世界に広がる食糧問題。その改善のためには、従来の農業のあり方を見直し、効率的かつ安定的に生産・供給できる農業を実現する必要がある。とはいえ現在の農業には、高齢化、後継者不足、季節や自然災害などの影響を受けやすい不安定な事業構造といった課題がある。


 そこで考えたいことの一つが、ムダな生産をなくし、収益性を高めること。そのためには消費者の需要を厳密に捉え、それに合わせて作物の種類、収穫量を計画的に決めて生産・出荷する必要がある。


 こうした中、「マーケットイン型」という考え方で農業改革に取り組もうというベンチャー企業がある。テラスマイルだ。クラウドサービスを使って、農業にマーケットインの考え方を持ち込む。


 農業におけるマーケットインというスタイルを、どのように実現するのか。代表取締役の生駒祐一氏に聞いた。


テラスマイルが開発・提供しているクラウドサービス「RightARM」は、農業に「データ経営」、つまりデータに基づいた科学的な経営を可能にするということで注目を浴びています。


生駒氏:RightARMは農家の経営分析ができるようにするクラウドサービスとして2018年4月に本格提供を始めました。簡単に説明すると、「農作物の収穫量と売り上げを、様々な切り口で可視化し分析することで、経営の振り返りを支援するサービス」です。


 農家が主に使う機能は、その農家が持つ収穫量や売上高のデータ、また農業用の環境モニタリング装置から得たCO2などのデータ、それからテラスマイルが持つ気象データや市況データを収集・集計し、それらのデータを前年と比較するというものです。


RightARMの画面例。各種データを比較することで、農業経営の改善のヒントを得る。RightARMの基本料金は月額7000円。ユーザーが農産物を地域商社を通じて契約出荷する場合は、それに加えて流通価格に応じた手数料を別途支払う(手数料は流通価格の3%前後が目安、取り組み内容により応相談)。(画像提供:テラスマイル)

 この機能を使うと、例えば「2月における1番ハウスの収穫量は、昨年の2月よりも10%少なかった。その理由は気象が原因なのか。それとも水やりや肥料やりの問題なのか」といった振り返りができるようになります。


 データによって前年と比較できれば、その差異が何から生じているのか推察しやすくなります。その推察を通じて、例えば「気温の変化に連動した水やりと肥料やりの方法を確立しよう」などといった対策を取れるようになります。こうした対策を積み重ねていくことが、収穫量や売上高の増大、ひいては農家の経営力の向上につながります。


 また、私たちはこれまでの経験を反映した比較分析・仮説データベースを持っています。この中には100パターンを超える分析の切り口があって、これを使うことで、よりきめ細かな対策を実行することが可能です。


 収穫量や売上高のデータはユーザーである農家に用意していただく必要があります。一時的に負荷がかかる格好にはなりますが、実はデータを用意するだけでも農家にとってはメリットが生じることがあります。実際、収穫量と売上高のデータを用意する過程で経営が改善されたケースがあります。というのは、データを用意する作業を通じて、圃場別、あるいは野菜のランク別・糖度別といった形でより精緻に管理するようになるからです。


 従来、CO2などの環境データは取りにくかったのですが、近年は農業分野のIoT(モノのインターネット)機器が発達してきたため、比較的容易に取得できるようになりました。


生駒祐一(いこま・ゆういち)氏。テラスマイル代表取締役。IT企業のシーイーシー勤務時代に宮崎県の農業法人の立ち上げを手がける。2014年に宮崎県でテラスマイルを創業。経営の可視化・予測・分析を行う「RightARM」を展開する。RightARMは農業関連ベンチャーのエムスクエア・ラボやソフトウエア開発のアクロクエストテクノロジーと共に開発。テラスマイルは主に地銀系ベンチャーキャピタルからの出資を受けている。

 最新のバージョンでは、AI(人工知能)により過去の実績から将来の収穫量を予測する機能を追加しました。収穫量を予測できれば農家は売り先に交渉しやすくなりますし、作業計画や人員配置計画も立てやすくなります。今後1年をかけて、さらにブラッシュアップしていきます。


 また今後は、作付計画(いつ何を育てるかという農家にとっての基本計画)とコストの最適化を支援する機能を新たに追加する計画です。


 テラスマイルは元々、農家の経営コンサルティングを手がけてきました。過去のコンサルティング活動を通じて「いつ、誰が、何をどこに出荷したのか」といった出荷についてのデータを約20万件預かっています。利用者や提携先が増えたことにより、2019年中にはこの数が10倍に増加する予定です。併せて農業IoT機器メーカー10社以上から取得したログデータを約6500万件蓄積しています。これらのデータをRightARMの機能強化に活用しています。

本記事は、日経BP総研とSansan株式会社が共同で企画・制作した記事です。
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