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Business 公開日: 2019.02.13

【AIビジネスのカタリスト】リテールの課題をAIで解決――AI TOKYO LAB(前編)

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無人店舗ではなく、AIが人を助ける店舗を作る――。語るのはAI TOKYO LAB社長 北出 宗治氏。

※ 上の写真中央がAI TOKYO LABの北出宗治社長。向かって右がCTOの土田安紘氏、左が北海道大学大学院情報研究科調和系工学研究室の川村秀憲教授。
 リテール分野の課題をAI(人工知能)で解決したい。急ピッチでデジタル化が進み始めたリテール領域に特化する形でAI活用ビジネスに挑むAI TOKYO LAB。起業から3年未満だが、着々と成果を上げている新進気鋭のAIスタートアップである。

 もともと社長の北出宗治氏は、AIのテクノロジーに関してまったくの素人だった。それが、ある出会いが発端となって2016年6月、仲間とともに起業した。2017年6月には札幌を拠点に全国展開するドラッグストア「サツドラホールディングス」の傘下に入った。

 そんなAI TOKYO LABの北出社長に、AIとの出会い、サツドラの傘下に入った理由、事業内容、人材育成、自身の生い立ちと転機、目指しているビジネス像について聞いた。

北大・川村教授と出会い“AIの社会実装”へ

 「ヨーロッパに視察に行ったら、どこもかしこもこれからはAIだと言っている。うちの会社でもAIを使って何かできないか、提案してほしい」。北出氏が、クライアントの1社である大手家電メーカーの担当者から相談を受けたのは2015年秋のことだった。

 北出氏は当時、フリーで企業経営のコンサルティングを手がけていた。しかし、「自分がITに詳しいといってもAIのバックグラウンドはないし、AIがそんなに実用的だとは聞いたことがないと言って、最初は断った」。しかし、お客様からは再三、提案の催促があり断りきれなくなってきていた。

 そこで、困って相談した相手が、後に傘下に入るサツドラホールディングスの富山浩樹社長だった。北出氏は苫小牧出身の道産子。“北海道に思い入れがあってITに詳しい人材”を探していた富山氏に見込まれて、サツドラの新規事業開発を手伝っていた。そういう関係もあり、北出氏は富山氏に泣きついた。

「AIに長けた人を誰か知りませんか」

 富山氏が即座に挙げた名前が北海道大学大学院情報研究科調和系工学研究室の川村秀憲教授だった。富山氏は、ちょうどその少し前に川村教授からAIの素晴らしさを聞き、自社で応用できないかと考えているところだった。北出氏は、富山氏の紹介ですぐに川村教授と出会うことになる。

 川村教授は、AIの研究で50年以上の歴史がある北大の研究室で4代目の教授である。研究の蓄積があり、人材のネットワークも充実していた。企業との共同研究や事業化の話が多数舞い込んでいた川村教授としても、企業向けのAIビジネスを推進していく枠組みを模索していたところで、願ったり叶ったり。3人は意気投合した。

 北出氏は当時の思いを次のように振り返る。

「川村教授には、“これから日本にもAIの社会実装の波が来る。社会に出ないで論文を出して終わりじゃもったいない”という思いがありました。自分はAIのことはよくわからないけれど、コンサルを通してビジネスのやり方には慣れているので、一緒にやればうまくいくのではないかと感じました」

 北出氏は早速、川村教授の知見を借りながら大手家電メーカーへの提案書をまとめあげた。顧客の反応は良く、ほぼ受注が決まった。そこで、分析、開発、営業のそれぞれが得意な仕事仲間に声をかけて、2016年6月1日、エーアイ・トウキョウ・ラボ(設立当初の社名はカタカナ)を設立した。「設立当初のコンセプトは“会社自体が実験”。そういう意図を込めてラボと名付けた」と言う。今でこそ70名の従業員を抱えるが、当初、従業員はゼロ。常勤は、当時副社長だった北出氏だけという船出だった。

熟練の技をAIで代替しカタログの校正作業を自動化

 「まずやってみよう。とりあえずスタートすることが大事だ」ということで、大手家電メーカーへの提案を実装する開発に着手した。テーマは「紙のカタログの校正作業を自動化すること」だった。

 「その家電メーカーでは紙のカタログを四半期ごとに発行していて、その校正作業が膨大でした。しかも、担当者が20~30年かけてノウハウを蓄積してきた50歳を超えるベテランで、なかなか若手に引き継げないという課題を抱えていました。そこで、会社のノウハウとして標準化したいということから、熟練の知識・スキルをAIに学ばせることにしました」

 といっても、熟練の技をAIで代替するのは容易ではない。北出氏はまず、人間がやるべきことと、AIがやるべきことの領域を分けた。

 「キャッチコピーが正しいかどうかをAIに判断させるのは無理があります。体言止めをはじめ、日本語としてあえて不自然にした表現が魅力的になることがあります。それが魅力的かどうかは、人間でないと判断できません。このため、キャッチコピーの校正作業は引き続き人間が担当することにしました。一方、型番と製品画像が合っているかどうか、画像の寸法の数字が正しいかどうか、といったことはAIに判断させることにしました。デザイナーがレイアウトの際に、画像や縮尺を間違えることもあるからです。説明文で、使わなければならない言葉が入っているかどうか、逆に使ってはいけない言葉が入っていないかどうか、さらに助詞の使い方が正確かどうかなどには自然言語処理で対応しました。判断が難しい場合は、アラートを出し、人間が最終チェックします」

