人工知能(AI)の活用シーンが広がっている。その一つとして、ドライブレコーダーの映像解析による自動車事故の原因究明という領域がある。損害保険ジャパン日本興亜(以下、損保ジャパン日本興亜)が取り組みを始めた。


 人はトラブルが発生したとき、事が重大であればあるほど「どちらに非があるのか」という認識の違いで揉める。当事者の主観に基づいた主張で相手が納得するはずもなく、双方が納得するには客観的な事実を積み上げていくしかない。この作業は想像以上に難しく、時間と手間がかかる。裁判が長期化すれば、判決が出るまでに何年もかかることだって珍しくない。


 毎日どこかで発生している、身近な自動車事故。双方に過失がある場合、それぞれが契約している保険会社の担当者が当事者から状況を確認し、協議を重ね、過去の裁判例をもとに最終的な責任(過失)割合を決定している。当然、事実の認識に違いがあれば協議が長引くだけでなく、責任割合が変わり、一方が不利益を被ることになる。納得して終了するには、客観的なデータが持つ説得力が欲しいところだ。


 そこで、損保ジャパン日本興亜とジェネクストは、自動車事故における客観的なデータを迅速に提示できるよう、AIを活用した「責任割合自動算定システム」の開発に着手した。


 最近はドライブレコーダーが普及してきたこともあり、撮影されたドライブレコーダーの映像を事故状況の確認に活用するケースが増えている。ただ、映像から事故原因の究明と事故の責任割合を正確に判断するには、専門知識と技術が必要なため、多くの時間を要することが課題になっている。損保ジャパン日本興亜によると、事故発生から解決までに平均2カ月もかかるという。この時間を短縮するために、AIを活用した解析を取り入れようとしている。


「責任割合自動算定システム」における映像分析のイメージ(出所:損害保険ジャパン日本興亜)

 従来の解析手法はジェネクストの特許技術に基づくもので、映像を解析するにあたって、撮影したドライブレコーダーと同じ機種を入手し、方眼板を撮影する。これを撮影することで、画面をマス目状に区切った状態を作り出す。一般的にドライブレコーダーは広角レンズを採用しており、撮影した映像は外側に向かって歪んでいるため、映像を緻密に解析するには、この歪みを補正する必要がある。ドライブレコーダーは製品によってレンズ特性が異なるため、その歪みを反映したマス目を作るために方眼板の画像が必要になる。


 撮影した方眼板の画像は、事故画像と重ねて解析する。道路上の標識や横断歩道、ナンバープレートといった大きさの定められている「規格物」を基準にし、方眼を使って対象物までの距離や高さなどを算出していく。コマ送りの画像でマス目を数え、数学的に計算する地道な作業だ。こうした手法によって、事故時の車両速度がどれくらいだったのか、自動車間の距離はどれくらいだったのか、といった客観的な事故状況をデータとして提示する。ソフトウエアを用いたデジタル補正を行わないことで、実際の映像・画像から数学的に解析した「計測値」を提示できるため、より納得感が得られるのだという。これまでは、この解析作業を手作業で行っていた。


解析画像の例(出所:ジェネクスト)
方眼板の画像を用いて、映像から確認できる事実をデータ化する(出所:ジェネクスト)

 新たに開発するシステムでは、AIの画像認識技術を活用することで、規格物の認識など解析作業の一部を自動化する。併せて、損保ジャパン日本興亜の安全運転支援サービス「DRIVING!」で提供されるドライブレコーダーに対象機種を限定する。これにより方眼板の撮影作業を省略するとともに、対象物までの距離や高さなどをAIで算出することで、迅速な解析が可能になる。解析によって得られたデータは、損保ジャパン日本興亜が蓄積してきた事故に関する知見や、過去の判例データベースなどと照合し、責任割合を自動算定できるようにする。自動算定については、AIを活用するのか、データベース検索などで対応するのかなど、具体的な仕組みはこれから決定する。


 なお、最終的な責任割合は、これまで通り双方の担当者が協議の上で決定する。相手の保険会社が持つ算定方法や知見によって責任割合の判断は異なる可能性があるうえ、今回のシステムで算定できるのはドライブレコーダーの映像だけを根拠にしているためだ。それでも、客観的な数値から自動算出した結果をもって協議に臨めば、相手も納得しやすく、迅速な解決につながることが見込める。損保ジャパン日本興亜では、1~1.5カ月程度かかっている事故状況の確認や保険会社間での交渉を、1~2週間に短縮することを目指すとしている。


本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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