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Business 公開日: 2019.02.21

【若田光一が対談、宇宙利活用の旅】地上では得られないストレス環境に価値あり(2)

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自治医科大学学長永井良三氏と対談。バイオサイエンスの観点から、宇宙ステーションに期待することは何か。

前編からのつづき)
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事・有人宇宙技術部門長で、宇宙飛行士の若田光一氏による、外部識者たちとの対談シリーズ第2弾。JAXAきぼう利用有識者委員の委員長を務める、自治医科大学学長永井良三氏と、バイオサイエンスにおける宇宙ステーション利用の価値について議論した。

 前編は、宇宙におけるバイオサイエンスの研究にどのような意義があるか、どのように医学・健康分野に影響するかを聞いた。後編は、宇宙ステーションに対する期待について聞いていく。

宇宙で得られたデータの共有に期待

若田 2019年には、国際宇宙ステーション(ISS)に取り付けられた有人実験施設「きぼう」が完成してから10年目を迎えます。ISSで利用する各種の実験装置や、宇宙飛行士の食糧や、衣類の輸送をする無人宇宙補給機「こうのとり」も、1号機が打ち上げられてから2019年で10年目を迎えます。

 「きぼう」はエアロックを使って超小型衛星を宇宙空間に搬出し、ロボットアームを使って放出できますし、宇宙で1Gの環境を人工的に作り出すことで無重力状態と非無重力状態の比較実験も可能になります。さらに重力を変えることで、月の1/6Gや火星の約1/3Gといった環境も作れます。

 今後の国際宇宙探査で重要になってくるのが、私たちが月や火星に行く際に低コストで長期的なミッションを行うための空気や水のリサイクル、生命維持、環境制御の分野です。水を打ち上げるだけでも非常にコストがかかるので、尿や汗をそのまま飲み水にまで再生できるような装置の開発が必要になります。

 それらの装置が無重力できちんと動くのかを、月や火星に行く前に国際宇宙ステーションで実証しなければなりません。

 そういう、人類の活動領域を広げていくための国際宇宙探査に向けたテストベッドという意味合いでも、「きぼう」は非常に重要な役割を果たしています。

永井 最近、日本は科学研究力が落ちていると言われていますが、一方で優れた要素技術をたくさん持っています。恐らく、今後は研究のあり方が変わっていくのではないかと思います。深く掘り下げる必要もあるし、横断的な研究も進めないといけない。その横断的な研究という部分で、日本は遅れているのではないかという意見があります。

 メディカルやゲノムなどの研究を独自に進めていくと、狭い領域から先に進めなくなることがあります。そういう意味で「きぼう」の活用として期待しているのが、宇宙で得られたデータを共有したり、みんなで研究の仕方を決めたりしていくことです。

 例えば、ロケットを打ち上げるところまではみんなで力を合わせます。そして、無事打ち上げに成功したロケットを使って、それぞれが独自に次の研究開発目標やビジネスモデルを立てていくのです。そうした方法で、たくさんのサクセスストーリーを作れば、それが日本の他の基礎研究や開発のモデルになっていくはずです。

宇宙環境でのストレスで、タンパク質、細胞、組織がどう変わるのか

若田 ISSは、現状2024年まで運用することが決まっており、その後は民間に運用を引き継ぐことなどが考えられています。JAXAとしても、今後は地球低軌道がビジネスや経済の分野で活用されることに期待し、そこでも「きぼう」に重要な役割を担ってほしいと考えています。

 そのため、これまでJAXAが事業を進めてきた「きぼう」からの超小型衛星放出事業を民間に開放しました。2018年5月に三井物産とスペースBDの2社を事業者として選定し、すでに事業が展開されています。

 また、2018年から「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」という研究開発プログラムを立ち上げ、民間企業とJAXAが共創して新たな事業に挑戦します。

 永井先生は2025年以降の「きぼう」の実験施設としての活用について、どのようなテーマに期待されますか。

永井 いろいろなストレスに対して人間がどう反応するのかという研究に関しては、基礎生命科学や医学を含めてさまざまなテーマがあります。最近では分析技術がずいぶん進歩してきましたので、宇宙で得た材料を地上で分析する実験装置もまだまだ工夫が必要だと思います。

 加齢の研究は一つの切り口であり、大きくはストレス応答という視点での研究が必要です。そこでは、ゲノムレベルからタンパク質レベル、細胞レベル、組織レベルといった基礎研究をしっかり行っていく必要があります。

 その一方で、実用化できるような研究を進め、それが両輪になって発展していくことが大事です。

若田 JAXAは国の研究課題や社会のニーズに応えていく研究施設や手段を提供することで、国が重点化した施策、課題に応える手段を提供してきました。これは今後も継続していく必要がありますし、永井先生がおっしゃったように横断的にデータをシェアしながら研究を進めていく方針で国が動くのであれば、その要請に応えていく必要があると思います。

 一方で、地球低軌道に関して新しいクリエイティブな利用を展開していくには、やはり民間のニーズに応えていく必要があると感じています。

 宇宙利用のメニューを見直したり、民間のみなさんの期待に沿った形での利用環境を整備したり、サービスを提供したりしていくということです。それが、民間の宇宙に対する研究活動のさらなる発展につながっていくと思います。

 今後、JAXAが月周回や火星探査などを重視していこうとすると、地球低軌道の利用については、より民間が占める割合が多くなっていくと思います。もちろん、国の研究開発基盤としての地球低軌道の利用は今後も続いていくのですが、全体的に国の利用は少なくなり民間の利用の方が多くなります。

 そこで、JAXAとしては「きぼう」運用の10年で獲得してきた知見やノウハウ、技術などを民間に継承していきます。それによって、地球低軌道の活動は経済活動の場としてより大きく発展するでしょう。それが、われわれが目指している将来像です。

 永井先生がおっしゃった教訓なども踏まえた上で、この10年間を整理し、2025年以降地球低軌道をどう利用していくのか、「きぼう」や、その先の国際宇宙ステーションはどうなっていくのかをきちんと議論していく必要があると考えています。
[対談者プロフィール]
永井 良三氏
自治医科大学学長。東京大学医学部名誉教授。1974年、東京大学医学部卒業。 1983年、米国University of Vermont, Visiting Assistant Professor。1993年、東京大学医学部第三内科助教授。1995年、群馬大学医学部第二内科教授。1999年、東京大学大学院医学系研究科内科学循環器内科教授。2003~07年、東京大学医学部附属病院長。2009年、東京大学TR機構長。2012年より現職。



元田光一=テクニカルライター
(撮影:黒田菜月)


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
© 2019 Nikkei Business Publications, Inc. / Sansan, Inc.

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