 このプロジェクトでは、自然言語処理のほか、機械学習、ディープラーニングといったAIの処理技術を活用して、最終的に1年半で完成に漕ぎ着けた。

 その後、エーアイ・トウキョウ・ラボでは川村教授の企業人脈や卒業生のネットワーク、さらに北出氏の昔からの顧客のネットワークにより、自動車メーカーのほか銀行、通信といった業種から複数のプロジェクトを受託した。
北出氏が指し示すのはサツドラグループがオープンした新業態で北海道ゆかりのものがずらりそろった「北海道くらし百貨店」のポスター

リアルな空間のデータが欲しかった

 会社を立ち上げてから1年後の2017年6月1日、北出氏は社長に就任。その翌日(6月2日)にサツドラホールディングス(札幌市)と資本提携し連結子会社となった。

 「AIの社会実装を考えた場合、適用先のリアルな場所・空間が必要です。それは工場かもしれないし、オフィスかもしれないし、店舗かもしれない。その中でもリアルな店舗を持っているのがサツドラの強み。しかも、ITに関心が高くてトップダウンで現場を動かせる富山さんという人がいる。大きな変革を起こせそうだと感じました」

 サツドラホールディングスの出資比率は51%である。

 「最初からその出資比率は高いと言われることがありますが、それでもいいからデータが欲しかった。AIの世界はデータがないと分析ができません。データには、POSデータ、商品データのほか個人情報があります。コンプライアンスの関係上、従業員の勤務データをグループ外には出せません。傘下に入ってしまえば、こうした問題は解決します。現場も一体感を持って開発に取り組めます」

 こうした経緯でサツドラ傘下に入ったエーアイ・トウキョウ・ラボは、2017年10月31日、社名をカタカナから英語表記のAI TOKYO LABに変更した。

 「カタカナのエーアイだと、パッと見で別の何かと読み間違えそうだし、何よりも人工知能のAIと結びつきにくい。グローバル展開を目指す意味でも英字表記にすることにしました」

 なお、2017年10月3日には北海道大学内にAI開発拠点として「AI HOKKAIDO LAB」を設立。CTO(最高技術責任者)の土田安紘氏がAI HOKKAIDO LABの所長に就任している。
夏は半袖(AI TOKYO LABと記載)で冬は長袖(AI HOKKAIDO LABと記載)のTシャツを着用しているそうだ

リテール向けSaaS型AIソリューションを2019年夏にリリースへ

 現在の事業はというと、実はサツドラからの売上比率は高くはなく、他社からの受託が大半を占めている。

 「創業時から、とにかく何でもよいので相談してくださいということでお客さんと話をしています。お客さんの方は、AIのことはほとんどわからず要求仕様を作れない状態の、ざっくりした相談が多いですね。答えは、チャットボットになるかもしれないし、需要予測になるかもしれません。そこで、コミュニケーションを取りながら、落としどころを決めていきます」

 受託業務の種類としては業務効率化が中心だ。

 「特に受発注業務、問い合わせ対応業務へのAIの適用が多いです。あるお客様は、コールセンターにかかってきた電話の問い合わせ内容の整理・分析をAIで実施しようとしています。従来、問い合わせはオペレータがデータとしてすべて記録していました。その数は1日で何千件にもなります。その膨大なデータの内容の分析から、担当部署への振り分けをAIで代替しています。最近では、AIとRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)との連携も増えてきています」

 一方、サツドラ向けには納品して終わりという仕事はほとんどなく、サツドラと共同で他のリテール向けに外販するソリューションを開発している最中だ。
(資料提供:AI TOKYO LAB)
 「事業は2部門があります。1つは前述した受託開発で、もう1つがリテール向けのAIソリューションの開発です。SaaS(Software as a Service)と言われるクラウド型で提供するサービスで、2019年の夏頃にリリースする予定で開発しているところです。つい最近、サービス名を“AWL Suite”とすることに決めました」

 このサービスは、店舗内のカメラを防犯、マーケティング、従業員の働き方改革、商品認識にも応用できるというものだ。リテール向けでAIを活用したサービスとしては、防犯、マーケティングなど、内容を限定したものは、日本にも既にある。ただ、ここまで体系化したサービスは、ほとんど例がない。

 「サツドラの店舗の店長、マネージャーのほか、商品企画部門、パート、アルバイトなど、それぞれのレイヤーの人たちに使ってもらい、意見をもらいながら開発・改良を進めている最中です。設置するカメラのハードにはこだわっておらず、何でもよいというスタンスで進めています」

 後編では、人材育成、北出氏自身の生い立ちと転機、目指しているビジネス像について明らかにする。

後編につづく)


堀 純一郎=HORI PARTNERS代表


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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