北出氏が指し示すのはサツドラグループがオープンした新業態で北海道ゆかりのものがずらりそろった「北海道くらし百貨店」のポスター

リアルな空間のデータが欲しかった

 会社を立ち上げてから1年後の2017年6月1日、北出氏は社長に就任。その翌日(6月2日)にサツドラホールディングス(札幌市)と資本提携し連結子会社となった。


 「AIの社会実装を考えた場合、適用先のリアルな場所・空間が必要です。それは工場かもしれないし、オフィスかもしれないし、店舗かもしれない。その中でもリアルな店舗を持っているのがサツドラの強み。しかも、ITに関心が高くてトップダウンで現場を動かせる富山さんという人がいる。大きな変革を起こせそうだと感じました」


 サツドラホールディングスの出資比率は51%である。


 「最初からその出資比率は高いと言われることがありますが、それでもいいからデータが欲しかった。AIの世界はデータがないと分析ができません。データには、POSデータ、商品データのほか個人情報があります。コンプライアンスの関係上、従業員の勤務データをグループ外には出せません。傘下に入ってしまえば、こうした問題は解決します。現場も一体感を持って開発に取り組めます」


 こうした経緯でサツドラ傘下に入ったエーアイ・トウキョウ・ラボは、2017年10月31日、社名をカタカナから英語表記のAI TOKYO LABに変更した。


 「カタカナのエーアイだと、パッと見で別の何かと読み間違えそうだし、何よりも人工知能のAIと結びつきにくい。グローバル展開を目指す意味でも英字表記にすることにしました」


 なお、2017年10月3日には北海道大学内にAI開発拠点として「AI HOKKAIDO LAB」を設立。CTO(最高技術責任者)の土田安紘氏がAI HOKKAIDO LABの所長に就任している。


夏は半袖(AI TOKYO LABと記載)で冬は長袖(AI HOKKAIDO LABと記載)のTシャツを着用しているそうだ

リテール向けSaaS型AIソリューションを2019年夏にリリースへ

 現在の事業はというと、実はサツドラからの売上比率は高くはなく、他社からの受託が大半を占めている。


 「創業時から、とにかく何でもよいので相談してくださいということでお客さんと話をしています。お客さんの方は、AIのことはほとんどわからず要求仕様を作れない状態の、ざっくりした相談が多いですね。答えは、チャットボットになるかもしれないし、需要予測になるかもしれません。そこで、コミュニケーションを取りながら、落としどころを決めていきます」


 受託業務の種類としては業務効率化が中心だ。


 「特に受発注業務、問い合わせ対応業務へのAIの適用が多いです。あるお客様は、コールセンターにかかってきた電話の問い合わせ内容の整理・分析をAIで実施しようとしています。従来、問い合わせはオペレータがデータとしてすべて記録していました。その数は1日で何千件にもなります。その膨大なデータの内容の分析から、担当部署への振り分けをAIで代替しています。最近では、AIとRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)との連携も増えてきています」


 一方、サツドラ向けには納品して終わりという仕事はほとんどなく、サツドラと共同で他のリテール向けに外販するソリューションを開発している最中だ。


(資料提供:AI TOKYO LAB)

 「事業は2部門があります。1つは前述した受託開発で、もう1つがリテール向けのAIソリューションの開発です。SaaS(Software as a Service)と言われるクラウド型で提供するサービスで、2019年の夏頃にリリースする予定で開発しているところです。つい最近、サービス名を“AWL Suite”とすることに決めました」


 このサービスは、店舗内のカメラを防犯、マーケティング、従業員の働き方改革、商品認識にも応用できるというものだ。リテール向けでAIを活用したサービスとしては、防犯、マーケティングなど、内容を限定したものは、日本にも既にある。ただ、ここまで体系化したサービスは、ほとんど例がない。


 「サツドラの店舗の店長、マネージャーのほか、商品企画部門、パート、アルバイトなど、それぞれのレイヤーの人たちに使ってもらい、意見をもらいながら開発・改良を進めている最中です。設置するカメラのハードにはこだわっておらず、何でもよいというスタンスで進めています」


 後編では、人材育成、北出氏自身の生い立ちと転機、目指しているビジネス像について明らかにする。


後編につづく


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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