前編からのつづき


 宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事・有人宇宙技術部門長で、宇宙飛行士の若田光一氏による、外部識者たちとの対談シリーズ第2弾。JAXAきぼう利用有識者委員の委員長を務める、自治医科大学学長永井良三氏と、バイオサイエンスにおける宇宙ステーション利用の価値について議論した。


 前編は、宇宙におけるバイオサイエンスの研究にどのような意義があるか、どのように医学・健康分野に影響するかを聞いた。後編は、宇宙ステーションに対する期待について聞いていく。

宇宙で得られたデータの共有に期待

若田 2019年には、国際宇宙ステーション(ISS)に取り付けられた有人実験施設「きぼう」が完成してから10年目を迎えます。ISSで利用する各種の実験装置や、宇宙飛行士の食糧や、衣類の輸送をする無人宇宙補給機「こうのとり」も、1号機が打ち上げられてから2019年で10年目を迎えます。


 「きぼう」はエアロックを使って超小型衛星を宇宙空間に搬出し、ロボットアームを使って放出できますし、宇宙で1Gの環境を人工的に作り出すことで無重力状態と非無重力状態の比較実験も可能になります。さらに重力を変えることで、月の1/6Gや火星の約1/3Gといった環境も作れます。


 今後の国際宇宙探査で重要になってくるのが、私たちが月や火星に行く際に低コストで長期的なミッションを行うための空気や水のリサイクル、生命維持、環境制御の分野です。水を打ち上げるだけでも非常にコストがかかるので、尿や汗をそのまま飲み水にまで再生できるような装置の開発が必要になります。


 それらの装置が無重力できちんと動くのかを、月や火星に行く前に国際宇宙ステーションで実証しなければなりません。


 そういう、人類の活動領域を広げていくための国際宇宙探査に向けたテストベッドという意味合いでも、「きぼう」は非常に重要な役割を果たしています。


永井 最近、日本は科学研究力が落ちていると言われていますが、一方で優れた要素技術をたくさん持っています。恐らく、今後は研究のあり方が変わっていくのではないかと思います。深く掘り下げる必要もあるし、横断的な研究も進めないといけない。その横断的な研究という部分で、日本は遅れているのではないかという意見があります。


 メディカルやゲノムなどの研究を独自に進めていくと、狭い領域から先に進めなくなることがあります。そういう意味で「きぼう」の活用として期待しているのが、宇宙で得られたデータを共有したり、みんなで研究の仕方を決めたりしていくことです。


 例えば、ロケットを打ち上げるところまではみんなで力を合わせます。そして、無事打ち上げに成功したロケットを使って、それぞれが独自に次の研究開発目標やビジネスモデルを立てていくのです。そうした方法で、たくさんのサクセスストーリーを作れば、それが日本の他の基礎研究や開発のモデルになっていくはずです。

本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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