※ 列車の窓があなただけの観光ガイドに(写真提供:JR九州、NTTドコモ)

 乗客一人ひとりに向けた観光ガイドを列車の「窓」で実現できたら、移動時間をより楽しく、移動そのものをサービスとして生まれ変わらせることができるのではないか。そんな着想から新しいサービスが誕生しようとしている。


 旅行における鉄道は、単なる移動手段ではない。車窓からの景色、いつもの通勤電車とは違った雰囲気の車内、名物の駅弁……。かけがえのない時間と空間だ。ただ、都市部の観光に比べて、地方の旅は公共交通機関を使った移動が長時間になりがちである。海沿いや山間を移動する道中は、ぼんやりと過ごしたい人にはぴったりだが、退屈に感じてしまう人がいるかもしれない。


 そんなとき、列車が観光ガイドしてくれたり、疑問に答えてくれたりしたらどうだろう? 風景を眺めながら「あの山は何?」「あの建物は何だろう?」と思ったとき、調べてみると、案外、古い歴史や面白いエピソードがいくつも隠れていたりする。


 こうした新体感の列車内観光サービスを実現すべく、九州旅客鉄道(JR九州)とNTTドコモが、協業協定を結んだ。列車の窓を情報表示プラットフォームとして活用し、新たな旅行体験をもたらすことで、鉄道旅行の満足度向上を目指す。


 最初の取り組みは、風景に合わせた観光情報をAR(拡張現実)技術などを用いて車窓に表示し、タッチパネルや音声操作で必要な情報を得られるようにすること。併せて、利用客のスマートフォンやタブレット端末と連携して、列車降車時から目的地までの観光ガイドを提供する。


 2019年春、サービスの導入検証として肥薩線の人吉駅(熊本県)から吉松駅(鹿児島県)区間を走行する観光列車「いさぶろう」と「しんぺい」で実証実験を行う。具体的には、乗客にタブレット端末を貸し出して、車窓の景色に応じた歴史や、目的地の見どころ、地域の特産品などを紹介する。乗客のアンケート結果を通じて、より効果的な観光ガイドの方法を検討し、2020年中のサービス開始を目指すという。

実証実験を行う「いさぶろう・しんぺい」(出所:JR九州)

 実証実験ではタブレット端末を使用するが、ドコモは列車の窓を想定したディスプレイの開発を進めている。実際にどのようなサービスを実現できるのか、試作機を使ったデモンストレーションを公開した。


 試作機は、透過型有機ELディスプレイと視認性を上げるための黒いフィルターを重ね合わせ、強化ガラスで保護している。ベゼルに組み込んだ赤外線センサーでタッチ操作を認識するため、複数人による同時操作が可能。向かい合わせのボックス席に座ったときに操作しやすいよう、チューニングを施した。架空の路線・A駅から乗車し、B駅を通過、C駅で降車するデモンストレーションは次のような流れだ。

NTTドコモが開発した試作機。手をかざしているのはNTTドコモの奥村浩之氏。透明度の高さと文字要素の見やすさを両立したディスプレイだ

 まず、利用客がA駅で乗車し、座席の窓にタッチして降車するC駅の名前を選ぶ。すると、窓には通過駅と所要時間などが表示される。列車が出発すると、走行中の位置情報に応じて観光スポットや名所の写真が複数表示される。乗客は、その中から見たいものをタッチして詳細を確認できる。また、有名スポットを通過する際には、その場所の説明がポップアップで表示される。窓に表示する内容は、建造物の特徴や歴史といった豆知識から、商業施設の入場料金や開館時間、お土産情報など、さまざまだ。橋やトンネルを通過する場合は、列車を俯瞰して見られるCG画像や空撮映像と現在地を重ねて、今どのあたりを走行しているか表示する。このほか、列車内からきれいに観光スポットを撮影できるポイントがあれば、ベストショットのタイミングを知らせる。


 例えば青函トンネルを通過する列車の場合、トンネル内を走行中は外の景色は真っ暗。レインボーブリッジを渡る場合は、柵の中を走るだけで景色としては面白くない。こういう場合に、橋やトンネルの空撮映像やCG画像と列車の位置情報を同期させることで、どの辺りを走行しているかを見える化する。日中の走行時に夜景の映像を見せたり、レインボーブリッジ全体をきれいに撮影できるベストポイントを知らせたりすることも可能だ。


 次のB駅に停車すると、B駅の乗り換え案内や近隣の主要スポットを表示する。目的地(降車駅)と関連がなくても情報を提供することで、途中下車したり、次に行きたい場所を計画したりと、より旅の楽しみを広げる効果を期待しているという。最後に、C駅が近づくと降車する準備を促し、案内は終了。日本語のほか、英語、中国語などの外国語表示にも対応する。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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