挙げた名前が北海道大学大学院情報研究科調和系工学研究室の川村秀憲教授だった。富山氏は、ちょうどその少し前に川村教授からAIの素晴らしさを聞き、自社で応用できないかと考えているところだった。北出氏は、富山氏の紹介ですぐに川村教授と出会うことになる。


 川村教授は、AIの研究で50年以上の歴史がある北大の研究室で4代目の教授である。研究の蓄積があり、人材のネットワークも充実していた。企業との共同研究や事業化の話が多数舞い込んでいた川村教授としても、企業向けのAIビジネスを推進していく枠組みを模索していたところで、願ったり叶ったり。3人は意気投合した。


 北出氏は当時の思いを次のように振り返る。


「川村教授には、“これから日本にもAIの社会実装の波が来る。社会に出ないで論文を出して終わりじゃもったいない”という思いがありました。自分はAIのことはよくわからないけれど、コンサルを通してビジネスのやり方には慣れているので、一緒にやればうまくいくのではないかと感じました」


 北出氏は早速、川村教授の知見を借りながら大手家電メーカーへの提案書をまとめあげた。顧客の反応は良く、ほぼ受注が決まった。そこで、分析、開発、営業のそれぞれが得意な仕事仲間に声をかけて、2016年6月1日、エーアイ・トウキョウ・ラボ(設立当初の社名はカタカナ)を設立した。「設立当初のコンセプトは“会社自体が実験”。そういう意図を込めてラボと名付けた」と言う。今でこそ70名の従業員を抱えるが、当初、従業員はゼロ。常勤は、当時副社長だった北出氏だけという船出だった。

熟練の技をAIで代替しカタログの校正作業を自動化

 「まずやってみよう。とりあえずスタートすることが大事だ」ということで、大手家電メーカーへの提案を実装する開発に着手した。テーマは「紙のカタログの校正作業を自動化すること」だった。


 「その家電メーカーでは紙のカタログを四半期ごとに発行していて、その校正作業が膨大でした。しかも、担当者が20~30年かけてノウハウを蓄積してきた50歳を超えるベテランで、なかなか若手に引き継げないという課題を抱えていました。そこで、会社のノウハウとして標準化したいということから、熟練の知識・スキルをAIに学ばせることにしました」


 といっても、熟練の技をAIで代替するのは容易ではない。北出氏はまず、人間がやるべきことと、AIがやるべきことの領域を分けた。


 「キャッチコピーが正しいかどうかをAIに判断させるのは無理があります。体言止めをはじめ、日本語としてあえて不自然にした表現が魅力的になることがあります。それが魅力的かどうかは、人間でないと判断できません。このため、キャッチコピーの校正作業は引き続き人間が担当することにしました。一方、型番と製品画像が合っているかどうか、画像の寸法の数字が正しいかどうか、といったことはAIに判断させることにしました。デザイナーがレイアウトの際に、画像や縮尺を間違えることもあるからです。説明文で、使わなければならない言葉が入っているかどうか、逆に使ってはいけない言葉が入っていないかどうか、さらに助詞の使い方が正確かどうかなどには自然言語処理で対応しました。判断が難しい場合は、アラートを出し、人間が最終チェックします」


 このプロジェクトでは、自然言語処理のほか、機械学習、ディープラーニングといったAIの処理技術を活用して、最終的に1年半で完成に漕ぎ着けた。


 その後、エーアイ・トウキョウ・ラボでは川村教授の企業人脈や卒業生のネットワーク、さらに北出氏の昔からの顧客のネットワークにより、自動車メーカーのほか銀行、通信といった業種から複数のプロジェクトを受託した。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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